名古屋高等裁判所 平成2年(ネ)122号 判決 1990年11月28日
控訴人 同和火災海上保険株式会社
右代表者代表取締役 岡崎真雄
右訴訟代理人弁護士 西尾幸彦
同 数井恒彦
同 來間卓
同 榊原裕臣
被控訴人 乙山春夫
被控訴人 甲野太郎
右二名訴訟代理人弁護士 渥美雅康
同 森山文昭
同 松本篤周
同 仲松正人
同 加藤美代
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(一) 控訴人は、被控訴人乙山春夫に対し、一七四万七四八一円とこれに対する平成二年七月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
(二) 控訴人は、被控訴人甲野太郎に対し、二五五万〇七五六円とこれに対する平成二年七月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
(三) 被控訴人らのその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第一・二審を通じこれを三分し、その二を控訴人の、その余を被控訴人らの各負担とする。
3 この判決は、金員支払を命ずる部分について、仮に執行することができる。
事実
一 当事者双方の申立
1 控訴人
「原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
2 被控訴人ら
「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
二 当事者双方の主張
次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三枚目裏一行目の「四一二二」の次に「。以下『本件事故車両』という。」を加え、同九行目の「記名保険者」を「記名被保険者」と、同一一行目の「ところ」から同四枚目表一行目の「車両」までを「と定められているところ(以下この特約を「本件特約」という。)、本件事故車両」とそれぞれ改める。
2 同四枚目表二行目の「右他車運転危険担保特約により適用を受ける」を「本件保険契約の内容をなす自家用自動車保険」と、同三行目の「対人事故により」を「対人事故によって」と、同六行目の「三項」を「第三項」と、同七行目の「支払い」を「支払」と、同八行目の「請求しうる」を「右一項にいう」とそれぞれ改め、同裏一行目の末尾の次に次のとおり加える。
「そして、同条二項は、損害賠償請求権者に対する保険者の支払実行の要件を定めており、その(3)号においては、損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾したときに支払の実行がされるものと定められているところ、被控訴人らは、平成二年七月六日、右の承諾をする旨の書面を丙川に交付した。」
3 同五枚目裏九行目の「四二七万五二一一円」を「三八〇万九三九五円」と、同六枚目表一行目及び同裏四行目の各「二一三万七二一一円」を「一六七万一三九五円」と、同表六行目及び同一〇行目の各「三一二日」を「二八二日」と、同一一行目の「二五九万七二一一円」を「二三四万一三九五円」と、同裏二行目及び同四行目の各「四六万円」を「六七万円」とそれぞれ改める。
4 同七枚目表四行目の冒頭から同八行目の「ところ、」までを次のとおり改める。
「2 同3については、本件保険契約に主張のとおりの本件特約が含まれていることは認めるが、本件事故車両が右特約にいう『他の自動車』に該当するとの被控訴人らの主張は争う。すなわち、右特約が『他の自動車』についても保険事故の対象としているのは、被保険者らが一時的に自動車を借用して運転した際の事故についても被保険自動車に付されていると同様の条件で割増保険料を徴することなく保険保護を与えようとする趣旨の、いわばサービス的な特約であり、このことは、右特約二条が保護の範囲を限定し、被保険自動車以外のものであっても利用の度合が一時的とはいえないようなものとして、被保険者自身のほかその配偶者又は同居の親族所有の自動車を除外していることからも窺える(また、そうでなければ、不当な保険料の節約を来すことにもなる。)。そして、このような関係は、内縁関係にある者についても同様にあてはまるものであるから、記名被保険者と内縁関係にある者の所有する自動車についても、これを実質的に考える限り、右にいう『他の自動車』にあたり保護範囲に含まれるとは解すべきではない。なお、右特約二条が規定する『配偶者』は、婚姻届をした夫婦の一方を意味する民法上の文言ではあるが、①社会通念上、内縁関係にある者は配偶者として取り扱われていること、及び②保険実務上は、約款の他の条項も含め『配偶者』に内縁関係にある者を含めて運用されているという実情にあること、これらからすると、内縁関係にある者は右の『配偶者』にあたると解するべきである。そして、」
5 同七枚目裏一行目の末尾の次に行を変えて次のとおり加える。
「三 抗弁
1 本件事故は、丙川が被控訴人らとともに飲酒したうえ、被控訴人乙山所有の本件事故車両を運転していたところ、飲酒の影響によりハンドル操作を誤り交差点内の中央分離帯のダルマに右車両を衝突させたというものである。したがって、①被控訴人らは、丙川とともに飲酒し同人が飲酒運転をすることを知りながら本件事故車両に同乗した点、及び②被控訴人乙山は、自己所有の本件事故車両を丙川に運転させた点にかんがみ、それぞれ全損害額の三割を減額するべきである。
2 被控訴人甲野については、同被控訴人が自認するもののほか、治療費七万三二七〇円、入院雑貨費(器具代)二万八二五〇円を受領している。
四 抗弁に対する答弁
抗弁1は事実をあえて争わないが、その法律上の主張につき争う。同2はその項目を除いて請求しているのであるから、これを減額するべきではない。」
三 立証《省略》
理由
一 請求原因1、2の事実及び同3のうち本件保険契約に本件特約が含まれている事実は当事者間に争いがない。
二 ところで、控訴人は、本件事故車両の所有者の被控訴人乙山と丙川は内縁の夫婦であったから同被控訴人は本件特約二条にいう「記名被保険者(丙川)の配偶者」にあたり、したがって、右車両は右特約三条にいう「他の自動車」にはあたらないと主張するので、この点について判断する。
本件特約の趣旨が控訴人主張のとおりのいわばサービス的な特約であることは、《証拠省略》に徴し窺うことができる。そして、当該自動車の所有者が被保険者の内縁関係にある者か婚姻届をした配偶者かによってその利用の度合に実質的な相違はないことは明らかであるから、右特約の趣旨にかんがみると、その夫婦が婚姻届をしたものであるか否かによって本件特約の保護範囲を異にすることが必ずしも合理的ではないことは控訴人主張のとおりではある。
しかしながら、右特約二条においては、その保護範囲から除外される自動車は前示のとおり「記名被保険者、その配偶者または記名被保険者の同居の親族」の所有自動車であると規定されており、「配偶者」は、所籍法の定めるところにより婚姻を届け出ることによって法的効力を生じた夫婦の一方をいう民法上の概念であって、右特約二条はこの民法上の概念に立脚して規定されたものと推定することができるうえ、一般に保険契約の解釈にあたっては、免責の要件又は責任引受の例外を定めた規定を拡張するべきではないから、右にいう配偶者に内縁関係にある者を含めるのは当を得ないものというべきである。控訴人のいう保険実務上の取扱の実情も、右判断を動かすものではなく、また、社会通念上も、すべての法律関係において一義的に内縁関係にある者が配偶者として取り扱われているとまで認めることもできないので、控訴人の主張を採用することはできない。
したがって、本件事故車両は、右特約三条にいう「他の自動車」に該当し、本件特約による保護の対象となるというべきである。
そして、請求原因4の事実は、当事者間に争いがないので、控訴人は、本件保険契約に基づき、被控訴人らが本件事故によって被った損害を賠償する責任がある。
三 そこで、すすんで、被控訴人らの本件事故によって被った損害について判断するに、この点については、次に付加、訂正、削除するほか、原判決九枚目裏二行目冒頭から同一二枚目裏三行目末尾までに説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一〇枚目裏一行目及び同一一枚目裏一〇行目の各「昭和六一年度」を「昭和六一年」と、同一〇枚目裏二行目及び同三行目の各「収入」を「営業による所得」と、同行及び同一一枚目裏一一行目の各「同額」を「同程度」とそれぞれ改める。
2 同一一枚目表一行目冒頭から同二行目末尾までを次のとおり改める。
「5 ところで、本件事故の経緯が抗弁1のとおりであることは、同被控訴人において明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなされるところ、これによると、同被控訴人の前記損害額合計二四九万六四〇一円(なお、同被控訴人の損害額が右以上であるとの立証はない。)の三割にあたる七四万八九二〇円(円未満切捨)を減額すべきであり、その結果、同被控訴人の損害は、一七四万七四八一円となる。」
3 同一一枚目裏六行目及び同一二枚目表一〇行目の各「一八八万一三九五円」を「二三四万一三九五円」と、同五行目の「認められる」から同八行目の「となる。」までを「認められる。」と、同九行目の「(六万」を「六万」とそれぞれ改め、同一〇行目の「+四六万円)」を削り、同裏三行目の末尾の次に行を変えて次のとおり加える。
「4 ところで、本件事故の経緯が抗弁1のとおりであることは、同被控訴人において明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなされるところ、これによると、同被控訴人の前記損害額合計三九六万九七九五円に《証拠省略》により認められるその余(治療費)の損害額一八万三〇五〇円を合わせた四一五万二八四五円(なお、同被控人の損害額が右以上であるとの立証はない。)の二割にあたる八三万〇五六九円を減額すべきであり、その結果、同被控訴人の損害は、三三二万二二七六円となる。そして、同被控訴人が休業損害補償分として自賠責保険から六七万円の支払をうけたことは同被控訴人が自認するところであり、また、抗弁2の事実は、同被控訴人において明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなされるところ、これら受領額合計七七万一五二〇円を右減額後の損害額三三二万二二七六円から控除した同被控訴人の現在の損害額は、二五五万〇七五六円となる。
四 以上によると、被控訴人らの本訴請求は、控訴人に対し、①被控訴人乙山において金一七四万七四八一円、②被控訴人甲野において金二五五万〇七五六円、及び右各金員に対する請求原因4記載の書面による承諾を被控訴人らが丙川に対してした日の翌日の平成二年七月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが、その余は失当として棄却を免れない。
五 よって、これと異なる原判決は一部不当であるので、これを前記四のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 野田宏 裁判官 瀬戸正義 園部秀穗)
<以下省略>