大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成20年(く)88号 決定 2008年7月31日

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告の趣意は,主任弁護人及び弁護人連名作成の即時抗告申立書に記載のとおりであるから,これを引用する。

論旨は,要するに,本件において,A警部補が作成した被告人の取調べ時における取調べメモ(手控え)・取調べ小票・調書案・ノート・備忘録等(名称の如何を問わず,犯罪捜査規範13条に基づき作成された取調べ時における被告人の供述内容,取調べ状況・経過等を書き留めた取調メモ等全て。以下「本件備忘録等」という。)は,被告人及び弁護人の主張との関係において関連性が高く,被告人の防御のため重要性があるにもかかわらず,本件裁定請求を棄却した原決定は不当であるから,その取消しと本件備忘録等の証拠の開示を命ずる旨の決定を求める,というのである。

そこで,一件記録を調査して検討するに,本件備忘録等の証拠につき,弁護人の予定主張との関係における関連性,被告人の防御の準備のために開示をする必要性の程度等を勘案し,開示を相当と認めなかった原決定に,誤りはない。

所論は,本件備忘録等は,犯行から間もない時期に被告人が供述した内容がそのまま記載されたもので,証明力及び関連性が認められる,また,弁護人らは被告人の捜査段階の供述調書の信用性を強く争っているところ,供述の要約の仕方等により発言のニュアンス,意味合いなども当然変わり,ひいては本件における計画の綿密さや計画の時期,共謀の成立時期,及びその具体的内容等の重要な事実に変更を生じ得るもので,現に弁護人らは,予定主張の中で,争う内容の重要性を具体的に指摘して明らかにしており,本件備忘録等の開示が被告人の防御のため重要性があることは明白である,などと主張する。

しかしながら,刑訴法316条の20第1項の開示を相当と認めるか否かを判断するに当たって考慮すべき「関連性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度」とは,予定主張において争う内容の重要性をいうものではなく,予定主張との関係において,当該証拠の持つ関連性や,その開示の必要性の程度をいうものである。原決定が適切に説示するとおり,本件における弁護人らの予定主張の内容や審理予定を勘案すれば,弁護人らが上記の点を主張し,防御するについては,被告人質問によって,被告人が真意,心情の詳細等を十分に供述した上で,本件犯行に至る経緯及び犯行状況等に関する被告人及び共犯者らの具体的な言動等に照らし,その信用性等を評価,検討して主張することが重要となるのであり,被告人の取調べ状況やその際の供述内容そのものが直ちに重要な補助事実となるとはいい難い。したがって,本件備忘録等は,本件における弁護人らの予定主張との関係において,関連性がないとはいえないものの,その程度が高いとは認められず,被告人の防御の準備のためにこれを開示する必要性は乏しいといわざるを得ない。所論は採用できない。

よって,刑訴法426条1項により本件即時抗告を棄却することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 手﨑政人 裁判官 水上周 裁判官 大寄淳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例