名古屋高等裁判所 平成20年(ネ)1002号 判決 2009年4月07日
名古屋市●●●
控訴人
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訴訟代理人弁護士
石川真司
同上
橋本奈奈
東京都千代田区●●●
被控訴人
アコム株式会社
代表者代表取締役
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訴訟代理人弁護士
●●●
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主文
1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,原判決主文第1項の金員のほか,558万4743円及びうち455万1855円に対する平成19年7月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
4 この判決の第2項及び第3項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1 本件は,被控訴人(一審被告)から継続的に金銭を借り受け,これを約定利率に従い返済してきた控訴人(一審原告)が,返済額を制限利率により計算し直すと過払金が生じていると主張して,不当利得に基づき過払金元金764万0480円,取引終了の日までの確定遅延損害金158万3024円及び過払金元金に対する取引終了の日の翌日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 原審は,控訴人の請求のうち,過払金元金308万8625円,取引終了の日までの確定遅延損害金55万0136円及び過払金元金に対する平成19年7月10日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却したため,これに不服のある控訴人(一審原告)が控訴をした。
第3当事者の主張等
争いのない事実等,争点及び当事者の主張は,次のとおり付け加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1」及び「2」記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の補正
(1) 原判決書3頁4行目の「原告に対し,」の次に,「平成19年7月9日当時,」を加える。
(2) 原判決書3頁9行目の冒頭から同頁10行目の末尾までを,次のとおり改める。
「(ア) 控訴人と被控訴人との間の基本契約は,基本契約締結時に金銭の交付がなく,貸主(被控訴人)は,基本契約において借入限度額までの貸付義務を負担し,個別貸付時に返還合意がないことに照らし,諾成的消費貸借契約と解すべきであり,この基本契約から発生する法律関係(貸付金債務,過払金債権)は1個であり,基本契約の終了時に,貸付債務又は過払金債権が確定し,発生すると解すべきである。そして,基本契約の終了原因は,借主(控訴人)の信用悪化,過払金の返還請求等当事者間の信頼関係が破壊された場合又は当事者間に契約終了の合意が成立した場合と解すべきである。なお,本件のような契約では,借入限度額内であれば,何度でも借入れと返済を繰り返すことが予定されている以上,約定に従い債務全額を返済したことの意味は,新たな借入限度額が満額まで広がったことを意味し,基本契約の終了を意味しない。また,消費者金融会社は,債務全額の弁済を受けると契約書を返還することを義務付けられているため,契約書を返還するのであるから,契約書を返還したことは,基本契約が終了したことを意味しない。
(イ) 本件では上記のような事情はなく,第1取引の基本契約は第1取引の債務全額の弁済により終了しておらず,第1取引と第2取引は連続して計算すべきである。
仮に,第1取引に係る基本契約が終了していたとしても,本件では,第2取引に係る基本契約において,第1取引により発生した過払金を借入金債務に充当する旨の合意が存在するので(最高裁判所平成20年1月18日判決),第1取引と第2取引とは連続して計算すべきである。」
(3) 原判決書6頁3行目の「できるようになるのであるから」を「できるようになり,しかも,過払金返還請求のためには,みなし弁済に関する専門的判断が必要であるところ,貸主は合法であるかのように装い,グレーゾーン金利に関し知識のない借主を錯誤に陥れて返済金を請求・受領していること,借主にとって長年にわたる取引履歴の再現と引き直し計算は困難であること,借主は事実上の強制によって支払を続けざるを得ない状況にあることに照らすと,貸付取引継続中に過払金が発生した場合,借主が,その発生と同時にその返還請求権を行使することは現実に期待できないから」と改める。
2 控訴人が当審において追加した主張(予備的主張)
第1取引終了時点で過払金元金は131万3821円発生していたところ,控訴人は,このことを知らずに第2取引を開始・継続したが,このことを知っておれば,第2取引を開始しなかったことは明白であるから,これは要素の錯誤に当たり,第2取引は全体として無効である。よって,第2取引の個別の各借入れと各弁済は,すべて無効となり,被控訴人は,第1取引の終了時点で発生した過払金返還債務及び第2取引に基づく各弁済金相当額の不当利得返還義務を負担し,控訴人は,第2取引の各借入金相当額の不当利得返還債務を負担することになる。これを対当額で相殺すると,原判決別紙「利息制限法に基づく法定金利計算書」記載のとおりとなる。
第4証拠
原審及び当審記録中の書証目録記載のとおりであるから,これを引用する。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,過払金元金764万0480円,確定遅延損害金158万3024円及び過払金元金に対する平成19年7月10日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める控訴人の請求は理由があると判断する。その理由は,次のとおり付け加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決書8頁25行目の冒頭から同9頁7行目の末尾までを,次のとおり改める。
「イ 被控訴人における管理状況等
被控訴人は,顧客との取引の交渉や勧誘等の経過を「お客様情報記録カード」に記載して管理しているところ,控訴人に関するこれらの経過は,昭和60年9月12日から平成2年2月6日までのものが1枚のカードに記録され(乙4の1),同年8月17日から同年9月26日までのものが1枚のカードに記録されている(乙4の2)。そして,両カードに記載されている控訴人の会員番号は,ともに「△△△△△」である。上記カードには,第1取引終了時点である昭和62年3月31日に「代払い」と記載されているが,第2取引開始時点である同年4月14日に関しては何も記載されておらず,上記3月31日の記載の次の記載は,昭和63年12月6日の「不動産カードローン案内」の記載である。また,平成2年8月23日には,同月17日に不動産担保カードローンの申込みがあったことを受け,「机上評価 土地 建物」と記載され,平成4年5月28日の欄には,「机上評価出す(中略)当社の評価率計算により余力出ズ」と記載されている(乙4の3。なお,これは,「記録メモ」と題する書式の文書に記載されているが,その記載内容に照らし,「お客様情報記録カード」の続きを記載したものと推認できる。)。
そして,お取引明細書(甲1)及び取引履歴(乙1の2)では,控訴人の会員番号が最後に発行されたキャッシュカードのカード番号に相当する「◇◇◇◇◇◇◇◇」とされている。(甲1,乙1の2,5の1,2)」
2 原判決書10頁8行目の冒頭から同頁23行目の末尾までを,次のとおり改める。
「 第1取引(遅くとも昭和60年9月12日以降の取引)と第2取引は,共通の会員番号でしかも共通の「お客様情報記録カード」を用いて管理されており,その「お客様情報記録カード」の記載によれば,被控訴人は,第1取引終了時点で,控訴人との取引が終了したとの認識を有していたとは認められず,また,第2取引を開始した時点で控訴人の与信調査をしておらず,また,第2取引を開始した時点で,被控訴人と控訴人は,改めて基本契約を締結したとは認められない。そして,証拠上認められる基本契約書は,第2取引の途中において締結されたものである(乙3の1,2)。そうすると,被控訴人においても,第2取引が,新たな基本契約に基づく貸付けであるとの認識を持っていたとは認められない。加えて,第1取引の最終取引から2週間後に第2取引が開始されている。以上によると,第2取引は,第1取引とは別個の新たな取引であると認めることはできず,両者は1個の基本契約(これは,継続的金銭消費貸借取引を内容とするもので,遅くとも「お客様情報記録カード」が作成された昭和60年9月12日までには,締結されていたものと認められる。)に基づく一体の取引と認めるのが相当である(以下,両者を併せ「本件各取引」という。)。確かに,第1取引の期間中である昭和61年当時と第2取引の途中で締結されたカードローン基本契約とは,前示(原判決書9頁から10頁にかけてのウ,エ)のとおり,利息,返済方法等の点で異なっており,第2取引ではカードが発行されているが,これらは,その時々の金融情勢等の変動に応じて変化し,あるいは技術の進歩により変化する事柄であり,上記認定を左右するものではない。」
3 原判決書11頁15行目の冒頭から同15頁26行目の末尾までを,次のとおり改める。
「 控訴人と被控訴人との本件各取引は,遅くとも昭和48年12月7日から開始されたが,同日以降昭和56年9月21日までの取引履歴は不明であり,被控訴人の帳簿上(甲1)では,控訴人は,同月22日に1万円を借り入れ,同日の残元金が10万5736円となっている。しかし,この間の取引は,貸金業の規制等に関する法律(昭和58年法律第32号)が制定される前の取引であり,その制定の経過に照らし,被控訴人が,利息制限法に従った金利で貸付けを行っていたとは考えがたく,したがって,この時点でも過払金が発生した可能性が十分あると認められるから,昭和56年9月21日までの被控訴人の控訴人に対する貸付金の残元金は0円として取り扱うのが相当である。そうすると,本件取引の経過は,原判決別紙「利息制限法に基づく法定金利計算書」記載のとおりであり,平成19年7月9日に控訴人が6000円を弁済した後の過払金元金は764万0480円であり,同日までに発生した過払金に対する遅延損害金は182万1770円となる。
ところで,控訴人は,被控訴人に対し,原審の第1回口頭弁論期日(平成19年10月19日)において,本件カード利用代金債権(平成19年7月9日当時の残元金は23万8746円である。)と上記過払金返還請求権とを対当額で相殺する意思表示をした。そして,本件カード利用代金債権にかかる取引は,複数回行われているが,その支払方法はリボルビング払いであるから(甲8),全体として1個の債権として扱うのが相当である。そうすると,上記相殺により,まず,遅延損害金と相殺充当されることになるので,上記遅延損害金の残額は158万3024円となる。
5 争点4について
継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合には,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は,上記取引が終了した時から進行する(最高裁判所第3小法廷平成21年3月3日判決)。したがって,本件取引における過払金返還請求権の消滅時効の起算日は,平成19年7月10日となるから,その過払金返還請求権の消滅時効は完成していない。
6 以上によれば,控訴人の請求は,理由がある。」
第6結論
以上判示したところによれば,原判決は一部相当でないので,これを変更することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項,61条を,仮執行の宣言につき同法310条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 加島滋人 裁判官 鳥居俊一)