名古屋高等裁判所 平成20年(ネ)1063号 判決 2009年6月04日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 本件附帯控訴に基づき,原判決の被控訴人ら敗訴部分のうち,次項の請求に係る部分及び第4項の請求に係る部分を取り消す。
3 控訴人らは,被控訴人X1に対し,連帯して,原判決主文第1項の金員のほか,398万7904円を支払え。
4 控訴人らは,被控訴人X2に対し,連帯して,原判決主文第2項の金員のほか,398万7904円を支払え。
5 その余の本件附帯控訴を棄却する。
6 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その4を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1申立て
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消しに係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2 附帯控訴の趣旨
(1) 原判決中,被控訴人X1の控訴人らに対する請求に関する部分を次のとおり変更する。
控訴人らは,被控訴人X1に対し,連帯して,1977万6215円及びこれに対する平成15年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 原判決中,被控訴人X2の控訴人らに対する請求に関する部分を次のとおり変更する。
控訴人らは,被控訴人X2に対し,連帯して,1977万6215円及びこれに対する平成15年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,新築住宅を購入した被控訴人ら(共有持分各2分の1)が,それぞれ,(1)売主である控訴人株式会社フラワー不動産(以下「控訴人フラワー不動産」という。)に対し,不法行為による損害賠償又は平成16年法律第141号による改正前の住宅の品質確保の促進等に関する法律88条1項(現行法95条1項),民法634条2項に基づく瑕疵修補に代わる損害賠償として(選択的併合),1984万9165円及びこれに対する平成15年3月28日(被控訴人らが「控訴人らの不法行為によって代金債務を負った日」であると主張する日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,(2)控訴人株式会社シンセイ(上記住宅の建築工事の施工業者。以下「控訴人シンセイ」という。),控訴人株式会社エイト設計事務所(上記工事の設計監理業者。控訴人Y1の使用者。以下「控訴人エイト設計」という。)及び控訴人Y1(上記工事の設計監理を担当した一級建築士。以下「控訴人Y1」という。)に対し,不法行為による損害賠償として,上記(1)と同じ金員の連帯(控訴人ら4名による不真正連帯)支払を求める事案である。
原審は,被控訴人らの請求の一部を(それぞれ,不法行為による損害賠償金1564万4715円と遅延損害金(起算日は,原審口頭弁論終結日の翌日である平成20年10月3日である。)の連帯(不真正連帯)支払を求める限度で)認容し。その余を棄却した。
そこで,控訴人らが敗訴部分につき控訴をした。また,被控訴人らは,敗訴部分の一部につき附帯控訴をした。
2 争いのない事実等
原判決書5頁10行目の末尾の次に,行を改めて,次のとおり加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1」記載のとおりであるから,これを引用する。
「(4) 被控訴人らは,平成21年2月9日,1審被告破産者有限会社明工破産管財人から,本件損害賠償債務の履行として,それぞれ17万7607円の支払(配当)を受けた(弁論の全趣旨)。」
3 争点及びこれに関する当事者の主張
次のとおり当事者が当審において追加又は敷衍した主張を付け加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「2」記載のとおりであるから,これを引用する(1審被告Y2,同Y3,同Y4及び同破産者有限会社明工破産管財人に対する各請求に関する部分を除く。)。
(当事者が当審において追加又は敷衍した主張)
(1) 控訴人らの主張
ア 建物の売買代金額を損害額の上限とすべきこと
被控訴人らは,本件建物に瑕疵があることを理由に,控訴人フラワー不動産との間の本件土地建物に係る売買契約を解除することができるのに,本件土地を気に入っているとして,売買契約を解除することなく,建物の建替えを前提に,本件土地建物の売買代金額3700万円のうち,本件建物部分に相当する代金額(本件土地の取得経費を控除した残額。最大でも1880万3631円)を大きく上回る額の損害賠償を請求している(なお,被控訴人らは,控訴人らから損害賠償金の支払を受けても,実際には本件建物の建替えに着手しない可能性が高い。)。
しかし,上記金額(最大でも1880万3631円)を大きく上回る損害額を認めることは,被控訴人らが売買契約を解除した場合を超える利益を買主に与える結果となって,相当でない。したがって,不法行為による損害賠償請求,瑕疵修補に代わる損害賠償請求のいずれについても,1880万3631円(本件土地建物に係る売買代金額のうち,本件建物部分に相当する代金額)をもって,損害額の上限とすべきである。
イ 同時履行,条件
控訴人らが損害賠償金の支払に応じた場合,解体撤去されるべき本件建物は,控訴人らの所有となるべきであり,鉄骨など再利用が可能な資材については,控訴人らに引き渡されるべきものである。したがって,損害賠償金の支払と再利用可能な資材等の引渡しとは同時履行の関係にあるものというべきである。そこで,控訴人らは,同時履行の抗弁権を行使するので,上記資材等の引渡しとの引換給付判決を求める。
また,少なくとも建替費用に係る損害賠償金については,被控訴人らが本件建物を解体することを条件として,その支払を命ずるべきである。
(2) 被控訴人らの主張
ア 損害額についての従前の主張の一部を次のとおり改める(これにより,各被控訴人の損害額は,1977万6215円となる。)。
(ア) 本件建物の取壊費用(甲31) 228万9000円
(イ) 建物の新築費用 2400万3000円
なお,上記金額は,見積書(甲37の1)記載の新築費用の見積額2667万円(空調設備工事分を含む。)からその1割を減額したものである。
イ 控訴人らの上記(1)ア,イの法律上の主張は争う。
第3当裁判所の判断
当裁判所は,被控訴人らの本件請求は,それぞれ,控訴人らに対し,原判決主文第1,2項の各金員(不法行為による損害賠償金1564万4715円とこれに対する原審口頭弁論終結の日の翌日である平成20年10月3日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金)のほか,398万7904円(上記元金1564万4715円に対する不法行為の結果発生後である平成15年6月6日(被控訴人らが本件建物の所有権の移転を受けた日)から平成20年10月2日までの民法所定年5分の割合による遅延損害金416万5511円から一部弁済金17万7607円を控除した残額)の連帯(不真正連帯)支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」の「1」ないし「3」記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決書15頁24行目の「販売したものであり」を「販売したものであるところ,前示のとおり,本件建物は,新築住宅であり,また,前示1の瑕疵の内容,部位,程度等に,弁論の全趣旨を総合すると,前示1の瑕疵は,住宅の構造耐力上主要な部分として政令(住宅の品質確保の促進等に関する法律施行令)で定めるものについての隠れた瑕疵に当たることが認められるから」と改め,同17頁18行目の冒頭から同頁25行目の末尾までを削る。
2 同18頁8行目の末尾の次に,「そして,上記認定を覆すに足りる証拠はない。なお,控訴人らは,本件建物の解体工事を控訴人らにおいて無償で行う旨を被控訴人らに対して申し入れているから,上記解体費用を被控訴人らの損害とすることはできないと主張するが,前示のとおりの本件建物の瑕疵の内容,部位,程度等からすれば,被控訴人らが控訴人らに対し解体工事の発注を希望しないのも無理はないものというべきであるから,控訴人らの上記主張は,採用できない。」を加える。
3 同18頁10行目の「本件建物」から同頁14行目の末尾までを「証拠(甲37の1,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,本件建物に係る社会通念上相当な再築費用の額は,2184万円(建築工事1587万8600円,電気設備工事162万円,給排水設備工事212万4000円,諸経費117万7400円,消費税相当分104万円の合計)であると認められ,証拠(乙9,10,控訴人Y1本人,1審被告Y2本人)によって,この認定を覆すには足りないというべきである。」と改め,同頁末行の「証人A」の次に,「(同証人調書の別紙反訳書17頁。なお,同証人の供述中,見積額から契約額への下げ幅の程度を2割ぐらいとする部分もあるが(上記反訳書14頁),具体的な見積額2667万円からの契約額への下げ幅を問われたのに対し,同証人が,下げ幅を大体1割と回答し,それ以上に下がるかどうかは分からない旨供述していることからすれば(上記反訳書17頁),前示のとおり,下げ幅を概ね1割とするのが相当である。)」を加える。
4 同19頁19行目の「べきである。」を「べきであるし,控訴人らの前示の不法行為と相当因果関係のある損害としても,上記と同様に考えるのが相当である。」と改め,同19頁19行目の末尾の次に,行を改めて,次のとおり加える。
「 なお,乙9,10の見積書は,控訴人フラワー不動産のグループ会社が建築工事を行い,かつ,本件建物内の既存のユニットバス等を再利用すること等を前提にして作成され,しかも,施工業者の利益分を含んでいないというのであるから(控訴人Y1本人),これをもって,本件建物に係る社会通念上相当な新築費用の額に関する前記認定を覆すには足りないというべきである。そして,他に,本件建物に係る社会通念上相当な新築費用の額に関する前記認定を覆すに足りる証拠はない。」
5 同19頁末行の末尾の次に,次のとおり加える。
「また,前示の建替費用の全額をもって,控訴人らの前示の不法行為と相当因果関係のある損害であると認められる。
なお,控訴人らは,「本件土地建物に係る売買代金額3700万円のうち,本件建物部分に相当する代金額(本件土地の取得経費を控除した残額。最大でも1880万3631円)を大きく上回る損害額を認めることは,被控訴人らに対し売買契約を解除した場合を超える利益を与える結果となって,相当でない。」旨主張する。しかし,前示のとおり,本件建物の瑕疵の修補を行うには,本件建物を解体して再築する(建替え)以外に方法がないというのであるから,これにより被控訴人らが建物の新築費用相当額(社会通念上相当な額)の損害を被ったことは明らかである(その具体的な金額は,前示のとおりである。)。しかも,「本件土地建物(建売住宅)の売買代金額のうち,本件建物部分に相当する代金額」の定め方についても,この点に関する控訴人らの主張自体から,控訴人フラワー不動産の経理処理ないし営業政策上の事情によって土地建物の価額の内訳が左右される面があることを否めないから,必ずしも土地建物の客観的な価値の割合と合致するものではないといえる。そうすると,被控訴人らの損害額を最大でも1880万3631円(控訴人らが主張する,本件土地建物の売買代金額のうち本件建物部分に相当する代金額の上限)までに制限することはできない。また,被控訴人らが本件売買契約を解除した事実はないのであるから,解除の場合との比較を理由とする控訴人らの上記主張は,その前提を欠くものであり,この点においても採用できない。」
6 同20頁14行目の末尾の次に,「なお,本件全証拠によっても,以上の判断を覆すに足りる事情を認めることはできない。」を加える。
7 同22頁5行目の冒頭から同頁15行目の末尾までを次のとおり改める。
「 (2) 居住利益について
前示のとおり,被控訴人らは,平成15年5月31日から現在まで,本件建物に居住しており,この間,その使用についての重大な支障が具体的に生じたことを認めるに足りる証拠はない。以上の点から,控訴人らは,損益相殺として,上記居住利益を被控訴人らの損害額から控除すべきであると主張する。
しかし,被控訴人らは,本件売買代金を完済した上で本件建物に居住しているものであることや(甲2の1ないし3),本件建物の瑕疵の内容,部位,程度等は,前示のとおり,構造耐力についての建築基準法上の基準に適合しない重大なものであり,本件建物は,安全性を欠いた欠陥住宅であるといえるから,被控訴人らは,やむなくこれに居住しているものと推認できること(なお,被控訴人らが本件売買契約を解除しないからといって,この判断が左右されるものではない。)等の本件の事実関係の下においては,被控訴人らが本件建物に居住していることにつき,損益相殺の対象とすべき利益(居住利益)があるとすることはできない。
4 同時履行及び条件の点(控訴人らの当審における追加主張)について
損害賠償による代位(民法422条)とは,債権者が,損害賠償として,その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときに,債務者がその物又は権利について法律上当然に債権者に代位するというものであるから,本件建物のうち再利用可能な資材等の所有権が被控訴人らから控訴人らに移転するためには,これに先立って,控訴人らが被控訴人らに対し,損害賠償として,その価額を支払うことを要することが明らかである。したがって,再利用可能な資材等につき,その損害賠償金の支払とその引渡しとが同時履行の関係にあるとすることはできない。
また,前示のとおり,被控訴人らには建物の新築費用相当額の損害が既に発生しているのであるから,控訴人らに対し,建替費用に係る損害賠償金の支払を命ずるに当たり,被控訴人らが本件建物を解体することを条件とすることはできない。
5 以上判示したところから,各被控訴人(共有持分各2分の1)の損害額は,それぞれ1564万4715円となる。
ところで,本件の不法行為の結果が発生するのは,被控訴人らが瑕疵ある本件建物の所有権の移転を受けた時となる。そして,本件売買契約では,本件土地建物の所有権移転時期は,売買代金全額の支払をした時と定められており(甲1の1),被控訴人らが本件売買代金を完済したのは,平成15年6月6日であるから(甲2の1ないし3),被控訴人らが本件建物の所有権の移転を受けたのは,平成15年6月6日であると認められる。したがって,不法行為による損害賠償請求の遅延損害金の起算日は,平成15年6月6日となる(なお,瑕疵修補に代わる損害賠償債務は,期間の定めのない債務であるから,その遅延損害金の起算日は,催告の日の翌日となるところ,本件において,平成15年6月6日より前に,催告をした事実を認めることはできない。)。
そうすると,後記のとおり一部弁済金を法定充当する前の段階では,被控訴人らの本件請求は,それぞれ,控訴人らに対し,不法行為による損害賠償金1564万4715円及びこれに対する不法行為の結果発生後である平成15年6月6日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯(不真正連帯)支払を求める限度で理由があることになる。そして,上記認容額は,原判決主文第1,2項の各金員に,それぞれ元金1564万4715円に対する平成15年6月6日から平成20年10月2日までの民法所定年5分の割合による遅延損害金を加えたものである。
もっとも,前示のとおり,被控訴人らは,平成21年2月9日,1審被告破産者有限会社明工破産管財人(なお,有限会社明工は,控訴人らの共同不法行為者である。)から,本件損害賠償債務の履行として,それぞれ17万7607円の支払を受けた。そして,上記各弁済金は,各被控訴人の不法行為による損害賠償金各1564万4715円に対する平成15年6月6日から平成20年10月2日までの民法所定年5分の割合による遅延損害金各416万5511円(次の算式①,②の合計額)のうち発生の早いものから順に法定充当されたことになるから,上記各遅延損害金から上記各弁済金17万7607円を控除すると,その残額は,各398万7904円となる。
(算式①)15,644,715円×0.05×5年(平成15年6月6日から平成20年6月5日まで)=3,911,178円
(算式②)15,644,715円×0.05×119日(平成20年6月6日から同年10月2日まで)÷366日=254,333円」
第4結論
よって,本件控訴は理由がないが,本件附帯控訴は一部理由があるから,原判決を変更することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項,61条,64条本文,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。