名古屋高等裁判所 平成20年(ネ)121号 判決 2008年9月10日
北海道函館市若松町2番5号
控訴人(1審原告)
株式会社ジャックス
同代表者代表取締役
●●●
同代理人支配人
●●●
同訴訟代理人弁護士
●●●
同訴訟復代理人弁護士
●●●
横浜市南区東蒔田町1番10
控訴人補助参加人
株式会社あめひこ
同代表者代表取締役
●●●
同訴訟代理人弁護士
●●●
●●●
被控訴人(1審被告)
●●●
同所
被控訴人(1審被告)
●●●
被控訴人ら訴訟代理人弁護士
古田敏章
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,495万円及びこれに対する平成18年5月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は第1審,2審とも被控訴人らの負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 被控訴人ら
主文と同旨
第2事案の概要
1 本件は,被控訴人●●●(以下「控訴人●●●」という。)が,CIC長州産業株式会社(以下「長州産業」という。)または,控訴人補助参加人(以下単に「補助参加人」という。)との間で,太陽光発電システムに関する製品の売買契約及び製品の取付けに関する役務提供契約(以下,売主等を長州産業とする契約を「本件1ソーラーシステム契約」と,売主等を補助参加人とする契約を「本件2ソーラーシステム契約」という。)を締結し,また,あいおい損害保険株式会社(以下「あいおい損保」という。)との間で,金銭の借入契約と,あいおい損保が,その借入金を,代金として,長州産業に立て替えて支払う旨の契約(以下「本件立替払契約」という。)を締結したうえ,控訴人との間で,本件立替払契約に関する保証委託契約(以下「本件保証委託契約」という。)を締結し,被控訴人●●●(以下「被控訴人●●●」という。)が,控訴人との間で,本件保証委託契約に基づく債務について連帯保証する旨の契約(以下「本件連帯保証契約」という。)を締結したとして,控訴人から,被控訴人●●●に対しては,本件保証委託契約に基づき,被控訴人●●●に対しては,本件連帯保証契約に基づき,連帯して,495万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 原審は,控訴人の請求を棄却したので,控訴人及び補助参加人が控訴した。
3 当事者の主張は,以下のとおり原判決を付加訂正するほかは,原判決の「第2 当事者の主張」欄の1ないし5に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 原判決の付加訂正
(1) 原判決4頁22行目冒頭から同頁23行目末尾までを,次のとおり改める。
「(2) 同(2)ア及びイの事実は否認する。」
(2) 原判決5頁13行目の「●●●は,」から同頁15行目末尾までを,次のとおり改める。
「●●●は,被控訴人●●●の代理人として,平成17年11月9日付けのソーラーローン契約書(甲1,以下「本件ソーラーローン契約書」という。)に被控訴人●●●名義の署名,押印をし,被控訴人●●●は,同書面の連帯保証人欄に,自署し,押印をした。」
(3) 原判決6頁8行目末尾を改行して,次のとおり付加する。
「そして,●●●は,同月19日ころ,被控訴人●●●の代理人として,工事請負契約書の注文者欄に,被控訴人●●●名義の署名,押印をした。」
(4) 原判決7頁22行目の「平成18年8月21日ころ,」を「平成18年1月21日ころ(甲2の2),遅くとも同年6月26日(原審の第1回口頭弁論期日),」と改める。
(5) 原判決13頁18行目末尾を改行して,次のとおり付加する。
「(5) また,●●●及び被控訴人●●●は,補助参加人との間で,本件2ソーラーシステム契約を締結したものと認識している。そして,本件ソーラーローン契約書には,販売店として長州産業が,代理店として補助参加人が,明記されている。このように,消費者との間で訪問販売にかかる契約を締結した業者と立替払契約の加盟店とが異なる場合があるが,直接訪問販売をした業者は立替払契約の取次店として位置づけられ,契約書には,加盟店及び取次店双方が併記して記載されているから,特定商取引法4条,5条の規定する法定書面の記載要件を満たしている。したがって,被控訴人らのクーリングオフの意思表示は効力がない。」
第3当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求を棄却すべきものと判断するが,その理由は,原判決14頁4行目の冒頭から同15頁2行目の末尾までを,次のとおり改めるほかは,原判決の「第3 当裁判所の判断」欄の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。
「3 請求原因(3),同(4)について
証拠(甲1,乙8ないし10,丙2,原審における証人●●●,同被控訴人●●●)及び弁論の全趣旨を総合すれば,●●●は被控訴人●●●の代理人として,本件ソーラーローン契約書に,被控訴人●●●名義の署名,押印をし,また,被控訴人●●●は,連帯保証人として,同契約書に自署したうえ,押印をし,これによって,同人らは,控訴人及びあいおい損保との間で,以下の内容の合意をしたことが認められる。
(1) 被控訴人●●●が補助参加人に商品等の購入を,分割支払の方法で申し込み,補助参加人を介して長州産業が,被控訴人●●●に代わって,控訴人に融資の取次を委任する。
(2) 控訴人は,審査の結果,被控訴人●●●の連帯保証人となることを承諾し,同人に代わって,あいおい損保に融資の申込みをする。
(3) 控訴人は,あいおい損保から,被控訴人●●●に代わって融資金を受領し,あいおい損保は,控訴人に対し,被控訴人●●●からの返済金の取立を委任する。
(4) 控訴人は,受領した融資金を被控訴人●●●に代わって長州産業に支払う。
(5) 被控訴人●●●は,商品等の代金に手数料を加えた額を,分割払いで,控訴人に支払う。
(6) 控訴人は,被控訴人●●●が支払った分割金を,同被控訴人の返済金としてあいおい損保に支払う。
(7) 被控訴人●●●は,被控訴人●●●の控訴人に対する分割支払債務について連帯保証する。
以上認定の事実によれば,被控訴人●●●の代理人●●●は,あいおい損保との間で,本件立替払契約を,控訴人との間で,本件保証委託契約を締結するとともに,被控訴人●●●は,控訴人との間で本件連帯保証契約を締結したものと認められる。
4 被控訴人らの抗弁について
(1) 事実経過について検討するに,証拠(甲1,2の2,甲6ないし8,乙2,3,6の1,2,乙7ないし12,13の1ないし12,乙14の1ないし12,乙15の1ないし12,丙1,原審における証人●●●郎,同証人●●●,同被控訴人●●●)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
ア 補助参加人の従業員である●●●(以下「●●●」という。)は,平成17年11月5日,飛び込みで,被控訴人ら宅を訪問し,被控訴人●●●及び●●●に対し,太陽光により発電する装置の取付けとこれを利用した調理器具,給湯装置等の取付けに関する契約締結の勧誘をした。
イ 同月9日,●●●及び補助参加人の従業員●●●は,被控訴人ら宅を訪問し,被控訴人らに対し,被控訴人ら宅での従前の1か月の光熱費をガス代8000円,電気代1万7500円の合計2万5500円と仮定した場合,太陽光発電システム(4・56キロワット)を設置すると,1か月で光熱費が約2万7000円以上,10年後で327万円,15年後で490万円,30年後で980万円節約になるなどとするシュミレーションを示し,「太陽光発電システムを取り付ければ,電気代の節約になる,同システムを利用してできた電力を売れば,中部電力から代金が払われる,電気の売却代金で,同システムを買うためのローン代をほぼ賄える」との趣旨の説明をし,同システムと電化製品の代金及び設置費用の合計の見積額が495万円になるとの説明をし,見積書を示した(乙3)。
ウ 被控訴人●●●及び●●●は,前記説明を受け,同日,申込日を同日,商品の引渡日を同年12月初旬ころ,商品(役務)名が太陽光発電システム(システム出力が4・56キロワット),オール電化,数量1,役務の提供が有り,提供される役務に関する別紙明細は無しとの記載がなされ,金額495万円,支払総額617万4419円で,毎月の支払額3万4000円余で,平成18年1月から180回払,保証受託会社を控訴人,売買契約(商品等)の問合わせ先として,販売店を長州産業,代理店を補助参加人とする本件ソーラーローン契約書に自署し,押印した(だたし,●●●は被控訴人●●●の代理人として,同被控訴人名義の署名,押印をした。)(甲1)。
エ 同月11日,控訴人から被控訴人ら宅に,本件立替契約,本件保証委託契約及び本件連帯保証契約の意思確認のための電話があったが,その際,被控訴人●●●は自宅におらず,●●●が被控訴人●●●になりすまして電話に対応をした蓋然性が高い(甲6,乙7)。
オ 同月14日,15日ころ,●●●は,被控訴人ら宅を訪問し,太陽光発電システム本見積書と題する書面(乙3,以下「本件本見積書」という。)を交付するとともに,●●●は被控訴人●●●の代理人として,日付けが同月9日,システム内容を個人住宅用太陽光発電システム,機器代金と取付設置費用の合計額を495万円,工事着工日を同月27日,工事完了日を同月28日,連系開始予定日を同年12月28日とし,請負者を補助参加人とする工事請負契約書の注文者欄に被控訴人●●●名義の署名,押印をした(乙2,3)。
カ 被控訴人●●●は,同月18日ころ,補助参加人中部支店に,本件2ソーラーシステム契約を取りやめると申し入れたところ,同月19日,●●●及び●●●は,被控訴人ら宅を訪問し,被控訴人●●●らに対して,解約を思い止まるよう説得し,●●●は,36万8000円の健康器具を,前記契約のサービス分として33万8000円値引きして,3万円で購入することとし,●●●らは,工事請負契約書に「IHクッキング100v,健足くん」と書き込んだ(乙2,11,12)。
キ 同月26日及び同月27日,太陽光発電機,給湯器などの取り付け工事が行われ,同年12月12日,配線工事が行われて,同月より,一連の設備の利用ができるようになった(乙6の1)。
ク 被控訴人らは,平成18年1月21日付け書面をもって,補助参加人に対し,本件2ソーラーシステム契約を解約(クーリングオフ)する旨の意思表示(以下「本件クーリングオフの意思表示」という。)をした(甲2の2)。
これに対し,控訴人らは,平成17年11月9日,補助参加人が被控訴人●●●らに対し,本件本見積書を提示し,同日,被控訴人●●●らは,本件ソーラーローン契約書及び工事請負契約書に署名,押印したと主張する。確かに,被控訴人●●●らが本件ソーラーローン契約書に署名,押印したのは,同日であること,両書面とも作成日付が同日となっていることは,前記(引用にかかる付加訂正後の原判決。)認定のとおりである。しかし,本件ソーラーローン契約書では,役務の提供の有無については有りと記載されているのに,提供される役務に関する別紙明細の有無については無しと記載されている。この記載からすると,本件ソーラーローン契約書には,提供される役務の内容や,売買契約の代金額と役務提供に対する対価がそれぞれ,いくらになるのか,その詳細に関する明細書が別紙として添付されていなかったものと認められる。また,渡●●●が被控訴人●●●らに交付した太陽光発電システム(3・56キロワットのもの)に関する見積書の番号は3159番から3164番で,作成日付はいずれも平成17年11月11日となっている(乙4の1ないし6)のに対し,本件請負契約書作成の際,被控訴人●●●らに交付された本件本見積書中の見積書の番号は3167番となっている(乙3)。そして,前記各見積書は,番号順に作成されたものと推認されるから,本件本見積書中の見積書は,平成17年11月11日以後に,作成日付を同月9日に遡らせて作成された蓋然性が高いものと推認するのが相当である。そうすると,本件保証委託契約等にかかる役務提供に関する明細書に該当する工事請負契約書は,同月9日の時点では作成されておらず,同月11日以降に作成された蓋然性が高いものと推認されるので,控訴人らの前記主張は採用しない。
(2) 前記(引用にかかる付加訂正後の原判決)認定の事実によれば,販売業者及び役務提供事業者である補助参加人は,本件2ソーラーシステム契約(乙2)に際し,契約の申込者あるいは相手方に対して,特定商取引法4条,5条による申込書面,契約書面等の法定書面を交付しなければならず,これらの書面の交付がクーリングオフの期間の起算点となる(特定商取引法4条,5条,9条)。そして,(1)で認定の事実を総合すれば,工事請負契約書には,商品の代金又は役務の対価の支払の時期,クーリングオフによる売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又は前記各契約の解除に関する事項,売買契約又は役務提供契約の締結を担当した者の氏名の記載がなく,売買契約等の締結の年月日は虚偽の日付けが記載されていて,法定の記載事項に不備があるものと認められる。前記事実に加えて,控訴人からの本件立替契約等に関する意思確認のための電話の際,●●●が被控訴人●●●になりすまして対応をした蓋然性が高いことや,●●●らが被控訴人●●●らに対し,ソーラーシステム等の設置工事の具体的内容を,十分に説明した形跡が窺えないなど,補助参加人の取引方法にも問題があると認められることを総合すれば,同法5条所定のクーリングオフの期間は進行せず,本件クーリングオフの意思表示は有効と解するのが相当である。
これに対し,控訴人らは,被控訴人●●●らに対し,工事請負契約書を交付する際,本件ソーラーローン契約書とともにクーリングオフによる契約の撤回又は解除に関する事項が記載された申込書(丙2の2頁から3頁にかけて,以下「本件クーリングオフの説明書き」という。)を交付しているので,法定書面交付の要件を満たしていると主張する。しかし,被控訴人●●●らに,本件ソーラーローン契約書が交付されたのは,平成17年11月9日で,工事請負契約書が作成され,交付されたのが同月14日,15日ころであることは,前記(引用にかかる付加訂正後の原判決)認定のとおりである。また,本件クーリングオフの説明書きは,ジャックスカードの案内や本件立替払契約等の説明が記載された頁と同一の頁に記載され,クーリングオフの意思表示の相手方が誰なのか,必ずしも明確でないなど,本件2ソーラーシステム契約に関するクーリングオフの説明であることが,一見して,認識できる体裁にはなっていない(丙2)。さらに,本件証拠上,工事請負契約書が作成,交付された際,●●●らから,被控訴人●●●らに対し,クーリングオフに関する説明文書を交付したり,具体的な説明をした形跡が窺われない。これらの事実に照らして,控訴人らの前記主張は採用し難い。
(3) そして,本件立替払契約で割賦購入あっせんにかかる商品とされるソーラーシステム及び電化製品は,割賦販売法所定の指定商品及び指定役務(同法施行例1条1項別表1の8,9,28,30,同1条3項別表1の3の3)に該当するから,被控訴人らは,控訴人に対し,割賦販売法30条の4により,本件クーリングオフの意思表示をもって対抗しうると解するのが相当である。
5 控訴人らの再抗弁について
控訴人らは,被控訴人らが,法定書面の不備を理由にクーリングオフを主張するのは権利の濫用であると主張する。
確かに,本件2ソーラーシステム契約にかかる設備は利用可能な状態にあり,被控訴人らは,前記設備を利用していることが窺われる(弁論の全趣旨)ものの,本件において,クーリングオフの期間が起算されないのは,そもそも,補助参加人が,交付を義務づけてられている法定書面を被控訴人らに交付しなかったという補助参加人側の落度によるものであって,被控訴人らによる本件クーリングオフの意思表示がなされた時期が,契約あるいは履行の終了後約2か月を経過した後になされたこと自体には,被控訴人らの責に帰すべき事由はないというべきであるから,被控訴人らによる本件クーリングオフの意思表示が信義に反し,権利の濫用に当たるとまでいうことはできない。
6 以上によれば,その余の点について,判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がない。」
第4結論
よって,原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高田健一 裁判官 尾立美子 裁判官 上杉英司)