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名古屋高等裁判所 平成20年(ネ)17号 判決 2009年2月26日

主文

1  控訴人A及び控訴人Bの控訴を棄却する。

ただし,原判決後の訴訟承継により,原判決主文第1項中,被控訴人C株式会社に関する部分を別紙のとおり変更する。

2  被控訴人D株式会社の控訴に基づき,原判決主文第1項中,被控訴人D株式会社に関する部分を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人D株式会社は,控訴人Aに対し,1223万5645円及びうち1046万9068円に対する平成20年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被控訴人D株式会社は,控訴人Bに対し,1223万5645円及びうち1046万9068円に対する平成20年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  控訴人A及び控訴人Bのその余の請求をいずれも棄却する。

3  被控訴人D株式会社の控訴に基づき,原判決主文第2項中,被控訴人D株式会社に対し,5201万1014円及びうち4139万3979円に対する平成20年10月1日から支払済みまでの年5分の割合による金員を超えて金員の支払を命じた部分を取り消し,当該取消しに係る控訴人Aの請求を棄却する。

4  被控訴人D株式会社のその余の控訴を棄却する。

5  訴訟費用は,控訴人A及び控訴人Bと被控訴人C株式会社との間に生じた控訴費用を控訴人A及び控訴人Bの負担とし,控訴人Aと被控訴人D株式会社との間では,第1審及び当審において控訴人Aと被控訴人D株式会社との間に生じた費用を5分し,その3を被控訴人D株式会社の負担とし,その余を控訴人Aの負担とし,控訴人Bと被控訴人D株式会社との間では,第1審及び当審において控訴人Bと被控訴人D株式会社との間に生じた費用を2分し,その1を被控訴人D株式会社の負担とし,その余を控訴人Bの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  控訴人ら

(1)  原判決の控訴人ら敗訴部分のうち後記(2),(3)の請求に係る部分を取り消す。

(2)  被控訴人らは,各控訴人に対し,連帯して,906万5097円及びこれに対する平成14年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  被控訴人らは,控訴人Aに対し,連帯して,1451万9411円及びこれに対する平成14年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

(5)  上記(2)ないし(4)につき仮執行宣言

2  被控訴人D株式会社

(1)  原判決中,被控訴人D株式会社の敗訴部分を取り消す。

(2)  上記取消しに係る控訴人らの請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,(1)亡E(平成20年3月26日死亡)が被控訴人らに対し,製造物責任法3条(被控訴人C株式会社(以下「被控訴人C」という。)については,製造物責任法3条又は民法709条)に基づき,損害賠償金4013万0194円及びこれに対する損害発生後である平成14年7月5日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めたが,当審において,控訴人らが,亡Eを訴訟承継したことから(相続分各2分の1),それぞれ,被控訴人らに対し,損害賠償金2006万5097円及びこれに対する上記と同じ遅延損害金の連帯支払を求め,また,(2)控訴人Aが被控訴人らに対し,上記(1)と同じ責任原因に基づき,損害賠償金6873万2194円及びこれに対する損害発生後である平成14年3月3日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

原審は,製造物責任法3条に基づき,上記(1)の亡Eの請求を一部(2200万円と遅延損害金)認容し,上記(2)の控訴人Aの請求を一部(5421万2783円と遅延損害金)認容した。

そこで,控訴人A及び亡E,被控訴人D株式会社(以下「被控訴人D」という。)が敗訴部分につき控訴をした。

2  争いのない事実等,争点に関する当事者の主張

次のとおり原判決を補正し,当事者が当審において追加又は敷衍した主張を付け加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」の「2」ないし「5」記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 原判決書4頁11行目の冒頭から同頁15行目の末尾までを削る。

(2) 同6頁22行目の末尾の次に,行を改めて,次のとおり加える。

「(7) 平成20年8月29日,控訴人らと株式会社F(分離前相被控訴人・1審被告)及びG(分離前相被控訴人兼控訴人・1審被告)との間で裁判上の和解が成立した。同年9月30日,控訴人らは,株式会社F及びGから上記和解金600万円の支払を受け,本件損害賠償金の一部として,うち300万円を控訴人Aが取得し,残りの300万円を控訴人ら(亡E訴訟承継人)が法定相続分(各2分の1)に従って150万円ずつ取得した(弁論の全趣旨)。」

(3) 同13頁24行目の冒頭から同16頁6行目の末尾までを削る。

(4) 同17頁の7行目から8行目にかけての「専業主婦として家事に従事していた」の次に,「(亡Eは,生前,平成7年に夫を失って以降,二男であるBと同居し,Bの分を含めた炊事,洗濯,掃除等の家事を行い,外出にも特に問題はなく,デパート等にも買物に出かけていた。したがって,原判決が亡Eの後遺障害逸失利益を否定した点は,相当でない。)」を加える。

(5) 同18頁の23行目から24行目にかけての「専業主婦として家事に従事していた」の次に,「(控訴人Aは,夫,長男,二男と同居し,家族の炊事,洗濯,掃除は,すべて控訴人Aが行っていたし,外出にも特に問題はなく,その日常生活は,一般の主婦と何ら変わるところはなかった。したがって,原判決が何ら理由を述べることなく控訴人Aの後遺障害逸失利益の算定基礎となる収入を賃金センサスの女子労働者(当該年齢)全学歴平均賃金の7割とした点は,相当でない。)」を加える。

(6) 同19頁9行目の冒頭から同頁20行目の末尾までを削る。

(当事者が当審において追加又は敷衍した主張)

(1) 被控訴人Dの主張

ア あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との関連性がないこと

(ア) あまめしばの摂取によって閉塞性細気管支炎が発症したといえるためには,その原因物質を含め,科学的に因果関係が解明される必要があるというべきである。しかし,閉塞性細気管支炎の大半は,その原因が不明であり,免疫性疾患との関連が指摘されているに過ぎない。

(イ) 台湾において,野菜あまめしばを摂取した者で閉塞性肺疾患に罹患しているとされる症例が多数報告され,かつ,そのうち,閉塞性細気管支炎の既知の原因を発見できなかった患者の共通点が野菜あまめしばを摂取したことだけであったからといって,沖縄で栽培された本件あまめしばを摂取したことにより閉塞性細気管支炎が発症するとは限らない。

すなわち,台湾と日本(沖縄)とでは土壌が異なるから,台湾で栽培されたあまめしばに毒性があるからといって,日本(沖縄)で栽培されたあまめしばにも同様の毒性物質が蓄積されているとは限らない。また,台湾では,あまめしばをジュースにして生で摂取していたのに対し,本件あまめしばは,乾燥粉末にして摂取されるものであり,この点の違いが閉塞性細気管支炎の発症を招くか否かに大きく影響するものと考えられる。

むしろ,次の各点からすれば,あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎の発症との間に高度の関連性があるとすることはできないというべきである。

① 厚生労働省が実施した動物実験の結果によっても,あまめしばの毒性を客観的に裏付けることはできなかった。

② あまめしばの摂取量が多くなるほど閉塞性細気管支炎が発症する確率が高くなるという関係にあることが統計的に裏付けられていない。

③ 台湾,日本のいずれにおいても,あまめしばが販売禁止になった後に,閉塞性細気管支炎の発症率が大幅に減少したという統計資料等はない。

④ 閉塞性細気管支炎の患者のうち,あまめしばを摂取した群に特有の臨床症状や所見,肺の病理学的所見等があるわけではない。

(ウ) あまめしばを摂取した者のうち,閉塞性細気管支炎を発症するのは,その一部に過ぎない。しかも,日本においてあまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎に罹患したとされる数少ない症例のうち,4例が親子である。そうすると,閉塞性細気管支炎の発症には遺伝的な疾患ないし要因が大きく関与しているものと推認できる。

なお,遺伝的要因がどの時点で疾病として具体化するかは,時の経過とは無関係であり,親が先に発症するとは限らないから,親子の発症の時期が近いからといって,遺伝的要因の関与を否定することはできない。

イ 控訴人A及び亡Eのあまめしばの摂取と同人らの疾病との間の因果関係がないこと

(ア) 控訴人A及び亡Eに対する本人尋問が実施されておらず,その作成に係る陳述書の記載のみにより,本件あまめしばの摂取の量,時期,方法を正しく認定することはできない。また,同人らが平成14年にH大学で受診する前の健康状態も不明である。

(イ) 控訴人A及び亡Eの両名には,閉塞性細気管支炎につながる基礎疾患(シェーグレン症候群)が存在する。

すなわち,閉塞性細気管支炎は,膠原病に伴う肺疾患として発症する場合があるところ(乙イ9),亡Eは,膠原病の一種であるシェーグレン症候群に罹患しており,また,一旦は,同人の閉塞性細気管支炎の原因は,シェーグレン症候群であると診断されていた。しかも,亡Eは,ステロイド治療により症状の改善(肺のモザイクパターンの消失,気管支の拡張等)が見られており,「ステロイド治療に反応しない」というあまめしば摂取により発症した閉塞性細気管支炎の特徴とは合致していない。

控訴人Aも,シェーグレン症候群の疑いありとの診断をされており,同人の閉塞性細気管支炎の原因がシェーグレン症候群である可能性は十分にある。

さらに,シェーグレン症候群の患者で閉塞性細気管支炎を発症した者の症状等につき,控訴人A及び亡Eと近似ないし酷似する点(例えば,中高年の女性である,家族に慢性関節リュウマチ疾患の者がいる,呼吸器の異常を訴えて亜急性期の患者として入院した,重篤な呼吸器障害を訴えて閉塞性細気管支炎と診断された,ステロイド投与により若干症状が改善しているが,必ずしも著効はなく,予後が極めて不良である,リウマチ因子が陰性である等)を指摘できる。

そうすると,控訴人A及び亡Eについては,本件あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎が発症したものではないとされる余地が十分にあり,更に同人らに対し,精密検査や,臨床経験のある台湾の医師による診察を実施しなければ,本件あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎が発症したと認めることはできないはずである。これらを実施することなく,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎が本件あまめしばの摂取により発症したものであるとしたI医師の診断は,台湾の症例から安易に発症原因を肯定したものであり,信用できない(なお,I医師が判断の根拠とした他の大学教授の論文や,報告については,共著の元助教授の不正行為の発覚により,ねつ造の疑いがある。)。

むしろ,前述したところからすれば,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎は,あまめしばの摂取によるものではなく,シェーグレン症候群によって発症したものであると見る方がはるかに合理的である。

ウ 開発危険の抗弁

被控訴人Dは,粉末あまめしばを袋詰めするなどした平成12年10月23日から平成13年3月12日までの時点では,あまめしばの学術名が「サウロプス・アンドロジーニアス」であることを知らなかったが,呼吸器疾患の権威である医学博士でさえ,両者が同一のものであることを知らなかったという事実がある。しかも,当時,台湾のあまめしば摂取による症例を記載した国内外の医学文献には,上記学術名のみが記載されており,被控訴人Dがこれを読んでも,その記述があまめしばに関するものであることを知ることはできなかった。したがって,被控訴人Dが,上記の時点において,本件あまめしばには閉塞性細気管支炎を発症させる危険性があることを認識することは不可能であった。

エ 被控訴人Dの責任割合

被控訴人Dが本件あまめしばの包装表示で「製造者」とされているのは,食品衛生法,JAS法の規定と行政指導の誤りによるものであり,実際には,被控訴人Dは,本件あまめしばの袋詰めの作業を行ったに過ぎない。このような実情からすれば,製造物責任法により被控訴人Dが責任を負うのは,全損害の15パーセントに過ぎないというべきである。

オ 素因減額

亡Eには,原判決別紙一覧表記載のとおり,閉塞性細気管支炎以外にもシェーグレン症候群その他多数の疾病があり,これらが複合的,重畳的に影響し合って亡Eの後遺障害を発症させたというべきである。殊に,シェーグレン症候群は,閉塞性細気管支炎を発症させる可能性のある疾患であるから,本件あまめしばの摂取のみによって亡Eの症状が発症したものとすることはできず,亡Eの上記疾患が同人の症状の発生に寄与したことは否定できない。したがって,亡Eに生じた損害のすべてを被控訴人Dに賠償させるのは,公平に反するから,相当の減額をすべきである。

控訴人Aについては,気管支喘息,アレルギー及びシェーグレン症候群等の疑いありと診断されており,同人に対する精密診断が実施されていれば(なお,同人は,その受検を拒否したものである。),亡Eと同様,シェーグレン症候群等の診断がされた可能性がある。したがって,控訴人Aに生じた損害のすべてを被控訴人Dに賠償させるのは,公平に反するから,相当の減額をすべきである。

カ 控訴人Aの損害拡大防止義務違反(検査等の拒否)

控訴人Aは,精密検査の受検や,有効な治療(ステロイド治療)を拒否しており,これらの事情が同人の損害の拡大に寄与したものといえる。したがって,控訴人Aに生じた損害のすべてを被控訴人Dに賠償させるのは,公平に反するから,相当の減額をすべきである。

(2) 上記(1)の被控訴人Dの主張に対する控訴人らの反論

ア あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎発症との間の因果関係について

(ア) I医師の診断について

控訴人A及び亡Eを診察したI医師は,当初,上記両名が本件あまめしばを摂取した事実を知らなかったので,同人らが閉塞性細気管支炎を発症する可能性のある原因としては,シェーグレン症候群くらいしか思い浮かばなかった。しかし,その後,控訴人A及び亡Eが本件あまめしばを摂取した事実や,本件あまめしばが,閉塞性細気管支炎の原因といわれる学術名「サウロプス・アンドロジーニアス」と同じトウダイグサ科の植物であることを知り,そこで,控訴人A及び亡Eの抗体を検査したり,病歴調査をしたほか,台湾でのあまめしば摂取による閉塞性細気管支炎の発症事例と本件との症状経過,所見等の比較検討等をした結果,最終的に,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎は,本件あまめしばによるものであると判断したのであって,その判断は,正当である。

(なお,被控訴人Dが指摘する元助教授の不正行為の内容ないし範囲等(乙イ23の1)からすれば,この点は,I医師が参考にした論文や報告の信用性に何ら影響するものではない。)

(イ) あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との関連性

閉塞性細気管支炎は,極めて症例の少ない疾患であり,かつ,あまめしばを摂取した者は,全国的には少数であるはずなのに,控訴人A及び亡Eが閉塞性細気管支炎に罹患したのとほぼ同時期に発症した少数の閉塞性細気管支炎の患者の中に,あまめしばを摂取した者が多数含まれていることからすれば,あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との間には高度の関連性があるといえる。

(ウ) 動物実験結果や原因物質の点について

実験の対象となった動物(ラット等)と人間とでは肺の構造が異なること等(甲36,証人I)からすれば,動物実験で毒性物質が確認されなかったことは,あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎の発症との間の因果関係を認定することの妨げとなるものではない。

また,上記因果関係を認定する上で,閉塞性細気管支炎発症の原因物質を特定することその他の自然科学的な証明までは必要でない。

(エ) あまめしばの原産地の違いや加工の有無等による影響の点について

台湾及び日本で栽培されたあまめしばは,いずれも学術名「サウロプス・アンドロジーニアス」というトウダイグサ科の植物であることに変わりなく,農薬の残留などの報告もされていない。また,あまめしば摂取により閉塞性細気管支炎が発症した者の症状,所見及び経過は,酷似しており,原産地の違いや加工の有無等による影響はないといえる。

(オ) 遺伝的要因の点について

もし,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎の発症原因が遺伝的要因であるならば,親である亡Eが先に発症し,その後に控訴人Aが発症するのが自然であるのに,控訴人A及び亡Eは,ほぼ同時期に発症していることからすれば,これが遺伝的要因によるものであるとは考えられない(証人I)。

むしろ,親子が同時期に本件あまめしばを摂取し,ほぼ同時期に閉塞性細気管支炎を発症したことは,その摂取と発症との間の因果関係を強く推認させる事情であるといえる。

(カ) シェーグレン症候群の点について

控訴人Aは,亡Eと異なり,シェーグレン症候群ではない(なお,同人のカルテに「シェーグレン症候群の疑い」との記載があるのは,検査の際に保険の関係で付けられた病名に過ぎないし,同人がシェーグレン症候群と診断された事実もない。)のに,亡Eとほぼ同時期にあまめしばを摂取した後,同じ頃に閉塞性細気管支炎を発症している。したがって,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎の原因がシェーグレン症候群であるとすることはできないというべきである。

なお,ステロイドは,炎症を抑える薬であり,その投与によって,感染箇所の症状が改善することはあっても,閉塞性細気管支炎自体が軽減することはなく,亡Eについても,ステロイド治療の効果は,感染による症状改善の域を出るものではなかった。

(キ) 控訴人Aの陳述書(甲35)の信用性等について

控訴人Aは,亡Eから,同人が平成13年9月号の雑誌「J」の記事を読んで,本件あまめしばを購入し,その摂取を始めた旨を告げられるとともに,上記記事を示されたことを契機に,自らも本件あまめしばを購入し,その摂取を始めたものである。この点についての控訴人Aの陳述書(甲35)の記載は,控訴人Aが購入した本件あまめしばのパッケージ(甲1)の記載(消費期限を平成14年11月1日とする印字)とも符合している。また,その摂取方法についての上記陳述書の記載内容は,上記パッケージに記載された消費方法に沿うものであるし,控訴人Aが初めて本件あまめしばの摂取の事実をI医師に申告した際の内容とも符合している。これらの点からすれば,控訴人Aの陳述書の信用性は高いといえる。

なお,控訴人A及び生前の亡Eの病状は,本人尋問に耐えられる状態ではなく,無理に尋問をすれば,重大な結果を招きかねないものであった。

イ 開発危険の抗弁の点について

製薬会社としては,自らの製造する物質の危険性の有無等をその学術名にまで遡って調査するのは当然のことであり,被控訴人Dの主張は,理由がない。

ウ 素因減額の点について

控訴人A及び亡Eのいかなる疾患又は身体的特徴が閉塞性細気管支炎の発症に寄与したのかが全く明らかではないし,閉塞性細気管支炎の発症にシェーグレン症候群や遺伝的要因が寄与したことを裏付ける基礎資料もないから,素因減額をすることは公平に反し相当でない。

エ 控訴人Aの損害拡大防止義務違反(検査等の拒否)の点について

ステロイド治療により閉塞性細気管支炎自体が軽減されるものではないことは,前述のとおりであるから,これを受けなかったからといって,損害が拡大したとすることはできない。

また,控訴人Aの閉塞性細気管支炎が重篤なものであることや,胸腔鏡検査は,非常に侵襲性の高いものであること,胸腔鏡検査によって確実に患部の細胞を採取できるとは限らないこと,他の精密検査によっても閉塞性細気管支炎の診断は可能であること等からすれば,控訴人Aが胸腔鏡検査の受診を拒否したからといって,これが同人の損害を減額すべき事由に当たるとすることは相当でない。

オ 被控訴人Dの責任割合の点について

被控訴人Dの主張を争う。

なお,被控訴人Dは,単に本件あまめしばを包装しただけではなく,その滅菌処理もしているのであって,被控訴人Dの主張は,その前提自体に誤りがある。

第3当裁判所の判断

当裁判所は,(1)亡Eの訴訟承継人である控訴人らの本件請求は,それぞれ,損害賠償金1223万5645円(元金1046万9068円と平成20年9月30日の一部弁済後の確定遅延損害金176万6577円の合計)及びうち元金1046万9068円に対する平成20年10月1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく(ただし,被控訴人Cに対する関係では,不利益変更禁止の原則により,原判決主文第1項記載のとおりであり,これを控訴人らが2分の1ずつ承継した。),(2)控訴人Aの本件請求は,損害賠償金5201万1014円(元金4139万3979円と平成20年9月30日の一部弁済後の確定遅延損害金1061万7035円の合計)及びうち元金4139万3979円に対する平成20年10月1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない(ただし,被控訴人Cに対する関係では,不利益変更禁止の原則により,原判決主文第2項記載のとおりである。)と判断する。その理由は,次のとおり原判決を補正し,被控訴人Dが当審において追加又は敷衍した主張に対する判断を付け加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の「1」ないし「5」及び「8」記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)

1  原判決書38頁25行目の「当初」から同39頁1行目の「疑ったが」までを「I医師は,亡Eには口が渇くなどの症状があったことや,同人の抗体の検査結果から,同人をシェーグレン症候群と診断し,また,一旦は,亡Eの閉塞性細気管支炎の原因は,シェーグレン症候群によるものではないかとも考えたが」と改める。

2  同42頁5行目の「①台湾において」を「前示1のとおり,①台湾において」と,同頁8行目の「③台湾では」から同頁10行目の「報告があること」までを「③台湾では,各種報道により野菜あまめしばの販売,入手が事実上不可能になった後には,上記①のように多数の閉塞性細気管支炎の患者(野菜あまめしばを摂取した共通点がある者)が生ずる現象が見られなくなった旨の報告があること」と,それぞれ改め,同頁同行目の「④日本国内においても」の次に,「,控訴人A及び亡E以外にも,」を加える。

3  同44頁13行目の「10倍に」を「何倍にも(これを10倍とする報告もある。)」と改め,同頁17行目の冒頭から同頁18行目の末尾までを次のとおり改める。

「 また,台湾で栽培された野菜あまめしばにつき,土壌や農薬による汚染があったとする報告はないし,マレーシアで栽培された野菜あまめしばを摂取しても閉塞性細気管支炎の発症例がない理由は,前示の摂取量の大きな違いによるものと考えられることからすれば,沖縄産のあまめしば(本件あまめしばを含む。)と台湾産のあまめしばとの間には,これを摂取したことによる閉塞性細気管支炎の発症の有無を左右するような格別の違いがあるとは考えにくいし,そのような違いのあることをうかがわせる具体的な事情も特に見出せない。」

4  同45頁1行目の「野菜あまめしば」から同頁3行目の「かかわらず,」までを削り,同頁9行目の冒頭から末尾までを「そして,他に,上記(1)の判断を覆すに足りる事情も認められない。」と改める。

5  同頁15行目の冒頭から同頁23行目の末尾までを次のとおり改める。

「(2) 前示のとおり,加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎の発症との間には,高度の関連性があると認められる。そして,この点に,控訴人A及び亡Eは,加工あまめしばである本件あまめしばをほぼ同時期に摂取し,その後,ほぼ同時期に閉塞性細気管支炎を発症したことや,控訴人A及び亡Eの本件あまめしばの摂取の量,時期の点につき,他の患者に係る報告例とは異なる点(発症までの摂取量が少ない,摂取から発症までの時期が遅い)があるものの,この点は,患者の個体差によるものと見ることもできること(証人I)等を併せ考えると,控訴人A及び亡Eにつき,本件あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎の発症との間に因果関係があるものと推認するのが相当である。」

6  同46頁5行目の「上記(1)」から同頁7行目の末尾までを次のとおり改める。

「上記(1),(2)の説示に係る事情(殊に,控訴人A及び亡Eが,本件あまめしばをほぼ同時期に摂取し,その後,ほぼ同時期に閉塞性細気管支炎を発症したこと)からすれば,亡Eにシェーグレン症候群その他の疾患があったことや,シェーグレン症候群に合併した閉塞性細気管支炎の症例の内容(乙イ25の1ないし11)を踏まえて検討しても,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎が,本件あまめしばの摂取とは無関係に,専らシェーグレン症候群によって発症したものであるとまで認めることはできない(なお,被控訴人Dが当審の口頭弁論終結後に提出した資料には,あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎を発症した患者を多数診察した台湾の医師は,あまめしばの摂取以外に閉塞性細気管支炎の発症原因(シェーグレン症候群を含む。)があると考えられる患者については,あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎に罹患したものとは診断しなかった旨の記載があるが,この記載によっても,上記判断は,左右されるものではない。)。」

7  同頁18行目の冒頭から同頁23行目の末尾までを次のとおり改める。

「 そこで,検討するに,後述のとおり,本件あまめしばの摂取による控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎の発症には,同人らの何らかの(閉塞性細気管支炎を発症しやすい)体質ないし素因が相当程度関与しているものというべきではあるが,前示のとおり,控訴人A及び亡Eが,本件あまめしばをほぼ同時期に摂取し,その後,ほぼ同時期に閉塞性細気管支炎を発症したこと等からすれば,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎が,本件あまめしばの摂取とは無関係に,遺伝的要因等によって発症したものであるとまで認めることはできないというべきである。」

8  同49頁21行目の「したがって」を次のとおり改める。

「これに対し,被控訴人Dは,「あまめしば」(本件あまめしば)が(台湾において閉塞性細気管支炎と関連ありと報告された)学術名「サウロプス・アンドロジーニアス」(トウダイグサ科の植物)と同一のものであることを知らず,また,呼吸器疾患の権威である医学博士でさえ,両者が同一のものであることを知らなかったというのであるから,平成13年8月の時点で,被控訴人Dが野菜あまめしばにより閉塞性細気管支炎を来した症例があることを知るのは不可能であった旨主張する。

しかし,被控訴人Dとしては,自らが滅菌処理等をする商品に危険性があるか否かを医学文献その他によって調査する前提として,その学術名等を特定することは不可欠な作業であり,また,その特定自体に格別の困難を伴うともいえない(なお,I医師が,かつて,学術名が「サウロプス・アンドロジーニアス」であるトウダイグサ科の植物を用いた商品が「あまめしば」の名称で販売されていることを知らなかった(証人I)からといって,直ちに上記特定が困難であるとすることはできない。)。

したがって」

9  同54頁6行目の冒頭から同56頁10行目の末尾までを次のとおり改める。

「6 亡Eの損害

本件あまめしばの欠陥との間に相当因果関係がある亡Eの損害は,次のとおりである(合計3173万0227円)。

(1) 治療費

証拠(甲2,16,35,36,52,証人I)及び弁論の全趣旨によれば,亡Eが本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎の治療に要した費用は,48万0120円であることが認められる。

(2) 介護保険一部負担金

前示の亡Eの症状経過等に,証拠(甲53(書証は,枝番号を含む。以下同じ))及び弁論の全趣旨を総合すると,亡Eは,本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎に罹患したことにより介護を要する状態に陥ったこと,介護保険の利用のため,介護保険一部負担金6万9652円を支出したことが認められる。

(3) 装具代

証拠(甲54,55)及び弁論の全趣旨によれば,亡Eは,本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎の症状を軽減するため,加湿器,空気清浄機を購入し,その代金が計5万8750円であることが認められる。そして,前示の亡Eの症状等からすれば,上記装具の必要性,相当性も首肯できる。

(4) 後遺障害逸失利益

前示のとおりの亡Eの症状の内容やその治療経過等からすれば,亡Eの本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎は,平成14年11月25日には症状固定に至り,これにより,亡Eは,その労働能力を100パーセント喪失したものと認められる。

亡Eは,上記症状固定当時,72歳の女性であり,上記疾患の発症前には,二男(昭和30年生)と同居し,専業主婦として家事に従事していたところ(甲69,弁論の全趣旨),亡Eの年齢や,同居の家族の人数,年齢等から推認できる亡Eの生前の家事労働の内容,程度等からすれば,亡Eは,本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎に罹患しなければ,その後6年間にわたり,平成14年賃金センサスの女性労働者65歳以上全学歴平均年収額313万0300円の7割に当たる収入を得ることができたものと認めるのが相当である。

そうすると,亡Eの後遺障害逸失利益の額は,次の算式(5.0756は,6年のライプニッツ係数)により,1112万1705円となる(1円未満切捨て。以下同じ)。

(算式)3,130,300×0.7×5.0756=11,121,705

(5) 後遺障害慰謝料

前示の亡Eの後遺障害の内容,程度その他本件審理に現れた一切の事情を総合すると,亡Eの後遺障害慰謝料の額を2000万円とするのが相当である。

7 控訴人Aの損害

本件あまめしばの欠陥との間に相当因果関係がある控訴人Aの損害は,次のとおりである(合計6265万6633円)。

(1) 治療費

証拠(甲4,17,35,36,56ないし58,証人I)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人Aが本件あまめしばの摂取後に生じた症状の治療に要した費用は,計43万8140円であることが認められる。

(2) 装具代

証拠(甲59ないし64,69)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人Aは,本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎のため,車いすの使用を余儀なくされ,その賃借及び購入をしたほか,上記疾患の症状を軽減するため,空気清浄機を購入し,また,ほとんど寝たきりの状態となり,洗濯,掃除に支障が生じたり,自室から台所への移動も困難になったため,洗濯機(洗濯・乾燥一体式),掃除機(コードレス等)や,自室用の冷蔵庫,電子レンジを購入したこと,これらに要した費用の総額が37万1660円であることが認められる。そして,前示の控訴人Aの症状等からすれば,上記装具等の必要性,相当性も首肯できる。

(3) 後遺障害逸失利益

前示のとおりの控訴人Aの症状の内容やその治療経過等からすれば,同人の本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎は,平成14年7月8日には症状固定に至り,これにより,控訴人Aは,その労働能力を100パーセント喪失したものと認められる。

控訴人Aは,上記症状固定当時,50歳の女性であり,上記疾患の発症前には,夫と子らと同居し,専業主婦として家事に従事していたことからすれば(甲69,弁論の全趣旨),本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎に罹患しなければ,その後17年間にわたり,平成14年賃金センサスの女性労働者50歳の全学歴平均年収額371万1800円の収入を得ることができたものと認めるのが相当である。

そうすると,控訴人Aの後遺障害逸失利益の額は,次の算式(11.2740は,17年のライプニッツ係数)により,4184万6833円となる。

(算式)3,711,800×11.2740=41,846,833

(4) 後遺障害慰謝料

前示の控訴人Aの後遺障害の内容,程度その他本件審理に現れた一切の事情を総合すると,同人の後遺障害慰謝料の額を2000万円とするのが相当である。

8 素因減額について

台湾及び日本であまめしばを摂取した者のすべてが閉塞性細気管支炎に罹患し,発症したわけではなく,台湾の調査では,そのうちの半数程度しか発症していないし,日本での発症者も,極めてわずかである(証人I,弁論の全趣旨)。そして,その理由につき,証人Iは,遺伝的な背景の違いによって,あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎の発症に至る者とそうでない者とがいるものと考えられる旨供述する。また,甲65(K医師の別件訴訟の証人調書)には,あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎の発症には,遺伝的ないし宿主要因が関与していることは否定できない旨の記載がある。

これらの点に,親子である控訴人A及び亡Eがいずれも本件あまめしばを摂取したことにより閉塞性細気管支炎を発症したことや,日本において加工あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎に罹患したとされた8症例のうち,4症例(2家系)が親子での発症の事例であったとする報告があること(甲41)等を併せ考えると,控訴人A及び亡Eが本件あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎を発症したことにつき,同人らの何らかの(閉塞性細気管支炎を発症しやすい)体質ないし素因が相当程度関与しているものと推認できる。また,前示の諸事情からすれば,控訴人A及び亡Eの体質ないし素因は,個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであるというべきである。そして,本件審理に現れた一切の事情を総合すると,上記6,7の控訴人A及び亡Eの各損害額からそれぞれ4割を減額するのが相当である(民法722条2項の趣旨の類推適用)。

これに対し,控訴人らは,控訴人A及び亡Eのいかなる素因が本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎の発症にどのように寄与したのか等が医学的に明らかでない以上,素因減額をするのは公平に反する旨主張する。

しかし,あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎の発症の機序(原因物質その他)が医学的に解明されていない現状の下では,その因果関係の判断のみならず,被害者側の素因の寄与の有無,程度等の判断もまた,疫学的な見地に基づくものにならざるを得ず,損害の公平な分担の見地からすれば,むしろ,上記のとおり減額をするのが相当であるといえる。

なお,証人Iは,親子(控訴人A,亡E)のうち,娘である控訴人Aの発症時期の方が早いことから,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎の発症につき遺伝的要素の影響を否定できる旨供述する。しかし,摂取された本件あまめしばが控訴人A及び亡Eの体質ないし素因に作用して閉塞性細気管支炎を発症する場合を想定すると,むしろ,発症の順序が生年の前後に従うとは限らないのではないかとの疑問が残り,上記供述によって,直ちに上記判断を覆すには足りないというべきである。

以上の次第で,被控訴人Dが賠償すべき損害額は,上記のとおりの4割の減額の結果,亡Eにつき1903万8136円,控訴人Aにつき3759万3979円となる。

9 控訴人A及び亡Eは,本件訴訟の提起,遂行を本件訴訟代理人弁護士らに委任し,その報酬として相当の額を支払ったものと認められる(弁論の全趣旨)。そして,本件訴訟の内容,性質や,前示の認容額,審理経過その他一切の事情によれば,本件あまめしばの欠陥と相当因果関係のある弁護士費用は,亡Eにつき190万円,控訴人Aにつき380万円とするのが相当である。これらを上記8の減額後の損害額にそれぞれ加算すると,亡Eにつき2093万8136円,控訴人Aにつき4139万3979円となるが,亡Eの死亡により,控訴人らは,亡Eの上記損害額を2分の1ずつ相続により承継し(弁論の全趣旨),その額は,各1046万9068円となる。

ところで,前示の争いのない事実等によれば,平成20年9月30日,控訴人らは,本件損害賠償金の一部として,株式会社F及びGから計600万円の支払を受け,うち300万円を亡E分として控訴人ら(亡E訴訟承継人)が法定相続分(各2分の1)に従って150万円ずつ取得し,残りの300万円を控訴人Aが同人の固有分として取得したことが認められる。これによれば,上記の各150万円は,控訴人ら(亡Eの承継分)の損害額各1046万9068円に対する平成14年7月5日から平成20年9月30日まで(6年と88日)の遅延損害金各326万6577円(算式①)の一部に法定充当され,また,上記300万円は,控訴人A(固有分)の損害額4139万3979円に対する平成14年3月3日から平成20年9月30日まで(6年と212日)の遅延損害金1361万7035円(算式②)の一部に法定充当されたことになる。

(算式①)10,469,068×5%×6+10,469,068×5%×88÷366=3,266,577

(算式②)41,393,979×5%×6+41,393,979×5%×212÷366=13,617,035

したがって,上記充当後の控訴人らの損害額(亡Eの承継分)は,それぞれ元金1046万9068円とこれに対する平成20年10月1日以降の遅延損害金及び確定遅延損害金176万6577円となり,控訴人Aの損害額(同人の固有分)は,元金4139万3979円とこれに対する平成20年10月1日以降の遅延損害金及び確定遅延損害金1061万7035円となる。」

(被控訴人Dが当審において追加又は敷衍した主張に対する判断)

1  被控訴人Dは,加工あまめしばの摂取によって閉塞性細気管支炎が発症したといえるためには,その原因物質を含め,科学的に因果関係が解明される必要があると主張する。

しかし,製造物責任の成立要件としての事実的因果関係は,自然科学上の因果関係そのものではなく,上記の法的責任を発生させる要件としての法的因果関係であり,その立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果の発生を招いた関係を是認できる高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを要し,かつ,それで足りるというべきである。したがって,閉塞性細気管支炎発症の原因物質の特定や,あまめしばの摂取によって閉塞性細気管支炎が発症したことについての自然科学的な因果関係の解明を要するものではない。

2  被控訴人Dは,「次の①ないし④の各点からすれば,あまめしばの摂取によって閉塞性細気管支炎が発症したとすることはできない。」と主張する。

① 厚生労働省が実施した動物実験の結果によっても,日本で栽培されたあまめしばの毒性を客観的に裏付けることはできなかった。

② あまめしばの摂取量が多くなるほど閉塞性細気管支炎が発症する確率が高くなるという関係にあることが統計的に裏付けられていない。

③ 台湾,日本のいずれにおいても,あまめしばが販売禁止になった後に,閉塞性細気管支炎の発症率が大幅に減少したという統計資料等はない。

④ 閉塞性細気管支炎の患者のうち,あまめしばを摂取した群に特有の臨床症状や所見,肺の病理学的所見等があるわけではない。

しかし,上記①については,前示(原判決書記載)のとおり,従前考えられていた成分以外のものが原因物質である可能性を否定できない。

上記②については,台湾の症例に係る報告によれば,ある程度までは,総摂取量が多いほど,発症率が高くなる関係が見られるし(もっとも,摂取量が一定程度を超えると,発症率に変わりはない傾向もある。),少ない摂取量でも発症する者や,多く摂取しても発症しない者がいることは,個人差によるものと考える余地があること(甲8,証人I)を指摘できる。

上記③については,前示(原判決書記載)のとおり,台湾では,各種報道により野菜あまめしばの販売,入手が事実上不可能になった後には,多数の閉塞性細気管支炎の患者(野菜あまめしばを摂取した共通点がある者)が生ずる現象が見られなくなった旨の報告があることを指摘できる。

これらの点に,前示(原判決書記載)のとおり,加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎の発症との間の関連性を推認させる諸事情があることを併せ考えると,上記①ないし④の事情をもって,直ちに上記の関連性を肯定した判断を覆すには足りないというべきである。

3  控訴人Aの陳述書の信用性について

控訴人Aの陳述書(甲35)には,「控訴人Aは,実母である亡Eから,同人が平成13年9月号の雑誌「J」(甲7)の記事を読んで,本件あまめしばを購入し,その摂取を始めている旨を告げられた。その際,上記記事を読むと,本件あまめしばには,抗酸化作用があるほか,生活習慣病や,便秘にも効果があるなどの記載があり,控訴人A自身も食が細く疲労感を持っていたことなどから,本件あまめしばを購入することにした。そして,平成13年9月ころからその摂取を始めたが,本件あまめしばのパッケージ(甲1)の裏面の記載(用量)を参考にして,スプーン小さじ一杯を1日2ないし3回,主に豆乳に混ぜて飲んでいた。飲んだ量は,正確には分からないが,400グラム程度ではないかと思う。ところが,平成13年12月ころから,口内炎がひどくなり,本件あまめしばを飲めなくなり,L内科を受診し,同内科の紹介で,平成14年4月にH大学医学部附属病院で診察を受けた。」等の記載がある。

上記陳述書の記載は,上記雑誌(甲7)の記事の内容や,控訴人Aが購入した本件あまめしばのパッケージ(甲1)の消費期限(平成14年11月1日とする印字)及び用量等(180CCに対しスプーン1杯が目安)の記載とも符合している。また,I医師は,控訴人Aから,同人及び亡Eが本件あまめしばを摂取していた旨を聞いている(証人I)。さらに,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業びまん性肺疾患調査研究班による平成16年度研究報告書(甲41)記載の摂取量(亡Eにつき300グラム,控訴人Aにつき360グラム)や,摂取後の発症時期も,上記陳述書の記載と概ね沿うものである。なお,上記報告書(甲41)記載の控訴人A及び亡Eの本件あまめしばの摂取量は,他の患者の摂取量の数分の1程度に過ぎず,また,その発症時期も,他の患者よりも遅いが,あえてそのような虚偽の申告をすべき動機も見出せないこと等を併せ考えると,その信用性を首肯できる。

これらの点からすれば,控訴人Aの陳述書(甲35)の上記記載は,信用できる。そして,控訴人A及び亡Eの本件あまめしまの摂取の量,時期及び方法に関する前示(原判決書記載)の認定事実を覆すに足りる具体的な事情は見出せない。

なお,前示(原判決書記載)の控訴人A及び亡Eの症状経過等からすれば,上記両名(亡Eについてはその生前での)の本人尋問(臨床尋問)の実施は,困難であり,不定期間の障害(民事訴訟法181条2項)があったものというべきである。

4  控訴人Aの損害拡大防止義務違反(検査等の拒否)の点について

前示(原判決書記載)のとおり,ステロイド治療により閉塞性細気管支炎自体の症状の改善に効果があるかどうか必ずしも明らかではないから,控訴人Aがステロイド治療を受けなかったからといって,直ちに損害拡大の抑止義務に反するとまで認めることはできない。

また,前示(原判決書記載)の控訴人Aの閉塞性細気管支炎の症状経過等からすれば,同人の病状は,重篤であると認められる。そして,胸腔鏡検査は,非常に侵襲性の高いものである上,胸腔鏡検査によって確実に患部の細胞を採取できるとは限らないし,他の精密検査によっても閉塞性細気管支炎の診断は可能であること(証人I)等からすれば,控訴人Aが胸腔鏡検査の受診を拒否したからといって,同人の損害を減額すべき事由があるとすることはできない。

5  責任割合に関する被控訴人Dの主張について

前示(原判決書記載)のとおり,被控訴人Dは,本件あまめしばの滅菌処理等をしているのであって,単に本件あまめしばを包装したに過ぎないとする被控訴人Dの主張は,その前提を欠き,理由がない。

6  被控訴人Dのその余の主張は,前示(補正後の原判決書記載)のとおり,いずれも理由がない。

第4結論

よって,控訴人らの控訴は理由がないからこれを棄却し,被控訴人Dの控訴は一部理由があるから,原判決中,同被控訴人に関する部分を変更することとし,訴訟費用の負担につき,控訴人らと被控訴人Cとの間では,民事訴訟法67条1項本文,61条,65条1項本文を,控訴人らと被控訴人Dとの間では,同法67条2項,64条,61条を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 加島滋人 裁判官 鳥居俊一)

別紙

1 被控訴人C株式会社は,控訴人Aに対し,1100万円及びこれに対する平成14年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被控訴人C株式会社は,控訴人Bに対し,1100万円及びこれに対する平成14年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

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