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名古屋高等裁判所 平成20年(ネ)764号 判決 2009年4月23日

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人は,控訴人Aに対し,2048万8300円及び別紙損害金一覧表Ⅰ記載16ないし35のとおりの各金員を支払え。

3  被控訴人は,控訴人Bに対し,686万2000円及び別紙損害金一覧表Ⅱ記載8ないし27のとおりの各金員を支払え。

4  控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は第1,2審を通じこれを20分し,その1を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は,控訴人Aに対し,2108万2000円及び別紙損害金一覧表Ⅰ記載のとおりの各金員を支払え。

(3)  被控訴人は,控訴人Bに対し,703万2400円及び別紙損害金一覧表Ⅱ記載のとおりの各金員を支払え。

(4)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

(1)  本件控訴をいずれも棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第2事案の概要(以下,略称は原則として原判決の表記に従う。)

1  本件は,本件各倉庫(原判決2頁2行目参照)を所有する控訴人らが,被控訴人において,本件各倉庫について冷凍倉庫用の経年減点補正率(同7頁11行目参照)を適用せず評価を誤り,固定資産税等(同2頁3行目から4行目にかけてを参照)を過大に徴収したと主張して,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,①昭和46年度分から平成13年度分までの固定資産税等の過納金相当額及びこれらに対する固定資産税等の各年度第4期納期限の翌日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金,②既に過納金の返還がなされた平成14年度分から平成17年度分までについてはその過納金相当額に対する固定資産税等の第4期納期限の翌日から支払済みまで年0.9%(民法所定の利率と実際の還付加算金利率の差額)の割合による金員の支払を求めた事案である。

原審は,本件各課税処分(同11頁1行目を参照)が適法に取り消されない限り,本件各課税処分の違法を理由として過納金相当額を損害とする国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は許されない等として,控訴人らの請求をいずれも棄却した。控訴人らはこれを不服として控訴した。

2  前提事実等,争点及び争点に関する当事者の主張は,以下のとおり当審における補充的主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2「事案の概要」1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  控訴人らの補充的主張

ア 争点(1)(課税処分固有の不服申立手続を経ずに,課税処分の違法を理由とする国家賠償を請求することが許されるか)について

原判決は,固定資産の価格決定又はこれを前提とする固定資産税等の課税処分の違法が,これらの処分を当然無効ならしめるものではない場合には,当該処分が適法に取り消されない限り,同処分の違法を理由とし,過納金相当額を損害とする国家賠償法に基づく損害賠償請求が許されないと判示するが,処分取消判決の効果や国家賠償法の趣旨等を誤って理解しており,法令上も最高裁判例上も何ら制限の付されていない国家賠償請求の要件を不当に制限するもので,上記判示部分は失当である。

イ 争点(2)(本件各課税処分に国家賠償法上の違法性,過失があるか)について

原判決は,冷凍倉庫の具体的な定義すら示さず,マイナス30度の倉庫を一般倉庫と認定しても不合理ではないとしているが,これは租税法律主義・課税要件明確主義に反する。また,原判決は,いかなる事実関係であれば裁量の範囲を超えるかという基準も示しておらず,行政庁の裁量を無制限に認めているに等しい。

本件各課税処分には,被控訴人担当者において,本件各倉庫につき,一般倉庫と認定し,本件基準表(原判決7頁17行目参照)7(2)の経年減点補正率を適用せずに同表7(1)のそれによって評価し,過大な課税徴収が行われた点で違法がある。

本件基準表7(2)の「冷凍倉庫用のもの」は,具体的に例示されているのであり,用語として多義的であるとか類似概念があるということもないから,課税要件明確主義に照らし,文理解釈すべきである。なお,法人税に係る減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年3月31日大蔵省令第15号。以下「耐用年数省令」という。)についての昭和40年の国税庁長官通達は,「冷凍倉庫とは,魚肉類,獣肉類,アイスクリーム類等を凍結状態で蔵置するための冷凍装置を有する等常時倉庫の内部を冷凍状態に保持するような構造になっている倉庫をいう」としている(甲17)ところ,これは冷凍して保存すべき物を保管する倉庫という通常一般人の理解と異ならない。

ウ 争点(3)(本件各課税処分に国家賠償法上の過失があるか)について

原判決は,図面に冷凍に関する記載があったからといって,その記載通りに使用されていなければ経年損耗が激しいとはいえないというが,そうであるならば,なおさら実際の使用状況を調査する必要性が高いはずであるところ,内部に立ち入って実際の保管温度を調査する必要はないとしており,著しく均衡を失する。

被控訴人担当者は,租税要件明確主義の要請に反して文理解釈を行わず,また,昭和40年には国税庁長官通達(甲17)が発出されているにもかかわらず,本件基準表7(2)の解釈を誤って本件各倉庫の価格を評価しており,過失がある。

(2)  被控訴人の補充的主張

ア 争点(1)(課税処分固有の不服申立手続を経ずに,課税処分の違法を理由とする国家賠償を請求することが許されるか)について

課税庁と納税者との間の金銭授受を不可欠な要素とする本件各課税処分にあっては,行政処分の効力を排除せんとする目的はその違法性確認に留まらず,その違法を原因とする不当利得の確認及び金員の返還という効果を含むものであるところ,無効であると司法が確認して金員の返還を命ずるならともかく,損害賠償との名目であれ,本件各課税処分を地方税法上有効としたままで金員の返還を司法が行政に命ずる法的根拠をどのように説明するか不明である。したがって,本件各課税処分に無効原因があるか否かについて検討するのが適正な判断のあり方である。

イ 争点(2)(本件各課税処分に国家賠償法上の違法性があるか)について

控訴人らは,「冷凍倉庫用のもの」の解釈につき,耐用年数省令についての昭和40年の国税庁長官通達を援用する。しかしながら,減価償却は資産の種類に応じた費用配分に重点を置くものであり,通常の維持管理を行うとした場合においてその年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎として定められた経年減点補正率〔評価基準(原判決6頁20行目から同頁21行目にかけてを参照)第2章第3節五1(乙6)〕とは趣旨が異なる。また,国税上は残存価額を1円まで償却することが可能であるが,経年減点補正率基準表における最終残存率は20%であるとか,国税上は耐用年数につき,冷蔵倉庫用のもの(倉庫事業の倉庫用のものを除く。)が20年,倉庫事業用の冷蔵倉庫用のものが19年,その他のものが31年とされているのに対し,本件基準表では,鉄骨造(骨格材の肉厚が4mmを超えるもの)の倉庫用家屋の経過年数につき,一般用のもの(本件基準表7(1))が35年,冷凍倉庫用のもの(本件基準表7(2))が22年とされているなど,区分方法も耐用年数も異なる。また,地方公共団体である被控訴人担当者が,趣旨・目的の異なる国税に関する国税庁の通達に従うことはできないし,その必要もない。

「冷凍倉庫」の定義に係る倉庫法上の明確な規定や基準はなく,また,当該倉庫の性能上の「保管温度」が何度であるかによって「損耗が激しい」と判断できる建築構造等の法令上ないし法令外の明確な基準もなかったので,結局,「冷凍倉庫用のもの」であるか否かを判断する一義的基準は存しないから,被控訴人担当者の合理的な解釈・運用を許容し,前提としていると考えざるを得ない。

ウ 争点(3)(本件各課税処分に国家賠償法上の過失があるか)について

「冷凍倉庫用のもの」の解釈適用基準を明確にしてこなかったのは,冷凍倉庫が一般倉庫と比較して数量的に例外的な倉庫であったことや倉庫業者からの不服申立てや相談等がされてこなかったため,これに係る適用基準について詳細な検討がされてこなかったという事情がある。また,他市町村あるいは総務省等においても明確な基準や解釈通達等はなかった。そうすると,この点につき国家賠償法上の過失があったとすることはできない。

第3当裁判所の判断

当裁判所は,原判決と異なり,控訴人らの本件請求のうち,昭和61年度以降の分については理由があり,その余は理由がないと判断する。その理由は,次のとおりである。

1  課税処分固有の不服申立手続を経ずに,課税処分の違法を理由とする国家賠償を請求することが許されるか(争点(1))

(1)  行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては,あらかじめ当該行政処分につき取消判決を得なければならないものではない(最高裁判所昭和35年(オ)第248号,同36年4月21日第二小法廷判決・民集15巻4号850頁参照)。取消訴訟は,行政処分の効力の否定を目的としているのに対し,国家賠償訴訟は,民法上の不法行為責任制度の特則として違法な国・公共団体の活動により生じた損害の賠償を目的としているのであって,行政処分の法的効果を直接否定するものではない。このように,両制度は,その目的,効果(処分の遡及的取消しに対し,事後的金銭による補填),期間制限等を異にしているから,両立し得るのであって,原則として,行政処分の取消しが国家賠償のための要件となるものではなく,このことは課税処分においても異なるところはないというべきである。ただし,上記最高裁判所判例の事例のように自作農創設特別措置法に基づく買収計画の違法と国家賠償というように必ずしも行政処分の違法と損害が表裏の関係にない場合には,上記の原則がそのまま適用されることになるが,課税処分の違法と国家賠償という場合には,後者の損害が前者の取消しの結果生じる不当利得金と同一となることもあるから,そのような表裏の関係にあるような場合において,課税処分が例えば出訴期間を過ぎたために取り消すことのできなくなったときに,取消しの結果得られる不当利得金と同額の賠償請求金の支払を認容することは,制度趣旨に反することにもなりかねないという結果が生ずることもあり,その場合には,侵害行為の態様及びその原因,あるいは,当該課税処分発動に対する被害者側の関与の有無・程度等に照らし,権利の濫用等の法理によって,国家賠償請求が許されないとされる場合もありうるとすることで均衡が保たれるように解すべきである。

(2)  被控訴人は,登録価格(原判決5頁22行目から同頁23行目にかけてを参照)については,固定資産評価審査委員会に対する審査の申出及び審査申出に対する決定の取消しの訴えのみによって争うことができると規定されている旨主張する。

しかしながら,評価基準による固定資産の価格の決定,当該価格の固定資産課税台帳への登録,これに基づく固定資産税等の賦課徴収は,いずれも被控訴人担当者により行われる固定資産税等の課税処分のための一連の手続であるが,価格登録後はそれまでの過誤が一切免責されるというのは相当でなく,地方税法の諸規定は,目的,要件及び効果を異にする国家賠償訴訟を排除する取扱いとなるものではなく,国家賠償請求の全面的な排除には合理的根拠は見い出し難い。

(3)  また,被控訴人は,控訴人らが地方税法上の救済手続を利用しなかった以上,国家賠償訴訟を提起することは許されない旨主張し,最高裁判所昭和52年(オ)第1155号,同57年2月23日第三小法廷判決・民集36巻2号154頁を援用する。

しかしながら,被控訴人指摘の上記判決は,不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分が利害関係人間の実体的権利関係に適合しない場合に手続内の救済を求めることを怠った事案に関するものであって,本件とは事案を異にする。したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。

(4)  更に,被控訴人は,課税処分の違法を理由とする国家賠償を認めることは,当該課税処分を取り消すことなく過納金の返還請求を認めたのと同一の効果が生じることになり,不服申立期間の制限等により課税処分を早期に確定させて徴税行政の安定とその円滑な運営を確保しようとした法の趣旨が没却される結果を招来するなどと主張する。

しかしながら,過誤納金の還付等の制度は,民法上の不当利得返還制度の特則としての意義を有すると解されるところ,国家賠償法制度とは,趣旨や目的,要件及び効果を異にする別個の制度であるというべきであり,また,一般の行政処分の場合にはその違法を理由とする国家賠償訴訟は取消訴訟を経ることなく提起することが原則として許されているのであり,課税処分の効果と損害の内容が実質的に同一であるからといって,課税処分にだけ国家賠償がおよそ排除されるとするのは適当ではなく,課税処分が違法である場合には,その取消判決がないことの一事をもって,当該納税者に損害を甘受させる合理的な理由は見出し難い。

(5)  以上の次第で,地方税法所定の救済手続を経ることなく,本件各課税処分の違法を理由とする国家賠償請求をすることは,原則として許されるというべきである。

2  本件各課税処分に国家賠償法上の違法性,過失があるか(争点(2),(3))

(1)ア  控訴人らは,本件各課税処分には,被控訴人担当者において,本件各倉庫につき,一般倉庫と認定し,本件基準表7(2)の経年減点補正率を適用せずに同表7(1)のそれによって評価し,これにより過大な課税徴収が行われた点で違法がある旨主張するので,以下,同表7(2)の「冷凍倉庫用のもの」の意義及び本件各倉庫がこれに該当するか否かについて,検討する。

イ(ア)  租税規定の解釈は,課税要件明確主義(憲法84条参照)及び法的安定性の要請から,規定文言の意味が容易に理解されるはずであり,もとより規定の趣旨目的も踏まえて文理解釈によるべきは当然であって,みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されない。

(イ)  これを本件についてみるに,評価基準は,家屋の評価は木造家屋,非木造家屋の区分に従い,各個の家屋について評点数を付設し,当該評点数に評点一点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める方法によるものとし(評価基準第2章第1節通則「一 家屋の評価」),非木造家屋の評点数は,当該非木造家屋の再建築費評点数を基礎として,これに損耗の状況による減点補正率を乗じて付設するものとし(評価基準第2章第3節「一 評点数の算出方法」),経過年数に応ずる減点補正率(経年減点補正率)は,通常の維持管理を行うものとした場合において,その年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎として定めたものであって,非木造家屋の構造区分に従い,「非木造家屋経年減点補正率基準表」(本件基準表)に示されている当該非木造家屋の経年減点補正率によって求めるものとされる(評価基準第2章第3節「五 損耗の状況による減点補正率の算出方法」)。そして,工場,倉庫,発電所,変電所,停車場及び車庫用建物について定める本件基準表7は,(1)で,「一般用のもの((2),(3)以外のもの)」とした上,(2)において,「塩素,塩酸,硫酸,硝酸その他の著しい腐食性を有する液体又は気体の影響を直接全面的に受けるもの」,「冷凍倉庫用のもの」,「及び放射性同位元素の放射線を直接受けるもの」としている(原判決6頁17行目から7頁末尾参照)。

上記のような記載内容,とりわけ後者(同表7(2))の三者が並列的に記載されていることに照らすと,このうち2番目の「冷凍倉庫用のもの」が,その文理解釈として,内部の物を冷凍・保存できる機能を有する倉庫として通常の維持管理がされているものを指していることは明らかであり,被控訴人が主張するように「冷凍倉庫用のもの,ただし,著しい腐食性を有する液体又は気体の影響を直接全面的に受けるようなものと同等なものに限る」というように読み込むことは困難であるといわなければならない。

(ウ)  これに対し,被控訴人は,評価基準自体には本件基準表記載の用途の定義規定はなく,また,倉庫業法等の他の法令にも「冷蔵倉庫」の定義規定は存在するものの「冷凍倉庫」の定義規定は存在せずいわゆる借用概念もなかった旨主張する。しかしながら,定義規定や借用概念が存在しないことをもって,直ちに上記「冷凍倉庫用のもの」との文言が一義的に定義付けられないというわけにはいかない。むしろ,定義規定を設けるまでもないほど,「冷凍倉庫」の概念は一般人にとって自明であるから,定義規定がないのであって,被控訴人の上記主張は採用できない。

また,被控訴人は,本件基準表7(2)が定められた趣旨に照らし,損耗減点補正率基準表(原判決25頁26行目)に示されるような具体的な損耗が見込まれるかどうかの観点をその文言の解釈・適用の基準とすべきであるなどと主張する。しかしながら,既に述べたとおり,本件基準表7(2)の上記記載に照らせば文理解釈によって規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合であるとはいえず,課税要件明確主義の観点からも被控訴人の上記主張は採用することができない。

仮にそのような要件をもってしては,「一般用のもの」とされるべきものまでが本件基準表7(2)に該当するとして不当に税が軽減される結果になるというのであれば,「冷凍倉庫用のもの」という文言の改正方を実現するように努力すべきである。そのような状況になってはおらず,かつ,平成14年度分から同17年度分については本件各倉庫が「冷凍倉庫用のもの」に該当するとして本件基準表7(2)を適用した場合との差額の過納金を控訴人らに返還している以上,平成13年度分以前について「冷凍倉庫用のもの」に該当しないということはできないといわなければならない。ちなみに,被控訴人においては,平成18年9月15日付をもって,評価基準の該当部分の運用方針を定めた「家屋評価事務取扱要領」を改正し,「冷凍倉庫用のものとは,当該家屋の主たる部分が,倉庫業法(昭和31年法律第121号)施行規則第3条の11にいう冷蔵倉庫のうち,倉庫業法第3条の登録基準等に関する告示(平成14年国土交通省告示第43号)第19条第2項第1号に規定するt2の値を定める表におけるF1級~F4級(保管温度がマイナス20度以下)の冷蔵室であるもの,及び,これと同等の冷蔵室の保管温度を保てる倉庫に該当し,かつ,常時その用に供されているものをいう。なお,冷蔵室自体がパッケージングされた機械装置である場合には,これに該当しない。」としたが(乙12),本件各倉庫は,これによっても冷凍倉庫用のものに該当するとして課税処理されていることからも,前記判断が裏付けられるというべきである。

ウ  原判決11頁15行目から同頁23行目までの事実(前提事実等)及び上記イ(ウ)末段の事実に,証拠(甲5の1ないし5の6,12,乙10,12)並びに弁論の全趣旨を総合すると,本件各倉庫は,原判決添付別紙物件目録記載の各建築年以降冷凍食品,アイスクリーム等を保管する冷凍倉庫(保管温度がマイナス20度以下であるから,内部の物を冷凍・保存できる機能を有する倉庫であることは明らかである。)として維持管理されてきたことが認められ,これに反する証拠は存しない。

そうすると,本件各倉庫は,本件基準表7(2)の「冷凍倉庫用のもの」に該当するというべきで,被控訴人担当者が,その経年減点補正率を適用せず,同表7(1)のそれを適用して過大に価格を評価し,これに基づき過大な課税徴収が行われた点で,本件各課税処分には誤りがあるといわなければならない。

しかも,その誤りは,本件基準表7(2)の定める「冷凍倉庫用のもの」についての自明の解釈を誤り,控訴人らの冷凍倉庫をこれに該当しないとした重大明白なものであって,本件各課税処分には無効事由に該当する瑕疵があるというべきである。被控訴人は,無効事由となるべき瑕疵はない旨を主張するところ,その主たる論拠は,課税行政庁に一義的な判断基準がなかったというものであるが,課税行政庁側の内部的な事情があったことを物語るにすぎず,このことを納税者の負担に転嫁させる合理的な理由はない。なお,上記の誤りは,課税客体を誤ったというようなものではなく,経年減点補正率の適用要件のあてはめを誤ったというものではあるが,明白な誤りであり,かつ,納税額の違いをもたらす以上,看過できないものというべきである。

(2)ア  次に,上記のとおりの誤った本件各課税処分がされたことにつき,被控訴人に賠償責任を認めるためには,被控訴人担当者において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったと認め得るような事情があるかどうか(このことにつき,最高裁判所平成元年(オ)第930号,第1093号,同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)を検討する。

イ  地方税法が固定資産評価員等において実地調査,納税者に対する質問等の調査を行うことにより公正な評価をするよう努めなければならないなどと定めていること(地方税法403条2項,408条),本件基準表では7(1)と同(2)において一般用の倉庫と冷凍倉庫とで異なる経年減点補正率を定めていることに照らすと,被控訴人担当者において,実地調査,納税者に対する質問や納税者から提出された書類等を確認・閲覧するなど,税務担当者として通常要求される程度の注意を払って,当該建物が冷凍倉庫として使用されているか一般用の倉庫として使用されているのかを識別するに足りる程度の調査を行うべき注意義務があるというべきである。

本件では,本件各倉庫の構造,用途,使用状況等は,被控訴人担当者において,実地調査や控訴人らへの質問,更に,控訴人らが被控訴人に提出した建築確認概要書や登記関係書類等を閲覧・確認等することにより,さほど困難を伴うことなく把握し得るものであり,また,本件全証拠によっても,控訴人らにおいて被控訴人担当者による調査等に協力しなかったというような事情も窺えないことに照らすと,被控訴人担当者が,上記のような調査等を怠り,その後も漫然と本件基準表7(1)の倉庫として評価していたことは,税務担当者として職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていなかったものといわざるを得ない。

ウ  被控訴人は,課税物件調査の状況として,多数の物件を抱えていること,また,被控訴人担当者は基本的には任意で調査を行っており,他方,納税者において行政庁の現況調査を忌避する傾向にあるなどと主張する。しかしながら,被控訴人担当者数の実情(乙15)を充分考慮しても,新増築家屋の調査時において上記調査義務を懈怠したままその後も漫然と本件基準表の適用を誤っていた場合においてまで,被控訴人のいうような事情をもって被控訴人担当者に職務懈怠がなかったとして,納税者である控訴人らに損害を受忍させるのは相当ではない。

したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。

(3)  以上のとおり,被控訴人担当者は,税務担当者として通常要求される程度の注意義務を怠って,本件各冷凍倉庫につき,本件基準表7(2)の経年減点補正率を適用することなく,同表7(1)のそれを適用して過大に価格を評価し,これに基づき過大な課税徴収がされたというのであるから,本件各課税処分には国家賠償法上の違法性があり,また,被控訴人担当者には過失があるというべきである。そして,本件各課税処分については,地方税法上の不服申立手続及び行政処分取消訴訟が提起されているわけではないが,証拠(甲12,乙15)によると,控訴人らは,平成18年春ころ,本件各倉庫につき,法人税における企業会計基準に基づく固定資産評価と固定資産課税明細書における評価額の食い違いに疑問が持ったことから,被控訴人担当者に償却年数を尋ね,これをきっかけに,控訴人らが所有する倉庫の中でも同様の構造や利用形態であるにもかかわらず本件基準表7(2)の経年減点補正率が適用されているものと適用されていないものがあることが判明したため,本件訴訟を提起するに至ったことが認められるところ,このような経緯等に照らしても上記手続を経ずに控訴人らが国家賠償を請求することが権利濫用に当たるとはいえず,本件において,他に権利濫用として許されないというような特別な事情や過失相殺をすべきような事情は窺われない。

3  損害の内容について(争点(4))

(1)  本件各倉庫につき本件基準表7(2)を適用して税額を計算すると,原判決添付別表1,2の控訴人ら各所有倉庫の税額試算中の「年度ごとの対象家屋の合計税額」(原判決52頁,61頁)の「試算税額」欄記載のとおりとなり,実際の課税額との差額が,同「差額」欄記載のとおりであることについては,当事者間に争いがない。

(2)  被控訴人は,控訴人らにおいて,実際に賦課された固定資産税等額を法人税の確定申告において損金処理としていると考えられるところ,それによって免れた法人税については確定的に利得しているから,損益相殺すべきである旨主張する。

しかしながら,被控訴人の主張によっても,控訴人らが免れた法人税の有無や額は詳らかではないので,被控訴人の上記主張は採用することができない。

4  消滅時効について(争点(5))

(1)  被控訴人は,本件損害賠償債権についても,地方税法17条の5第3項を類推ないし準用すべきである旨主張する。

しかしながら,国家賠償法4条は,同法に基づく損害賠償責任については,同法1条ないし3条の規定によるほかは民法の規定による旨定めているのであるから,権利行使の期間制限についても民法724条を適用すべきである。

したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。

(2)  控訴人らは,平成18年9月12日に本件訴訟を提起しているから(顕著な事実),本件各課税処分のうち昭和60年度分以前にかかるものについては,20年の除斥期間の経過により消滅している。

(3)  そうすると,被控訴人は,控訴人Aに対し,昭和61年度分以降平成13年度分までの過納金相当額合計2048万8300円及びこれに対する不法行為後の日である各年度第4期納期限の翌日から(以下,遅延損害金の起算日につき同じ。)支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金並びに被控訴人において是正措置を講じた平成14年度分から平成17年度分までの過納金相当額に対する上記起算日から支払済み(過納金が還付された日)まで上記5%と還付加算利率との差額である年0.9%の割合による遅延損害金,控訴人Bに対し,昭和61年度以降平成13年度分までの過納金相当額686万2000円及びこれに対する上記起算日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金並びに平成14年度分から平成17年度分までの過納金相当額に対する上記起算日から支払済み(過納金が還付された日)まで年0.9%の割合による遅延損害金について,賠償する義務がある。

第4結論

以上によれば,控訴人らの本件請求は,昭和61年度分以降の限度で理由があるからこの限度で認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 夏目明德 裁判官 光吉恵子)

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