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名古屋高等裁判所 平成21年(ネ)1069号 判決 2010年3月25日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  控訴人は、被控訴人に対し、219万5139円及び内52万5611円に対する平成14年5月18日から、内金166万9528円に対する平成21年2月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  被控訴人のその余の請求を棄却する。

(4)  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨

第2  事案の概要

1  被控訴人は、①平成元年3月8日、タイヘイ株式会社(以下「タイヘイ」という。)との間で、金銭消費貸借の基本契約を締結し、以後金員を借り入れあるいは弁済する取引を継続してきたところ、控訴人が、平成14年1月29日、タイヘイとの間で資産譲渡契約を締結し上記取引にかかる債権を承継したため、控訴人との間で、平成14年5月17日まで取引を継続し、また、②平成4年9月8日、控訴人との間で、金銭消費貸借の基本契約を締結し、平成21年2月7日まで金員を借り入れあるいは弁済する取引を継続してきた。

本件は、被控訴人が、上記①及び②の取引について、利息制限法所定の制限利率を超えて支払った部分を元本充当することにより過払金が生じており、かつ、控訴人が過払金の発生について民法704条の「悪意の受益者」に当たると主張して、不当利得に基づき、360万8387円(①の過払元金160万6150円及び平成14年5月17日(最終取引日)までの過払利息1万8328円、②の過払元金197万5681円及び平成21年2月7日(最終取引日)までの過払利息8228円)及び内160万6150円に対する平成14年5月18日から、内197万5681円に対する平成21年2月8日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による法定利息の支払を求めた事案である。

原判決は、被控訴人の請求を認容した。

そこで、控訴人が控訴した。なお、控訴人は、不服申立ての範囲を、前記第1・1(2)のとおり限定した。

2  争いのない事実等及び争点は、以下のとおり原判決を付加訂正するほか、原判決「第2 事案の概要」欄の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。

3  原判決の付加訂正

(1)  原判決4頁4行目末尾を改行のうえ、次のとおり付加する。

「 以上を前提に、本件取引2について、被控訴人が支払った金員のうち利息制限法所定の制限利率を超える部分を元本充当して過払金を計算すると、別紙「別紙計算書2(本件取引2)」のとおり、最終取引日である平成21年2月7日時点で過払金は、166万9528円になる。」

(2)  原判決5頁21行目末尾を改行のうえ、次のとおり付加する。

「 なお、本件資産譲渡契約には、「買主は、超過利息の支払の返還請求のうち、クロージング日以後初めて書面により買主に対して、または買主及び売主に対して主張されたものについては、自らの単独の絶対的な裁量により、自ら費用及び経費を負担して、これを防禦、解決又は履行する。買主は、かかる請求に関して売主からの補償又は負担を請求しない。」(9.6(b))との条項が存する。しかし、この条項は、控訴人がタイヘイの過払金返還債務を承継しないことを前提に、控訴人としては、過払金返還債務はタイヘイの債務であるとして防禦することもできるし、訴訟費用等を考慮したうえで、タイヘイの債務ではあるものの自ら第三者弁済することによって解決することもできるが、控訴人が第三者弁済した金員を何の制限もなくタイヘイに求償できるとすると、控訴人が必要な主張立証をせずに安易に第三者弁済することによって、タイヘイの負担が過大となるおそれがあったために、控訴人の行動を制限すべく設けられたに過ぎない。

本件資産譲渡契約が単なる債権譲渡に過ぎず、債務承継を前提としていないことは、その対価として、債権元本全額にプレミアムを乗せた多額の金員が、譲渡人であるタイヘイに支払われている(本件資産譲渡契約2.1)ことからも明らかである。

被控訴人は、本件資産譲渡契約が契約上の地位の移転である旨主張するが、契約上の地位が移転するためには、債権者である被控訴人の承諾が必要であるところ、そのような承諾はない。

仮に本件資産譲渡契約が実質的な営業譲渡であると評価されるとしても、債務引受をしていない控訴人が、譲渡人の営業によって既に発生した債務について弁済責任を負うのは、譲渡人の商号を継続使用した場合とその債務を引き受ける旨を広告した場合に限られるところ、そのような事実は存在しない。

以上を前提に、本件取引1について、被控訴人が、控訴人に、支払った金員は、最終取引日である平成14年5月17日までに、別紙「別紙計算書1(本件取引1)」のとおり、52万5611円である。」

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所も、被控訴人の請求は、理由があるから認容すべきものと判断するものであるが、その理由は、以下のとおり原判決を付加訂正するほか、原判決「第3 争点に対する判断」欄の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。

2  原判決の付加訂正

原判決8頁5行目末尾を改行のうえ、次のとおり付加する。

「 控訴人は、本件資産譲渡契約の第9.6条(b)について、控訴人としては、過払金返還債務はタイヘイの債務であるとして防禦することもできるし、訴訟費用等を考慮したうえで、タイヘイの債務ではあるものの自ら第三者弁済することによって解決することもできることを前提に、控訴人のタイヘイに対する求償を制限するために設けられた旨主張する。

しかし、同条は、控訴人が、クロージング日以後初めて書面により控訴人に対して、または控訴人及びタイヘイに対して主張された過払金返還請求について、自ら費用及び経費を負担して、防禦、解決又は履行すると規定しているのであり、「クロージング日後初めて書面により売主(タイヘイ)に対して主張され、買主(控訴人)に対しては主張されていないもの」(第9.6条(a))について、タイヘイが、自ら費用及び経費を負担して、防禦、解決又は履行すると規定されていることと対比すれば、控訴人とタイヘイとの間の、過払金返還債務の負担を定めた趣旨とみるほかない。

また、控訴人は、契約上の地位を移転するためには、債権者である被控訴人の承諾が必要であるが、本件で、そのような承諾はない旨主張する。

しかし、上記認定のとおり、本件資産譲渡契約第9.6条(a)によれば、タイヘイも、過払金返還債務を免れるものではないから、控訴人は、重畳的に債務を引き受けるものとみるべく、被控訴人の承諾は、必要としない(被控訴人の受益の意思表示は必要であるが、本訴が、これに当たるとみることができる。)。

さらに、控訴人は、本件資産譲渡契約が単なる債権譲渡に過ぎず、債務承継を前提としていないことは、その対価として、債権元本全額にプレミアムを乗せた多額の金員が、譲渡人であるタイヘイに支払われている(本件資産譲渡契約2.1)ことからも明らかである旨主張する。

この点、控訴人が本件資産譲渡契約において承継を前提としていないと主張する債務の主要なものは、過払金返還債務であるところ、全国的に過払金返還請求訴訟が急増するようになったのは、平成18年ころ以降であり(顕著な事実)、それに伴い、消費者金融業者の間に、過払金返還請求のリスクに対する警戒感が急速に高まったとみられるから、そのころ以降において、消費者金融業にかかる資産譲渡の際に、過払金返還請求のリスクを強く意識して低い対価の決定がなされることは、十分に理解し得るところである。

しかしながら、本件資産譲渡契約が締結されたのは、平成14年1月29日であり(争いのない事実等)、上記の過払金返還請求訴訟が急増するようになる5年近く前のことである。したがって、本件資産譲渡契約締結当時、その対価の決定に当たり、過払金返還請求のリスクがそれほど対価に反映されていなかったとしても、不自然とはいえない。そうすると、控訴人の主張は、前提を欠き、採用することができない。」

第4  よって、原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高田健一 裁判官 尾立美子 堀禎男)

(別紙)計算書1、2<省略>

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