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名古屋高等裁判所 平成21年(ネ)22号 判決 2009年7月09日

主文

1  控訴人X1の控訴及び本件附帯控訴に基づき、原判決中、控訴人X1の請求に関する部分を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は、控訴人X1に対し、1億1888万0615円及びうち4465万2618円に対する平成21年4月16日から、うち7118万4113円に対する平成18年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人X1のその余の請求を棄却する。

2  控訴人X1が当審において追加した請求を棄却する。

3  控訴人X2及び同X3の控訴及び本件附帯控訴に基づき、原判決中、控訴人X2及び同X3の請求に関する部分を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は、控訴人X2及び同X3に対し、それぞれ、205万円及びこれに対する平成18年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人X2及び同X3のその余の請求をいずれも棄却する。

4  控訴人X4の控訴及び本件附帯控訴に基づき、原判決中、控訴人X4の請求に関する部分を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は、控訴人X4に対し、105万円及びこれに対する平成18年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人X4のその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを3分し、その2を被控訴人の負担とし、その余を控訴人らの負担とする。

6  この判決の第1項、第3項及び第4項の各(1)並びに第5項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1申立て

1  控訴の趣旨(下記(2)ないし(5)につき、原審における請求を拡張した。)

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  被控訴人は、控訴人X1に対し、1億7607万2668円及びこれに対する平成19年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  被控訴人は、控訴人X1に対し、9万5833円を支払え。

(4)  被控訴人は、控訴人X1に対し、309万3809円を支払え。

(5)  被控訴人は、控訴人X1に対し、1億7607万2668円に対する平成19年4月10日から支払済みまで年1分の割合による金員を支払え。

(6)  被控訴人は、控訴人X2に対し、440万円及びこれに対する平成17年8月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(7)  被控訴人は、控訴人X3に対し、440万円及びこれに対する平成17年8月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(8)  被控訴人は、控訴人X4に対し、440万円及びこれに対する平成17年8月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(9)  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

(10)  上記(2)ないし(9)につき仮執行宣言

2  附帯控訴の趣旨

(1)  原判決中、被控訴人敗訴部分を取り消し、当該取消しに係る控訴人らの請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は、第1、2審とも控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、A(以下「A」という。)の運転する普通乗用自動車(以下「被控訴人車」という。)が、控訴人X1(以下「控訴人X1」という。)の運転する普通乗用自動車(以下「控訴人車」という。)に衝突し、これにより控訴人X1が四肢麻痺等の後遺障害を負った交通事故(以下「本件事故」という。)に関し、次の(1)、(2)のとおり、控訴人らが被控訴人に対し、控訴人X1と被控訴人との間で締結された家庭用総合自動車保険契約(無保険車傷害保険が組み込まれたもの)に基づき、保険金と商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

(1)  控訴人X1は、次の(ア)ないし(オ)の金員の支払を求めている(当審において損害額59万3700円を追加したことによる拡張後の請求)。

(ア) 保険金残額1億7607万2668円

保険金元金(控訴人X1の損害額)1億9290万6902円から内払金311万8612円を控除した残元金1億8978万8290円から、さらに、自賠責保険金4000万円のうち1371万5622円を控除した残額

(なお、控訴人X1は、上記自賠責保険金4000万円のうち、その余の2628万4378円については、1億8978万8290円に対する不法行為の結果発生後である平成16年7月3日から平成17年8月22日までの民法所定年5分の割合による遅延損害金及び弁済期の翌日である同月23日から平成19年4月9日までの年5分(商事法定利率年6分の一部)の割合による遅延損害金に充当したと主張している。)

(イ) 確定遅延損害金9万5833円

保険金残金1億7607万2668円(上記(ア))に対する弁済期経過後である平成19年4月10日から同年9月20日までの年5分(商事法定利率年6分の一部)の割合による遅延損害金395万5605円の残額

(ウ) 保険金残額1億7607万2668円(上記(ア))に対する弁済期経過後である平成19年9月21日から支払済みまでの年5分(商事法定利率年6分の一部)の割合による遅延損害金

(エ) 確定遅延損害金309万3809円

保険金残金1億8978万8290円に対する弁済期の翌日である平成17年8月23日から平成19年4月9日までの年1分(商事法定利率年6分の一部)の割合による遅延損害金

(オ) 保険金残額1億7607万2668円(上記(ア))に対する弁済期経過後である平成19年4月10日から支払済みまでの年1分(商事法定利率年6分の一部)の割合による遅延損害金

(2)  控訴人X2(以下「控訴人X2」という。)、控訴人X3(以下「控訴人X3」という。)及び控訴人X4(以下「控訴人X4」という。)は、それぞれ、被控訴人に対し、保険金440万円及びこれに対する弁済期の翌日である平成17年8月23日から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めている。

(3)  なお、上記(1)の拡張をする前(原審段階)の控訴人X1の請求は、次のとおりである。

(ア) 保険金残額1億7538万3856円

保険金元金(控訴人X1の損害額)1億9231万3202円から内払金311万8612円を控除した残元金1億8919万4590円から、さらに、自賠責保険金4000万円のうち1381万0734円を控除した残額

(なお、控訴人X1は、上記自賠責保険金4000万円のうち、その余の2628万4378円については、1億8919万4590円に対する不法行為の結果発生後である平成16年7月3日から平成17年8月22日までの民法所定年5分の割合による遅延損害金及び弁済期の翌日である同月23日から平成19年4月9日までの年5分(商事法定利率年6分の一部)の割合による遅延損害金に充当したと主張している。)

(イ) 確定遅延損害金187万5180円

ただし、保険金残金1億7538万3856円(上記(ア))に対する弁済期経過後である平成19年4月10日から同年9月20日までの年5分(商事法定利率年6分の一部)の割合による遅延損害金の残額

(ウ) 保険金残額1億7538万3856円(上記(ア))に対する弁済期経過後である平成19年9月21日から支払済みまでの年5分(商事法定利率年6分の一部)の割合による遅延損害金

(エ) 確定遅延損害金308万4130円

保険金残金1億8919万4590円に対する弁済期の翌日である平成17年8月23日から平成19年4月9日までの年1分(商事法定利率年6分の一部)の割合による遅延損害金

(オ) 保険金残額1億7538万3856円(上記(ア))に対する弁済期経過後である平成19年4月10日から支払済みまでの年1分(商事法定利率年6分の一部)の割合による遅延損害金

(4)  原審は、①控訴人X1の請求の一部(1億2951万2815円及びうち1億1077万2378円に対する平成20年8月16日から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)、②控訴人X2の請求の一部(200万円及びこれに対する平成18年3月21日から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)、③控訴人X3の請求の一部(上記②の控訴人X2の認容額と同じ)、④控訴人X4の請求の一部(100万円及びこれに対する平成18年3月21日から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)をそれぞれ認容し、その余をいずれも棄却した。

そこで、控訴人らは、敗訴部分につき控訴をするとともに、上記(1)のとおり、当審において、請求を拡張し、また、被控訴人は、敗訴部分につき附帯控訴をした。

2  前提事実

原判決書3頁9行目の「証拠」を「証拠等」と、同頁20行目の「<省略>)」を「<省略>)。なお、上記自動車は、本件の家庭用総合自動車保険契約に係る保険約款(乙4)中の無保険車傷害条項の第4条にいう無保険自動車に当たる(弁論の全趣旨)。」と、同6頁20行目の「原告X1は」から同頁24行目の末尾までを「控訴人X1は、当審の口頭弁論終結時までに、別紙「計算表」の「受領年月日」欄記載の日に、当該の「受領額」欄記載の金額の障害基礎年金をそれぞれ受け取った(争いのない事実、乙3、5、弁論の全趣旨)。」と、それぞれ改めるほか、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1」記載のとおりであるから、これを引用する。

3  争点及びこれに関する当事者の主張

原判決書13頁7行目の「請求をしていたといえる」の次に、「(保険会社において、加害車両が無保険車であり、かつ、加害者に損害を賠償する意思、能力がないことを認識していたときは、無保険車傷害保険に係る保険金請求があったものというべきである。)」を加え、次のとおり当事者が当審において追加した主張を付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「2」及び「第3 争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。

(当事者が当審において追加した主張)

(1) 控訴人らの主張

ア 弁護士費用等

控訴人らは、原判決の言渡後に、控訴人ら訴訟代理人弁護士に対し、本件事故の加害者であるAに対する損害賠償請求訴訟の提起、遂行を委任し、控訴人X1は、その訴訟提起手数料58万7000円、郵便切手等6700円の合計59万3700円を負担した。上記弁護士費用、訴訟提起手数料及び郵便切手等は、本件事故と相当因果関係のある損害であるから、本件保険約款第4章(無保険車傷害条項)9条にいう賠償義務者が法律上負担すべき損害賠償責任の額に含まれる。

イ 被控訴人の後記(2)ア(損益相殺)の主張事実は認める。

(2) 被控訴人の主張

ア 損益相殺

控訴人X1は、原審口頭弁論終結後の平成20年10月15日、同年12月15日、平成21年2月15日、同年4月15日にそれぞれ障害基礎年金各20万3000円(合計81万2000円)を受領した。

イ 控訴人らの前記(1)ア(弁護士費用等)に対する反論

控訴人ら訴訟代理人弁護士は、本件訴訟の提起前に、被控訴人の担当職員から、被控訴人に対する保険金請求訴訟(本件訴訟)を提起する際に、併せて、加害者であるAに対する損害賠償請求訴訟を提起するよう促されたが、これに応じなかった。ところが、原審が、Aに対する損害賠償請求訴訟が提起されていないことを理由に、弁護士費用相当の損害額を認めなかったので、控訴人らは、原判決言渡後、急遽、Aに対する損害賠償請求訴訟を提起するに至った(なお、Aに対する損害賠償請求訴訟は、公示送達によるものであり、実質的な審理はされていない。)。しかも、Aに対する損害賠償請求訴訟の訴訟提起手数料及び郵便切手等については、本件訴訟と併合して提起していれば、不要であったものである。このような経緯等からすれば、Aに対する損害賠償請求訴訟は、本件訴訟を有利に運ぶ目的で形式的に提起されたに過ぎないから、弁護士費用等についての控訴人らの主張は、理由がないというべきである。

第3当裁判所の判断

当裁判所は、①控訴人X1の本件請求は、1億1888万0615円(保険金残金1億1583万6731円とその一部に対する平成21年4月15日現在の確定遅延損害金304万3884円の合計)及びうち4465万2618円(保険金残金の一部)に対する平成21年4月16日から、うち7118万4113円(保険金残金の残部)に対する弁済期の翌日である平成18年3月21日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、また、控訴人X1が当審において追加した請求は理由がなく、②控訴人X2及び控訴人X3の本件請求は、それぞれ、保険金205万円及びこれに対する弁済期の翌日である平成18年3月21日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がなく、③控訴人X4の本件請求は、保険金105万円及びこれに対する弁済期の翌日である平成18年3月21日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の「1」ないし「6」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決書16頁の1行目から2行目にかけての「また、その間の付添看護費は」を「そして、前示の控訴人X1の受傷の程度、症状経過、年齢等からすれば、入院付添看護費の額を」と改める。

2  同18頁10行目の末尾の次に、「なお、後遺障害による逸失利益の算定に当たり、生活費の控除(控訴人X1の活動が健常者よりも相当程度制限されることによるもの)をしていないことは、将来の雑費(紙おむつ代等)の必要性及びその額に関する上記判断を何ら左右するものではない。」を加える。

3  同18頁14行目の「898万4666円」を「804万8442円」と改め、同19頁13行目の冒頭から同24頁1行目の末尾までを次のとおり改める。

「イ 被控訴人の提出した調査報告書(乙2)には、控訴人らの提出した見積書(甲11の1)記載の改造工事の必要性、相当性につき、個別的に理由及び算定根拠を挙げて上記アのとおり指摘する記載がある。そして、その内容を逐一検討しても、その指摘するところが明らかに失当であるとはいえないし、本件全証拠によっても、見積書(甲11の1)の内容が、調査報告書(乙2)の内容よりも適切なものであると判断すべき十分な根拠があるとは認められない。

そうすると、控訴人ら提出の見積書(甲11の1)の記載をにわかに採用することはできないというべきであるから、家屋の改造工事費用としては、調査報告書(乙2)によって認められる804万8442円の限度で、これを認めるのが相当である。」

4  同26頁13行目の冒頭から同頁24行目の末尾までを次のとおり改める。

「(12) 弁護士費用等(その理由につき、後記2で判示する。)

ア  控訴人X1 300万円

Aに対する損害賠償請求訴訟の提起、遂行に要した弁護士費用として300万円

イ  その余の控訴人ら 各5万円

Aに対する損害賠償請求訴訟の提起、遂行に要した弁護士費用

(13) 以上の控訴人らの損害額の合計は、次のとおりである。

ア  控訴人X1 1億5981万3922円

イ  控訴人X2、控訴人X3 各205万円

ウ  控訴人X4 105万円

(14) 本件保険金の内払金311万8612円は、上記(13)アの控訴人X1の損害金(元本)に充当されたから(争いがない)、これを控除した残額は、1億5669万5310円となる。」

5  同28頁1行目の「しかし」から同頁5行目の末尾までを次のとおり改める。

「そうすると、交通事故の被害者(保険金請求権者)が加害者(賠償義務者)に対する損害賠償請求訴訟の提起、遂行のために要した弁護士費用については、前示の本件保険約款第4章(無保険車傷害条項)9条にいう賠償義務者が法律上負担すべき損害賠償責任の額に含まれるものというべきである。」

6  同28頁6行目の「本件において」から同頁17行目の末尾までを次のとおり改める。

「これを本件についてみるに、証拠(甲18、19、乙6)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らは、原審においては、本件事故の加害者であるAに対する損害賠償請求訴訟を提起していなかった(なお、被控訴人の担当職員は、本件訴訟提起前に、控訴人ら訴訟代理人弁護士に対し、上記訴訟を提起するよう促していた。)が、原判決言渡後の平成21年1月30日ころ、上記訴訟を提起し、その手数料58万7000円、郵便切手等6700円の合計59万3700円を控訴人X1において負担したこと、控訴人らは、上記訴訟の提起、遂行を控訴人ら訴訟代理人弁護士に委任し、その報酬として相当額の弁護士費用を支払う旨約したことが認められる。そして、上記訴訟の内容、認容額(控訴人X1につき元金1億5647万3941円と遅延損害金、その余の控訴人らにつき各220万円と遅延損害金。弁護士費用につき、控訴人X1が885万円、その余の控訴人らが各20万円とされた。)、審理経過その他本件審理に現れた一切の諸事情を総合すると、上記弁護士費用及び手数料等のうち、本件事故と相当因果関係のある損害は、上記弁護士費用のうち、控訴人X1につき300万円、その余の控訴人らにつき各5万円(合計315万円)であるとするのが相当である。なお、上記訴訟において、Aに対し、公示送達による呼出しがされたが、Aは、その口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しなかったこと、書証の取調べのみが行われ、口頭弁論終結日の2週間後に控訴人らの請求を一部認容する判決が言い渡されたこと(甲21、弁論の全趣旨)からすれば、上記訴訟の提起、遂行につき格別困難な点はなかったものと認められるから、弁護士費用の額を定めるに当たって、前示の認容額を重視するのは相当でない。

これに対し、被控訴人は、Aに対する損害賠償請求訴訟は、本件訴訟を有利に運ぶ目的で形式的に提起されたに過ぎないと主張するが、損害賠償請求権の消滅時効を妨げるなど加害者に対する損害賠償請求訴訟の必要性を否定することはできないから(なお、被控訴人の担当職員が、本件訴訟提起前に、控訴人ら訴訟代理人弁護士に対し、上記訴訟を提起するよう促しており、被控訴人においても、Aに対する損害賠償請求訴訟の提起の必要性を肯認していたものといえる。)、被控訴人の上記主張は、採用できない。

なお、本件保険約款において、本件保険金についての損害額は、「保険金請求権者(交通事故の被害者)と賠償義務者(加害者)との間で損害賠償責任の額が定められているといないとにかかわらず」、保険会社と保険金請求権者との間の協議、訴訟等によって決定されるとされているから(乙4。第4章の第9条2項)、前示の本件保険約款第4章(無保険車傷害条項)9条にいう賠償義務者が法律上負担すべき損害賠償責任の額に含まれるべき弁護士費用の額は、上記のAに対する損害賠償請求訴訟において認定された弁護士費用の額と同額であるとは限らない(また、Aに対する損害賠償請求訴訟の既判力は、本件訴訟には及ばないから、弁護士費用の額についても、本件訴訟の資料から相当と認められるべき額を定めることになる。)。」

7  同29頁23行目の「認めることはできない」の次に、「(なお、控訴人らは、保険会社において、加害車両が無保険車であり、かつ、加害者に損害を賠償する意思、能力がないことを認識していたときは、無保険車傷害保険に係る保険金請求があったものというべきであると主張するが、保険会社(被控訴人)において、上記認識を有していたとまで認めるに足りる証拠がないし、仮に、保険会社(被控訴人)において、そのような認識があったとしても、そのことによって、無保険車傷害保険にかかる保険金の支払請求を受けたものと考えることは困難であり、控訴人らの主張は、採用できない。)」を加える。

8  同30頁6行目の冒頭から同31頁7行目の末尾までを次のとおり改める。

「 無保険車傷害保険の保険金支払債務は、保険会社と当該保険の契約者との間に締結された保険契約によって生ずるものではあるが、無保険車傷害保険が実損てん補型の傷害保険であり、その保険金請求は、実質において、加害者(賠償義務者)に対する損害賠償請求と同じであることからすれば、約款の解釈として、その遅延損害金についても、加害者に対して請求できる以上に被保険者(被害者)に権利を付与することまでは予定されていないものと解すべきであるから、無保険車傷害保険金に係る遅延損害金の利率は、年5分であるとするのが相当である。」

9  同33頁1行目の「また」から同頁18行目の末尾までを次のとおり改める。

「また、同約款の第4章(無保険車傷害保険条項)の11条(支払保険金の計算)は、保険会社が支払う保険金の額を、9条の規定により決定される損害の額(前示のとおり、賠償義務者が賠償責任を負うべき交通事故と相当因果関係にある損害の額)及び10条の費用から、「自賠責保険等によって支払われる金額」(11条2号。自賠責保険等(自動車損害賠償保障法に基づく責任保険又は責任共済)又は自動車損害賠償保障法に基づく自動車損害賠償保障事業により支払われる金額をいう(3条3号、4号)。)、「保険金請求権者が賠償義務者からすでに取得した損害賠償金の額」(11条6号)などを差し引いた額とする旨定めている。この規定によれば、保険会社は、9条の規定により決定される損害の額のうち、「自賠責保険等によって支払われる金額」を超える部分につき、保険金(元本)を支払うこととされているものと認められ、そうすると、自賠責保険から支払われた4000万円については、9条の規定により決定される損害の額(元本)からこれを差し引くのが相当である。次に、障害基礎年金については、前示の「保険金請求権者が賠償義務者からすでに取得した損害賠償金の額」には当たらないが、損害てん補の性質を有する点においては、同じであるから、これに準ずる扱いをするのが相当である。そして、「すでに取得した」とは、無保険車傷害保険に係る保険金の弁済期までに取得したことを意味するものと解されるから、上記弁済期までに取得した損害てん補の性質を有する給付額については、これを9条の規定により決定される損害の額(元本)から差し引くこととし、弁済期経過後の給付額については、9条の規定により決定される損害の額の遅延損害金、元本の順にこれを差し引くものとするのが相当である。」

10  同33頁20行目の冒頭から同35頁2行目の末尾までを次のとおり改める。

「 前示したところによれば、内払金311万8612円及び自賠責保険金4000万円については、前示1(13)の控訴人X1の損害額1億5981万3922円の元本(全体)から差し引かれ、障害基礎年金については、本件保険金の弁済期までに取得したものは、上記元本のうち、休業損害及び逸失利益に係る部分から差し引かれ、上記弁済期後に取得したものは、当該部分の遅延損害金、元本から、この順に差し引かれることになる。

前示1(13)の控訴人X1の損害額1億5981万3922円のうち、休業損害及び逸失利益に係る部分の額は、6232万7464円であるところ、次の算式のとおり(計算は、1円未満切捨て。以下同じ)、上記内払金、自賠責保険金の合計4311万8612円のうち、1681万6267円は、前示1(13)の控訴人X1の損害額1億5981万3922円のうち、休業損害及び逸失利益に係る損害部分(6232万7464円)から差し引かれることになり、その差引後の損害部分の残額は、4551万1197円となる。

(算式)43,118,612×62,327,464÷159,813,922=16,816,267

そして、前示(前提事実)のとおり支給された障害基礎年金(当審の口頭弁論終結時までの受領分。なお、上記時点までに支給が確定した障害基礎年金の存在及びその金額を認めるに足りる証拠はない。)につき、本件保険金の弁済期までに取得(受領)したものは、休業損害及び逸失利益に係る損害部分の上記残元本(4551万1197円)から差し引かれ、上記弁済期後に取得したものは、その遅延損害金、元本から、この順に差し引かれるが、これを順次計算すると、別紙「計算表」記載のとおりであり、これによれば、最終の受領額(平成21年4月15日分の障害基礎年金)を差し引いた後において、休業損害及び逸失利益に係る損害部分の残元本の額は、4465万2618円となり、同日現在(受領後)の確定遅延損害金の額は、304万3884円となる。

また、上記内払金、自賠責保険金の合計4311万8612円のうち、その余(休業損害及び逸失利益に係る損害部分から差し引かれたもの以外)の2630万2345円は、前示1(13)の控訴人X1の損害額1億5981万3922円のうち、その余(休業損害及び逸失利益に係る損害部分以外)の損害額(9748万6458円)から差し引かれることになり、その残額は、7118万4113円となる。

そうすると、前示1(13)の控訴人X1の損害額1億5981万3922円から、内払金、自賠責保険金及び障害基礎年金を差し引いた後の損害額の元本は、1億1583万6731円となる。」

第4結論

よって、本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも一部理由があるから、原判決を変更し、控訴人が当審において追加した請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文、同条2項、64条、65条1項本文、61条を、仮執行の宣言につき同法310条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 加島滋人 鳥居俊一)

(別紙)計算表<省略>

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