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名古屋高等裁判所 平成21年(ネ)414号 判決 2010年1月20日

主文

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,控訴人Aに対し176万4000円,控訴人Bに対し75万6000円,及びこれらに対する平成19年11月7日から各支払済まで年5分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

4  この判決主文第2項は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判(以下,略称は,原則として原判決の表記に従う。)

1  控訴人ら

主文同旨

2  被控訴人

(1)  本件控訴をいずれも棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

1  係争物件・関係者等

(1)  愛知県(以下「県」という。)は,名古屋市北東のなだらかな丘陵地に,都市計画事業として桃花台ニュータウンの開発を計画し,実施したところ,そのうちC団地(原判決4頁4行目)102区画は,平成6年3月頃までに宅地造成を行なった。

(2)  被控訴人は,地方住宅供給公社法(昭和40年法律第124号)に基づき,愛知県の過半数の出資により設立された公社であり,県からC団地を購入し,建売,売建,宅地分譲の方式により販売していた。

(3)  被控訴人は,平成16年12月22日控訴人Aに対し,C団地内の1区画である本件土地(原判決2頁)を,宅地分譲の方式で,代金2226万円で販売し(本件売買契約。同頁。控訴人Aの妻の同Bが共同買主かどうかは争いがある。),控訴人らは,その上に本件建物(同3頁)を建築した。同契約に先立ち控訴人Aが受領した本件パンフレット(同2頁)には「造成地のため地盤調査後,地盤改良が必要となる場合があります。」との本件記載(同3頁)がある。

2  本件訴訟の経過

(1)  本件は,控訴人らが,共同して,被控訴人から本件土地を購入したが,本件土地の地盤が軟弱で,建物建築に適さず(以下,それぞれ「本件地盤」「本件瑕疵」という。),地盤改良工事(本件工事。原判決3頁25行目)が必要だった旨主張して,本件地盤の軟弱性及びC団地内の他の区画の地盤改良工事の実施状況に関する説明義務違反又は,瑕疵担保責任に基づき,被控訴人に対し,湿式柱状改良工法で実施した本件工事費用合計252万円及び遅延損害金を請求する事案である。

(2)  これに対し,被控訴人は,①本件瑕疵の存在及び本件工事の必要性を否認するほか,②仮に本件瑕疵があるとしても,被控訴人は本件パンフレットに本件記載をしていた等と主張して説明義務違反を争うとともに,③控訴人らは,本件地盤について被控訴人に詳しく確認せず,独自の調査等もしていないから,本件瑕疵を知らなかった点につき過失がある旨主張して瑕疵担保責任を争い,④更に控訴人Bが本件土地の買主である点も争った。

(3)  原審は,①控訴人Aは,被控訴人の担当者から本件記載を読み上げて説明され,本件土地が造成地であることを知っており,代金2226万円を高額と考えていなかったことが窺われるから,本件土地の購入の適否を判断するのに必要な情報は提供されていた旨認定して,被控訴人の説明義務違反を否定し,②本件地盤は強度が不十分といえなくはないが,控訴人Aは軟弱地の可能性が高いことを甘受して本件土地を購入しており,本件建物にはペントハウスやエレベーターがあり基礎をより強固にする必要性が窺われるうえ,より高度なDIP工法ではなく湿式柱状改良工法による地盤改良でも不具合は生じていないから,本件土地の地盤強度は,控訴人Aの想定範囲内にあった旨認定して,被控訴人の瑕疵担保責任を否定し,③また,控訴人Bは本件土地の買主と認められないと判断して,控訴人らの請求を棄却した。

これに対し,控訴人らが控訴をした。

3  前提事実(前記1を含む。)及び主たる争点(当事者の主張を含む。)

標記の点は,原判決3頁12から13行目の「スウェーデン式サンディング試験」を「スウェーデン式サウンディング試験」と改め(前提事実の補正),下記4,5のとおり当審における当事者の主張(原審の主張の敷衍を含む。)を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」の2,3のとおりであるから,これを引用する。

4  当審における控訴人らの主張

(1)  本件瑕疵の存在及び内容

ア 本件地盤は,本件建物建築前のSS試験(スウェーデン式サウンディング試験。原判決3頁)によって,換算N値が3以下の層や,試験ロッドが無回転で自沈する層を有することが確認されており,そのままでは,本件建物の荷重によって地盤沈下が起きるおそれがあった。

イ また,本件地盤の強度は,すべての部分で一定ではなく,本件建物の荷重も均等には伝わらないから,本件土地各部で沈下の程度が異なる不同沈下が発生して,本件建物が傾き,歪みや損傷を生じる可能性が高かった。

ウ 以上のとおり,本件土地は,地盤改良なしでは宅地としての機能を果たさない土地であって,隠れた瑕疵があることは明らかであり,被控訴人は,この点に関する説明義務違反及び瑕疵担保の責任を負う。

(2)  原判決の認定の不当性

ア 被控訴人の説明義務違反(Dの説明)について

Dは証人となるのを拒否したため,その陳述書(乙2)は,反対尋問に曝されておらず,Dが本件記載を一行ずつ読み上げてAに説明したとの上記陳述書の記載部分は信用できないし,反対に,本件記載を説明されていない旨のAの供述は信用できる。これらと反対の原判決の認定は不合理である。

また,仮にDが本件売買契約に際し,Aに対し本件記載を読み上げたとしても,本件記載程度の説明で,一般人に地盤調査を行なわせることは不合理であり,被控訴人が説明義務違反の責任を免れるものではない。

イ 被控訴人の瑕疵担保責任について

Aは,建築について一般的な知識しかなく,造成前の本件土地の状況も知らなかった。また,仮にDが本件記載を読み上げたとしても,本件地盤の強度について具体的説明はなかったから,Aが本件土地は軟弱な可能性が高いと認識し,その可能性を甘受して同土地を購入した旨の原判決の認定は,経験則に反する。

本件建物は,一般的な2階建居宅であり,Aは,本件土地の地盤強度に問題があるとは思っていなかった。反対に,地盤改良の必要性がAの想定範囲内にあると認めた原判決の認定は不当である。

5  当審における被控訴人の主張

(1)  本件瑕疵の不存在

本件瑕疵に関する控訴人ら提出の陳述書(甲17)は,地盤調査を担当したE社ではなく,建築を請け負ったF社の社員が作成した文書であるうえ,同ホームの判定基準は,本件工事の必要性をなんら説明するものではない。

(2)  本件記載の存在及び控訴人Aの認識

ア C団地は,発売以来,本件土地を除く36区画で地盤改良工事(うち33区画は表層改良工事)が行なわれていたため,被控訴人においては,買主の責任において買受後に地盤調査を行ない,その結果次第では地盤改良を要する場合があることを買受希望者に告知し,この点を了解のうえ土地を購入してもらう趣旨で,本件パンフレットに本件記載をした。

イ 本件売買契約で,Aが本件記載を一切見ないで本件土地を購入したなどということは一般常識では考えられない。そして,一般に宅地の価値は地盤の強度だけでは決まらないから,多少の地盤改良費用を要しても,近隣の居住環境や他の利便性等も多面的に検討して,それ相応の価格であれば購入するのはあり得ることであり,本件記載に対するAの反応も上記のとおりだったと考えるのが極めて常識的である。

ウ そもそも本件工事費用252万円は,控訴人らが本件建物所有のために支出した金額7478万円(本件土地代金2226万円,本件工事費用252万円,本件建物建築費5000万円)の約3.4パーセントにすぎず,本件売買契約の経緯から考えて,本件記載があるにもかかわらず,Aが「本件地盤に問題があるなどとはまったく考えていなかった」などということは信用できない。

第3当裁判所の判断

当裁判所は,原審と異なり,控訴人らの請求はいずれも理由があると判断する。その理由は,以下のとおりである。

1  本件売買契約の買主

(1)  甲1,2,15,16によれば,①本件売買契約については,まず被控訴人とAが,平成16年11月15日付で,Aを買主とする宅地譲渡契約書(甲2)を作成したこと,②次いで,同年12月6日,控訴人らは,被控訴人に対し,本件土地につきA100分の70,B100分の30の割合の共有取得を認めるよう求める共有願(甲15)を提出し,被控訴人もこれを了承して,③同月21日,控訴人らと被控訴人は,控訴人らを共同引受人とする本件土地の分譲宅地引渡証(甲16)を作成して,その引渡完了を確認したこと,④被控訴人は,控訴人らのために上記②の持分割合による所有権移転及び抵当権設定の各登記手続を,同月22日付で了したこと,以上の事実が認められる。

(2)  上記(1)の事実によれば,本件売買契約は,最終的に控訴人らを共同買主とする内容で締結されており,控訴人らは,同②の持分割合で本件土地を共有していると認められる。

これに対し,被控訴人は,Bが買主であることを争っているが,以上の認定を左右するだけの証拠はなく,被控訴人の主張は採用できない。

2  本件瑕疵の有無等

(1)  本件地盤の強度等

ア 甲6,7,17,20によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 本件土地については,平成18年5月にG社(下記(ウ))が,また同年10月にE社(下記(イ))が,いずれもSS試験の方式で貫入試験を実施して,地盤の長期地耐力等を調査した。その結果は,標準地盤面からの深さ(以下「深度」という。)と,地盤の土質,換算N値によって表示されている。なお,標準貫入試験(JIS規格1219)によりサンプラーが土中に30センチメートル貫入するのに必要な打撃回数で地盤の強度を表した値をN値というところ,SS試験の測定値を,このN値に換算した値を換算N値という。換算N値を以下,単に「N値」という。

(イ) 平成18年10月の調査では,本件土地内の6か所の測点を測定し,①測点No.1は,深度1.25メートルまでN値が2.0から3.8の粘性土(うち表面のみ砂質土),以下深度1.46メートルまでN値41.1の粘性土で,その下は貫入不能な安定的な地盤であったが,②測点No.2は,深度10.00メートルまで平均的なN値が2.0から7.1の砂質土(うち深度8.75メートル以下は粘性土)で,深度4.25から4.75メートルにかけてN値10.0から11.4の箇所があるものの,それ以下には,荷重をかけないでも試験ロッドが自重で沈下する(以下「自沈」という。)箇所が存在し,特に深度8.75から9.25メートルの所には試験ロッドが無回転で沈下してしまう(以下「無回転」という。),支持力ゼロの箇所が垂直方向に広がっており,③測点No.3ないしNo.6は,おおむね深度6.00ないし9.00メートルまでは,平均的なN値が2.0から5.2の砂質土で,それ以下は安定的な粘性土となっているものの,上記砂質土の部分には,いずれもN値が2.0程度で無回転の支持力ゼロの箇所が,厚さ2メートル前後(測点No.4からNo.6)ないし,それ以上(測点No.3)にわたって垂直方向に広がっている。

(ウ) 平成18年5月の調査では,本件土地内の6か所の測点(上記(イ)の測点とは異なる。)を測定し,①測点Aは,深度4.50メートルまで平均的なN値が5.2から10.0以上の砂質土であったが,そのうち深度1.25から1.50メートルには,試験ロッドがスルスルと貫入してしまうN値2.0の箇所があり,②測点B,Cは,深度1.00ないし1.25メートルまで,試験ロッドがスルスルと貫入してしまうN値2.0ないしそれ以下の砂質土が垂直方向に広がっており,③測点D,E,Fは,おおむね深度9.00ないし10.00メートルまでは,平均的なN値が2.0から10.0の砂質土であるが,その中には,試験ロッドが「ユックリ」(一部はスルスル)と貫入してしまうN値が2.0程度の箇所(測点D,F)ないし,試験ロッドがスルスル(一部は「ユックリ」)と貫入してしまうN値が1.0から2.0程度の箇所(測点E)の箇所が,厚さ数十センチメートルから1メートル以上にわたって垂直方向に広がっていた。

イ 上記ア(イ)の測定結果に,甲20の内容を加えると,本件地盤には,特に砂質土の部分に,自沈ないし無回転といった支持力ゼロの箇所が,垂直方向にも水平方向にも相当程度の厚さと広さで広がっていることが推認され,地盤改良工事を実施しないままこれらの箇所に建物の荷重がかかると,地盤沈下が発生する可能性が高いと認められる。また,上記測定結果及び甲20によれば,粘性土が主体の部分(例えば上記ア(イ)①)は,砂質土が主体の部分よりも地盤に強度があり,他の部分よりも沈下しにくいと認められる。したがって,建物の荷重によって,本件土地各部の沈下量が異なり,不均等に沈下する不同沈下の現象が発生し,建物が傾斜したり,各部が歪んで損傷する可能性が高く,これを避けるためには,地盤改良工事を実施することが必要であったことが認められる。前記のとおり,本件土地は,もともと丘陵地だったところを造成した宅地であり,埋立造成した砂質土が主体の部分と,もともと地山の粘性土が主体の部分とで,上記のような強度の違いを生じているのではないかと推認される。

そして,上記ア(ウ)の測定結果からも,本件地盤の強度や地盤沈下の可能性については,おおむね同様に評価することができる。

(2)  本件建物の構造・規模及び本件工事

ア 甲5,14によれば,以下の事実が認められる。

本件建物は,車庫部分を含めて縦横約18×11メートル(水平面に投影した大きさ。この項で以下同じ)の2階建居宅で,木造枠組工法(いわゆるツーバイフォー工法。基礎は鉄筋コンクリート造ベタ基礎)で建築されている。屋上への出入り部分には縦横約3.5×2.6メートルの部屋が設けられ,いわゆるペントハウスとなっている。また,本件建物は,バリアフリー仕様になっており,1階から屋上まで通じるエレベーターが設置されているが,いわゆるカゴ(人が乗る部分)の大きさは縦横約1メートル×数十センチメートル程度である(甲5の図面上から推測)。

イ 甲6ないし8,10,13,17,控訴人A本人尋問の結果によれば,以下の事実が認められる。

控訴人らは,上記(1)アの各調査の結果,本件地盤が軟弱であり,そのままでは建物が建たない,地盤を補強しないと荷重で建物が傾くおそれがあると聞かされ(最終的な結果を聞かされたのは,F社と建築請負契約を締結した後。A本人調書27頁),やむなく複数ある地盤改良の工法のうち,より費用の廉価な湿式柱状改良工法で地盤改良を実施することにし,その費用252万円を同ホームに支払った(これに対し,DIP工法による費用の見積は約500万円であった。)。

(3)  本件土地の瑕疵の有無

ア 以上のとおり,本件地盤には,支持力ゼロの部分を含む強度の軟弱な箇所が,垂直方向にも水平方向にも相当程度の厚さと広さで広がっており,そのまま本件土地上に建物を建築した場合には,不同沈下等が発生する可能性が高く,現に本件では,特に大規模大重量ではない通常の範囲内の建物(木造枠組工法による2階建居宅)を建築するに当たり,湿式柱状改良工法で地盤改良を行なう必要があったと認められる。

イ そして,本件工事費用252万円は,被控訴人に支払った本件土地代金の2226万円の約11パーセントに相当しており,絶対額でみても,売買代金との相対割合でみても,これを僅少ということはできない。

ウ また,本件土地代金は2226万円であり,本件土地1平方メートル当たり約8万3000円,坪当たり約27万5000円に達しているところ,乙3,証人Hの証言によれば,上記代金額は,土地の造成費用その他の積算原価に,平成14年以降の地価の値下がり等の要因を勘案する方式によって決定されており,地盤が軟弱である可能性等を勘案して,一定の減額がなされたような形跡は窺うことができない。

エ したがって,本件土地は,地盤改良を要するという瑕疵があったというべきである。

(4)  隠れた瑕疵か否か

ア 前記(3)のとおり,本件土地は地盤改良を要するという瑕疵があったが,そのことは,本件売買契約後に,買主の控訴人らが建築を依頼したF社の地盤調査により最終的に明らかになったのであり,本件売買契約時には,売主の被控訴人にも明確とはなっていなかった。

イ そこで,次に,上記のような地盤改良の必要があるということを控訴人らが知らなかったことについて過失があるかを,隠れた瑕疵の有無との関係で検討する。

(ア) 前記のとおり,控訴人らは,本件売買契約に先立ち本件パンフレットを受領し,そこには,本件記載があった。もっとも,本件記載は,全体で30頁近くある本件パンフレットのごく一部である「設計基準及び設計に関する注意事項」の「その他」の欄に並列して書かれたいくつかの内容のうちの1行にすぎず,目立たない体裁であって,注意を喚起して重要性を知らせる記載とはなっていない。この点について,被控訴人は,進んで,担当者DからAに対し本件記載部分を読んで聞かせた旨を主張し,その旨の陳述書(乙2)を提出する。

しかしながら,Dは,法廷に証人として出廷して尋問を受けることを拒否しており(証人H調書6頁),反対趣旨の甲13,控訴人A本人尋問の結果も考慮すれば,上記陳述書(乙2)から,Dが本件記載を含む本件パンフレットをAに読み上げて説明したとの事実を認めることはできない。

したがって,Aは,本件記載をDから読んで聞かされたとはいえないが,その記載に気づいてその意味を確認しなかった点については,注意力に欠ける点があるといえなくもない。

(イ) しかし,翻ってみると,Aが本件記載を読み聞かされたか,あるいは本件記載に気づかなかったかどうかは必ずしも重要な事情ではない。というのは,本件記載の内容があいまいだからである。すなわち,本件記載は,「造成地のため地盤調査後,地盤改良が必要となる場合があります。」というだけの簡単な記載であって,ここには,C団地内で従前,いわゆる建売,売建の方法で被控訴人が販売した区画のうち,地盤改良工事が必要になったものが相当数に上る等の,地盤改良の必要性が高いことを窺わせる具体的記載はないし,また「買受後,買主において地盤調査をして下さい。」等の買主に地盤調査を依頼し,あるいはこれを義務づける旨や,地盤改良が必要となった場合の費用が買主負担となるから,販売価格が低額になっている旨や瑕疵担保請求権の放棄を意味する旨の記載もない。

結局,被控訴人は,本件記載をすることにより,後に地盤改良の必要が生じるかもしれないこと,その場合には買主に地盤改良をしてもらうしかないとの被控訴人側の考え方を目立たない態様で表明したが,地盤改良が必要となった場合のその費用を本件土地の売買代金の中に織り込んでいないので,本件記載は,その表明あるいは内心の希望どおりの効果がもたらされるとの保証のないあいまいなものであったといわざるを得ない。

(ウ) また,被控訴人は,住宅を必要とする勤労者に対し,住宅の積立分譲等の方法により居住環境の良好な集団住宅及びその用に供する宅地を供給し,もって住民の生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的として,地方住宅供給公社法(昭和40年法律第124号)に基づき設立された公社であって,地方公共団体である愛知県から過半数の出資を受けており,民間から篤い信用を獲得していたと認められる。

(エ) 以上によれば,控訴人らが本件売買契約時に本件パンフレットの本件記載に十分留意しなかった面はあるものの,その記載自体,本件土地に地盤改良工事を要するような瑕疵があることを明示するものではなく,売主の被控訴人すら,地盤改良工事を要するかもしれない程度のあいまいな認識しか有していなかったことを踏まえると,控訴人らが,本件土地に地盤改良を要するような瑕疵があることを知らなかったことに過失があるということはできず,上記の瑕疵は隠れたものであったと認められる。

(5)  瑕疵担保責任の有無・内容

そうすると,本件土地には,その性状に隠れた瑕疵があるというのが相当であり,被控訴人には,瑕疵担保責任に基づく損害賠償として,Aに対し176万4000円,Bに対し75万6000円(それぞれ本件工事費用252万円を上記1(1)②の持分割合で按分した金額),及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成19年11月7日から各支払済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払義務があるというのが相当である。

(6)  被控訴人の主張等に関する判断

ア(ア) 被控訴人は,本件地盤の強度不足や本件工事の必要性は立証されていないし,本件工事で用いられた湿式柱状改良工法は一般に用いられる基礎の構造方法であるから(建築基準法施行令38条3項,建設省告示1347号第1),その費用は,より優良な品質の住宅を所有するために控訴人らが支出した費用にすぎない旨主張し,乙5,6には,上記(1)アの地盤調査で用いられたSS試験の信頼性に疑いがある旨の部分がある。

(イ) しかしながら,SS試験は,JIS規格(JIS A1221-1995)で認められた一般的な地盤調査の方法であり,上記(1)アの地盤調査を担当したG社及びE社は,その実施に習熟していると認められる。そして,上記各社が独立して実施した地盤調査の結果,本件建物を建築した場合には,不同沈下等が発生する可能性が高いことが確認されたのであるから,本件土地が客観的に地盤が軟弱と評価される土地に該当することは明らかである。

(ウ) また,本件建物は,木造枠組工法による通常の2階建居宅であり,屋上等に設置されたペントハウスやエレベーターも比較的小規模なものであって(上記(2)ア),これにより建物荷重が大幅に増加した等の事情は認められない。更に,本件工事の費用252万円は,絶対的にも相対的にも僅少とはいえないから(上記(3)イ),本件地盤の強度に問題がないということはできない。

イ(ア) C団地では,従前,いわゆる建売,売建の方法で販売した区画の相当部分で地盤改良工事が行なわれたため,被控訴人は,宅地分譲の場合,買受後,買主の責任において地盤調査を行ない,その結果次第では地盤改良を要する場合があることを買受希望者に告知し,Aもそのこと等を理解して本件売買契約を締結したのであるから,本件土地が軟弱であっても,本件売買契約上,瑕疵があるとはいえない旨を,被控訴人は主張する。

(イ) しかしながら,前記のとおり,本件記載から,本件売買契約において,本件土地の購入の適否を判断するのに必要な情報が提供されているとか,Aが,本件土地が軟弱である可能性が高いことを十分認識したうえで,その可能性を甘受して本件土地を購入したと認めることはできない。

なお,控訴人らは,本件土地が造成地であることを知っていたと認められるが,本件土地の従前の状況や地盤改良を要するものであることまでを知っていたと認めるだけの証拠はない。

更に,控訴人らが本件土地代金2226万円を高額と考えていたか否かは,そもそも本件土地の軟弱性を是認していたか否かには当然に結びつく事柄ではない。

したがって,被控訴人の上記(ア)の主張等はいずれも採用することができない。

3  まとめ

そうすると,控訴人らの請求は,説明義務違反の成否を論ずるまでもなく,理由がある。

第4結論

以上の次第で,控訴人らの請求はいずれも理由があり,これらを棄却した原判決は相当ではなく,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消した上,控訴人らの請求を認容することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 夏目明徳 裁判官 光吉恵子)

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