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名古屋高等裁判所 平成21年(ネ)897号 判決 2009年12月25日

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

2  控訴人は、被控訴人に対し、30万円及びうち23万6614円に対する平成21年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は第1、2審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第1、2審を通じて、被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、訴外Aが、訴外株式会社クレディア(クレディア)との間で、継続的金銭消費貸借契約を締結して平成9年7月9日から平成13年5月1日までの間借入れと返済を繰り返したが、利息制限法所定の制限利率を超えて支払った利息部分を元本に充当して計算すると過払金が生じており、クレディアは悪意の受益者であるとして、不当利得返還請求権に基づき、過払金及びクレディアに対する民事再生手続開始決定の前日までの利息(合計31万3152円)をクレディアの再生計画の一般的基準に従った金額である30万円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年5月26日から支払済みまでの遅延損害金の支払を、Aの相続財産管理人である被控訴人が、クレディアから本件消費貸借契約に係る権利義務を承継した控訴人に対して求めた事案である。

原審は被控訴人の請求を認容したため、控訴人がこれを不服として控訴した。

2  そのほかの事案の概要は、次のとおり当審における控訴人の主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄第2に記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の追加的主張)

控訴人は、大要、以下のとおり主張するものと解される。

(1) 悪意の受益者性

控訴人は悪意の受益者ではない。仮に悪意の受益者であるとしても、最高裁平成20年(受)第468号同21年1月22日第一小法廷判決の趣旨に鑑み、基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了するまでは過払金返還請求権は具体化しておらず、これに対する悪意の受益者としての利息の支払義務も発生しない。

(2) 再生計画による権利変更

クレディアの再生計画(平成20年9月17日に認可決定が確定。以下「本件再生計画」という。)では、民事再生手続において再生債権の届出がなされていない過払金返還請求権たる再生債権(過払金返還請求にかかる利息・損害金の一切の債権を含む。以下同じ。)について、請求があれば、再生債権が確定したとき(債権額の確定を含む。調停、訴訟、仲裁等の手続がなされている場合には、それらの手続によって債権が確定する。以下同じ)から3か月以内に権利変更後の弁済額を一括弁済する旨定められているから、期限の猶予を与えるべきである。

第3当裁判所の判断

当裁判所は、被控訴人の請求は、過払金元本を超える部分についての遅延損害金請求を除き理由があるものと判断する。その理由は、原判決3頁18行目の「弁論の全趣旨」を「乙4」に改め、控訴人の主張に対する判断及び遅延損害金請求についての判断を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄第3の1に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人の主張について

(1)  控訴人は、悪意の受益者であることを争うが、この点については原審で自白が成立しており、またこの自白が錯誤により真実に反してなされた旨の主張立証はない。仮に、控訴人が、控訴理由書記載の最高裁判所の判例(最高裁平成20年(受)第1728号同21年7月10日第二小法廷判決及び平成20年(受)第1729号同21年7月14日第三小法廷判決)を根拠に、上記自白が錯誤により真実に反してなされたと主張するものと善解しても、引用にかかる判例はいずれも本件に適切ではないから、自白の撤回を認める理由とはならない。よって、控訴人は、悪意の受益者であることを争うことはできない。

(2)  また、この場合における民法704条前段所定の利息は、過払金発生時から発生するものと解するのが相当であるから(最高裁平成21年(受)第1192号同21年9月4日第二小法廷判決参照)、取引終了時まで発生しないとの控訴人の主張は採用できない。

(3)  控訴人は、本件過払金及び利息について、本判決確定から3か月以内に本件再生計画による権利変更条件にしたがって弁済すれば足りる旨主張するものと解される。そして本件再生計画によれば、債権届出がなされなかった過払金返還請求権たる再生債権について、控訴人は当該債権者により弁済請求がなされ、再生債権が確定したときから3か月以内に権利変更後の弁済額を一括弁済するものとされている(乙5)。

しかし、上記期限の猶予などの権利変更は、再生計画にあるとおり、再生債権の確定を前提とするものであって、訴訟等の手続がなされている場合には、判決の確定等によって上記再生債権がはじめて確定すると解されるから、上記期限の猶予が請求異議事由となり得るのは格別、本件訴訟においては被控訴人の請求に対する抗弁たり得ないというべきである。

よって、控訴人の猶予期間に関する主張は、それ自体失当というべきである。

2  遅延損害金請求について

被控訴人は権利変更後の再生債権額及びそれに対する遅延損害金を請求しているが、上記のとおり本件再生計画による権利変更は未だ生じていないから、本来、過払金元本を超える部分に対する遅延損害金を請求することはできないと解される。したがって、遅延損害金の請求は過払金元本23万6614円に対してのみ認めることができ、その余の請求は理由がない。

第4結論

したがって、上記と異なる原判決を変更することとして、主文のとおり判決する。なお、本判決は原判決認容部分の一部を取り消したものであるから、原判決主文第1項中本判決により維持された部分については仮執行宣言は有効に維持されているものである。

(裁判長裁判官 西島幸夫 裁判官 福井美枝 下嶋崇)

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