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名古屋高等裁判所 平成22年(く)44号 決定 2010年4月28日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は,少年作成の抗告申立書及び付添人弁護士○○作成の抗告補充書に記載のとおりであるから,これらを引用する。

論旨は,要するに,少年は,仮退院後の保護観察を継続することにより社会内更生が可能であるから,少年を中等少年院に戻して収容することとした原決定の処分は不当である,というものである。

そこで,検討する。

本件は,平成20年5月,恐喝,暴行保護事件により少年院送致決定を受けて少年院に収容され,翌21年6月に少年院を仮退院して仮退院後の保護観察を受けていた少年が,遵守事項を遵守しなかったとして,地方更生保護委員会から,戻し収容の申請がなされた事件である。

関係記録によれば,少年は,平成21年6月に少年院を仮退院した後,実母のもとに帰住して稼働するなどしていたが,半年ほどすると,不良交遊を活発化させて外泊や原動機付自転車の無免許運転を繰り返すようになり,保護観察官や保護司の再三にわたる指導にもかかわらず,生活態度を改めることなく,平成22年2月から同年3月にかけて,運転免許がないのに原動機付自転車を購入する等して3度にわたり原動機付自転車の無免許運転を行った上(殊に,2度目,3度目の無免許運転は,戻し収容の説明・警告を含めた厳しい指導を保護観察官から受けた当日及びその3日後に行われている。),ゲームセンターで店員の対応に立腹して表示板を損壊したことが認められ,更生保護法50条1号所定の一般遵守事項(非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること)を遵守しなかったことが明らかである。

少年は,保護観察による指導を受け入れて更生しようとする意欲や,社会のルールを守ろうとする意識が希薄であり,非行の原因となった衝動的性格,自己中心性,他罰的思考といった資質上の問題点は,未だ十分に改善されているとはいえない(少年は,今回の鑑別所生活で自分の問題点を自覚するに至ったので社会内更生が可能である,というが,問題点の自覚や更生の意欲が十分とはいえない。)。

以上の事情に,保護者の監護能力が不足していることをも総合すると,今回の鑑別所生活を契機に,母親との関係やこれまでの生活態度を改善して更生しようとする意欲が芽生えつつあることなど,有利な事情を併せ考慮しても,少年が再非行に至るおそれは高く,保護観察の継続により更生を図ることは著しく困難であって,少年を少年院に戻して収容し,徹底した矯正教育を行い,規範意識を養わせ,資質上の問題を改善することが必要不可欠であると認められる(なお,問題性が根深いことにかんがみると,短期処遇は相当でない。)。

したがって,少年を中等少年院に戻して収容することとした原決定の処分は相当であり,不当であるとはいえない。

よって,本件抗告は理由がないから,更生保護法72条5項,少年法33条1項により棄却することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下山保男 裁判官 髙橋裕 松井修)

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