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名古屋高等裁判所 平成22年(く)95号 決定 2010年8月10日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は,申立人作成の抗告申立書に記載のとおりであるから,これを引用する。

論旨は,要するに,少年を初等少年院に送致した原決定の処分は重過ぎて著しく不当であり,在宅試験観察に付した上で最終処分を決するのが相当である,というのである。

そこで,少年保護事件記録及び少年調査記録を調査して検討する。

本件は,中学生の少年が,(1)不良仲間らと共謀の上,年下の中学生に対し,顔面等を殴打,足蹴りするなどの暴行を加え,全治2週間を要する見込みの傷害を負わせ(原決定非行事実第1),(2)正当な理由なく他人の敷地内に侵入した(同第2),という傷害,住居侵入の事案である。傷害の事案は,年下の被害者がぞんざいな言葉遣いで対等な対応をしたことなどに立腹して集団でいわばリンチを加えたものであって,その動機は短絡的で酌むべきものはなく,暴行の態様は執拗,かつ,危険なものであり,少年自身も1回暴行に及んでいる上,傷害の程度も軽くない。住居侵入の事案は,深夜,不良仲間を同乗させて原動機付自転車を乗り回していたところ,警察官に追尾された後,付近を歩行中,再び警察官に発見され,検挙を免れるため逃げようとして他人の敷地内に侵入したもので,動機等に酌むべきものはない。

少年は,幼少時に実父母が離婚し,以後,母親のもとで成育していたが,少年が小学6年生の時に母親の内夫が同居するようになると,家庭に居づらさを感じ,同級生らとの交遊の中で発散的に振る舞うようになり,平成21年夏ころ(中学2年生時),近所に父親が転居してくると,同人のもとに居場所を求めるようになったが,同人は食事の世話等基本的な監護はしたものの,少年の問題行動に対しては放任状態であった。このような中,少年は,平成21年8月ころから窃盗等の触法行為を繰り返し,翌9月には不登校が始まり,児童相談所の指導を受けるなどしたものの,平成22年2月本件傷害の非行に及び,翌3月警察官の取調べを受けたが,その後も原動機付自転車の無免許運転を繰り返すなどして,同年6月本件住居侵入の非行に及んだものである。

少年は,規範意識が乏しい上,成育歴に起因して無気力傾向が強く,自信や意欲を持てる対象がなく,何をしても深い満足感や充足感が得られず,不良仲間らとその場限りの楽しさを求め交遊する中で,社会規範を逸脱した行動に出やすい,という問題を抱えており,このような問題が本件各非行に結びついているものと考えられるが,この問題は成育歴に根差したものであること,少年に公的機関の指導を受けようという自覚が乏しいことなどにかんがみると,その改善は容易なものではないと認められる。

以上のほか,家庭の状況は上記のとおりであって,監護力が不足しているし,児童相談所の指導にも消極的な対応に終始していたことを併せて考えると,少年が本件各非行を認めて少年なりの反省の態度を示していること,家庭裁判所係属歴がないことなど,有利な諸点を十分に考慮しても,少年の要保護性は高く,少年を社会内で更生させることは著しく困難であるといわざるを得ない。そうすると,少年が更生し,非行を繰り返さないようにするためには,矯正施設に収容して徹底した矯正教育を行い,規範意識を養わせ,前記の少年が抱える問題を改善するとともに,基本的生活習慣を身に付けさせていくことが必要である。

したがって,少年を初等少年院に送致した原決定の処分は相当であって,重過ぎて著しく不当であるとはいえない。

よって,本件抗告は理由がないから,少年法33条1項により棄却することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下山保男 裁判官 柴田厚司 松井修)

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