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名古屋高等裁判所 平成22年(ネ)1198号 判決 2011年10月13日

控訴人

上記訴訟代理人弁護士

柳田康男

被控訴人

株式会社 ライトハウス

上記代表者代表取締役

上記訴訟代理人弁護士

藤川義人

大林良寛

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人は、控訴人に対し、七二万七六〇〇円及びこれに対する平成二一年五月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを五分し、その二を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、一二三万一九六〇円及びこれに対する平成二一年五月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  控訴人(一審原告)は、「被控訴人(一審被告)が輸入販売するフレキシリードを使用して、飼い犬を散歩させていた際、飼い犬が突然走り始めたので、リードのブレーキボタンを押して飼い犬を止めようとしたが、リール(回転盤)が空回りするだけで、ブレーキが掛からず、飼い犬を止めることができなかった。そして、リードを引っ張ってそれ以上飼い犬が前に進むのを阻止しようとした際、飼い犬がジャンプしたため、その反動で、飼い犬は、両後ろ足にけがを負うに至った。」と主張し、上記フレキシリードには設計上、構造上、表示上の欠陥があり、これにより、飼い犬のけがの治療費や上記フレキシリードの代金相当額の損害を被るとともに、飼い犬がけがをしたことによって精神的苦痛を被ったとして、被控訴人に対し、製造物責任法三条に基づき、合計一二三万一九六〇円の損害賠償とこれに対する平成二一年五月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

原審は、上記フレキシリードには欠陥がないとして、控訴人の請求を棄却したことから、控訴人は、これを不服として控訴した。

二  前提事実及び争点

以下のとおり原判決を補正するほか、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」「一」及び「二」記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決二頁五行目末尾に「(甲三、四、一八、二〇、二一、一九六、乙二、控訴人本人)」を加える。

(2)  原判決二頁八行目「走り出したため、」の後に、以下を加える。

「本件フレキシリードのブレーキボタンを押して、bを制止しようとした。ところが、」

(3)  原判決二頁一四行目「右足」を「右後ろ足」と、一五行目「左足」(二か所)を「左後ろ足」と、それぞれ改める。

(4)  原判決三頁一行目「停止させるのに」から三行目「噛みあわず」までを、以下のとおり改める。

「停止させようとした場合、ブレーキボタンを押す力が弱いと、リードの伸びる速度が速いため、内部のリールにぶれが生じ、ブレーキボタンの内部の先端とリールについている歯がかみあわず」

(5)  原判決三頁五行目「乗ったと」から七行目「高速回転をすると」までを、以下のとおり改める。

「乗るのと同時に、犬が時速一五キロメートルを超えるような高速で走り、それに伴ってリードの伸び方が速くなってリールが高速回転すると」

(6)  原判決三頁一六行目「リードの」を「リードが」と改める。

(7)  原判決三頁一八行目から一九行目にかけて「ブレーキ機能がないという」を、「ブレーキ機能が必要であるが、本件フレキシリードにはこのような機能はなく」と改める。

(8)  原判決四頁九行目と一〇行目の間に、以下を加える。

「 本件事故の際に、本件フレキシリードのブレーキが掛からなかったのは、控訴人が本件フレキシリードの使い方に慣れておらず、本件フレキシリードのブレーキボタンを正確に押せていなかったためである(当審における主張)。」

(9)  原判決四頁一六行目「本件フレキシリードの取扱説明書を読めば」を、以下のとおり改める。

「 控訴人が本件フレキシリードを購入した際に付属されていた取扱説明書には、「使用上の注意」として、「危険な場合はすぐに手を離して下さい。」「他の犬や人が近づいてきたときにはリードを短くし、十分注意して犬をコントロールして下さい。」「飼い主の責任においてご使用下さい。」と記載されていて(甲五)、これらの説明を読めば」

(10)  原判決四頁二四行目冒頭から二五行目末尾までを、以下のとおり改める。

「(ア) bは、本件事故により、平成二〇年七月一六日から同年一二月三一日まで、岐阜西動物病院で両後ろ足の前十字靱帯断裂の手術、入院、通院治療を受け、控訴人は、治療費として二二万七三一〇円を支払った(甲四)。その後、bは、左後ろ足の外側の手術痕が化膿し肉汁が出たため、平成二一年一月一七日から同年二月七日まで、岐阜西動物病院で、外側に入れてある固定具除去の手術、入院、通院治療を受け、控訴人は、治療費として四万九九七〇円を支払った(甲四〇)。さらに、bは、左後ろ足の内側の手術痕が化膿したため、平成二一年五月三〇日から同年七月八日まで、岐阜西動物病院で、内側に入れてある固定具除去の手術、入院、通院治療を受け、控訴人は、治療費として四万七九八〇円を支払った(甲四〇)。

このように、控訴人は、本件事故によるbの治療費として合計三二万五二六〇円を支払った(甲二〇七)。

(イ) bは、右後ろ足の内側と外側に固定具を装着していて、経過が順調であれば、固定具を除去する手術を受けることになるが、その費用は、一箇所五万円であり、内側と外側の二箇所で一〇万円を要する。bは、平成二一年五月三〇日から七月八日までの間、左後ろ足の内側の固定具除去手術を受け、その時の治療代は、前記のとおり、四万七九八〇円であった。

なお、控訴人は、岐阜西動物病院の医師から、bの左後ろ足内側及び右後ろ足の内側と外側の三箇所の固定具除去手術として合計一五万円を要すると言われていたため、当初、固定具除去手術代として一五万円を主張していた。」

(11)  原判決五頁一三行目と一四行目の間に、以下を加える。

「エ 以上によれば、本件事故による損害の合計は、支払済みの治療費三二万五二六〇円、固定具除去手術の予定価格一〇万円、本件フレキシリード代四六八〇円、慰謝料八〇万円の合計一二二万九九四〇円となるが、請求の趣旨(一二三万一九六〇円)については減縮しない。」

第三当裁判所の判断

一  前提事実に加え、証拠<省略>によれば、以下の事実を認めることができる。

(1)  控訴人は、平成二〇年七月九日、aホームセンターにおいて、本件フレキシリードを四六八〇円で購入し、飼い犬であるbを散歩させる際、本件フレキシリードを使用するようになった。

本件フレキシリードのリード部分の長さは約八メートルで、握り手の所にブレーキボタンが装着され、内部にはリール(回転盤)があり、リードを巻き取るようになっていた。リールには八枚の歯がついていて、ブレーキボタンを押すと、ブレーキボタンの内部の先端とリールの歯とがかみあってリールの回転を止め、リードが伸びないようになっていた。また、ブレーキをロックするには、ブレーキボタンを押しながら、ブレーキボタンの横に設置されたロックボタンをスライドさせて行うようになっていた。

(2)  控訴人は、平成二〇年七月一五日の朝、本件フレキシリードを使用してb(本件事故当時、体重二四kg、体長約七〇cm、体高約五〇cm、推定七歳の雄)を散歩に連れて行き、右手に川を見ながら、川沿いの土手を歩き、本件事故の現場である車道と交差する所に出た。この車道の幅は、約八mである。

控訴人は、車道を横切るため、bを制止して左右の安全を確認した。その際、控訴人は、右手に便を入れるための袋を持ち、左手で本件フレキシリードを持って、左手の親指でブレーキボタンを押していた。また、この時、本件フレキシリードのリードは、ほとんど巻き戻っていた。

控訴人は、車道を横断するため、右寄りに体を向け、かつ、左手の親指で、ブレーキボタンを押しながらロックボタンをスライドさせようとしたところ、bが、突然、車道の左側に方向転換して、車道の反対側にいたラブラドール犬(Bが飼っている「c」という名前の黒い犬。以下「c」という。)めがけて走り出した。この時、控訴人とbが立っていた位置からcまでの距離は約一八mであった。

控訴人は、bが突然走り出したため、四五度くらい左の方向に振られ、かつ、左手に持っていた本件フレキシリードのリードが伸びていった。控訴人は、リードが伸びていったので、リードの伸びを止めようと、本件フレキシリードのブレーキボタンを押し続けたが、カタカタという音がするだけで、ブレーキは掛からなかった。控訴人は、bを止めようと、左手を前にした状態でbの後を追い、そのまま車道を横断した。この時点で、本件フレキシリードのリードは、伸びきった状態であった。

(3)  bは、車道を横断し、cに向かって走っていたが、足元に側溝があったことから、それを飛び越えるためジャンプしようとした。この時、控訴人は、cが放し飼いで、しかも、bよりも体格が大きいことから、このままbがcに近づくと、cにかまれるかもしれないと判断し、bが側溝を飛び越えないよう、体を踏ん張り、左手に持っていた本件フレキシリードがこれ以上引っ張られないようにした。そのため、bは、首輪に引っ張られて上体が持ち上がり、左右の後ろ足で突っ立った状態になり、体がねじれたように反り返って仰向けに倒れた。

bは、その場に立ち上がったものの、右後ろ足を上げたまま、三本の足で歩いていた。

(4)  控訴人は、翌日も、bが右後ろ足を上げたままの状態で歩いていたことから、岐阜西動物病院にbを連れて行き、診察を受けたところ、右後ろ足の「前十字靱帯断裂」と診断され、さらに、右後ろ足だけでなく、左後ろ足も靱帯が切れるおそれがあると言われた。bは、平成二〇年七月二四日、岐阜西動物病院で右後ろ足の手術を受け、そのまま入院した。

控訴人は、平成二〇年七月二六日、岐阜西動物病院から連絡を受けてbを引き取り、bとともに自宅に帰ったが、bは、控訴人宅の玄関の段差でつまづき、そのまま玄関に座り込んだ。控訴人は、bを連れて再び岐阜西動物病院に赴き、診察を受けたところ、左後ろ足の前十字靱帯断裂と診断され、bは、平成二〇年七月三一日、岐阜西動物病院で左後ろ足の手術を受けた。

二  本件フレキシリードの欠陥について

(1)  前記認定事実にあるように、控訴人は、bとともに立ち止まって車道の安全確認をし、車道を横切ろうとした時に、bが突然走り出して、本件フレキシリードのリードが伸びたため、リードの伸びを止めようと、本件フレキシリードのブレーキボタンを押し続けたが、カタカタという音がするだけで、ブレーキは掛からず、そのままリードが伸びきった状態になっている。そして、前記認定事実及び証拠<省略>によれば、本件フレキシリードのリールが高速で回転した場合、リールがぶれて、ブレーキボタンを押しても、ブレーキボタンの内部の先端がリールの側面を滑るだけで、それ以上押し込むことができず、その結果、リールの歯とかみあわなくなったものと推認することができる。

本件フレキシリードのような製品は、散歩の最中等に飼い犬の行動を制御したり、誘導したりするとともに、飼い犬が突然人や動物等に向かい、人や動物等に危害を加えることを防止するため、素早くブレーキを掛けて、リードが伸びるのを阻止し、これにより飼い犬を制止させようとするものである。そのため、飼い犬が突然走り出したような場合、ブレーキボタンを押すことにより、リードの伸びを素早くかつ確実に阻止し、走り出した飼い犬を制止できるようなものでなければならない。しかるに、前記認定事実にあるように、本件フレキシリードは、ブレーキボタンを押しても、ブレーキボタンの内部の先端とリール(回転盤)の歯とがかみあわず、カタカタという音がするだけで、ブレーキが掛からなかったのであるから、ブレーキボタンがブレーキ装置として本来備えるべき機能を有せず、安全性に欠けるところがあったといわざるを得ない。

したがって、本件フレキシリードには、製造物責任法三条にいう「欠陥」があり、控訴人が主張するその余の欠陥について判断するまでもなく、被控訴人は、同条三条による損害賠償責任を負うというべきである。

(2)ア  これに対し、被控訴人は、本件フレキシリードのブレーキボタンを押すために必要な力は、他の商品のボタンを押すために必要な力と比べても、大きな力を要するわけではないし、内部のリール(回転盤)は高速回転によってもぶれることはないから、ブレーキボタンの機能に欠陥はないと主張する。

証拠<省略>によれば、飼い犬が時速一〇~一五kmで走行した場合を前提に、本件フレキシリードのリードの長さに応じて、ブレーキの機能を実験調査したところ、いずれも良好との結果が出ていることが認められる。しかし、前記認定事実及び証拠<省略>によれば、本件事故時、bは、時速三〇km前後の速度で走行していたと認められるから、上記実験調査は、その前提を異にしているし、しかも、上記実験調査は、走行中の犬を止めるため、リードを引っ張った時に、犬の後ろ足が負傷するかどうかに関するものであるから、上記証拠<省略>から、直ちに本件フレキシリードのブレーキボタンに欠陥のないことが導かれるわけではない。

また、本件フレキシリードのブレーキボタンを押すため、大きな力を要するわけではないとの点も、飼い犬が通常の速度で歩いている場合を前提としていると考えられ、本件事故のように、高速でリールが回転している場合についても、このようにいえるのかどうかまでは明らかではない。

したがって、これらの主張によっても、前記認定事実を覆すものではない。

イ  また、被控訴人は、当審において、本件事故の際に、本件フレキシリードのブレーキが掛からなかったのは、控訴人が本件フレキシリードの使い方に慣れておらず、本件フレキシリードのブレーキボタンを正確に押せていなかったためであると主張する。

前提事実及び証拠<省略>によれば、本件事故時、控訴人が本件フレキシリードを使用したのは、三回目であったことが認められるが、すでに認定したように、リードが伸びるのを止めるには、ブレーキボタンを押すだけであるから、ブレーキボタンの操作が難しいわけではないし、すでに判示したように、本件事故の際、本件フレキシリードのブレーキが掛からなかったのは、リールが高速で回転してぶれ、ブレーキボタンの内部の先端を押し込むことができず、リールの歯とかみあわなくなったためであるから、控訴人のブレーキボタンの操作に問題があったとは考えられない。乙二も、以上の認定判断を左右するものではない。

したがって、上記被控訴人の主張を採用することはできない。

三  本件事故による損害について

(1)  前記認定事実及び証拠<省略>によれば、bは、本件事故により、両後ろ足の前十字靱帯断裂の傷害を負ったことが認められる。

もっとも、左後ろ足の前十字靱帯断裂は、平成二〇年七月二六日に岐阜西動物病院から自宅に戻った際、玄関でつまづいたことによるものであるが、前記認定事実にあるように、控訴人が、本件事故の翌日にbを岐阜西動物病院に連れて、診察を受けた時点で、医師から、左後ろ足の靱帯も切れるおそれがあると言われていて、bのように四本足での歩行が困難になった場合、歩行中につまづくことは通常生じうるところであるから、左後ろ足の前十字靱帯断裂についても、本件事故による傷害と認められる。

(2)  証拠<省略>によれば、bは、本件事故により、平成二〇年七月一六日から同年一二月三一日まで、岐阜西動物病院で両後ろ足の前十字靱帯断裂の手術、入院、通院治療を受けたこと、その後、左後ろ足の外側の手術痕が化膿し肉汁が出たため、平成二一年一月一七日から同年二月七日まで、岐阜西動物病院で、外側に入れてある固定具除去の手術、入院、通院治療を受けたこと、さらに、左後ろ足の内側の手術痕が化膿したため、平成二一年五月三〇日から同年七月八日まで、岐阜西動物病院で、内側に入れてある固定具除去の手術、入院、通院治療を受けたこと、控訴人は、これらの治療費として合計三二万五二六〇円を支払ったこと、bは、現在、右後ろ足の内側と外側に固定具を装着していて、経過を見ながら、いずれ固定具を除去する手術を受ける必要があること、その費用は、一箇所五万円で、内側と外側の二箇所で一〇万円を要することが認められる。

したがって、本件事故によるbの治療費の合計は、四二万五二六〇円となる。

(3)  前記認定事実に加え、証拠<省略>によれば、控訴人は、本件フレキシリードについて調査するため、これを調査機関に提供し、その結果、壊れて使用不能になったこと、本件フレキシリードの購入代金は四六八〇円で、控訴人は、本件事故までに、三回本件フレキシリードを使用していたことが認められるから、本件フレキシリードの購入代の半額(二三四〇円)をもって、本件事故による損害と認めるのが相当である。

(4)  前記認定事実に加え、証拠<省略>によれば、控訴人は、本件事故後、夫の協力を得ながら、歩行が困難になったbの面倒をみるとともに、これまでに、bのリハビリに必要な車椅子を四台製作していること、現在もbの両後ろ足には固定具が装着されていて、今後も、bの面倒をみていかなければならないこと、bは、控訴人夫婦の家族の一員として扱われてきていることが認められるから、控訴人は、bが本件事故に遭ったことで、精神的苦痛を被ったことが認められる。そして、すでに認定した事実に照らせば、控訴人が被った精神的苦痛を慰謝するには三〇万円が相当である。

(5)  以上によれば、本件事故による損害の合計は、七二万七六〇〇円となる。

したがって、控訴人は、被控訴人に対し、製造物責任法三条に基づき、七二万七六〇〇円の損害賠償とこれに対する本件事故後である平成二一年五月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。

四  よって、控訴人の請求を全部棄却した原判決は一部失当であり、本件控訴は、上記の限度で理由があるので、原判決を変更して、上記の限度で控訴人の請求を認め、その余の請求を棄却することとする。

(裁判長裁判官 渡辺修明 裁判官 嶋末和秀 末吉幹和)

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