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名古屋高等裁判所 平成22年(ネ)414号 判決 2010年12月10日

主文

1  原判決を取り消す。

2  本件(次項の部分を除く。)を名古屋地方裁判所に差し戻す。

3  1審原告らの1審被告Y5、1審被告Y6、1審被告Y7、1審被告Y8、1審被告Y9及び1審被告Y10に対する本件各訴えをいずれも却下する。

4  前項に関する訴訟費用は、第1、2審を通じ、1審原告らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  1審原告ら

(1)  原判決中、1審原告ら敗訴部分(原判決主文第1項)を取り消す。

(2)  原判決別紙物件目録記載の各不動産が、被相続人Aの遺産であることを確認する。

(3)  訴訟費用は、第1、2審を通じ、1審被告らの負担とする。

2  1審被告Y1

(1)  原判決中、1審被告Y1敗訴部分(原判決主文第2項)を取り消す。

(2)  1審原告X1は、1審被告Y1に対し、原判決別紙物件目録記載11の建物のうち、東側部分(床面積40.50平方メートル)を明け渡せ。

(3)  1審原告X1は、1審被告Y1に対し、平成16年4月1日から前項の建物部分の明渡済みに至るまで1か月金3500円の割合による金員を支払え。

(4)  訴訟費用は、第1、2審を通じ、1審原告X1の負担とする。

第2事案の概要(略語及び書証の表記は、当審で定義するほか、原判決の例による。)

1  本件は、(1)1審原告らが、被相続人亡A(亡A)の遺産分割が未了であるなどとして、1審被告ら(なお、1審被告らのうち、1審被告Y5及び1審被告Y6は、原判決別紙物件目録記載2及び同記載3の各不動産の登記簿上の所有者(共有者)、1審被告Y7、1審被告Y8及び1審被告Y9は、同目録記載4の不動産の登記簿上の所有者(共有者)、1審被告Y10は、同目録記載5の不動産の登記簿上の所有者であって、いずれも亡Aの共同相続人〔死亡した共同相続人の単独相続人又は共同相続人を含む。以下、同じ。〕ではない。また、1審原告らは、1審被告らのほか、相共同相続人であるY13(以下「1審相被告Y13」という。)、Y14(以下「1審相被告Y14」という。)、Y15(以下「1審相被告Y15」という。)及びY16(以下「1審相被告Y16」という。)を共同被告として、平成18年(ワ)第2708号事件に係る訴えを提起したが、上記訴えが適法に係属した後である平成18年11月14日、1審相被告Y13、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16に対する訴えを取り下げる旨記載した同月13日付け一部取下書を原審に提出し、1審相被告Y13は、同月15日、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16は、同月24日、それぞれ1審原告らの訴え取下げに同意する旨記載した各訴え取下げ同意書を原審に提出した。)に対し、原判決別紙物件目録記載の各不動産が被相続人亡Aの遺産であることの確認を求めており(平成18年(ワ)第2708号事件)、(2)1審被告Y1が、1審原告X1に対し、原判決別紙物件目録記載11の建物(本件建物)については、遺産分割協議を経るなどして、1審被告Y1が所有権を取得したところ、その東側部分(床面積40.50平方メートル)(1審原告X1占有部分)を1審原告X1が権限なく占有しているとして、その明渡しとその使用損害金の支払を請求している(平成19年(ワ)第1143号事件)事案である。

原審は、1審原告らの1審被告らに対する各請求及び1審被告Y1の1審原告X1に対する請求をいずれも棄却した。

1審原告ら及び1審被告Y1は、それぞれその敗訴部分を不服として、本件各控訴を提起した。

2  争いのない事実等及び争点(争点に対する当事者の主張を含む。)

次のとおり原判決を補正するほか、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1」及び「2」記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 原判決書4頁26行目、11頁10行目、12頁3行目、同頁16行目の各「訴外亡D」をいずれも「亡D」と、5頁1行目、同頁13行目、11頁10行目、12頁3行目から4行目、同頁7行目、同頁16行目の各「訴外E」をいずれも「1審相被告Y13」と、5頁17行目の「訴外M」を「1審相被告Y14」と、5頁18行目、同頁19行目から20行目の各「訴外N」をいずれも「1審相被告Y15」と、5頁18行目、同頁20行目の各「訴外O」をいずれも「1審相被告Y16」とそれぞれ改める。

(2) 原判決書5頁22行目の末尾の次に、行を改めて、次のとおり加える。

「 亡Dは、平成16年3月28日死亡し、1審相被告Y13が単独相続した。」

(3) 原判決書5頁26行目の「原告Y1」を「1審被告Y1」と改める。

(4) 原判決書6頁1行目から同頁2行目を次のとおり改める。

「ウ 1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16は、平成12年6月10日、亡A及び亡Bの各相続財産についての各相続分全部を亡Kの相続人である1審被告Y2、1審被告Y1、1審被告Y3及び1審被告Y4に譲渡した。

エ 亡D及び1審相被告Y13は、平成15年5月12日、亡A及び亡Bの各相続財産についての各相続分全部を1審被告Y2及び1審被告Y1に各2分の1宛譲渡した。

オ 1審原告らは、平成18年(ワ)第2708号事件が係属した後である平成18年11月14日、同事件に係る1審相被告Y13、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16に対する各訴えをいずれも取り下げる手続をした。」

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は、①原判決は、共同相続人である1審相被告Y13、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16に対する訴え取下げが効力を生じないことを看過してされたものであって、1審原告らの1審被告Y1、1審被告Y2、1審被告Y3、1審被告Y4及び1審被告Y11に対する本件訴えに係る原審の訴訟手続は違法であるから、同部分に関する原判決を取り消して、事件を第1審裁判所に差し戻すのが相当であり、②1審原告らの1審被告Y5、1審被告Y6、1審被告Y7、1審被告Y8、1審被告Y9及び1審被告Y10に対する本件各訴えは、いずれも訴えの利益を欠き、不適法であるから、同部分に関する原判決を取り消して、上記各訴えを却下すべきであり、③1審被告Y1の1審原告X1に対する請求については、前記①と整合的・統一的に解決すべきであって、第1審において、更に弁論をする必要があるから、1審被告Y1の上記請求に係る部分に関する原判決も取り消して、事件を第1審裁判所に差し戻すのが相当であると判断する。その理由は、以下のとおりである。

2  1審原告らの本件訴えについて

(1)  遺産確認の訴えは、特定の財産が現に被相続人の遺産に属すること、換言すれば、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えとして、適法であるが(最高裁判所昭和57年(オ)第184号同61年3月13日第1小法廷判決・民集40巻2号389頁)、かかる訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解すべきであり(最高裁判所昭和60年(オ)第727号平成元年3月28日第3小法廷判決・民集43巻3号167頁)、また、固有必要的共同訴訟である遺産確認の訴えの係属中にした共同被告の一部に対する訴えの取下げは、効力を生じないというべきである(最高裁判所平成5年(オ)第641号同6年1月25日第3小法廷判決・民集48巻1号41頁)。

(2)  これを本件についてみるに、前記第2の1で説示したところ(記録から明らかな事実関係)及び前記争いのない事実等によれば、①亡Aの共同相続人は、1審原告ら、1審被告Y1、1審被告Y2、1審被告Y3、1審被告Y4、1審被告Y11、1審相被告Y13、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16であること、②1審原告らは、1審被告らのほか、1審相被告Y13、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16を共同被告として、平成18年(ワ)第2708号事件に係る訴えを提起し、上記訴えが適法に係属した後である平成18年11月14日、1審相被告Y13、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16に対する訴えを取り下げる旨記載した同月13日付け一部取下書を原審に提出し、1審相被告Y13は、同月15日、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16は、同月24日、それぞれ1審原告らの訴え取下げに同意する旨記載した各訴え取下げ同意書を原審に提出したことが認められる。

ところで、前記争いのない事実等によれば、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16は、平成12年6月10日、亡A及び亡Bの各相続財産についての各相続分全部を亡Kの相続人である1審被告Y2、1審被告Y1、1審被告Y3及び1審被告Y4に譲渡したこと、亡D及び1審相被告Y13は、平成15年5月12日、亡A及び亡Bの各相続財産についての各相続分全部を1審被告Y2及び1審被告Y1に各2分の1宛譲渡したこと、亡Dは、平成16年3月28日死亡し、1審相被告Y13が単独相続したことも認められるが、相続放棄とは異なり、相続分の譲渡に遡及効はなく、これにより、1審相被告Y13、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16が亡Aの共同相続人としての地位を喪失するものとはいえず、したがって、同人らは、遺産確認の訴えにおける当事者適格を喪失したということもできない。

そうすると、1審原告らは、1審被告Y1、1審被告Y2、1審被告Y3、1審被告Y4、1審被告Y11、1審相被告Y13、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16に対する訴えが、固有必要的共同訴訟である遺産確認の訴えとして適法に係属した後、1審相被告Y13、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16に対する訴えの取下げをしたものであって、このような固有必要的共同訴訟の係属中にした共同被告の一部に対する訴えの取下げが効力を生じないことは、前記(1)のとおりであるから、1審原告らの1審相被告Y13、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16に対する上記訴えの取下げは、その効力を生じなかったものと解するほかはない。

そして、記録によれば、原審は、1審原告らの1審相被告Y13、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16に対する上記訴えの取下げが効力を生じたことを前提として、審理及び判決をしたものであって、原判決は、共同相続人である1審相被告Y13、1審相被告Y14、1審相被告Y15及び1審相被告Y16に対する訴え取下げが効力を生じないことを看過してされたものというべきである。したがって、1審原告らの1審被告Y1、1審被告Y2、1審被告Y3、1審被告Y4及び1審被告Y11に対する本件訴えに係る原審の訴訟手続は、法律に違反したものといわざるを得ず、同部分に関する原判決を取り消して、事件を第1審裁判所に差し戻すのが相当である。

(3)  遺産確認の訴えが前記(1)の性質を有するものである以上、共同相続人でなく、遺産分割の当事者となり得ない者に対し、特定の財産が現に被相続人の遺産に属すること(当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあること)の確認を求めることについて、訴えの利益を認めることはできないというべきである。けだし、特定の財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあるか否かにより、共同相続人のうちのある者と共同相続人でない第三者との法律関係が影響を受ける場合があるとしても、当該共同相続人は、当該第三者との間でその権利義務に関する限りの個別的、相対的な解決を求めれば足り、それを超えて特定の財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることを確認する利益があるとは認められないからである。

そうすると、1審原告らの1審被告Y5、1審被告Y6、1審被告Y7、1審被告Y8、1審被告Y9及び1審被告Y10に対する本件各訴えは、いずれも訴えの利益を欠き、不適法であるといわざるを得ない。

3  1審被告Y1の1審原告X1に対する請求について

1審被告Y1の1審原告X1に対する請求は、平成18年(ワ)第2708号事件における1審被告らの主張(本件建物を含む原判決別紙物件目録記載の各不動産について、遺産分割協議又は取得時効が成立しているというもの)を前提とするものであり、平成18年(ワ)第2708号事件(1審被告Y5、1審被告Y6、1審被告Y7、1審被告Y8、1審被告Y9及び1審被告Y10に関する部分を除く。)と整合的・統一的に解決するため、第1審において更に弁論をする必要があるというべきであるから、1審被告Y1の上記請求に係る部分に関する原判決についても、これを取り消して、事件を第1審裁判所に差し戻すのが相当というべきである。

4  結論

以上のとおりであるから、原判決を取り消した上、1審原告らの1審被告Y5、1審被告Y6、1審被告Y7、1審被告Y8、1審被告Y9及び1審被告Y10に対する本件各訴えをいずれも却下し、その余の部分につき、本件を名古屋地方裁判所に差し戻すこととし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法67条2項、61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺修明 裁判官 嶋末和秀 末吉幹和)

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