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名古屋高等裁判所 平成22年(ネ)58号 判決 2010年8月20日

名古屋市<以下省略>

控訴人

上記訴訟代理人弁護士

籠橋隆明

吉江仁子

西川研一

小島智史

名古屋市<以下省略>

被控訴人

上記訴訟代理人弁護士

正村俊記

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,控訴人に対し,272万9274円及びこれに対する平成17年2月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

控訴人(一審原告)は,前方の赤信号に従って自動車を停止させていた際,後方から,被控訴人(一審被告)の運転する自動車に追突され,傷害を負ったとして,被控訴人に対し,不法行為に基づく272万9274円の損害賠償とこれに対する上記事故の日の翌日である平成17年2月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。これに対し,被控訴人は,上記事故により控訴人に新たな傷害は発生していないし,上記事故と損害との間に因果関係もないと主張した。

原審は,上記事故により,控訴人に新たな傷害は発生していないとして,控訴人の請求を棄却した。そこで,控訴人は,これを不服として控訴した。

1  前提事実

原判決2頁14行目及び17行目の各末尾に「(争いなし)」と加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」「1 前提事実(争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)」記載のとおりであるから,これを引用する。

2  争点

以下のとおり原判決を補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」「2 争点」記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決3頁8行目と9行目の間に,以下を加える。

「⑤ 被控訴人は,本件事故に起因する他覚的所見は認められず,控訴人の症状は単なる愁訴にすぎないと主張する。

しかし,控訴人は,本件事故直後から,腰部に激痛があって(乙16),歩くことができず,この腰部の痛みは,本件事故前にはなかった症状である。また,控訴人は,本件事故後,バレ・リュー症候群と診断され(乙17),本件事故前にはこのような診断を受けていない。さらに,控訴人は,本件事故直後に入院しているし,本件事故後,通院回数が本件事故前よりも増加している。

したがって,控訴人には,本件事故により新たな傷害が発生している。

⑥ 被控訴人は,控訴人車の後方約2.3mの地点でブレーキをかけていた(甲2)。また,本件事故現場の路面はアスファルトで,本件事故当時の天候は晴れていたため,路面は乾燥していた。そして,2.3mを停止距離,乾いたアスファルトの摩擦係数0.7,通常人の平均的な反応時間を0.75秒とすると,以下のとおり,被控訴人車の速度は8.9kmとなる。

車の停止距離=空走距離+制動距離

空走距離=速度km/3600×反応時間0.75秒

制動距離=速度の2乗/(2×9.8×摩擦係数)

2.3m=x/3600×0.75+(x/3600)の2乗/(2×9.8×0.7)

x=8.9」

(2)  原判決3頁10行目「被告車は,ブレーキペダルから足が離れたため前進して」とあるのを,以下とおり改める。

「 被控訴人は,赤信号のため本件事故現場で停止していた控訴人車の後方約2.3mの地点で被控訴人車をいったん停止させたが,助手席の荷物に気を取られ,ブレーキから足が離れたため,被控訴人車が前進し,」

第3争点に対する判断

1  当裁判所も,控訴人の本件請求は認められないと判断する。その理由は,以下のとおり原判決を補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決4頁26行目「23~26」を,「20ないし26」と改める。

(2)  原判決6頁25行目から7頁1行目までを,以下のとおり改める。

「エ 前件事故による傷害について症状が固定したのは,平成16年6月1日で(乙13),後記キにあるように,本件事故後の症状と前件事故後の症状とは,おおむねその部位や種類を共通にしていた。」

(3)  原判決8頁19行目の冒頭に「ア」を加える。

(4)  原判決8頁20行目と21行目の間に,以下を加える。

「 これに対し,控訴人は,本件事故時の被控訴人車の速度が時速8.9kmであったと主張する。

上記主張は,走行していた被控訴人車が控訴人車の後方2.3mの地点でブレーキをかけた場合の速度を算出したものであるところ,前記1(1)カで認定したように,被控訴人は,被控訴人車の後方約2.3mの地点でいったん被控訴人車を停止させ,その後,助手席の荷物に気を取られ,ブレーキから足が離れたため,被控訴人車が発進して(クリープ現象),控訴人車に追突しているから,被控訴人車は,走行中に,控訴人車の後方約2.3mの地点でブレーキをかけたわけではなく,上記主張の速度の算出方法には疑問がある。

したがって,上記主張をもって,前記認定事実を覆すものではない。

イ(ア) 前記(1)クで認定したように,すぎやま病院の医師は,平成17年3月18日,警察からの問い合わせに対し,本件事故後の症状につき,前件事故との因果関係もあり,全体として約4週間の見込みだが,本件事故によるものとして約2週間である旨を回答していて,このことは,本件事故によって控訴人に新たな傷害が発生したことをうかがわせるものといえる。」

(5)  原判決8頁21行目冒頭から22行目「症状固定となったが」までを,以下のとおり改める。

「 しかし,前記(1)で認定したように,控訴人の前件事故による症状は,平成16年6月1日に症状固定となったものの」

(6)  原判決8頁26行目「本件事故の前後において原告の症状の部位及び種類には差がないこと」とあるのを,以下のとおり改める。

「本件事故後の症状は,前件事故後の症状と,おおむねその部位及び種類を共通にしていること」

(7)  原判決9頁2行目「本件事故が」を「本件事故は,」と改める。

(8)  原判決9頁7行目「本件事故によって」から同頁8行目末尾までを,以下のとおり改める。

「本件事故により控訴人に新たな傷害が発生したといえるかどうかには疑問がある。」

(9)  原判決9頁9行目から同頁23行目までを,以下のとおり改める。

「(イ) もっとも,控訴人は,本件事故直後から,腰部に激痛があり,また,本件事故後,バレ・リュー症候群と診断されていて,これらは本件事故前にはなかった症状や診断であり,かつ,本件事故直後に入院し,通院回数も本件事故前よりも増加しているから,本件事故により新たな傷害が発生していると主張する。そして,証拠(乙16,17)によれば,本件事故後,控訴人はすぎやま病院で腰椎挫傷及びバレ・リュー症候群と診断されていることが認められ,証拠(甲9,乙17,20,控訴人本人)には,上記主張に沿う記載及び供述がなされている。

他方,証拠(乙13,18,24ないし26)によれば,控訴人は,前件事故による症状として腰痛を訴えていたこと,平成16年4月5日,前件事故で受診した名古屋市立大学病院で,バレ・リュー症候群の疑いがあると診断されるとともに,本町クリニックの診察録(平成16年5月18日)にもバレ・リュー症候群との記載があることが認められるから,腰部の痛みやバレ・リュー症候群が本件事故によって発生したといえるかどうかには疑問がある。

また,前記(ア)で認定したように,本件事故時の被控訴人車の速度が時速2kmから5km程度であったことからすると,本件事故直後の入院やその後の通院回数の増加が,本件事故による新たな傷害の発生の現れといえるかどうかにも疑問がある。

(ウ) してみると,上記のような事実だけでは,本件事故により控訴人に新たな傷害が発生したとまではいえず,他に控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。

したがって,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の請求を認めることはできない。」

2  よって,本件控訴は理由がないので,これを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺修明 裁判官 嶋末和秀 裁判官 末吉幹和)

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