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名古屋高等裁判所 平成22年(行コ)46号 判決 2011年10月17日

主文

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  処分行政庁が控訴人Aに対して平成21年7月31日付けでした公共下水道事業受益者負担金決定処分を取り消す。

3  処分行政庁が控訴人Bに対して平成21年7月31日付けでした公共下水道事業受益者負担金決定処分を取り消す。

4  処分行政庁が控訴人Cに対して平成21年7月31日付けでした公共下水道事業受益者負担金決定処分を取り消す。

5  処分行政庁が控訴人Dに対して平成21年7月31日付けでした公共下水道事業受益者負担金決定処分を取り消す。

6  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,処分行政庁からそれぞれ公共下水道事業受益者負担金決定処分を受けた控訴人らが,その根拠とされる稲沢中島都市計画稲沢下水道事業受益者負担に関する条例(本件条例)は,憲法14条1項,都市計画法75条1項に違反して無効であり,この条例に基づいてなされた上記各負担金決定処分は違法であるとして,その取消しを求めた事案である。

原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却した。

2  その余の事案の概要は,次のとおり控訴人らの当審における補充主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の第2の2ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決6頁末行の「といることにならず,」を「ということにならず,」に改める。

(控訴人らの当審における補充主張)

(1) 都市計画法75条1項は,同一自治体において同一の利益を受ける者に対し,平等な受益者負担金の賦課を命じていると解すべきところ,住民が受ける利益は,公共下水道の事業規模や投下した費用によって変わるものではないから,同一自治体内において受益者負担金の差異を設けることにつき自治体の裁量を認めた原判決は,同法の解釈を誤ったものである。

(2) 仮に都市計画法75条1項が,同一自治体内の住民間において受益者負担金に差異を設けることを許容しているとしても,本件条例4条は裁量を逸脱したものであり,法の下の平等に反するから,同法75条1項及び憲法14条1項に違反する。

ア 原判決は,旧α町の住民が都市計画税を負担するようになった平成17年度以降も,高額の受益者負担金を維持することを是認するが,このような結果は,平成16年度以前に受益者負担金のみを負担することによって下水道を利用できた旧α町の住民との間に不平等をもたらすことになる。また,本件合併前に受益者負担金を納付した旧α町の住民は,その見返りとして,より長期間にわたって土地の価格の上昇や下水道利用による便益を受けたのであるから,本件合併の前後で受益者負担金の額を同一にするよう配慮する合理的理由はない。

イ 旧α町においては,公共下水道事業の受益者負担金を決定するに際して,旧α町内の農業集落家庭排水処理施設事業の分担金との均衡を図ることが意図されていたところ,旧α町の市街化区域において都市計画税の納付が義務付けられたことにより,農業集落家庭排水処理施設事業の受益者との均衡を図るという立法事実が消滅した。また,同事業については,旧α町内で分担金を平等にすることは既に放棄されており,公共下水道事業についてのみ,本件合併の前後を通じて受益者負担金を平等にすべき理由はない。

ウ 控訴人らが利用する公共下水道が接続する流域下水道であるβ川上流流域下水道に対する旧α町からの年間流入量は,旧稲沢市及び旧γ町よりも小さく,旧α町が負担すべき自治体負担金は最も小さいにもかかわらず,旧α町の土地所有者は多額の受益者負担金を賦課されることになり,不当である。

エ 控訴人ら旧α町の住民に対しては,既に建設した下水道の設備投資の回収のため将来にわたって受益者負担金が必要になるという事前の説明がされておらず,本件条例4条及び本件各処分は,憲法84条の趣旨に抵触するものであり,手続保証の観点からも裁量の逸脱がある。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,本件条例4条は,都市計画法75条1項及び憲法14条1項に違反するものではなく,本件条例4条に基づいてされた本件各処分は適法であって,控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,後記2のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決12頁23行目の「当たられた」を「充てられた」に改める。

2  控訴人らの当審における補充主張について

(1)  控訴人らは,都市計画法75条1項は,同一自治体において同一の利益を受ける者に対し,平等な受益者負担金の賦課を命じており,受益者負担金の差異を設けることにつき自治体の裁量を認めるべきではない旨主張する。

しかしながら,公共下水道事業における受益者負担金は,その処理区域の下水道の利用者に特に便益を与えるものであることに鑑み,事業に要する費用の一部を公共下水道の受益者に分担してもらう趣旨のものであるところ,市町村が必要に応じて複数の公共下水道事業を行った場合,又は独自に公共下水道事業を行っていた市町村が合併した場合には,それぞれの事業に要する費用が異なることになるから,これらの場合には異なる公共下水道事業の受益者の間で受益者負担金の額(算定方法)が異なったとしても,そのことが直ちに都市計画法75条1項又はその趣旨に反するものではない。そして,各公共下水道事業の受益者負担金の算定方法において生じる差異が不合理であり,当該地方公共団体がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して受益者負担金の算定方法を定めたと認められる場合に限り,その定めが憲法14条1項に違反することになると解され,これらのことは原判決が説示するとおりであって,控訴人らの上記主張は採用することができない。

(2)  控訴人らは,前記第2の2(2)のとおり,本件条例4条は,裁量を逸脱したものであり,法の下の平等に反するから,都市計画法75条1項及び憲法14条1項に違反する旨主張するが,以下のとおり,同主張を採用することはできない。

ア 本件合併に際し,都市計画税が賦課されていなかった旧α町の公共下水道事業における受益者負担金を,旧稲沢市及び旧γ町の公共下水道事業における受益者負担金の算定方法と同一になるように統一した場合には,同一の公共下水道事業の受益者であるにもかかわらず,それまで高い割合の受益者負担金を負担していた旧α町の利用者と,本件合併後に受益者負担金を賦課された利用者との間に実質的な不平等が生じ得るから,被控訴人が,このことを考慮して本件条例により従前の受益者負担金の算定方法を維持したことには,合理的な理由が認められる。

控訴人らは,平成16年度以前には受益者負担金のみを負担することによって下水道を利用できたから,本件合併の前後に受益者負担金を賦課された旧α町の利用者間に不平等をもたらすことになる旨主張するが,本件合併前に受益者負担金を賦課された旧α町の利用者も,本件合併後は都市計画税を負担するのであるから,控訴人らが主張するような不平等が生じるものではない。また,同一の公共下水道事業の利用状況は,公共下水道の整備が先行した地域と後れた地域との間で変わるものではないから,本件合併前に負担金を納付した旧α町の利用者がより長期間にわたって公共下水道事業による利益を受けたからといって,本件合併の前後で負担金の額を同一にするよう配慮する合理的理由がないとはいえない。

イ 控訴人らは,旧α町の市街化区域について都市計画税の納付が義務付けられたことにより農業集落家庭排水処理施設事業の受益者との均衡を図るという立法事実が消滅し,また,旧α町内の同事業の受益者間の平等は放棄されているなどとして,公共下水道事業についてのみ本件合併の前後を通じて受益者負担金を平等にすべき理由はない旨主張する。しかしながら,旧α町における公共下水道事業の受益者負担金の算定方法が,農業集落家庭排水処理施設事業における受益者分担金の額を参考にし,その間にできるだけ均衡が図られるように定められたとしても,上記両事業は別個の会計による別個の事業であって,控訴人らの主張する事情は,本件合併の前後に受益者負担金を賦課された公共下水道の利用者間の実質的平等を考慮することに合理的な理由があるとの判断に影響するものとは認め難い。

ウ 控訴人らは,β川上流流域下水道について旧α町が負担すべき自治体負担金は最も小さい旨主張するが,公共下水道事業に要する費用は,流域下水道についての負担金に尽きるものではない上,上記事情は,本件合併の前後に受益者負担金を賦課された利用者間の実質的平等を考慮することに合理的な理由があることを否定すべきものでもない。

エ 控訴人らは,本件条例4条及び本件各処分は,憲法84条の趣旨に抵触するものであり,手続保証の観点からも,裁量の逸脱がある旨主張するが,旧α町の住民に対して,既に建設した下水道の設備投資の回収のため,将来にわたって受益者負担金が必要になるという事前の説明をすべきことが,憲法84条によって要請されていると解することは困難であり,手続保証の点で控訴人らが主張するような裁量の逸脱があると認めることはできない。

オ その他控訴人らが主張する点を勘案しても,本件条例4条が裁量を逸脱したものであって都市計画法75条1項及び憲法14条1項に反すると認めることはできない。

第4結論

よって,原判決は相当であり,本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村直文 裁判官 朝日貴浩 裁判官 内堀宏達)

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