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名古屋高等裁判所 平成22年(行コ)47号 判決 2011年8月24日

主文

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

主文同旨

2  被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,被控訴人が,処分行政庁に対し,愛知県情報公開条例(平成12年愛知県条例第19号。以下「条例」という。)に基づいて,「発達障害等を有すると考える児童生徒に対する指導助言が記載されている文書」の開示を請求したところ,処分行政庁から,当該行政文書があるかないかを答えるだけで個人情報(条例7条2号)を開示することになるとして,条例10条に基づき当該文書の存否を明らかにしないで被控訴人の開示請求を拒否する決定を受けたため,その取消しを求める事案である。

原審が被控訴人の請求を認容したため,控訴人が本件控訴に及んだ。なお,控訴人は,当審において,処分理由を追加し,条例7条2号本文後段,同条6号本文に該当する事由があると主張している。

2  関係法令等の定め,前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり原判決を訂正し,当審における主張を付加するほか,原判決第2の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の訂正)

(1) 原判決13頁2行目の「(以下省略)」を次のとおり改める。

「イ 法令若しくは条例の定めるところにより又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報

ロ 人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報

ハ 当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第2項に規定する特定独立行政法人の役員及び職員を除く。),独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号)第2条第1項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)の役員及び職員,地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員並びに地方独立行政法人の役員及び職員をいう。)である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員等の職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分(当該公務員等の氏名に係る部分を公にすることにより当該個人の権利利益を不当に害するおそれがある場合及び当該公務員等が規則で定める職にある警察職員である場合にあっては,当該公務員等の氏名に係る部分を除く。)

ニ 当該個人が,実施機関が行う事務又は事業で予算の執行を伴うものの相手方である場合において,当該情報がこの条例の目的に即し公にすることが特に必要であるものとして実施機関の規則(警察本部長にあっては,公安委員会規則。第23条第2項及び第3項並びに第27条において同じ。)で定める情報に該当するときは,当該情報のうち,当該相手方の役職(これに類するものを含む。以下同じ。)及び氏名並びに当該予算執行の内容に係る部分(当該相手方の役職及び氏名に係る部分を公にすることにより当該個人の権利利益を不当に害するおそれがある場合にあっては,当該部分を除く。)

(3号ないし5号省略)

6号 県の機関又は国,独立行政法人等,他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該業務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの

イ 監査,検査,取締り又は試験に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ

ロ 契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ

ハ 調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ

ニ 人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ

ホ 国若しくは地方公共団体が経営する企業又は独立行政法人等若しくは地方独立行政法人に係る事業に関し,その企業経営上の正当な利益を害するおそれ」

(2) 原判決4頁20行目冒頭から5頁22行目末尾までを次のとおり改める。

「ア 知的な遅れのない発達障害者も含め,特別な支援を必要とする生徒が在籍する愛知県立高等学校においては,特別な支援を必要とする生徒の存在や状態を確認する際に作成された記録やこれらの生徒に対する指導,助言などの本件文書に該当すると考えられる文書が存在する。

愛知県教育委員会は,被控訴人から開示の請求を受けた文書について,処務規程10条に従い,対象とされた各高等学校(68校)の校長の専決により不開示決定を行ったが,その理由は以下のとおりである。

まず,愛知県教育委員会は,情報公開条例に基づく事務を効率的に処理するため,その権限を部下の職員に委任して行わせているが,これは,愛知県教育委員会の各部署ならびに各地方機関(県立高校を含む)が管理する膨大な行政文書に関して行われる情報公開条例に基づく事務の全てを,条例上の実施機関である愛知県教育委員会が直接行うことは,事実上不可能であることから,その権限を内部的に委任して,自己の権限に属する事務の一部を部下の職員に行わせるもので,その行為は,あくまでも愛知県教育委員会の名と責任において行われるものである。

そして,愛知県教育委員会は,愛知県の県立学校が保管する行政文書の開示決定等に関することについて,当該県立学校校長の専決事項とすることを定めている(処務規程10条)。

被控訴人は,「地区校長会を特別支援学校で開催しない地区高等学校に限る」との限定を付けて,「発達障害等を有すると考える児童生徒に対する指導助言が記載されている文書(平成14年度から21年度まで)」の開示を求める開示請求書を,愛知県教育委員会に提出したが,愛知県立の高等学校のうち「地区校長会を特別支援学校で開催しない地区(の)高等学校」は68校あることから,上記開示請求に関する不開示決定は,いずれも上記68校の各校長が専決によって行ったものである。(なお,本訴の対象となっている愛知県立B高等学校以外の67校については,その不開示決定は,全て確定している。)

そうであるところ,上記処務規程に従い,各校長が専決で決定する場合,各県立学校ごとに決定通知書が作成されることとなるため,連絡先として,当該県立学校の学校名,電話番号を記載しなければならず,また,文書が不存在である場合には,論理上,不存在による不開示決定がなされるべきことになるから,仮に「発達障害等を有すると考える児童生徒に対する指導助言が記載されている文書」を保管している各県立高等学校が,先に述べた条例7条2号本文後段もしくは同条6号本文に基づいて全部不開示決定をすると,どの県立高等学校に,対象となる「発達障害等を有すると考える児童生徒」が在籍しているか(あるいは在籍していたか)がわかってしまうこととなる。

そして,発達障害等により特別な配慮を要する生徒は,その特有の行動特徴により,他の生徒と容易に区別されるのであるから,たとえその氏名や人数が開示されなかったとしても,当該生徒が在籍する学校の他の生徒や保護者等,学校関係者にとっては,容易に,当該生徒を特定できることとなり,その結果,本来,不開示情報とされるべき個人情報(以下「個人識別情報」という。)を開示したと同様の結果を招来してしまうのである(条例7条2号本文前段)。

上記のような次第で,愛知県教育委員会としては,被控訴人の本件開示請求に対し,その対象とされた各高等学校(68校)の校長の専決により条例10条に基づき,「行政文書があるかないかを答えるだけで個人情報を開示することとなるため,開示請求に係る行政文書があるともないとも答えることができない。」という内容の存否応答拒否の不開示決定を行った。

イ 愛知県教育委員会が,処務規程において,愛知県公立学校に関する条例11条に規定する行政文書の開示の請求に対する決定等に関することを愛知県公立学校の校長の専決事項として定めたのは,以下の理由に基づくものである。

① 県立学校が保有する行政文書に対する開示請求については,情報公開制度を利用する県民の利便性を考慮に入れて決める必要がある。すなわち,仮に,県立学校における情報公開事務を本庁各課で行う場合を想定すると,本庁の所在地である名古屋市に住む県民にとっては支障は生じないものの,名古屋市以外の地域に住む多くの県民にとっては,地元の県立学校の保管文書について閲覧したいという場合に,名古屋市まで足を運ばなければならず,かえって不便になってしまう。

② 開示請求者は,単に文書を見たいというだけではなく,担当者から説明を受けたいと考えていることが多い。したがって,開示に当たっては,担当者が対象行政文書を開示請求者に見せながら文書の内容についても説明するのが普通であり,開示請求者から質問があればそれに対する回答も行っている。開示の実施に要する時間としては,開示請求の内容にもよるが,通常は,30分から1時間程度をかけている。このような開示文書に関する説明は,対象行政文書を保有する機関において,最も適切に行うことができるものである。

③ そもそも情報公開においては,対象行政文書を保有する機関が,最も適切に開示・不開示の判断ができるものである。特に学校においては,生徒や保護者と日常的に接している学校現場の担当者が最も適切な判断を行いうると考えられる。

④ 県立学校で保有している行政文書について,仮に本庁で開示・不開示の判断を行うことになると,対象行政文書の移動を行わなければならず,移動の際の盗難・紛失等の危険を伴うことになる。特に,開示の実施の際に,全部開示の文書を閲覧に供する場合には,行政文書の写しではなく,「原則として原本を閲覧に供する」こととされていることから(「愛知県教育委員会情報公開事務取扱要領」(平成17年3月31日付け16教総第732号教育長通知)第3 4(3)ア),原本の本庁への持ち出しが不可欠の行為となる。通常,行政機関においては,行政文書の原本を外部に持ち出すことは行っていない。それは,万が一にも文書の盗難・紛失等の事故が発生した場合には,取り返しのつかない事態になるからである。また,行政文書の移動に伴う人件費や旅費の負担などの経費負担が増大することも,軽視できない。

これらの理由から,愛知県教育委員会は,本庁各課と県立学校とが事務分担するという意味で,実施機関の権限を,県立学校の校長に内部委任しているものであり,現行の制度は,制度全体のバランスを考慮に入れて制度設計がなされているものであって,合理的なものというべきである。

大量の行政文書に対する情報公開事務の遂行する事務を全て実施機関である愛知県教育委員会という非常置の合議体が行うことは事実上不可能であって,実施機関の有する権限を内部委任して,専決で取り扱うことに,何ら問題はない。仮に,開示・不開示に関する決定事務だけを実施機関が行うとしても,非常置の合議体である教育委員会が,機動性の要求される決定事務を(たとえその一部だけでも)行うとすることは,無理がある。(実際に,47都道府県のうち45の都道府県において,地方機関の文書に関する専決権を,当該地方機関に与えている。)情報公開請求権は,条例によって創設されるものである。そして,そのような権利を創設する際,いかなる制度設計をするかについては,条例を制定した地方公共団体の裁量に委ねられるべきものである。このような見地から,実施機関の権限を内部委任する際の制度設計についても,当該地方公共団体の実態に即し,その裁量に委ねられるべきものであって,その制度設計が著しく不合理で裁量の範囲の逸脱もしくは濫用と認められるものでないかぎり,その内部規則に従って事務処理がなされることに,何ら違法の問題は生じないというべきである。

ウ 本件事案においては,各県立学校ごとに応答するか否かによって,全部不開示という結論に変わりはないから,各県立学校ごとに,各校の校長専決により決定をしたとしても,条例の趣旨に反することはなく,これを回避する必要は全くない。」

(控訴人の当審における主張)

(1) 本件文書は条例7条2号本文後段,同条6号本文に該当する不開示文書である。

被控訴人が開示を求めた発達障害等を有すると考える児童生徒に対する指導助言が記載されている文書(本件文書)は,次のとおり,本来,条例7条2号本文後段,同条6号本文に該当する不開示文書である。

ア 本件文書には,個々の当該生徒ごとに,本人の特性や当該生徒に特徴的な言動,それによって惹起される状況等が,具体的かつ詳細に記載される。また,この記録には,当該生徒本人やその保護者との間の面談の内容が記録され,当該生徒や保護者の気持ちや生活状況等が具体的かつ詳細に記載される。さらに,当該生徒の指導においては,必要に応じて,臨床心理士や専門医の助言を受けるなど,専門機関との連携を図ることがあるが,その際に専門機関から受けた当該生徒一人一人に対応する助言の内容や,当該生徒だけでなく,その関係者を含めた生活環境についての具体的な支援方法が記録される。

イ ところで,条例7条2号本文後段は,個人情報のうち,特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがある情報を,不開示とすべき情報と定めている。

この規定は,特定の個人が識別されない情報であって,公にすることにより,人格的・財産的な権利利益等個人の権利利益を害するおそれがあるもの(例えば,個人の未発表論文やカルテなど個人の人格に密接に関連する情報等がこれにあたる。)については,仮に,特定の個人が識別されないとしても,なお,保護する必要性があることから,条例は,これを秘匿すべき個人に関する情報として不開示情報と定めたものである(愛知県情報公開条例解釈運用基準(平成13年3月30日付け12広報第98号県民生活部長通知))。

そうであるところ,被控訴人が開示を求めた本件文書は,上記アのとおり,発達障害等を有すると考えられる生徒について,その特徴的な言動や状況,これによって引き起こされる状況,それに対する教員や保護者,臨床心理士や専門医等の専門機関の見解や助言などが,詳細に記載されている文書であり,かつ,その全体が,発達障害の有無というセンシティブな個人情報に関する情報である。これらの情報は,たとえ学校名や個人名が消されたとしても,生徒本人やその保護者が第三者への開示を希望することは,通常考えられない文書である。

これらの情報は,発達障害等を有すると考える児童生徒個々人の人格に密接に関連する情報というべきであるから,条例上は,個人識別性の有無を問わず,その全部を不開示とすべき情報である。

ウ また,条例7条6号本文は,「県の機関・・(中略)・・が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより・・(中略)・・当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」情報について,不開示とすべき情報と定めている。

この規定は,県の機関が行う事務事業は,公益に適合するよう適正に遂行されるものであるが,これらの事務事業に関する情報の中には,公にすることにより,当該事務事業の性質上,その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものが含まれるため,これらの情報が記録された行政文書を不開示とすることを定めたものである。

そうであるところ,被控訴人が開示を求めた本件文書は,発達障害等を有すると考えられる生徒の指導に供するため,当該生徒だけでなく,その保護者や関係者に関する情報についても,指導に必要であると判断される限り,具体的かつ詳細に記録されている。

これらの記録は,当該生徒の在校する学校において,当該生徒に対する適切な支援策を講じるために,当該生徒を含む関係当事者に関する事実関係について,その生育歴や家族関係などの背景事情も含め,広範に,具体的かつ詳細に記録することによって,当該生徒の支援に資することを期して作成されるものであり,正確な事実の調査及び記録と,それを基礎とする忌憚ない意見の交換があって,はじめて当該生徒の適切な支援,指導が図られるものである。

そして,上記文書に記録されている情報の中には,当該生徒のみにとどまらず,当該生徒の家族や関係者の健康状態や生活歴,疾病歴等の,各関係者の人格に触れるような個人的な情報が含まれている。

仮に,これらの情報が公開された場合を想定すると,当該生徒の家族や関係者において,これらの詳細な事実関係や,それに対する忌憚ない意見をありのまま開示することに萎縮効果が生じ,これらの情報の収集や記録が困難になる結果,当該生徒に対する適正な支援や配慮が実現できなくなるおそれが極めて高い。

したがって,本件文書に記録されている情報は,条例7条6号本文に定める「県の機関・・(中略)・・が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより・・(中略)・・当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」情報に該当し,全部不開示とされるべき情報である。

(2) B高等学校についての不開示決定を取り消す判決がなされた場合,その判決の効力は,あくまでもB高等学校の行った不開示決定に及ぶだけであり,他の67校が行った不開示決定には何の効力も及ばない。その結果,仮に同判決が確定すると,処分者としては,B高等学校に対する開示請求について改めて決定をなすべきことになる(行政事件訴訟法33条2項)が,その際,いかなる決定をなすべきか,困難に逢着することになる。

なぜならば,B高等学校のみを対象として,開示請求に応答し,開示を求める文書の存否を明らかにしてしまうと,条例7条により不開示情報とされている個人識別情報を開示することになるからである。

このような結果を招来する判決は許されないというべきである。

(被控訴人の当審における主張)

存否応答拒否による行政文書不開示決定をB高等学校長が専決により行政文書不開示決定をすることは不可能である。通常の開示請求に対する行政文書不開示決定通知書の発送でも,期限を守ってうまく処理することができないのが県立高等学校である。また,発達障害の定義,判断基準を提示することができない状態にあるB高等学校長が,専決により行政文書不開示決定をすることは不可能である。

したがって,B高等学校長は,教育委員会総務課Aの指示により,行政文書不開示決定をしたと考えるのが妥当である。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,控訴人が本件文書を不開示とした本件処分は適法であると判断するが,その理由は,次のとおり原判決を付加訂正し,当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「第3 当裁判所の判断」欄の1及び2に記載のとおりであるからこれを引用する。

2  原判決の付加訂正

(1)  原判決10頁19行目末尾を改行して次のとおり付加する。

「控訴人は,処務規程及び事務処理要領の合理性を種々主張するが,前判示のとおり,条例7条は開示請求に係る行政文書に同条所定の不開示情報が記録されている場合を除き開示しなければならない旨を定め,条例8条は開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において部分開示が可能な場合には部分開示をすべき旨定めているのであり,本件の場合も各校ごとに判断すると個人識別情報を開示するのと同じことになるが,本件開示請求の対象となる県立高等学校を経過することなく一括して開示すれば個人識別情報を開示することにはならないのであるから,上記条例の趣旨からすれば,当然に一括して開示すべきであって,控訴人が主張する合理性は,控訴人側から見た合理性を強調しすぎるあまり開示を求める側の利益との調和に欠けるものといわざるを得ない。」

(2)  原判決10頁22行目の「違法である」から同24行目末尾までを「違法であるといわざるを得ない。」と改める。

3  控訴人の当審における主張に対する判断

控訴人は,当審において,本件文書はもともとそれ自体条例7条2号本文後段,同条6号本文に該当する文書であるから,不開示文書に該当する旨主張するので,その点について判断する。

ところで,条例10条に該当することを理由として付記してされた公文書の開示拒否決定の取消訴訟において,当該処分をした行政庁の所属する公共団体が,同決定が適法であることの根拠として,新たに当該公文書が同条7条2号本文後段,同条6号本文に該当する旨を追加して主張することは許されると解される(最高裁判所平成11年11月19日判決民集53巻8号1862号参照)。

そこで,本件文書が条例7条2号本文後段,同条6号本文に該当するか否かにつき検討するに,証拠(乙6,9,10,当審証人C)及び弁論の全趣旨によれば,本件開示請求の対象となる県立高等学校68校中には,本件文書が存在する学校があること,本件文書には,個々の当該生徒ごとに,本人の特性や当該生徒に特徴的な言動,それによって惹起される状況等が,具体的かつ詳細に記載されるのみならず,当該生徒本人やその保護者との間の面談の内容が記録され,当該生徒や保護者の気持ちや生活状況等が具体的かつ詳細に記載されるものであること,当該生徒の指導においては,必要に応じて,臨床心理士や専門医の助言を受けるなど,専門機関との連携を図ることがあるが,その際に専門機関から受けた当該生徒一人一人に対応する助言の内容や,当該生徒だけでなく,その関係者を含めた生活環境についての具体的な支援方法が記録されるものであること,本件文書は,当該生徒の在校する学校において,当該生徒に対する適切な支援策を講じるために,当該生徒を含む関係当事者に関する事実関係について,その生育歴や家族関係などの背景事情も含め,広範に,具体的かつ詳細に記録することによって,当該生徒の支援に資することを期して作成されるものであり,正確な事実の調査及び記録と,それを基礎とする忌憚ない意見の交換があって,はじめて当該生徒の適切な支援,指導が図られるものであること,これらの情報が公開されると,当該生徒の家族や関係者において,これらの詳細な事実関係や,それに対する忌憚ない意見をありのまま開示することに萎縮効果が生じ,これらの情報の収集や記録が困難になる結果,当該生徒に対する適正な支援や配慮が実現できなくなるおそれが高いことが認められる。

ところで,条例7条2号本文後段は,個人情報のうち,特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがある情報を,不開示とすべき情報と定めているが,同規定は,特定の個人が識別されない情報であっても,公にすることにより,人格的・財産的な権利利益等個人の権利利益を害するおそれがあるもの(例えば,個人の未発表論文や個人の人格に密接に関連する情報等がこれにあたる。)については,仮に特定の個人が識別されないとしても,なお,保護する必要性があることから,不開示情報と定めたものである(愛知県情報公開条例解釈運用基準(平成13年3月30日付け12広報第98号県民生活部長通知),乙7)。

そうであるとすれば,上記認定事実からすると,本件文書には,個人の人格に極めて密接に関連する情報の記載があると認められるから,本件文書の記載内容は,条例7条2号本文後段にいう個人情報のうち,「特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがある」情報にあたると認めるのが相当である。

また,条例7条6号本文は,「県の機関・・(中略)・・が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより・・(中略)・・当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」情報について,不開示とすべき情報と定めているところ,同規定は,県の機関が行う事務事業は,公益に適合するよう適正に遂行されるものであるが,これらの事務事業に関する情報の中には,公にすることにより,当該事務事業の性質上,その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものが含まれるため,これらの情報が記録された行政文書を不開示とすることを定めたものである(愛知県情報公開条例解釈運用基準(平成13年3月30日付け12広報第98号県民生活部長通知),乙7)。

そうであるところ,本件文書が公開されると,当該生徒の家族や関係者において,これらの詳細な事実関係や,それに対する忌憚ない意見をありのまま開示することに萎縮効果が生じ,これらの情報の収集や記録が困難になる結果,当該生徒に対する適正な支援や配慮が実現できなくなるおそれが高いから,本件文書の記載内容は,条例7条6号本文に定める「県の機関・・(中略)・・が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより・・(中略)・・当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」情報にあたると認めるのが相当である。

したがって,本件文書は条例7条2号本文後段及び同条6号本文に該当する非開示文書であることが認められるから,結果的には,本件文書を非開示とした本件処分は適法であるというべきである。

3  以上によれば,被控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって,これと異なる原判決を取り消し,主文のとおり判決する。

(裁判官 内田計一 裁判官 中丸隆)

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