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名古屋高等裁判所 平成23年(ネ)1366号 判決 2013年3月28日

住所<省略>

控訴人(1審被告)

Y1(以下「控訴人Y1」という。)

住所<省略>

控訴人(1審被告)

Y2(以下「控訴人Y2」という。)

上記両名訴訟代理人弁護士

伊井和彦

真下美由起

愛知県小牧市<以下省略>

被控訴人(1審原告)

X株式会社

同代表者監査役

同訴訟代理人弁護士

白石和泰

中川浩輔

鈴木弘記

同訴訟復代理人弁護士

中川秀宣

吉田真実

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(1)  原判決主文1項を取り消す。

(2)  被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第2事案の概要(以下,略称は原則として原判決の表記に従う。)

1(1)  被控訴人は,その取締役であった控訴人らが賛成して成立した平成21年1月16日付け取締役会決議に基づき,SFCG(原判決2頁21行目)が発行する額面15億円のコマーシャルペーパー(同8頁13行目の「本件CP」)を引き受け,同月19日に14億9010万円を払い込んだ(甲63)ところ,その後の同社の経営破綻により償還を受けられず,同額の損害を被った(ただし,SFCGの破産手続において4500万円の中間配当を受けたので,これを遅延損害金等に充当した損害元金は14億8910万9589円となる。)。

本件は,被控訴人が,控訴人らによる上記決議(以下「本件CP引受決議」という。)への賛成は,取締役の善管注意義務に違反すると主張して,控訴人らに対し,会社法423条1項に基づく損害賠償として,上記損害のうち3億円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

(2)  原審は,控訴人らには善管注意義務違反が認められると判断して,請求を全部認容したところ,控訴人ら(1審被告ら)が,これを不服として控訴した。

(3)  なお,被控訴人は,当初,控訴人らと共に本件CP引受決議に賛成した取締役であるB(以下「B」という。)及びC(以下「C」という。)に対する上記と同じ(連帯支払)損害賠償請求のほか,SFCGの子会社であるJファクター(同2頁23行目)が発行する額面50億円の社債(同6頁3行目の「本件社債」)を引き受ける旨の平成20年4月10日付け取締役会決議に賛成した取締役であるD(代表取締役を兼ねていた。以下「D」という。),E(以下「E」という。),B及びCに対し,償還を受けられなかった40億円のうち8億円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める会社法423条1項に基づく損害賠償請求についても,本訴に併合して提起した。

このうち,被控訴人とD及びE間の訴訟は,平成23年11月14日,原審において訴訟上の和解が成立した。また,被控訴人とB及びC間の訴訟は,原審が被控訴人の請求をいずれも棄却する判決をしたところ,被控訴人(1審原告)がこれを不服として控訴し,平成25年1月21日,当審において訴訟上の和解が成立した。

2  前提事実及び当事者の各主張は,以下において原判決を補正し,後記3,4において当審における当事者の各主張(原審での主張を敷衍する部分を含む。)を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」2ないし5に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,被控訴人のB及びCに対する損害賠償請求に関する部分を除く。)。

(1)  原判決8頁8行目の「被告らはいずれの取締役会決議にも反対しなかった」を「なお,平成20年12月8日の決議(以下「12月8日の取締役会決議」という。)は,取締役全員の同意の下,みなし決議の方法(会社法370条)により成立し,同月15日の決議(以下「12月15日の取締役会決議」という。)については,控訴人らはいずれも取締役会を欠席し,出席取締役の多数の賛成で成立した同決議に対し,その後も反対を表明しなかった」と改める。

(2)  同8頁15行目の「被告らはこれに賛成した」を「被控訴人の取締役7名のうち,D,E及びF(以下「F取締役」という。)の3名はこれに反対したが,控訴人ら,B及びCの4名が賛成したため,本件CP引受決議が成立した。」と改める。

(3)  同11頁14行目及び18頁9行目の各「Ico」を「ICo」と改める。

3  当審における控訴人らの主張

(1)  原判決の事実誤認について

原判決は,控訴人らが本件CP引受決議に賛成したことは被控訴人の取締役としての善管注意義務に違反する旨判断したが,その前提となる事実について,以下のとおり誤認がある。

ア 原判決は,本件CP引受決議の「1か月と7日後にはSFCGが民事再生手続開始申立てをしている」ところ,SFCGの上記「申立ての準備には少なくとも1か月以上の期間を要すると考えられる」と判示する。

しかし,SFCGは当時,平成21年7月期の第2四半期決算に向けた準備を進めており,資産状況に関する資料が大部分出来上がっていたこと,顧問弁護士の提案で,平成21年1月末から事業再生ADRの研究を始めており,その資料を流用できたことから,準備期間は短くて済み,また,SFCGが民事再生手続開始申立てを依頼した弁護士事務所において,所属弁護士(100名以上)のほとんどが,昼夜を問わず尽力した結果,同年2月23日に同申立てに至ったのである。

イ 原判決は,上記アの判示のほか,「SFCGにおいて平成20年9月ころから破産手続における否認請求の対象となり得る複数の債権譲渡,譲渡担保権の設定などが行われていること」から,「SFCGの社内では遅くとも平成20年中には倒産といった事態が想定されて」いたと認定する。

しかし,上記否認対象取引は,SFCGのG会長(以下「G会長」という。)及びその一族との間でなされており,控訴人Y1(主な業務は資金調達であった。)及び同Y2(担当業務はSFCGグループの連結決算の管理であった。)には全く知らされておらず,現に控訴人らは,これらの取引につき,SFCGの破産管財人から責任を追及されていない。また,上記取引は平成20年9月末から段階的になされたにすぎず,これをもって同年中の倒産が想定されていたとするのは乱暴にすぎる。

加えて,SFCGは,平成20年1月には,ビオフェルミン製薬の株式を売却し,同年3月には300億円の転換社債発行に成功し,同年6月には理研ビタミンの株式を売却している。もっとも,リーマン・ショック後の同年10月以降の資金調達先は日本振興銀行(原判決11頁16行目)に絞られたが,同行Hの会長(以下「H会長」という。)とSFCGのG会長は非常に親密で,強い信頼関係があり,両社間では毎月のように100億円以上の融資が行われていた。

上記のような資金繰り状況の下で,SFCGの社内において遅くとも平成20年中に倒産の事態が想定されていたなどということはあり得ない。

ウ 原判決は,上記ア,イで指摘した事実認定の下に,「本CP決議役会(原判決8頁11行目)の開催された平成21年1月16日には既に具体的に民事再生手続開始申立ての検討がされていたとみるのが相当である。」と判示する。

しかし,控訴人Y1の原審における本人尋問結果及びI弁護士(SFCGの顧問弁護士。以下「I弁護士」という。)に宛てた電子メール(丁20)を踏まえると,SFCGが民事再生手続開始申立てに先立ち,I弁護士にその相談をした時期は平成21年2月17日頃であることが明らかであり,原判決の上記判示は誤りである。

エ 原判決は,控訴人らが,被控訴人株式の「公開買付による売却代金を原資とした本件社債の早期償還といったことだけでなく,当時,見せ金のような状態の解消とか社会的に評判の悪いSFCGとの関係断絶とかいったことを考えていたと供述しているが,SFCGから派遣されて被控訴人の取締役に就任した者の発想としては不自然であり,真にそうしたことを考えていたのか疑わしい」と判示する。

しかし,これはSFCG関係者が悪いという偏見に支配され,証拠調べの結果を殊更に無視するものであり,事実誤認である。

控訴人らは,SFCGの役員であるからこそ,SFCGの社会的評判が悪いことを知っており,また,全ての役員がG会長に心酔していたわけではない。

オ 原判決は,「SFCG側の保有する被控訴人株式は本CP決議役会の10日後に日本振興銀行による180億円の融資がされ他の上場株式とともにその担保に供されているが,これら担保に供された株式の価値はほぼ融資金額に見合うから,被控訴人株式に対する公開買付が行われたとしてもその売却代金を原資に本件社債と本件CPの償還をするのは困難である」ところ,「180億円もの融資であれば少なくとも10日程度前にはその内容,条件等が決定されていたと考えられる」と判示するが,これも事実誤認である。

本件CP引受決議が成立した平成21年1月16日時点では,いまだSFCGに対する融資金額が決定しておらず,SFCG側の有する被控訴人株式に担保権が設定されることは,あくまでも可能性のレベルにすぎなかった。

カ 原判決は,以上のような事実誤認を重ねた挙げ句,控訴人Y2が,本件CP引受決議当時,「被控訴人株式の公開買付による売却代金を原資にした本件社債や本件CPの償還が困難であることを認識していた」にもかかわらず,「本CP決議役会において被控訴人株式の売却代金を原資に本件社債が早期に償還されるなどと実現の見込みの乏しい事実を述べ」たと認定し,また,控訴人Y1が,「こうした事情を知悉していた」と認定しているのであり,善管注意義務違反との判断の前提事実に誤認がある。

(2)  被控訴人の主張に対する反論について

ア 後記4(1)アの被控訴人の主張について

被控訴人は,本件CP引受決議当時,SFCGの財政状況は破綻していたと主張し,その根拠として,平成21年1月末頃,I弁護士に民事再生手続開始申立ての相談をしていたことを指摘する。

しかし,G会長と控訴人Y1が,その頃,I弁護士を訪れた(丁22)のは,民事再生手続開始申立てという具体的な相談ではなく,SFCGの資金繰りが行き詰まるなど,いざというときにそのような手続をお願いできるかという程度の話であった。

SFCGが,被控訴人がいうような,「日本振興銀行からの融資が継続するか否かに関わらず,既に財政状況が破綻した状態」であったならば,日本振興銀行がその直前に180億円もの融資をすることは考えられないし,融資を受けた直後に民事再生手続開始申立ての具体的な相談をすることなど,不自然である。

イ 後記4(1)イの被控訴人の主張について

被控訴人は,SFCGについて後記4(1)イ(ア)ないし(オ)の事実があったことを根拠に,控訴人らがこれらの事実を認識していたと主張する。

しかし,仮に当時のSFCGの社内において被控訴人指摘のような事実があったとしても,役員である控訴人らが「それらの事実を十分認識していた」というのは,全く証拠に基づかない飛躍した推論であるし,「控訴人らはそれらの事実を知っていたに違いなく,従って控訴人らは,SFCGが既に破綻状態で社債やCPに将来償還の可能性がないことを承知の上で,被控訴人に本件CPを引き受けさせた」という被控訴人側の主張は,あまりにも乱暴で証拠に基づかない不当な主張である。詳細は以下のとおりである。

(ア) 後記4(1)イ(ア)の否認認定に係る事実については,控訴人らは全く関与しておらず,承知もしていない。そもそも,控訴人らは,株式会社IOMA BOND INVESTMENT(以下「IBI」という。)その他G会長のファミリー企業とは無関係であり,それに対する債権譲渡手続にも全く関与していない。さらには,かかる債権譲渡はSFCGの取締役会の承認を得て行われたものでもなく,控訴人らはその詳細を知り得ない立場にあったし,実際にも承知していなかった。

同(オ)の平成20年12月26日付けで行われたSFCGからIBIへの不動産譲渡についても同様であり,控訴人らは全く関与も承知もしておらず,SFCGの取締役会の承認を得て行われたものでもない。実際,この件で詐欺再生の容疑で逮捕されたのは,G会長とその息子及び側近2名だけである。

SFCGグループのオーナーであったG会長は全くのワンマン独裁経営者であり,親族以外の者は,役員といえどもG会長の独断専行のやり方に逆らうことも異議をとどめることもできなかった。したがって,本当にG会長が財産隠しのためにそれらのファミリー企業への財産隠匿行為をしたのであれば,親族やその関係者以外の者にそのことを知らせるはずがない。

(イ) 後記4(1)イ(イ)及び(エ)の貸付債権の二重譲渡の事実については,控訴人らは,直接関与してはおらず,二重譲渡になっているということも後になってから知らされた。

控訴人Y1は,日本振興銀行への債権譲渡に関与していたところ,譲渡債権の一部がそれ以前に信託銀行に譲渡されていたという話を後から聞いたことはあるが,具体的にどの債権のことなのかは分からなかった。この点につき,IBIとSFCGの破産管財人との間の否認請求認容決定に対する異議訴訟の東京地裁判決(甲60)には,J取締役(以下「J取締役」という。)が控訴人Y1に対して,債権譲渡をしてもSFCGの資産残高がマイナスになることを報告したとの事実が認定されているが,それは事実ではない。控訴人Y1は,SFCGの取締役副会長に就任した時点で管掌部門がなくなり,また,財務の責任者は財務部長のJ取締役であって,その上にはG会長しかいないから,J取締役が控訴人Y1に報告するというのは考えにくい。

(ウ) 後記4(1)イ(ウ)の国税及び地方税の未払は事実であるが,それは,当時,大口の不動産担保ローンに係る担保不動産の売却により納税資金を捻出することが予定されていたが,その不動産売却が延期となったため,やむなく,納税も未払となったにすぎない。

(エ) 確かに,当時のSFCGは,リーマン・ショックの影響を受けて資金繰りが苦しく,日本振興銀行が唯一の資金調達先となっていたが,事業継続のための必要最小限の資金を同銀行から調達し,事業を継続していた。その中で,債権者らとの間でリスケジュールや弁済猶予の交渉をしていたが,それをもって既に経営が破綻状態であったというのは言い過ぎである。

そして,平成20年10月頃,SFCGのG会長と日本振興銀行のH会長とのトップ会談があり,この頃から日本振興銀行の資金援助が強化されたので,控訴人らを始めとするSFCGの社員らは,苦しいながらも当面は事業継続に問題がないと信じていた。

実際,平成21年1月27日頃にも上記両名のトップ会談があり,日本振興銀行が引き続きSFCGに資金協力を行う旨H会長から表明され,同月末に約180億円の資金融資も実施された。

ところが,同年2月16日,H会長の突然の裏切りにより,SFCGへの支援が打ち切られたため(日本振興銀行は突然,SFCGの経営陣の総入替え,特にG会長の完全な退陣を取引継続の絶対条件として要求し,G会長がその要求を受け入れなかったところ,日本振興銀行は債権の買取りをストップした。),SFCGは,やむを得ず,まずは事業再生ADRによって再生を図ろうとしたが,窓口照会の結果,困難であることが判明し,同月19日に急きょ,民事再生手続開始申立てを決めたのである。

なお,SFCG側が保有していた被控訴人株式は,TOBが成立すれば返還される予定の下に,資金繰りの担保の一部として同年1月末に日本振興銀行に預けられたが,同銀行は,上記のとおり支援を打ち切ってSFCGを倒産状態に追い込んだ後,担保権を実行して被控訴人株式を取得してしまった。その結果,被控訴人株式のTOBも不調となってしまったのである。

以上のとおり,SFCGが破綻して,本件CPの償還が不可能となったのは,平成21年2月16日の日本振興銀行の予期せぬ支援打切りが原因であり,同年1月16日の本件CP引受決議当時,控訴人らはこれを全く予期することができなかった。

そして,控訴人らが,上記のとおり日本振興銀行の支援打切りを予期せず,SFCG側から同行に預けられた被控訴人株式のTOB成立に伴う資金調達により本件CPの償還が確実だと信じていたことについて,取締役の裁量を逸脱するような注意義務違反は認められない。

(3)  控訴人らに善管注意義務違反がないことについて

ア 控訴人らが本件CP引受決議に賛成した背景事情として,以下の事実があった。

(ア) 控訴人らは,本CP決議役会当時,SFCGの資金繰り予定は同取締役会で配布された原判決添付別紙3の一覧表(以下「本件資金繰表」という。)のとおりであると認識しており,その後に民事再生手続開始申立てに至るような経営状況であることを知らなかった。

(イ) アサヒビール(原判決8頁18行目)による被控訴人株式の公開買い付け(TOB)成立が確実視できる原判決添付別紙2の書面(以下「本件提案書」という。)が,仲介業者のメリルリンチ日本証券株式会社(以下「メリルリンチ」という。)から提出されたところ,こうした書面が作成される場合には,TOBが成立する可能性が客観的に高いと考えられた。

(ウ) SFCG代表取締役(G会長)とSFCGの子会社であるJファクター代表取締役が連名で作成した,本件社債の早期償還を約束し,保証する原判決添付別紙1の書面(以下「本件期限前償還約束書」という。)により,SFCGが倒産したり,買収者側の都合によりTOBが中止されたりしない限り,被控訴人株式の売却代金を原資に本件社債が早期に償還され,本件CPも償還されることが確実であると考えても不合理ではなかった。

(エ) 本CP決議役会当時,本件CPに係るSFCGの債務を保証していたMAGねっと(原判決9頁16行目)の純資産額は211億円であり,その保証能力は十分であった。

(オ) 株式会社KEホールディングス(以下「KEホールディングス」という。)は,実質的にはSFCGのオーナーであるG会長の資産管理会社であり,同社が保証人になるということは,G会長個人が保証人になるのと同じ意味合いがあり,SFCGによる償還の確実性を何よりも担保するものであった。

イ 平成20年12月8日の被控訴人の取締役会で,今後,SFCGからのCP引受け要請には応じないことが決議された(12月8日の取締役会決議)のに,平成21年1月16日の取締役会(本CP決議役会)で本件CP引受決議がなされたのは,以下の事情によるものである。

(ア) 平成21年1月当時,被控訴人の親会社はTZCI(原判決3頁25行目)であったが,TZCIはSFCGの完全子会社であったところ,被控訴人は同じくSFCGの子会社であるJファクターの社債やCPを引き受けており,こうした状態は一種の見せ金的な状態であるから,早急な解消が望まれていた。その最善策は,SFCGグループが保有する被控訴人株式を売却し,その売却代金で社債やCPを償還することであった。そうすれば,被控訴人が商工ローン(事業者金融)の金融グループであるSFCGグループから離脱することにもなり,食品業を営む被控訴人の社会的信用面もプラスになり,SFCGも社債やCPを償還できるので,損な話ではなく,そうであればこそ,控訴人らも,SFCGと被控訴人双方の取締役としてこれに賛同したのである。

(イ) もっとも,上記の話を実現するには,SFCGグループで保有する被控訴人株式の売却が大前提であったが,同グループのG会長は,株式売却価格にこだわり,アサヒビールへの売却には必ずしも積極的ではなかった。そこで,G会長に上記売却を了承してもらうため,平成21年1月時点で,被控訴人が,既に引き受けているSFCGのCPを再度引き受けることにより,被控訴人がSFCGグループに協力的であることを示す必要があった。

(ウ) 実際に,SFCG及びJファクターの連名で作成された本件期限前償還約束書(原判決添付別紙1)が被控訴人に提出されていたし,日本振興銀行の全面的支援も約束されていた中で,控訴人らは,G会長から,SFCGの事業の継続はバックアップがあるから大丈夫だと聞かされていたので,SFCGは被控訴人株式の売却により本件社債及び本件CPの償還を確実に履行できると思っていた。

ウ 上記ア,イのとおり,控訴人らは,本CP決議役会当時,被控訴人株式のTOBの成立は確実であり,TOBが成立すれば本件CPを含めたSFCG関連の債権が一挙に早期償還されることも確実であり,仮にTOBが成立しない場合でも,SFCGの資金繰り予定からして償還は可能であることに加え,MAGねっと及びKEホールディングスを保証人とすることで,被控訴人に損害を及ぼすものではないことが確実であると判断したのである。

控訴人らが,上記のとおり事実を認識し,本件CPを引き受けて本件社債の早期償還を受け,SFCGとの関係を絶つことが被控訴人の利益であると判断した過程には,企業人として看過し難い過誤,欠落があるとは認められない。したがって,控訴人Y2が本CP決議役会において被控訴人による本件CPの引受けを提案し,控訴人Y1がこれに賛成したことは,いずれも取締役に付与された裁量権の範囲を逸脱するものではなく,控訴人らに善管注意義務違反はない。

エ 原判決は,被控訴人の社外取締役であったB(1審被告)及びC(同)について,取締役の善管注意義務違反を否定しているところ,同人らと同時期に被控訴人の社外取締役を務めた控訴人らについても同様の判断がなされるべきである。

(4)  被控訴人の損害との因果関係について

本件CP引受決議により被控訴人が引き受けた本件CPは,実質的にはSFCGが従前のCPの借換えとして発行したものであり,平成21年1月16日に本件CP引受決議がなされなければ,借換え前のCP(平成20年12月8日の取締役会で引受けが決議されたもの)が平成21年1月7日に償還期限を迎えていたはずである。

しかし,上記借換え前のCPの償還のためには,SFCG側が保有する被控訴人株式の売却益が必要であり,平成21年1月7日時点ではその売却手続が軌道に乗っていなかったため,実質的に上記CPを償還することが困難であった。また,同年2月にはSFCGが破綻しているから,客観的には,上記CPがその後に償還された可能性もなかったと考えられる。

以上のとおり,本件CP引受決議がなされなくても上記借換え前のCPの償還が困難であったのであるから,本件CP引受決議と本件CPの償還不能による被控訴人の損害との間には直接の因果関係がないといえる。

4  当審における被控訴人の主張

(1)  前記3(1)の控訴人らの主張(原判決の事実誤認)について

ア SFCGの財政破綻状況について

SFCGは,平成21年1月27日に日本振興銀行から180億円の融資を受けたにもかかわらず,同月末には顧問弁護士であるI弁護士に対し,民事再生手続開始申立ての相談を持ち掛けていること(丁22)からすると,SFCGにおいては,日本振興銀行からの融資が継続するか否かに関わらず,既に財政状況が破綻しており,民事再生手続開始申立てにつき検討していたことが明らかである。

仮に平成21年2月16日に日本振興銀行から更なる融資を行わない旨の通告があったことをきっかけに,SFCGが民事再生手続開始申立てを正式に決定したのであるとしても,SFCGの外部の人物であるI弁護士に相談を持ち掛けた時点で,SFCGの社内において民事再生手続開始申立てに関する検討がなされていたと考えるのは,経験則上当然である。

イ 控訴人らの認識について

以下のとおり,遅くとも平成20年9月26日以降,SFCGの財産状況が破綻していたことを強く推認させる事実が存在し(会社の財産を経営者一族に移すための工作を行うということは,会社の財政状況が危機的であることを推認させるものである。),控訴人Y1がSFCGの取締役副会長であったこと,及び同Y2がSFCGの取締役兼執行役員経営管理副本部長であったことを踏まえれば,両名ともそれらの事実を十分に認識していたと考えるほかない。

仮に,控訴人らが資産流出に関する責任追及を受けていないとしても,このことは,資産流出についての知不知とは全く関連性がなく,控訴人らの主張は論理に飛躍がある。

なお,IBIとSFCGの破産管財人との間の訴訟について,平成24年8月10日に言い渡された東京地方裁判所の判決中には,「J取締役は,平成20年10月27日,翌28日の破産者の資金残高が14億円となり,日本振興銀行に対して合計290億円の債権を譲渡しても,同月末の資金残高がマイナス22億円となること,同月29日,同日の破産者の資産残高が105億円であり,日本振興銀行に対して合計290億円の債権を譲渡しても,同月末日の資金残高がマイナス19億円になることを予測し,それをG会長やY1副会長に報告した」と認定されている(甲60〔27頁〕)。

(ア) SFCGは,平成20年9月26日,IBIに対し,不動産担保ローン債権を無償で譲渡した。この行為について,破産裁判所はSFCGの破産管財人による否認請求を認容する決定をし,その異議訴訟につき,東京地方裁判所は,平成23年3月28日,破産管財人の否認請求を認める判決を言い渡した(甲59〔3頁〕)。

(イ) SFCGは,平成20年10月29日,同月30日に弁済期を迎えるシンジケートローン債務の弁済原資とするため,日本振興銀行に対し,既に他社に対する信託譲渡等によって資金調達に利用されていた債権約245億円を含む,289億9000万円の債権を売却し,二重譲渡に及んだ(甲60〔27頁以下〕)。

なお,SFCGにとって,債権の二重譲渡を行うことは,貸金業登録取消処分のリスクを負うことを意味するから,当時のSFCGにおいて,かかるリスクを負わない限り資金調達ができないほどに財政状況は逼迫しており,とうに実質破綻の状態に陥っていたことは明らかである。

(ウ) SFCGは,平成20年10月31日,同日を弁済期とする国税13億7987万9200円と地方税15億4795万8000円を納付することができなかった(甲60〔28頁以下〕)。

(エ) SFCGは,平成20年12月3日,貸付債権の二重譲渡をした(甲61)。

(オ) SFCGは,平成20年12月26日,IBIに対し,計14物件の所有不動産を譲渡し,平成21年1月19日付けで所有権移転登記手続を行った(甲60〔3頁〕)。

資金繰りに窮したSFCGは,平成20年10月末以降,財産隠しのため,関連会社に対して資産の移転を行っていたが,上記不動産譲渡もその一環として行われたものである(甲59〔別紙1〕,甲60〔33,45頁〕)。

ウ 控訴人らの弁解について

親会社等から派遣された取締役は,通常,派遣元の利益を一切考えずに行動するとは考えられず,控訴人らについても,経験則上,同様のことが当てはまる。したがって,前記3(1)エの控訴人らが指摘する原判決の判示は,何ら偏見に支配されたものではない。

加えて,控訴人Y1は,G会長から命じられて被控訴人の社外取締役に就いていたこと(控訴人Y1本人〔調書16頁〕),G会長はSFCGのワンマンオーナーであり(同〔同10頁〕),G会長の権力が絶対的であったこと,控訴人Y1は,SFCGにおいて副会長という立場にあり(同〔同16頁〕),G会長の意に背く業務執行を行うことは考え難いこと,控訴人Y2も,SFCGの取締役であり,控訴人Y1と同様,G会長の権力下にあったこと,及び控訴人Y2自身,「SFCGの指名ということで被控訴人の取締役になったというふうに理解をしておりましたので,SFCGが親会社でなくなった時点で」被控訴人の取締役を退任するのは自然なことであった旨述べている(控訴人Y2本人〔調書18頁〕)とおり,あくまでも主としてSFCGの取締役として自らの立場を捉えていたことからすれば,原判決の上記判示は相当である。

エ TOBによる本件CPの償還の可能性について

平成21年1月25日に行われた日本振興銀行からの180億円の融資については,その2日前(同月23日)に作成されたSFCGの資金繰り予定表(丁6)にも同額の融資金額が具体的に記載されているところ,そのような短期間で180億円もの融資が決定されたとは考え難く,それより以前から融資及びSFCGが保有する被控訴人株式の担保設定についての協議がなされていたと理解するのが相当である。

(2)  前記3(3)の控訴人らの主張(善管注意義務違反がないこと)について

ア SFCGからKEホールディングスに対する平成20年11月1日付け債権譲渡について,否認対象行為に該当すると認める判決が言い渡されていること(甲62〔4頁〕)からも明らかなとおり,遅くとも平成20年11月当時のKEホールディングスの財産は,そもそも保証債務の弁済に充てることができない性質のものであったから,KEホールディングスが保証債務を履行することを前提とする控訴人らの主張は的外れである。

イ 本件提案書(原判決添付別紙2)には,「貴社持株数を下限とし,上限を設けない公開買付けの早期実施を希望しています。」,「公開買付けに向けてのスケジュールは以下を想定しています。」等の記載がされているだけであるところ,これらの表現からは,未だアサヒビールがTOBの提案をしている段階にすぎないと考えるのが自然であり,控訴人らが主張するように,本件提案書を根拠として,アサヒビールによるTOBが成立する可能性が客観的に高いとは考えられない。

ウ 仮に控訴人らの主張する事実を前提とするとしても,本件CP引受決議の時点では,SFCG側の保有する被控訴人株式のTOBによる売却代金を原資にした本件社債や本件CPの償還が困難であることを認識していたにもかかわらず,控訴人らは,G会長らの意向を受け,被控訴人の取締役会において,被控訴人株式の売却代金を原資に本件社債が早期に償還されるなどと実現の見込みの乏しい事実を述べて,本件CPの引受けを提案し,又は賛成したものであり,控訴人らに善管注意義務違反及び忠実義務違反を認めた原判決の判断に何ら誤りはない。

エ 原判決がB及びCの善管注意義務違反を否定したのは不当であり,控訴人らと同様,B及びCも,取締役の善管注意義務に違反して本件CP引受決議に賛成したことにより,会社法423条1項の損害賠償責任を負うべきである。

(3)  前記3(4)の控訴人らの主張(因果関係がないこと)について

控訴人らの主張は争う。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,原判決と同じく,被控訴人の控訴人らに対する本訴請求はいずれも理由があると判断する。その理由は以下のとおりである。

2  控訴人らの善管注意義務違反の有無について

(1)  前記前提事実(補正した上で原判決記載のものを引用)に加え,控訴人らを含む1審被告らの各陳述書(乙8,9,丁18,19)及び各本人尋問の結果(控訴人Y1本人,同Y2本人,B本人,C本人)その他後掲各証拠並びに弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。

ア SFCGの倒産に至る経緯(甲44等)

(ア) SFCGは,貸金業を主たる営業内容として昭和53年12月20日に設立され(当初の商号は「株式会社商工ファンド」),中小企業向けに融資を行う商工ローン業者として急成長を遂げ,平成9年10月には東京証券取引所第2部に,平成11年7月には同第1部にそれぞれ株式が上場された(甲5,6)。

他方,SFCGのオーナー経営者であるG会長は,後記倒産に至るまで同社の代表取締役としてその経営に当たるとともに,自身又はその親族で経営する会社においてSFCGの株式の過半数を保有していた。

(イ) SFCGは,業績を拡大する一方で,貸金の厳しい取立方法や過剰融資が社会で問題視され,平成17年には関東財務局から業務停止処分を受けることがあった。

また,SFCGは,顧客である借主から利息制限法所定の利率の制限を超過する約定利息を徴収していたところ,平成18年1月13日の最高裁判決を契機として,借主のSFCGに対する過払金返還請求が激増した。SFCGは,これに対して引当金の積増しを余儀なくされ,純利益を大幅に減少させた。

SFCGの主な資金調達方法は,金融機関からの借入れであったが,上記過払金返還請求の増加に伴い,国内の金融機関のSFCGに対する与信は低下し,専ら国外のファンド,金融機関からの融資に頼るようになった。

(ウ) 平成19年8月以降,アメリカのサブプライム・ローン問題に端を発する金融危機が深刻化し,SFCGの資金調達はさらに困難となった。

すなわち,SFCGの主要な資金調達先である外資系金融機関は,サブプライム・ローン問題の影響で,平成19年頃からSFCGに対する貸出しを強く抑制するようになり,平成20年9月15日のリーマン・ブラザーズの経営破綻(いわゆるリーマン・ショック)の頃には,SFCGからの融資引揚げの動きが顕著となった(その一例として,リーマン・ブラザーズ・グループからの借入残高は,平成19年7月31日時点で734億円であったが,平成20年9月18日時点では52億円に減少した。)。

これに対し,SFCGは,不動産担保ローンを新たな主力商品とするなど,事業構造の転換を図ったが,不動産市況の悪化により担保対象不動産の売却が進まず,破綻する貸付先が続出した。

(エ) 国内外の金融機関のほとんどがSFCGに対する新規融資から撤退した結果,平成20年8月以降,SFCGの資金調達先はH会長が代表者の日本振興銀行1行に限られることとなり,同年10月以降,同銀行から毎月100億円以上の短期融資を反復継続的に受けており(控訴人Y1本人〔調書5頁〕),本件CP引受決議当時の融資残高は500億円以上となっていた(同〔調書27頁〕)。

イ SFCGの倒産直前の否認行為(甲44,60等)

(ア) SFCGの預金残高は,平成20年9月末日時点で18億7600万円まで減少し,SFCGは商工ローン事業の新規貸付けを停止して貸付債権の回収に専念したが,資金繰りは好転せず,同年10月31日を納期限とする合計29億円余りの国税及び地方税を滞納するに及び,その後も滞納状態が続いて滞納処分を受けるに至り,遅くとも同月末日には支払不能の状態に陥った。

(イ) SFCGは,商工リボローン債権の譲渡又は担保化による資金調達も行っていたが,平成20年9月以降は,資金調達のため債権を二重譲渡することがあり,その額面は700億円にも達した。

SFCGは,平成20年11月以降,G会長又はその親族が支配する関係会社への資産の移転を開始し,また,G会長の報酬を何らの合理的根拠もなく月額2000万円から9700万円に増額したり,親族が代表者の地位にある関係会社からの賃借建物の賃料を倍額にするなどして,SFCGから現預金を流出させるようになったが,平成21年以降はそのような動きをエスカレートさせて,所有する資産の大部分を関係会社等へ移転した。

(ウ) SFCGは,平成21年1月頃,第2四半期決算の準備と並行して,顧問契約を結んでいる弁護士事務所との間でADRを利用した事業再生手続の検討を開始したが,同年2月17日(日本振興銀行から支援打切りを通告された日の翌日)頃,同弁護士事務所に民事再生手続開始申立てを依頼し,同月23日,同申立てに至った。

(エ) SFCGの民事再生手続は,平成21年3月24日,民事再生法191条1号に該当するとして廃止され,同年4月21日,職権で破産手続に移行することになったが,破産管財人は,SFCGからG会長側への上記財産隠匿行為を次々と否認請求し,破産裁判所の認容決定を受けている(異議訴訟においても,認可決定が出されたものがある。)ところ,このうち最も早い時期のものは,平成20年9月26日付けでSFCGとIBI間で締結された不動産担保ローンの債権譲渡契約である。

ウ SFCGグループの信用格付け

(ア) SFCGは多数の子会社を擁していたところ,Jファクターもそのうちの1社(完全子会社)で,ファクタリング業を営業の中心とし,SFCGの信用力を背景に,社債を発行するなどして営業資金を集めていた。

株式会社格付投資情報センターは,平成20年5月28日付けでJファクターのCP格付けをSFCGと同じ「a-2」と定めているところ,その理由として,「Jファクター単独で見た場合,担保余力が少なく手元流動性も乏しいことから,コマーシャルペーパー(CP)の償還原資は不十分だ。しかし,CPにはSFCGの連帯保証が付されている。」などと説明している(甲35の6添付資料)。

(イ) SFCGのCP格付けは,平成20年10月31日時点では「a-2」であったが,同年12月31日時点で「a-3」に格下げされた(甲38の1,乙3,4)。

(ウ) Jファクターは,被控訴人に対して,後記オ(ウ)のとおり,本件社債のうち10億円については繰上げ償還したが,SFCGの民事再生手続開始申立後は全く償還していない。

エ アサヒビールによるTOB

(ア) SFCGは,前記資金難に対応するため,自社又は子会社が保有する資産を売却することとし,理研ビタミン,ビオフェルミン製薬などの保有株式を順次売却した。

SFCGグループのTZCIが発行済み株式の過半数を保有する被控訴人株式についても,メリルリンチをファイナンシャルアドバイザーとして売却先を探したところ,かねてから被控訴人と取引のあったアサヒビールがTOBの方法で買い受ける意向を示し,平成20年5月から6月にかけて及び同年11月から12月にかけての2度にわたり,被控訴人の資産評価を行った。

(イ) メリルリンチは,アサヒビールが被控訴人株式のTOBを実施する場合のスケジュール表(本件提案書)を作成し,これをSFCGグループに交付した。

(ウ) メリルリンチは,アサヒビールによる買付価格が1株当たり2000円台半ば(2500円程度)になると予想し,その旨を本件提案書に記載したが,その後,アサヒビールが実際に提示した価格はそれよりも低かった。

他方,G会長は,被控訴人株式の取得原価が1株当たり2200円程度であったこと,保有割合が発行済み株式総数の過半数に達することから,当初は相当高額(3500円程度)での売却を希望していたが,最終的に2500円程度での売却に応じることを了承した。

結局,本件CP引受決議時点では,アサヒビールとSFCGグループ間で価格の合意に至ってはいなかった(控訴人Y2本人〔調書29ないし31頁〕)。

(エ) SFCGは,買戻特約を付して商工ローン債権を譲渡する方法で,日本振興銀行から毎月100億円以上の短期融資を受けており,その担保として,SFCGが保有する株式などの資産を差し入れていた。

SFCGは,平成21年1月下旬に,日本振興銀行から180億円の融資を受け,子会社のTZCIが保有していた被控訴人株式全部を担保として差し入れた。

日本振興銀行は,同年2月18日付けで,SFCGが上記商工ローン債権についての保証債務を履行しないことを理由に,上記のとおり差し入れられた被控訴人株式について担保権を実行するとの意思表示をし,被控訴人の株主となった(甲3,4)。

(オ) SFCGは,アサヒビールによる被控訴人株式のTOB計画が頓挫した後,ICoベータ株式会社によるTOBを進めようとしたが,日本振興銀行が上記担保権に係る被控訴人株式についてTOBに応じることを拒絶したため,TOBは実現しなかった。

オ 被控訴人の資金運用に関する方針

(ア) 被控訴人の会計監査人である新日本有限責任監査法人(平成20年7月1日の名称変更前は「新日本監査法人」)は,平成20年9月25日(以下の日付において「平成20年」の記載は省略することがある。),被控訴人の取締役会及び監査役会に宛てた文書(甲57)において,本件社債につき,主債務者であるJファクターの償還能力が低いこと,保証人であるSFCGについて,手持ちの有価証券を大量に売却しており,含み益のある有価証券は激減していると推測されること,リーマン・ブラザーズ・グループからの借入残高が減少していることから,SFCGから相応の資金が流出したと推測されること,同月24日に公表されたSFCGの株式移転スキームでは,同社の上場廃止が予定されており,資金調達能力の低下が不可避であること,その結果,Jファクターに事故が生じた場合のSFCGの保証債務履行能力に疑義が生じていることなどを指摘した上で,「当該社債の償還能力または保証履行能力が十分にあることを立証していただきたい。(この場合,単なる状況証拠ではエビデンスとして不十分です。)」と要求し,本件社債の資産価値(償還可能性)について強い懸念を表明した。

(イ) 被控訴人管理部所属のKは,10月21日,取締役のEに宛てた電子メール(甲58)の中で,かねてからSFCGが探していたCP引受会社について,「懸念された通り,予定していた10/22~10/29の運用については引受会社が見つからなかった模様です(東京短資,大和証券とも×)。」と報告し,その結果,SFCGから引受会社を経由せず被控訴人に直接,CPの引受けを提案してきていることや,引受会社が仲介しないことでCPの償還が不確実になる可能性を指摘して,リスクに対する検討等を促すなど,暗にSFCG側に対する自社の債権の償還可能性について懸念を伝えている。

(ウ) Jファクターは,12月5日,被控訴人に対し,本件社債50億円のうち10億円を繰上償還するとともに,残金40億円及び利息について平成21年3月31日に全額一括弁済することを約する文書(甲35の10添付資料)を提出した。

被控訴人の監査役会は,同日(12月5日),平成20年4月から借換え(ロールオーバー)の形で運用を続けているSFCGのCP15億円について,平成21年1月7日以降のロールオーバーについては,被控訴人の設備資金及び運転資金などの資金繰りへの影響にかんがみて容認できない旨の決議をし,これを当時,被控訴人の代表取締役社長であったDに報告した。

(エ) Dは,被控訴人が現在引受中のSFCGのCP15億円(平成20年11月11日から同年12月10日まで)が12月8日に繰上償還されることに伴い,改めて同社のCP15億円(同月8日から平成21年1月7日まで)を引き受けることについて,「現在保有する余剰資金を設備投資に支障を来さない範囲で運用することを検討した結果,平成21年1月7日以降のロールオーバーを行わないことを条件」として応じることを他の取締役らに提案し,控訴人らを含む被控訴人の取締役全員が書面により同意した結果,12月8日付けで,その旨の取締役会決議(12月8日の取締役会決議)があったとみなされた(甲35の10)。

(オ) さらに,12月15日午後1時,被控訴人の本社会議室で取締役会が開催され,第3工場第2期工事の設備投資が本格化していること,及び急激な経済状況の悪化を踏まえ,平成21年1月7日以降のロールオーバー等の短期資金運用を今後は行わないこととする旨が提案され,出席取締役4名全員がこれに賛成した結果,同旨の決議(12月15日の取締役会決議)が成立した(甲35の11)。

カ 本件CP引受決議の成立に至る経緯等

(ア) 控訴人Y2は,上記オ(エ)及び(オ)の各取締役会決議を認識しつつも,資金繰りが苦しいので,短期の融資でも有り難いとのSFCGからの要請を受けて,同Y1と事前に協議した上,平成21年1月16日の取締役会(本CP決議役会)において被控訴人による本件CPの引受けを提案することとした。

(イ) 控訴人らは,本CP決議役会の前日(平成21年1月15日),それぞれCに電話をかけ,本件CP引受決議に賛成するよう依頼した(C本人〔調書4,5頁〕)。

(ウ) 平成21年1月16日,被控訴人の本社会議室で本CP決議役会が開催され,C及び控訴人Y1を除く取締役全員(5名)と監査役全員が集まった。Cは当初から電話会議の方法で参加し,控訴人Y1は採決の段階になって電話会議の方法で参加した。

本CP決議役会の席上で配布された上記(ア)の提案に関する資料は,平成20年10月末,同年12月末の各時点のSFCGのCP格付表,SFCGの平成21年7月期の第1四半期(平成20年8月1日から同年10月31日まで)の決算短信,被控訴人資金繰表,SFCGの資金繰表(原判決添付別紙3),本件期限前償還約束書(同1),本件提案書(同2)である。

(エ) 被控訴人の取締役として本CP決議役会に出席したF取締役は,以下のような同取締役会における議論の状況を録取し,書面化した(甲38の2)。

a 控訴人Y2は,本件CP引受けを提案する理由として,12月15日の取締役会決議でいかなる資金運用もしないことが決議されたが,状況が変わってきたこと,アサヒビールによる被控訴人株式のTOBがほぼ本決まりと認識していること,SFCGとしては,同株式の売却をもって被控訴人との繋がりが消滅すると認識していること,その売却代金により,3月末償還予定の本件社債が同月8日にはほぼ間違いなく繰上償還でき,本件CPも償還すること,本件CP引受けを条件として本件社債の早期繰上償還が可能になるため提案したこと,利率も年4%であり,被控訴人に有益であることなどを説明した。

b Cは,提案者の控訴人Y2に対し,前回提示されたSFCGの資金繰表では,15億円のCPは不要とされていたが,今回15億円60日のCPが必要になった理由は何かと質問し,控訴人Y2は,「昨今の金融状況から判ると思うが,SFCGにおいては資金繰りの苦労はないが,新規の営業資金の確保は難しい。資金の流動性を担保するため,回収という手段を取っている。昨年10月から積極的に実行している。資金の回収については,営業現場にストレスが掛かるため,できればゆっくりやりたい。CPについては,X社の余剰資金があれば,ずっと継続して欲しいと希望していたものである。新しく必要性が生じた訳ではない。SFCGの営業現場では,15億円の資金が2ヶ月間でもあると余裕がありやりやすい。」などと答えた。

c Bは,「CPをやらないとしたら,SFCGのリスクはなにがあるか。40億円助けるために15億円出せでは意味がなく,40億円が返ってこなければ責任問題にもなる。」などと発言した。

d L監査役(以下「L監査役」という。)は,「12月5日の時点では条件付きでなくても(本件社債を)償還するとしているが,1ヶ月間で(本件CPを引き受けるという)条件付きに変更になった理由は何か。理由に対してきちんとした説明が必要である。理由を詳細に説明願いたい。資金繰り表など誰がいつ作ったものなのかが不明。シミュレーションはいつ誰が作ったものなのか。」との質問などをした。

e M監査役(以下「M監査役」という。)は,「12月5日時点では,無条件で金額償還を約束されているのに対して,なぜ今回,CP15億円60日間を必要としたのか。営業資金の余裕をもった確保が理由で良いか。最悪のシナリオでもCPがなくてもSFCGの経営上の問題(信用リスク,デフォルト)はないということで良いか。」,「クライアントの件は,ほぼ確定で良いのか。本件提案書の内容では客観性に欠く。メリルリンチ,アサヒビールのきちんとした資料が必要。文書で確認できるものが必要。慎重に判断できる資料が必要である。売却の件については,本件期限前償還約束書(ただし,本件CP決議役会開催当初に配布したもの)に詳細を記す必要がある。X社の取締役として法的責任を果たすべきで,話しだけではなく,発言を担保するきちんとした資料文書が必要。」,「口答(頭)で理解して欲しい,では通用しない。ほぼ確定にちかいのであれば,きちんと記載すべき。と思う。イグジットが成立しないと大変なことになる。」,「資金調達と返済について,少なくとも担保できるような,安全性を担保できるような資料,文書が必要である。返済を裏付けるきちんとした文書が重要である。」,「資金繰り表を確認してもしょうがない。返済を担保できるような記述ができるような文書が必要である。C社外取締役も指摘するところと感じた。」などと重ねて発言し,本件社債についてSFCGの保証債務履行能力に疑問を表明するとともに,控訴人Y2に対し,TOBの確実性を確認するための追加資料を求めたが,控訴人Y2は,アサヒビールとメリルリンチからは今以上の資料は出てこない旨回答した。

f L監査役は,本件期限前償還約束書(ただし,本CP決議役会開催当初に配布したもの)中,被控訴人に本件CPの引受けを求める趣旨の文言について,「恫喝的に見える。」などと指摘したところ,会議が一時中断されて,その間に控訴人Y2が上記文書の表現を和らげて修正したもの(原判決添付別紙1)を出席者に配布し,控訴人Y1及びCにはファクシミリで送信した。

(オ) 上記(エ)のような議論を経て,控訴人Y2が同Y1を採決に加えた上で採決するよう要求した結果,取締役7名全員が加わって,控訴人Y2の提案に係る本件CPの引受けにつき採決が行われることになった。

a Dは,控訴人Y1,同Y2,B,Cの順に賛否を確認し,4名とも賛成を表明した。なお,Cは,賛成する理由として,①本件CPを引き受けることで,SFCGの収入が上がり,同社の返済能力が向上すること,②本件社債の早期繰上償還が可能になり,リスクが低減すること,③金利年4%が妥当であること,④本件社債の早期繰上償還が実現しないと,アサヒビールのTOBが成立した場合に親会社以外の社債が残ることとなり,好ましい状態ではなくなることなどを述べた。

b その後,F取締役,E,Dの順に意見を表明したが,いずれも本件CP引受決議に反対した。Eは,反対する理由として,①12月8日の取締役会決議で,平成21年1月以降のロールオーバーはしないという前提条件でCP運用を認めたこと,②12月15日の取締役会決議で,新たな資金運用を行わないことを決議しており,これらを覆す程の重要な理由がないこと,③TOBについて,事実関係を確認できる書類が確認できていないこと,④平成20年10月に会計監査人である監査法人から(SFCG側に対する債権回収の可能性が低いので)引当金を計上すべきとの指摘を受けており,今回,実質55億円の資金運用となれば,会計監査人に対して信用を失うことになり,引当金計上を指摘されるリスクがあること,⑤会計監査人から株式売買の譲渡契約書を見たいと言われた経緯もあることなどを述べた。

c 上記a,bのとおり,取締役7名(電話会議により採決に参加した控訴人Y1及びCを含む。)のうち,生え抜きの役員であるD,E及びF取締役が反対した(監査役全員も消極意見を述べていた。)ものの,親会社となったSFCGの意向で取締役に就任した控訴人ら,B及びCが賛成した結果,本件CP引受決議が成立した。

(カ) 本CP決議役会の閉会直後,M監査役は,本件CP引受決議に賛成した控訴人Y2及びBに向かって,「この決定によって,X社の資産的な問題が発生した場合には,本案件に賛成した取締役は,財産的な責務を背負うことを認識しておいてください。」と発言した(甲38の2)。

(2)  前記(1)の認定事実を踏まえて,控訴人らの善管注意義務違反の有無について検討する。

ア 前記(1)アのとおり,SFCGは,客観的に見れば,業績の拡大と比例するように,その取立方法等を巡り社会的批難に曝されていたところ,借主からの過払金返還請求の増加やサブプライム・ローン問題により,経営が相当苦しくなっていく中で,リーマン・ショックを契機とする急激な金融収縮の影響により資金繰りが急速に悪化し,遅くとも平成20年10月末時点では支払不能の状態に陥っていたものと認められる。このような情勢の下で,SFCGのオーナー経営者であるG会長は,遅かれ早かれSFCGの倒産が避けられないものと考え,上記時期ころから,同イのとおり,自身の報酬増額その他の方法で資産隠匿行為を開始したと推認できる。

そして,SFCGグループの子会社となっていた被控訴人においても,同オのとおり,平成20年9月25日,会計監査人である監査法人から,本件社債について,主債務者であるJファクターの償還能力が低い上,保証人であるSFCGが,保有有価証券を大量に売却し,上場廃止を予定しているという事実からみて,同社の資金調達能力の低下が見込まれ,保証債務履行能力に疑問がある旨を指摘され,さらに,同年10月21日には,被控訴人の管理部社員が役員に宛てた電子メールの中でSFCGのCPの償還が不確実である旨を指摘するなど,SFCGの信用力の低下が社内で現実に認識されるようになった結果,同年12月5日には,監査役会がSFCG発行に係るCPの借換えを容認できない旨決議し,同月8日及び15日の各取締役会決議(前者については,控訴人らも書面にて加わった。)により,SFCG発行に係るCPの引受けは平成20年12月8日発行のCP(償還期限平成21年1月7日)を最後とし,かつ,被控訴人の資金繰りの状況にかんがみ,今後はいかなる資金運用もしない旨決議するに至っており,これらの動きは実質的に見て,SFCGグループの債務償還能力に対する強い懸念から,同CPの引受けは被控訴人の資金運用方法として不相当であり,今後は,被控訴人の資金繰りを理由としてSFCGからの融資要請を断るのが相当であるとの経営判断を明らかにしたものといえる。

しかるに,平成21年1月16日になされた本件CP引受決議は,額面が15億円で償還期限が2か月先であるSFCGのCP(本件CP)を引き受けるという内容であるから,上記監査役会及び取締役会の各決議(以下「本件運用禁止決議」という。)の趣旨,内容を完全に覆すものである。

加えて,被控訴人の資金繰りの面からも,平成20年4月にSFCGのCPを引き受け始めた頃のような余剰資金の運用という目的は既に失われていたから,単なる資金運用を理由に本件CPの引受けの相当性を肯定することはできず,その必要性,安全性が厳密に検討されるべきであって,SFCGの償還能力を積極的に肯定するに足りる特段の事情が認められない限り,本件CPの引受けに賛成することは,被控訴人の取締役としての善管注意義務に違反するものといわざるを得ず,このことは,本件運用禁止決議の存在を踏まえると,被控訴人の取締役全員に均しく当てはまるというべきであり,控訴人らのように,SFCGの取締役を兼ねており,一般には知られていない同社の内部事情を認識する機会があったことを責任の加重要素とするものではない。

イ そこで上記特段の事情の有無について判断するに,本CP決議役会において配付された資料は前記(1)カ(ウ)のとおりであり,本件CPの引受けを提案した控訴人Y2による提案理由の説明は同(エ)aのとおりであって,いったんは,今後は資金運用をしないとの経営判断を決議した被控訴人において,本件CPを引き受ける必要性や安全性が十分に説明されたとは到底いえない。

とりわけ,SFCGの子会社であるTZCIが保有する被控訴人株式をアサヒビールのTOBに応じて売却し,その売却代金をもって平成21年3月7日に本件社債及び本件CPを繰上償還するという点は,後記のとおり,担保権者となる可能性があった日本振興銀行の同意の確実性の問題を別にしても,SFCG側における償還の原資を説明するにすぎず,それをもって実際に償還されるか否かは,G会長の作成に係る文書をもってしても確実であるとはいえないし,そもそも本件社債の本来の償還期限は平成21年3月31日であるから(原判決7頁4行目から12行目にかけての(8)),約2か月半先の償還期限を24日繰り上げて償還することを強調すること自体,SFCGの償還能力が極めて悪化していることを疑わせるものといえなくもなく,少なくともSFCGの償還能力を肯定し得る特段の事情(上記ア)というには程遠いものであるといわざるを得ない。

実際,控訴人Y2の上記説明を聞いたL監査役及びM監査役は,資料として配布された本件提案書だけではアサヒビールによるTOBの成立が確実であるとはいえないとして,その成立が確実であることを示す資料を追加提出するよう求めているが,提案者の控訴人Y2がこれに応じて追加資料を提出することがなかったことは,前記(1)カ(エ)d,eのとおりである。

したがって,本件運用禁止決議と相反する本件CPの引受けにつき,これを相当とする特段の事情があったとは到底いえず,控訴人らが,事前に協議した上で本件CP引受決議を提案し(控訴人Y2),賛成したことは,SFCGの本件CPの償還能力が強く懸念され,被控訴人において債権回収不能による損害を被るおそれがあることを十分に予見しながら,その引受けを推進したものとして,被控訴人の取締役としての善管注意義務に違反するものというほかない。

(3)  控訴人らの主張について

ア 控訴人らは,原判決16頁8行目から14行目にかけての(1)のとおり,本件CPの保証人であるMAGねっとから債権回収が可能であり,被控訴人に何ら損害はない旨主張するが,これが認められないことは,原判決26頁15行目から17行目にかけての(2)のとおりである。

イ 次に,控訴人らは,原判決16頁15行目から18頁3行目にかけての(2),及び前記第2の3(3)のとおり,被控訴人が親会社であるSFCGグループの社債やCPを引き受けることは一種の見せ金のような状況であり,かつSFCGの社会的評判が芳しくなかったので,本件CPを引き受けて本件社債及び本件CPの早期償還を促し,SFCGグループとの関係を早期に絶つ必要性ないし有益性があった旨主張する。

この点,控訴人らの主張する「一種の見せ金」の意味が不明であることはさておき,被控訴人の取締役としては,いかなる方法でリスクを避けつつSFCGグループに対する債権の回収を図るかが最重要課題となっていたところ,控訴人らは,①SFCGの資金繰りが悪化していて,程なく民事再生手続開始の申立てをするような状況とは知らなかった,②G会長らが,本件CPの引受けを条件として本件社債の早期償還を約束していた(以上,前記第2の3(3)ア),③G会長の機嫌を損なうと,本件社債の償還に応じない可能性が高かったところ,被控訴人が本件CPを引き受けなければ,G会長の不信を買うおそれがあった(控訴人Y1本人〔調書20,28頁〕)などと弁解する。

しかし,上記①については,上記のとおり,被控訴人の社内においては,既にSFCGの償還能力に疑問を抱かせる事情が認識されていたのであるから,積極的にこの疑いを晴らす確証があればともかく,単にSFCGの実情を知らなかったというだけでは,善管注意義務違反を基礎づけることはあっても,これを否定することはできない。また,同②についても,被控訴人が,SFCGの償還能力及び自身の資金繰りにかんがみて,本件運用禁止決議により,平成21年1月8日以降はSFCGのCPを引き受けず,その後はいかなる資金運用もしない旨の経営判断を明らかにしているのであるから,上記の程度の理由で本件CPを引き受けるべき必要性ないし有益性が肯定されるとはいえない。さらに,同③についても,気分ひとつで約定された償還を履行しないことがあり得るような人物が支配するSFCG側に対し,何らの担保もなくして更に15億円もの本件CPを引き受けることは,およそ経営の意思決定に参画する者の行動としては自殺的行為としか評価できない。

以上のとおり,控訴人らの上記主張は採用することができない。

ウ(ア) さらに,控訴人らは,本CP決議役会当時,アサヒビールによる被控訴人株式のTOB成立が確実であると見込まれ,これにより本件社債及び本件CPの一括早期償還が確実になされると考えていたものであり,仮にかかるTOBが成立しない場合でも,SFCGの資金繰り予定からすると本件社債及び本件CPの償還は可能である上,MAGねっと及びKEホールディングスの保証を付することによって被控訴人に損害を及ぼさないことが確実であると判断した旨主張する。

(イ) なるほど,前記(1)エのとおり,アサヒビールは,被控訴人株式についてTOBを実施する意向があることを表明し,2度にわたり被控訴人の資産査定を実施しているから,価格次第ではそのTOBが成立する見込みがあったとは認められるものの,アサヒビールとSFCGグループ間の価格交渉は道半ばの状況にあり,アサヒビールは,SFCGグループが売却に応じる価格よりも低い価格での買い付けを想定していたことがうかがわれ,本件提案書の存在及び内容をもってしても,価格交渉が妥結に至る見込みが高いとまでは認められない。本CP決議役会で配布されたその他の資料及び提案者である控訴人Y2の説明を踏まえても,アサヒビールによるTOBが確実に成立する見込みであったとは到底いえない。

加えて,よしんばTOBが成立する可能性が高かったとしても,被控訴人が本件社債や本件CPの償還を受けるためには,新たな融資に当たり被控訴人株式について担保権を取得する可能性のあった日本振興銀行が,売却代金のうちから55億円程度を自己の貸付債権への返済に充てることなく,被控訴人への償還金とすることに確実に同意することが必要となるところ,これを認めるに足りる証拠はなく,かえって,本件CP引受決議後に,その交渉を担当した控訴人Y1は,同行のH会長から明確な確約を得ることができなかったと認められる(控訴人Y1本人〔調書7頁〕)。

(ウ) また,一般的に資金繰りが困難になった企業は,債務弁済資金を得たとしても,それを他の債務の返済に回すなどの可能性が常にあり,当時のSFCGにおいても同様というべきであるから,仮に上記TOBが成立し,SFCGグループがアサヒビールから被控訴人株式の売却代金を受け取ったとしても,その資金をもって本件社債及び本件CPを早期償還することが確実であるとまではいえない。このことは,SFCGの代表取締役であるG会長がJファクターの代表取締役と連名で,被控訴人の本件CP引受けを条件として,本件社債及び本件CPの早期償還を約束する文書(本件期限前償還約束書)を被控訴人に提出していることによっても左右されない。

(エ) さらに,SFCGの客観的な経済状況は前記(1)アのとおりであるところ,MAGねっとはSFCGグループに属する企業であり,KEホールディングスはG会長及びその親族の資産管理会社であって,両社の信用力がSFCGの信用力に依存していることは前記(1)ウのとおりであるから,上記のとおりSFCGの償還能力が否定されてもなお,上記両社が本件CPの保証債務履行能力を有していたとは認められない。

(オ) 以上のとおりであり,上記(ア)の控訴人らの主張は採用することができない。

エ B及びCの責任の有無との関係について

控訴人らは,前記第2の3(3)エのとおり,B及びCも,被控訴人の社外取締役という立場にあり,かつ本件CP引受決議に賛成しているという点では控訴人らと同様であるところ,原判決は,B及びCの善管注意義務違反を否定する判断をしているから,それとの均衡からも,控訴人らの同義務違反が否定されるべきである旨主張する。

なるほど,原判決が,1審相被告のB及びCについては,本件CP引受決議に賛成したことが取締役の善管注意義務に違反するものではない旨判断していることは,控訴人らが指摘するとおりであるが,被控訴人がこれを不服として控訴し,当審において被控訴人とB及びCとの間に訴訟上の和解が成立したことは,前記第2の1(3)のとおりである。

上記和解成立により失効した原判決の判断を前提として,B及びCの責任と控訴人らの責任との均衡をいうのは,その前提を欠くというほかない。

控訴人らの上記主張は採用することができない。

3  控訴人らの善管注意義務違反と被控訴人の損害との因果関係について

控訴人らは,前記第2の3(4)のとおり,SFCGによる本件CP(額面15億円)の発行は,実質的には従前から反復継続的に発行していたCP(額面15億円)の借換えに当たるところ,本件CPの直前に発行されたCPの償還期限(平成21年1月7日)の時点では,アサヒビールのTOBの見込みが固まっておらず,実質的に同CPの償還が困難であったし,平成21年2月にはSFCGが破綻して本件CPの償還不能が確定しているから,そもそも控訴人らの本件CP引受決議への賛成と同CPの償還不能による被控訴人の損害との間には因果関係がない旨も主張する。

しかし,本件CPの一つ前に発行されたCPは,その償還期限である平成21年1月7日に償還されており(控訴人Y2本人〔調書5頁〕),本件CP引受決議は,改めてSFCGが発行する額面15億円のCP(本件CP)の引受けに応じるというものであるから,平成20年4月ころからほぼ継続的に被控訴人がSFCGの額面15億円のCPを引き受けてきたという経緯を踏まえても,本件CP引受決議が成立しなければ,被控訴人が本件CPを引き受けることはなく,その償還不能による損害を被ることもなかったことは,否定する余地がない。

したがって,控訴人らがその善管注意義務違反により本件CP引受決議に賛成したことと,本件CPの償還不能による被控訴人の損害との間に相当因果関係があることは明らかであり,上記の控訴人らの主張は採用することができない。

4  まとめ

以上によれば,控訴人らは,被控訴人に対し,会社法423条1項に基づき,連帯して14億8910万9589円のうち3億円及びこれに対する遅延損害金の支払義務を負う。

第4結論

よって,被控訴人の控訴人らに対する本訴請求はいずれも理由があり,これと同旨の原判決は相当であるところ,控訴人らの控訴はいずれも理由がないので,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤幸雄 裁判官 河村隆司 裁判官 達野ゆき)

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