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名古屋高等裁判所 平成23年(ネ)179号 判決 2011年5月25日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  本件の経緯等

証拠(甲2、3、8ないし10、13、14、乙1ないし3、原審証人A、原審における控訴人代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  名古屋市は、昭和19年ころから本件土地を所有し、昭和36年8月8日に同土地につき所有権保存登記手続をした。

(2)  名古屋市は、昭和63年ころ、本件土地を含む7500平方メートル余りの一帯の土地に工業団地(○○)を造る計画を策定し、被控訴人が、本件土地を含む「○○分譲地」(以下「本件分譲地」という。)の用地を取得し、道路の築造・区画割り等の造成工事を施した上で分譲することとなった。

被控訴人は、平成元年1月11日、名古屋市から本件土地を含む本件分譲地の用地を買い受けた。

(3)  被控訴人は、昭和63年末ころから平成元年5月ころにかけて本件分譲地の造成を行った。

本件分譲地は、被控訴人が上記造成を行う以前は、野球用のグラウンドとして利用され、防球ネットとトイレが設置されていたが、それ以外の工作物はなかった。本件土地の北側部分には当時も使用されていなかった雨水用の排水管が埋設されており、造成の際、撤去されることとなった。

本件分譲地の造成にあたっては、基本的に元のグラウンドレベルのまま区画割りと道路敷設等が行われ、1~2m程度掘り下げる工事も所々で行われた。本件分譲地は南側隣接地道路よりも2mほど高くなっていたので、本件土地の10~30mほど西側の土地が最大で2mほど掘削され、仮道路が作られた。既設排水管等の撤去工事の際には、排水管やこれに付随する雨水桝等が1.5mくらいの深さに埋設されていたので、それくらいの深さまで掘削された。分譲地造成にあたっても、道路築造で50cmほど、雨水桝設置の場合には深いもので1mほど掘削された。これらの工事の際に、地中から廃棄物等の異物は出なかった。

(4)  被控訴人は、平成元年6月ころから分譲を開始し、同年6月26日、a株式会社(以下「a社」という。)に対し、買戻特約付で本件土地を売った。

被控訴人は、平成3年1月16日にa社から本件土地を買い戻し、同年3月26日に控訴人に対し、買戻特約付(買戻期間は平成13年3月25日まで)で本件土地を売った。

控訴人は、平成16年8月27日にb社に対し本件土地を売り、b社は、平成20年6月25日にc社に対し本件土地を売った。

(5)  控訴人は、本件土地を買った後、平成3年春から秋にかけて同土地の南側部分に事務所を建設した。その際、地中から廃棄物等の異物は出なかった。

控訴人は、本件土地の北側部分をアスファルト舗装して駐車場として利用した(原審における控訴人代表者11頁)。控訴人代表者は、b社の取締役も兼務しており、控訴人がb社に本件土地を売却した後も、b社が平成20年6月25日に本件土地をc社に売るまでの間、控訴人が本件土地及び同土地上の建物を使用していた(原審における控訴人代表者12、13頁)。

(6)  c社は、本件土地を取得した後、控訴人が駐車場として使用していた北側の幅20m、奥行き15mの部分を、深さ3mにわたって掘削したところ、同部分に本件埋設物が存在するのを見つけた(甲13)。

(7)  被控訴人は、控訴人以外の分譲地を購入した者から、分譲地に廃棄物が埋設されているなどのクレームを受けていない。

2  控訴人の主張(1)について

控訴人は、本件売買当時、本件土地の北側部分に本件埋設物があったと主張するので、検討するに、前記認定のとおり、c社は本件土地を取得した後、控訴人が駐車場として使用していた北側の幅20m、奥行き15mの部分を、深さ3mにわたって掘削したところ、同部分に本件埋設物が存在するのを見つけたものであるところ、控訴人が本件土地を買い受けてからc社が本件土地を購入するまでの間に本件土地の北側部分に本件埋設物が埋設されたことをうかがわせるに足りる証拠は存在しないことからすれば、本件埋設物は、本件売買当時、本件土地の北側部分に既に埋設されていたものと認められる。そして、本件埋設物が本件土地の北側部分に埋設されていたことは、本件土地の隠れた瑕疵であると解される。

3  控訴人の主張(4)について

(1)  控訴人は、「被控訴人は、本件売買に当たり、本件土地の北側部分に本件埋設物が埋設されていることを知りながら、控訴人に告げなかった。仮に被控訴人がこれを知らなかったとしても、これを知らなかったことに重過失がある。」と主張するので検討する。

被控訴人が、本件売買に当たり、本件土地の北側部分に本件埋設物が埋設されていることを知っていたことを認めるに足りる証拠はない。

かえって、上記認定のとおり、被控訴人が名古屋市から本件土地を買った当時、本件土地は、野球のグラウンドの一部として利用されていたこと、被控訴人は、昭和63年末ころから平成元年5月ころにかけて本件分譲地の造成を行ったが、その造成中に、本件埋設物が本件土地から発見されるようなことはなかったことに加え、証拠(原審における控訴人代表者)によれば、被控訴人がa社から本件土地を買った当時、本件土地は更地であったことが認められることからすれば、被控訴人は、本件売買に当たり、本件土地の北側部分に本件埋設物が埋設されていることを知らなかったものと認められる。

また、被控訴人が、本件売買に当たり、本件土地の北側部分に本件埋設物が埋設されていることを知らなかったことにつき、重過失があったことを認めるに足りる証拠もない。

(2)  控訴人は、「被控訴人は名古屋市の関連団体であるから本件売買に関して一体とみるべきである。名古屋市は、本件売買当時、本件土地の北側部分に本件埋設物が埋設されていることを知りながら、控訴人に告げなかった。名古屋市がこれを知らなかったとしても、これを知らなかったことに重過失がある。」と主張するので検討する。

確かに、被控訴人は名古屋市の関連団体であるものの、被控訴人と名古屋市とは別の法人格を有する団体であるから、本件売買に関して一体であるとは認められない。

したがって、仮に、名古屋市が、本件売買当時、本件埋設物が埋設されていることを知りながら、これを控訴人に告げなかったり、あるいは本件埋設物が埋設されていることを知らないことにつき重過失があったとしても、それをもって被控訴人について本件埋設物の存在について故意あるいは重過失があったということはできず、控訴人の上記主張は採用し難い。

また、前記認定の事実関係からすれば、被控訴人が名古屋市から本件土地を取得した時点で既に本件土地中に本件埋設物が存在したものと推認することができるが、それがいつ埋設されたものであるかについては必ずしも明瞭ではない。この点について、控訴人は、本件埋設物の中には昭和40年以降に販売されるようになった△△の空き缶が存在したことからすると、本件埋設物は名古屋市が本件土地を所有するに至った後に埋設されたものであるから、名古屋市は本件埋設物の存在を知っていたか、あるいは知らなかったとしてもそれについて重過失がある旨主張する。しかしながら、仮に本件埋設物の中に△△の空き缶が存在していたとしても、それが昭和40年以降のいつ、具体的に誰によって、何の目的で(例えばグラウンド造成のための埋め立てとか)で埋設されたものであるか明らかでないから、本件埋設物の存在について名古屋市が知っていたとか、あるいは知らなかったことについて重過失があったとは認め難い。したがって、仮に名古屋市と被控訴人の一体性を肯定したとしても、控訴人の主張は採用し難い。

(3)  上記(1)、(2)によれば、控訴人の主張(4)(瑕疵担保免除特約の抗弁に対する再抗弁)は、採用できず、したがって、本件埋設物の存在が本件土地に関する瑕疵にあたるとしても、本件瑕疵担保免除特約によって被控訴人はその責を免れるものというべきである。

4  結論

以上によれば、控訴人の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高田健一 裁判官 内田計一 山崎秀尚)

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