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名古屋高等裁判所 平成23年(ネ)375号 判決 2011年10月27日

主文

1  当庁平成23年(ネ)第375号慰謝料請求控訴事件は,平成23年6月16日,控訴を取り下げたものとみなされ,終了した。

2  当庁平成23年(ネ)第521号慰謝料請求附帯控訴事件は,平成23年6月16日,控訴事件である当庁平成23年(ネ)第375号慰謝料請求控訴事件が控訴を取り下げたものとみなされて終了したことに伴い,終了した。

3  控訴人の平成23年6月17日付け(同日受付)の「期日指定の申立書」による期日指定の申立て以後の訴訟費用は,控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1事案の概要及び手続の経緯

本件記録によれば,次の事実関係が認められる。

1  本件は,昭和33年生の女性である控訴人(1審原告)が,昭和41年生の女性である被控訴人(1審被告)に対し,被控訴人が控訴人の夫と男女関係を有するようになったことから,控訴人の夫が家を出て,控訴人に離婚訴訟を提起するに至ったと主張して,慰謝料600万円及びこれに対する不法行為の日以後である平成22年3月6日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は,平成23年2月24日,控訴人の本件請求を慰謝料50万円及びこれに対する平成22年3月6日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却する旨の判決(原判決)を言い渡し,同年2月24日,同判決の正本を被控訴人代理人に送達し,同月25日,同正本を控訴人代理人に送達した。

2  控訴人は,平成23年3月9日,原判決の控訴人敗訴部分(遅延損害金に関する部分を除く。)を不服として,本件控訴を提起した(なお,控訴人代理人の提出した控訴状によれば,控訴人は,当審においては,原審が認容した部分を含め,遅延損害金の支払を求めていない。)。

3  当裁判所(裁判長)は,平成23年4月6日,口頭弁論期日を同年5月19日午後1時15分と指定し,裁判所書記官は,同年4月6日,上記期日を指定した裁判について,控訴人代理人に告知した。

控訴人代理人は,同月7日,上記期日についての請書を当裁判所にファクシミリ送信した。

被控訴人代理人は,同月8日,上記期日についての請書を当裁判所に提出し,同月13日,本件控訴状副本の送達を受けた。

4  被控訴人は,平成23年4月23日,原判決の被控訴人敗訴部分を不服として,本件附帯控訴を提起した。

控訴人代理人は,同月27日,本件附帯控訴状副本の送達を受けた。

5  本件当事者は,いずれも,平成23年5月19日午後1時15分の当審第1回口頭弁論期日に出頭せず,同期日は休止となった。

6  控訴人代理人は,平成23年5月19日,「平成23年6月16日午前を希望します」との記載のある同年5月19日付け期日指定の申立書を当裁判所にファクシミリ送信した。

7  当裁判所(裁判長)は,平成23年5月20日,口頭弁論期日を同年6月16日午前11時00分と指定し,裁判所書記官は,同年5月23日,上記期日を指定した裁判について,控訴人代理人と被控訴人代理人に告知した。

控訴人代理人は,同日,上記期日についての請書を当裁判所にファクシミリ送信した。

被控訴人代理人は,同月24日,上記期日についての請書を当裁判所に提出した。

8  控訴人代理人の事務所の事務員は,平成23年6月16日午前9時35分ころ,電話で,裁判所書記官に対し,「弁護士が体調不良のため,期日を変更していただきたい。熱があり,2,3日は安静にとのことである。追って期日変更申請を提出する。」旨述べた。

被控訴人代理人は,同日午前9時45分ころ,電話で,裁判所書記官に対し,「相手方から期日変更申請を提出するとの連絡があったが,前回も変更したという経緯もあるので,同意はできないし,期日変更申請に対しては,却下の裁判を求める。」旨述べた。

控訴人代理人は,同日午前10時17分ころ,「変更申請の理由」「代理人弁護士の体調不良のため。」「相手方代理人には連絡済みです。」などと記載した同日付け期日変更申請書を当裁判所にファクシミリ送信し,もって同日午前11時00分の当審第2回口頭弁論期日について,期日変更の申立てをしたが(なお,控訴人代理人の事務所の事務員は,同日午前10時20分ころ,電話で,裁判所書記官に対し,「弁護士は咽頭結膜炎で,昨日(同月15日)の夜に38度4分の熱があったとのことである。」旨述べている。),当裁判所は,同日(同日午前11時00分の当審第2回口頭弁論期日に先立って),これを許さない旨の裁判をし,裁判所書記官は,同日(同日午前11時00分の当審第2回口頭弁論期日に先立って),上記裁判について,控訴人代理人の事務所に電話で告知した。

9  本件当事者は,いずれも,平成23年6月16日午前11時00分の当審第2回口頭弁論期日に出頭しなかった。

第2当事者の主張

1  控訴人の主張

(1)  控訴人代理人は,平成23年6月15日の夕方近くになって,目やにが異様に多く出ていることに気付き,熱を測ったら38℃を超えていたので,a内科を受診し,4日分の抗生剤の投薬と点眼薬をもらって,帰宅し,指示どおり飲んだ。控訴人代理人は,当審第2回口頭弁論期日である翌16日も,38℃前後の熱があって起きればフラフラし,また,目やにがひどくて上下のまぶたがくっついてしまい,前が見えない状態であった。調べると,アデノウィルスの感染症(感染予防法では指定感染症となっており,学校保健法では熱が下がっても2日間は登校禁止となっている。)であった。当初投与された薬を飲み終えた後である日曜日(同月19日)まで休養をとったが,月曜日(同月20日)になっても37℃前後の熱と咳が残っていて,まだ他人に感染させるおそれがあるので,再診を受けて,7日分の投薬(同一薬)を受けた。

(2)  感染症の罹患は,控訴人代理人が自ら招いたということではなく,熱及び目やにの状態から出頭はおろか,外出もできなかった。

(3)  民事訴訟法263条の定めは,「出頭」しないときとなっているが,これは,出頭できる状態であることが当然の前提であると考えられる。

控訴人代理人は,出頭できなかったものであって,出頭しなかったのではなく,同条所定の「出頭」しないときに該当しないから,同条を適用することは誤りであり,無効であるから,期日指定を求める。

2  被控訴人の主張

(1)  民事訴訟法263条によれば,当事者双方が連続して2回の期日を懈怠したときは,そのことだけで(最初の懈怠の期日から1か月以内に期日指定の申立てをした場合であっても),訴えの取下げが擬制される。控訴人の主張は,独自の見解を述べるにすぎず,失当である。

(2)  控訴人の不出頭は,当審第1回口頭弁論期日,第2回口頭弁論期日とも,期日当日に至って体調不良を理由にされたものであるが,このような場合には,「顕著な事由」とは認められないし(最高裁昭和40年11月2日第三小法廷判決・裁判集民事81号25頁参照),本件は,第1審において弁論準備手続を経ているから,期日の変更には「やむを得ない事由」を要するというべきであるところ,本件においてそのような事由は認められない(最高裁昭和28年5月29日第二小法廷判決・民集7巻5号623頁参照)。

(3)  したがって,本件控訴については,取下げを擬制すべきである。

第3当裁判所の判断

1  前記第1で認定した事実関係によれば,当事者双方が,連続して2回,当審の口頭弁論期日に出頭しなかったことが認められるから,民事訴訟法292条2項,263条後段により,当庁平成23年(ネ)第375号慰謝料請求控訴事件は,平成23年6月16日,控訴を取り下げたものとみなされ,終了したものというべきであり,また,当庁平成23年(ネ)第521号慰謝料請求附帯控訴事件は,同日,控訴事件である当庁平成23年(ネ)第375号慰謝料請求控訴事件が控訴を取り下げたものとみなされて終了したことに伴い,終了したものというべきである(民事訴訟法293条2項本文)。

2  この点,控訴人は,控訴人代理人は,感染症の罹患により出頭できなかったのであって,出頭しなかったのではないから,民事訴訟法263条所定の「出頭」しないときに該当しない旨主張するが,独自の見解であって,採用することができない。

3  なお,平成23年6月16日,同日午前11時00分の当審第2回口頭弁論期日に先立って,控訴人代理人が期日変更の申請をし,当裁判所がこれを認めない旨の裁判をしたことは,前記第1で認定したとおりである。控訴人は,上記裁判が違法である旨の主張はしていないが,仮に,そのような主張がされたとしても,控訴人代理人は,上記申請に際して,「控訴人代理人は,感染症に罹患しており,同期日に出頭することが著しく困難である」とか,「復代理人を選任した上,同期日に出頭させたり,控訴人本人に出頭を要請することも著しく困難である」等の事由を明らかにはしておらず(民事訴訟法93条3項,民事訴訟規則36条参照),少なくとも,控訴人代理人が,自ら又は事務員を通じて,当裁判所に対し,そのような事由を主張することすら著しく困難であったとは認められないから(医療法人a内科の医師b作成に係る同月23日付け診断書〔甲A第4号証〕には,控訴人代理人が「咽頭結膜炎」のため,「平成23年6月16日より6月17日まで休養を要しました」との記載はあるが,およそ外出ができなかったとか,電話等により連絡をとることも著しく困難であったなどの事情をうかがわせる記載はない。),同裁判が違法であるということはできない。

4  よって,本件につき訴訟が終了した旨の宣言をすることとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺修明 裁判官 嶋末和秀 裁判官 末吉幹和)

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