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名古屋高等裁判所 平成23年(行コ)11号 判決 2011年5月27日

主文

1  原判決を取り消す。

2  処分行政庁が平成21年3月24日付けで控訴人らに対してした供託金還付請求却下処分を取り消す。

3  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,控訴人らの被相続人の被相続人が所有していた株式に関し発生した配当金等につき債権者不確知(民法494条後段)を理由に供託がされたのに対し,控訴人らが,上記配当金債権等は分割債権であり,控訴人らは自己の相続分に応じてその権利を確定的に取得しているとして,各相続分に応じて供託金の払渡請求(還付請求)をしたところ,処分行政庁からこれを却下する処分(本件処分)を受けたため,その取消しを求めた事案である。

原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却した。

2  その余の事案の概要は,当事者の当審における補足的主張を次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の第2の2ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。

(控訴人らの当審における補足的主張)

相続開始後に遺産から生じた果実は,遺産とは別個の財産であり,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し,後になされた遺産分割の影響を受けない。

金銭債権や相続開始後に遺産から生じた果実を遺産分割の対象とするには,共同相続人全員の同意が必要であるが,本件においては,そのような同意はなく,このことは本件供託の供託書の記載からも読み取れる。

原判決は,供託規則24条1項1号所定の書面の例として,他の相続人との間で控訴人らが本件供託金の9分の2につき還付請求権を有することを確認する確定判決を挙げるが,控訴人らは,上記のように本件供託金の還付請求権を相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し,これと異なる相続人間の取り決め等もないから,そのような訴えの確認の利益が認められない。

(被控訴人の当審における補足的主張)

平成17年判決は,相続人全員の合意により相続開始後に遺産から生じた果実を遺産分割の対象に含めることができるとする現在の家裁実務を否定するものではない。また,その後の最高裁判決においても,定額郵便貯金のように,金銭債権であっても,その性質,内容によっては,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割債権とはならず,その最終的な帰属が遺産分割の手続において決せられることになるものも存在することが認められている。

また,仮に,本件配当金等請求権がその発生当初から相続人らが相続分に応じて確定的に分割取得していたのであれば,債権者不確知を供託原因とする本件供託には供託原因が存在しないことになり,被供託者は還付請求権を有し得ない。

第3当裁判所の判断

当裁判所は,控訴人らの請求は,以下のとおり理由があるものと判断する。

1  供託官の審査権限及び供託規則24条1項1号所定の書面について並びに本件供託金の性質については,原判決「事実及び理由」欄の第3の1及び2記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決10頁1行目の「そして,」から2行目の「取得する」までを,「そして,上記配当金請求権は,金銭債権であり,各共同相続人がその相続分に応じて分割債権として確定的に取得する」に改める。)。

2  本件処分の適否について

(1)  上記のとおり,本件供託金に係る配当金債権,株式移転交付金債権及び端数株式処分代金債権(以下,これらを総称して「本件配当金等債権」という。)については,いずれも共同相続人がその相続分に応じて分割債権として確定的に取得したものと解され(平成17年判決参照),もとより,このことは,共同相続人の一部の者が,金銭債権や相続開始後に遺産から生じた法定果実につき分割債権ではない旨あるいは法定相続分とは異なる相続分(共有持分)の主張をしていたとしても,そのこと自体によっては左右されるものではない。

現在の家庭裁判所における遺産分割の実務では,共同相続人全員の同意を前提として,金銭債権や相続開始後に遺産から生じた法定果実をも対象として遺産分割を行う運用がなされているが,そのような運用においても,金銭債権や相続開始後に遺産から生じた法定果実を当然に遺産分割の対象とするものではなく,本来,共同相続人がその相続分に応じて分割債権として確定的に取得すべきものを,共同相続人全員の同意がある場合に限って,遺産分割の対象にできる扱いとしているにすぎない。

(2)  なお,被控訴人は,金銭債権であっても,定額郵便貯金のように,その性質,内容によっては,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割債権とはならないものがある旨主張する。

しかしながら,定額郵便貯金は,多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上,預入金額を一定額に限定し,貯金の管理を容易にして,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図る趣旨の下,郵便貯金法7条1項3号により,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定められた貯金であり,相続開始前から分割が禁止されている性質のものである。これに対して,本件配当金等請求権に上記と同様な分割制限があるわけではないことは明らかである。

また,被控訴人は,本件配当金等請求権がその発生当初から相続人らが相続分に応じて確定的に分割取得していたのであれば,債権者不確知を供託原因とする本件供託には供託原因がないことになり,被供託者は還付請求権を有し得ない旨主張するが,上記のとおりの事情で供託原因が存在しないにもかかわらず供託が受理されたような場合に,被供託者が,供託の効力を否定して債務者に債務の履行を請求する代わりに,供託の効力を前提として供託金還付請求権の行使を選択することもできると解すべきであり,供託官においてこれを拒む正当な理由があるとは認められない。

したがって,被控訴人のこれらの主張は採用できない。

(3)  前記1のとおり,供託規則24条1項1号にいう「還付を受ける権利を有することを証する書面」とは,供託官において,その書面のみによって還付請求者が還付を受ける権利を有することを確認することができるものでなければならないところ,引用にかかる原判決「事実及び理由」欄第2の2の前提事実(3)及び(5)記載のとおり,控訴人らは,本件還付請求に際して,戸籍謄本のほか,亡Bの遺産おける控訴人らの相続分が,控訴人Cが9分の1,同D及び同Eが各18分の1である旨判示した名高裁決定(甲14)並びにこれに対する抗告不許可決定書(甲15)及び抗告棄却調書(甲16)を含む本件添付書類を処分行政庁に提出しており,本件添付書類によって,亡Bの相続における控訴人らの相続分が上記のとおりであり,控訴人らが本件配当金等債権の9分の2を分割債権として確定的に取得したこと,すなわち,控訴人らが本件供託金の9分の2につき還付を受ける権利を有することを確認することができる(加えて,本件添付書類によれば,本件配当金等債権が上記遺産分割審判の対象とされていなかったことも確認できる。)。

(4)  以上によれば,控訴人らが本件還付請求に際して処分行政庁に提出した本件添付書類は,控訴人らが本件供託金の9分の2につき還付を受ける権利を有することを証する書面として,その要件を満たすものと認められるから,本件還付請求が供託規則24条1項1号所定の書面の添付を欠くものであるとしてこれを却下した本件処分は,取消しを免れない。

3  よって,本件処分の取消しを求める控訴人らの請求はいずれも理由があるから,これと異なる原判決を取り消して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村直文 裁判官 内堀宏達 裁判官 濵優子)

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