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名古屋高等裁判所 平成23年(行コ)64号 判決 2013年1月16日

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

2  原判決主文第1項のA市水道事業及び下水道事業管理者が平成22年10月29日付けで控訴人に対してした下水料金5456円を徴収する旨の処分のうち,1260円を超える部分を取り消す。

3  被控訴人のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人の請求を棄却する。

(3)  控訴費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

第2事案の概要等

1  本件は,家族4人で井戸水を使用し,下水道を利用していた被控訴人が,控訴人の水道事業及び下水道事業管理者から,A市下水道条例施行規程が定める井戸水放流量の認定基準による井戸水の放流量を前提に算出された下水料金徴収処分を受けたことについて,上記規程は下水道法20条2項1号及び4号に反し違法無効であるから,上記処分は違法であると主張して,その取消しを求めた事案である。

原審は,控訴人は,上記認定基準が井戸水使用者の使用態様に応じて妥当なものであることを主張立証しないから,同基準は違法無効であり,これに基づいてなされた本件処分も違法であるとして,被控訴人の請求を認容したため,これを不服として控訴人が控訴した事案である。

なお,略語については,特に断らない限り,原判決の例による。

2  争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者の主張

以下のとおり,原判決を補正し,当審における当事者の主張を加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)

原判決4頁17行目の「認定基準」を削る。

(当審における当事者の主張)

(1) 控訴人

ア 被控訴人は,家族4人で井戸水を使用し,下水道を使用していたが,その住居には,管理者の認める計測器が設置されていなかったので,被控訴人の汚水放流量は,地方公営企業法10条に定める本件施行規程16条の2に定める本件放流量認定基準に従って認定することになるところ,被控訴人の1か月当たりの認定水量は34㎥(27㎥+7㎥)である。

イ A市においては,下水道の使用料算定期間(一般的に3年から5年程度)を設け,その期間中の下水道事業費を賄うのに必要な料金収益の総額を決め,これを家事用等の使用者群にかかる下水道事業費に基づき,用途・水量ごとに配賦して下水料金表を設定した上で,A市長の諮問機関であるA市公営企業経営審議会(以下「審議会」という。)に諮問した上で,下水料金等を決定している。

平成22年度の下水使用量の算出に使用された本件放流量認定基準は,平成8年度の水道のみを使用する者(家事用)の人数ごとの水道使用量(1か月)の調査結果に基づき,審議会の「下水料金について答申」(平成9年11月10日付け)を受けて平成9年度に設定され,平成10年4月1日より施行された平成10年度改正認定基準であり,同基準は,平成14年度,平成17年度及び平成20年度の各審議会の答申においても,相当とされ,見直しはされていない。

ウ 家事用の水道メーター及び井戸水計測器による計測に基づくA市全域における平成22年度の水道水及び井戸水の世帯人数別使用量は,別紙1のとおりであり,井戸水の使用量は,水道量の使用量よりも多い。

エ また,A市内の下水道区域のうち,B処理区は,概ね平成21年度までに下水道が整備され,井戸水使用者(水道水との併用使用者を含む。)1758戸のうち1754戸(99.7%)に計測器の設置がなされているから,同処理区では井戸水使用者の使用水量により井戸水使用の実態をより正確に把握することが可能であり,本件認定基準の適法性を確認する際にこれを参照することは合理性がある。

そして,B処理区の世帯人数別の井戸水使用実績と認定基準の差は,別紙3のとおりであり,認定基準に対する使用実績の低減率は,最大でも5人世帯のマイナス18.5%である。

オ さらに,平成18年1月にA市に合併したC地域では,井戸水使用者の全戸(井戸水のみの使用者100戸,水道水と井戸水の併用使用者48戸)に計測器が設置されているところ,同地域の井戸水のみの使用者の平成22年度の世帯人数別平均使用量は別紙2のとおりであり,5人世帯までは認定基準と同程度である。

カ 以上によれば,本件放流量認定基準は,許容値の範囲内にあり,下水道法20条2項1号,4号に反することはなく裁量の範囲内で適法である。

キ なお,被控訴人は,計測器の設置が促進されていないことを問題にするが,本件放流量認定基準と井戸水の使用実態との乖離の程度は,計測器設置の促進の有無により左右されないから,計測器の設置状況は,本件放流量認定基準の違法性とは関係がない。

(2) 被控訴人

ア 下水道法20条2項が公共下水道の使用料を定めるに際し,下水の量及び水質その他使用者の使用の態様に応じて妥当なものであり(同項1号),特定の使用者に対し不当な差別的取扱いをするものではないこと(同項4号)を求めていることからすれば,計測によらずに放流量を認定する場合,計測による場合の放流量と同程度の放流量を認定することが必要である。

そして,認定基準による井戸水使用量の算出は,あくまで,すべての井戸水使用者への計測器の設置がなされるまでの暫定的,例外的な方法である。それにもかかわらず,井戸水使用量の世帯人数別使用量の平均値は,いずれも認定基準を下回っているばかりか,使用量が,1人少ない世帯の認定基準を下回っているものもあるから,本件放流量認定基準は,計測による場合の放流量と同程度の放流量を認定できるものとはいえない。

したがって,本件放流量認定基準は,水道法20条2項1号,4号に反するものである。

イ 認定基準については,実際の使用量との乖離を最小限にとどめることまではできても,乖離自体をなくすことはできないが,計測器を取り付ければ,このような問題は解決するのであり,被控訴人が計測器の設置を怠ったことにより認定基準を適用せざるを得ないことは,特定の使用者に対し,不当な差別的取扱いをするものであり,下水道法に反して違法である。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,被控訴人の請求を,本件処分のうち1260円を超える部分の取消しを求める限度で認容し,その余の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

2  争点(本件放流量認定基準の適法性)について

(1)  本件条例は,定額の基本料金に放流した汚水量に応じて定まる従量料金を加算して下水道使用料を算出している(本件条例21条1項1号,3項)ところ,従量料金の算出の基礎となる放流する汚水量の認定については,水道水を使用した場合は使用した水道水量,井戸水等を使用した場合には原則として計測に基づく井戸水の使用水量をもって放流量とみなし(本件条例21条2項1号,2号),例外的に井戸水の使用水量が計測できない場合は管理者の認定する水量をもって放流量とみなすこととして(同項3号),汚水放流量の認定は水道や井戸水等の実際の使用水量によることを原則とし,使用水量を計測できない場合に例外的に放流量の認定基準によることとし,本件施行規程16条の2においてその認定基準を定めている。

そして,下水道法20条は,下水道使用料について,利用者負担の考え方に基づき,下水道使用料が使用の態様に応じて妥当なものであることを求め(2項1号),特定の使用者に対する不当な差別的取扱いを禁じている(同項4号)から,本件条例の定める下水料金は,使用者の排水する汚水の量及び水質その他使用者の使用の態様に応じたものであることを要し,汚水の質等に特段の差異のない限りは,原則として,使用者の排出する汚水量に比例して定められることを要するのであり,同一の使用態様であるにもかかわらず,合理的な理由もなく,その額が異なることとなるような下水料金の算定方法を定め,同算定方法に従って使用者に対して下水料金を賦課することは,下水道法の上記原則に違反し違法というべきである。

そうすると,本件条例に基づく下水料金のうち従量料金の算定に関する本件放流量認定基準についても,井戸水使用者の使用態様に応じて妥当なものであること,すなわち,原則として,計測によらずに放流量を認定する場合においても,それが計測による場合の放流量と同程度の放流量を認定するものであることが必要であるというべきであり,本件放流量認定基準が,計測による場合の放流量と対比して合理的に許容される相当な範囲を逸脱し(認定による推定ということに伴う一定程度の誤差はもとより許容されると解する。),同基準によって認定された放水量が計測に基づく井戸水の使用水量をもって放水量とされている場合から推定される汚水量を相当程度上回るときには,その結果として,本件放流量認定基準に基づく井戸水の使用量をもって放流量として算出された下水料金を賦課される使用者が,計測に基づく井戸水の使用量をもって放流量として算定された下水料金を賦課される使用者に比して,放水量に比例しない,より多額の下水料金を負担することとなるのであるから,下水道法20条2項1号,4号に反して違法というべきであり,それに基づき放流量を算出して下水道使用料を徴収する本件処分は,法律又は条例の定めによらないものとして違法となるというべきである。

そこで,以下,本件放流量認定基準が,下水道法20条2項1号及び4号に照らして,適法であるか否かについて検討する。

(2)  認定事実

争いのない事実等に加え,証拠(甲6,7の5,乙1,3ないし17,18の1・2,乙19,20)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。

ア 被控訴人が居住する賃貸アパート(以下「本件アパート」という。)は,5階建て(ただし,5階部分は受水槽があり,実質は4階建てである。)である。

下水料金は,排水設備使用者等から1戸等ごとに徴収するのが原則であるが,本件アパートのように,2戸又は2世帯以上が排水設備を共同使用する場合,A市水道事業及び下水道事業管理者(以下「管理者」という。)が必要と認めたときは,各使用者から徴収することができる(本件条例20条1,2項)。上記「必要と認めたとき」については,「中高層ビルにおける井戸水使用の下水料金の各戸徴収に関する取扱要領」(乙19,以下「本件要領」という。)が定められており,計測器が設置されていないため計測によらない場合に,3階建て以上の住宅用の井戸水のみを放流する建物で,各戸に井戸水放流量認定基準が適用されているものについては,管理者が各使用者から直接下水料金を徴収する(本件要領2条1,2項)。そして,複数の使用者が排水設備を共同使用するときは,当該設備の所有者,使用者等のうちから管理人を選定して管理者に届出をしなければならないから(本件条例4条1項),本件要領2条1,2項に基づき,管理者が各使用者から下水料金を徴収するには,管理人が管理者に「中高層ビルにおける井戸水使用の各戸徴収に関する取扱申請書」等を提出しなければならないが(本件要領3条1号),本件アパートにおいては,管理者に対し,上記申請書(乙20)が提出されている。

イ 本件放流量認定基準は,平成8年度の水道のみを使用する者(家事用)の世帯人数ごとの水道使用量(1か月)の調査結果(1人世帯11.54㎥,2人世帯21.47㎥,3人世帯26.66㎥,4人世帯31.84㎥,5人世帯37.40㎥,6人世帯43.08㎥,7人世帯46.40㎥,8人世帯50.37㎥。乙4)に基づき,審議会の「下水料金について答申」(平成9年11月10日付け。乙3)を受けて,上記水道使用量に依拠して平成9年度に設定され,平成10年4月1日より施行されたものである。

ウ 控訴人においては,下水道の料金算定期間を設定し,その期間中の下水道事業の収支(財政計画)を見積り,収益を用途・水量等に応じて配賦して下水料金表を設定し,大学教授,市議会議員,各種協議会等からの代表者及び公募委員等によって構成される審議会に諮問した上で,下水料金等を決定している。本件放流量認定基準は,平成9年度の答申を受けて設定された後,見直しがされることなく,平成22年9月及び10月当時も,同基準に基づき井戸水使用量の算出がされていた。

エ もっとも,平成14年度の答申において,水道の使用実態に基づき認定基準を見直してきたというそれまでの在り方について,水道利用者と井戸水利用者とでは利用形態が異なるのではないかとの疑問から料金に格差を設けるべきであるとの考えがあった一方で,確たる根拠もなく特定の利用者に格差が生じるような料金設定は不適切であり,計測器設置を促進すべきであるとの考えが示されるなどしたが,結局,水資源利用の公平性,衛生面,資源保護,環境保全の観点から,第1に井戸水から水道への切替え,第2に計測器の設置について井戸水利用者の理解を積極的に求めていくことが重要であるということにとどまった。その後,平成17年度及び平成20年度の各審議会では,本件放流量認定基準の当否に関する協議はなく,現行料金維持相当の答申がなされ,本件処分後の平成23年度の審議会において,初めて認定基準の見直しが取り上げられ(甲6),その改正に関する答申がなされ,同答申を踏まえ,平成24年7月1日から本件放流量認定基準が改定され,各世帯の水量が引き下げられ,特に4世帯ないし6世帯の水量については大幅に引き下げられた(甲12。改定の具体的内容は同号証の2枚目)。

オ 平成22年当時控訴人において既に供用が開始されていた下水道の区域は,D処理区,E処理区,F処理区,B処理区,G処理分区,H第1処理分区,H第2処理分区及びI処理分区と,平成18年1月にJ県K郡C町との合併に伴って控訴人に編入されたC東処理分区,C西処理分区,L処理分区及びM処理分区であった(乙14中のA市下水道区域図参照。なお,平成23年3月には,さらにN処理分区の供用が開始された。)。

そして,控訴人における平成22年度の下水道使用戸数(家事用)の総数は13万1212戸であり,そのうち水道のみを使用していた戸(以下「水道水世帯」ともいう。)が10万2317戸,井戸水のみを使用していた戸(以下「井戸水世帯」ともいう。)が1万6183戸(そのうち計測器により計測している戸数は3419戸),水道と井戸水を併用して使用していた戸(以下「併用世帯」ともいう。)が1万2712戸(そのうち水道と計測器により計測している戸数は2062戸)であり(乙14中の「5 下水利用戸数」(2)),下水道使用戸数の総数に占める井戸水使用戸数(水道との併用を含む。)の割合は,22.0%(28,895/131,212)と少なくはなかった。

控訴人は,平成14年度答申を受けて,平成15年から当面1年1700戸の計画で井戸水の計測器の設置促進に努めたが,設置を拒否されることが多々あり,同年度は766個,平成16年度は938個にとどまり,平成17年度からは個別訪問によるトラブルを避けるために郵送による計測器の設置案内を送付し,電話連絡があった者から順次訪問する方法によったため(設置計画も平成18年度からは700個,平成21年度は500個,平成22年度は400個とした。),同年度は465個,平成18年度は359個,平成19年度は351個,平成20年度は259個,平成21年度は198個,平成22年度は267個にとどまった(乙18の1・2)。その結果,B処理区とC地域を除いた区域においては,計測器の設置はまだ十分に促進されていない。

カ 平成22年度における控訴人全域の下水道使用者における計測器で計測した井戸水世帯人数別(1人ないし8人)の1か月当たりの使用量(以下,「使用量」とは,計測器で計測された実使用量をいう。)は,水道水世帯との比較で,8人世帯を除きいずれも井戸水世帯の方が多く,それぞれの使用量は,併用世帯を含めて,別紙1のとおりである。

また,B処理区とC地域(C東処理分区,C西処理分区,L処理分区及びM処理分区であると推認される。)は計測器の設置が普及し,B処理区では井戸水世帯1489戸のうち1486戸(99.7%)に計測器が設置され,C地域では,井戸水世帯100戸の全てに計測器が設置されている。

B処理区の井戸水世帯における井戸水の1か月当たりの平均使用量は,1人世帯が11.6㎥,2人世帯が19.4㎥,3人世帯が25.1㎥,4人世帯が28.4㎥,5人世帯が33.4㎥,6人世帯が39.3㎥であり,いずれも認定基準より少なく,また,C地域の井戸水世帯では,1人世帯が17.3㎥,2人世帯が21.1㎥,3人世帯が28.1㎥,4人世帯が36.8㎥,5人世帯が40.8㎥,6人世帯が30.7㎥であり,1人世帯,3人世帯及び4人世帯は認定基準より多く,その余は認定基準より少ない(乙17)。さらに,A市全域における井戸水世帯の1か月当たりの井戸水の平均使用量は,1人世帯が13.5㎥,2人世帯が19.9㎥,3人世帯が23.7㎥,4人世帯が28.5㎥,5人世帯が30.3㎥,6人世帯が38.9㎥であり,1人世帯を除き,いずれも認定基準より少ない(乙17)。

これらを前提にした平成22年度のB処理区,C地区及びA市全域における井戸水世帯の世帯人数別の平均使用量と,本件放流量認定基準との比較並びにA市全域の認定基準に対する低減割合(認定基準の放流量と比較して,これを下回る割合。以下,同じ。)は,別紙2のとおりである。また,B処理区における井戸水使用量と認定基準との差及び同基準に対する低減割合をまとめると,別紙3のとおりである。

キ 控訴人において,平成21年3月末時点で計測器を設置済みの井戸水のみの使用者(家事用)について,1人から6人までの世帯人数別の使用量の調査をしたところ,別紙4のとおり,平成16年度から平成21年度までの平均使用量は,本件放流量認定基準よりいずれも低く,その低減率は,1人世帯で15.20%,2人世帯で21.70%,3人世帯で11.10%,4人世帯で23.70%,5人世帯で18.90%,6人世帯で22.30%であった(甲7の5)。

(3)  本件放流量認定基準の適法性に関する判断

ア 上記(2)で認定した事実によると,本件放流量認定基準について,井戸水世帯における使用量(計測器で計測された実使用量)と対比すると,次のとおりとなる。

(ア) 井戸水計測器は,B処理区では99.7%,C地域では100%の割合で設置されているほかは,必ずしも設置が十分促進されていないが,控訴人全域の計測器により計測をしている井戸水世帯の43.5%(1486/3419)に相当するB処理区の世帯人数別の井戸水使用量は,1人世帯から6人世帯までのいずれにおいても本件放流量認定基準を下回っており,そのうち2人世帯と,4人世帯ないし6人世帯における低減率は10%以上であり,5人世帯では18.5%に上る(なお,被控訴人が該当する4人世帯では16.5%である。別紙3参照)。

(イ) また,控訴人全域においても,1人世帯の井戸水使用量こそ同認定基準を上回っているものの,2人世帯ないし6人世帯の井戸水使用量においては,いずれも同認定基準を下回っており,その低減率は,3人世帯ないし6人世帯で10%を上回り,4人世帯では16.2%,5人世帯では26.1%,6人世帯では19.0%に上り,4人世帯以上では15%を超えている(別紙2参照)。このことは,本件放流量認定基準のうち,特に4人目以降,3人の基本水量27㎥に1人増すごとに7㎥加算することとした部分について,同認定基準の定め方に問題があることを示しているといえる。

(ウ) そして,控訴人において,平成21年3月末時点で計測器を設置済みの井戸水のみの使用者(家事用)について,1人から6人までの世帯人数別の放流量を調査した結果によると,平成16年度から平成21年度までの平均使用量は,本件放流量認定基準よりいずれも低く,その低減率は,11.0%(3人世帯)から23.70%(4人世帯)に至っており,そのうち,2人世帯,4人世帯及び6人世帯が20%を超えている状況にあったのであるから,本件放流量認定基準の合理性には,既に平成22年の相当前から問題があったというべきである。

(エ) なお,C地域においては,井戸水の使用量が本件放流量認定基準を大きく下回る6人世帯と,同認定基準を大きく上回る1人世帯を除けば,2人世帯と5人世帯で同認定基準を若干下回り,3人世帯と4人世帯で同基準を若干上回るにとどまり,同認定基準との乖離は比較的小さいといえるが,前記のとおり,C地域における井戸水世帯は100戸(全戸計測器が設置されている。)であり,控訴人全域の計測器により計測している井戸水のみの使用者3419戸の約34分の1にすぎず,地域的な特殊性が統計数値に反映しやすいことを考慮すると,控訴人全域に適用される本件放流量認定基準が合理的なものかの判断において,C地域における世帯人数別の実際の井戸水使用量を重視することはできない。

イ 上記アのとおり,本件放流量認定基準の定める放流量は,平成22年当時,控訴人の全域において,井戸水世帯の井戸水使用量(計測器により計測された実使用量)との比較で,これを上回り,その程度は,4人ないし6人世帯という多人数世帯で15%を超過し,最大で26.1%にも達していたのである。

ところで,計測器設置の井戸水世帯について,計測器で計測された井戸水使用量をもって放流量とされており,その井戸水使用量も判明しているのであるから,計測器が設置されていない井戸水世帯の井戸水使用量は,それにより難いとする特段の事情の認められない本件においては,同じ井戸水世帯として,計測器設置の井戸水世帯の井戸水使用量から推定することができるものというべきであり,そして,計測器が設置されていない井戸水世帯の放流量は,上記のようにして推定された井戸水使用量と同一であるというべきである。

そうすると,本件放流量認定基準が定める放流量が,計測器設置の井戸水世帯の井戸水使用量と上記のとおり乖離し,これを上回っていることは,本件放流量認定基準の適用を受ける井戸水世帯について,控訴人において,本件放流量認定基準を適用して,実際の放流量を上回る放流量を認定することにより,実際の放流量に比例しない従量料金を算定し,これを下水料金の一部として賦課していることになるところ,このような賦課は,少なくとも4人ないし6人世帯という多人数世帯については,同世帯に関する本件放流量認定基準の定める放流量が計測器設置の井戸水世帯の井戸水使用量から15%以上という相当に大きな乖離が存在することにつき,これを認定制度上のやむを得ない乖離であって,不合理なものでないことの立証のない本件においては(この点については,後記ウの説示参照),下水道法20条2項1号に違反するものというべきであり,したがってまた,本件放流量認定基準のうち,少なくとも4人ないし6人世帯に関する部分は,平成20年当時,そもそも,許容される合理的な格差の範囲を逸脱し,同号に違反するものであった。

また,井戸水世帯のうちの4人ないし6人世帯の放流量に関する上記のような格差が生じている事態は,本件放流量認定基準の適用を受ける井戸水世帯と本件放流量認定基準の適用を受けない井戸水世帯との間で,世帯人員が同一の場合同一の放流量となり,同一の従量料金が算定されるべきであるのに,前者が後者より15%以上多い放流量を認定され,それに相応してより多くの従量料金を賦課されていることを意味するのであるから,本件放流量認定基準の適用を受ける井戸水世帯(使用者)にとって,このような事態は,不当に不利益な差別的な取扱いに当たるというべきであり,同項4号に違反するものであり,したがってまた,本件放流量認定基準のうち,少なくとも4人ないし6人世帯に関する部分は,平成20年当時,そもそも,許容される合理的な格差の範囲を逸脱し,同号にも違反するものであった。

なお,控訴人全域における井戸水世帯のうち,計測器により計測している戸数は21.1%(3419/16,183)にとどまり,上記使用量は,これを前提にするものであるが,控訴人自身が,計測器の設置を進めてきた結果の数字が上記のとおりのものであり,実際の井戸水の放流量は,設置された計測器により判断するほかないのであるから,計測器により計測した井戸水使用量の上記割合をもって,控訴人全域における井戸水世帯の井戸水使用量の傾向を示すものではないということはできない。

ウ(ア) 控訴人は,本件放流量認定基準を見直すと下水料金の収益が減少するため,下水道事業の運営維持のため下水料金を値上げする必要が生じる旨主張する。

なるほど,下水事業の維持のために,一定の収益を確保することは必要なことであるが,下水料金の値上げを回避するために,実際の放流量との差異がもはや合理的とはいえない本件放流量認定基準をそのままにしてこれを適用すれば,同認定基準の適用を受ける井戸水使用者の犠牲の下に収益を確保する結果となるのであり,下水道法20条2項4号が定める特定の使用者に対し不当な差別的取扱いをするものというべきであるから,下水料金の値上げをする必要が生じるとしても,これをもって,上記下水道法の定めに反しないということにはならない。

したがって,控訴人の上記主張は採用できない。

(イ) なお,前記認定のとおり,本件放流量認定基準は,平成8年の水道水世帯の水道使用量に準拠して平成9年に設定され,平成10年から施行されたものであるが,当時は,井戸水世帯についての計測器の設置が促進されていなかったことが窺われるから,上記のとおり水道使用量に準拠して,井戸水世帯の井戸水使用量,ひいては,放流量を定めることとしたことは,他により合理的に井戸水世帯の井戸水使用量を算定又は特定する手だてが見あたらない以上,不相当とはいえない。

しかし,設定した当時は不相当とはいえなかった本件放流量認定基準の定める井戸水世帯の放流量については,前記のとおり,平成22年当時においては,実際の放流量と比較して相当大きな乖離が生じていて,これを適用して井戸水世帯の放流量を認定することは下水道法20条2項1号及び4号に反する事態となっているのであるから,本件放流量認定基準がその設定当初不相当なものでなかったことをもって,上記事態を正当化することはできない。

エ 以上によれば,4人ないし6人の井戸水世帯について,本件放流量認定基準を適用して放流量を認定し,認定した放流量に従って従量料金を算出することは,下水道法20条2項1号及び4号に反して違法というべきである。

しかし,本件条例に基づき控訴人が使用者に対して賦課する下水料金は,一般汚水については,すべての使用者に一律に課される基本料金800円と汚水の放流量に従って算定される従量料金との合計額に100分の105を乗じた額とされている(本件条例21条1項1号,3項)から,本件放流量認定基準とそれを適用して得られる従量料金の算定が下水道法の規定に違反して違法があったとしても,当然に使用者に対して基本料金を賦課することも違法となるものではないというべきである。

したがって,控訴人が4人の井戸水世帯である被控訴人に対してした本件処分については,そのうち従量料金分部分についてこれを違法として取消し,基本料金部分1260円(800円に1.05を乗じた額の1.5か月分)については,これを適法として認容すべきである。

第4結論

以上によれば,原判決は,一部相当でないから,これを変更することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長門栄吉 裁判官 内田計一 裁判官 山崎秀尚)

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