名古屋高等裁判所 平成24年(ネ)221号 判決 2012年7月19日
控訴人
Xカントリー株式会社
同代表者清算人
A
同訴訟代理人弁護士
伊藤邦彦
同
加藤時彦
同
三枝祐一
被控訴人
津市
同代表者市長
B
同訴訟代理人弁護士
西澤博
同
楠井嘉行
同
赤木邦男
同
小林明子
同
片山眞洋
同
福岡智彦
同
田中友康
同
山田瞳
同指定代理人
川邊勝利<他12名>
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人に対し、一億八六六五万六六〇〇円及びこれに対する平成一五年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
第二事案の概要
一 本件は、ゴルフ場の敷地等として利用されている不動産を所有する控訴人が、被控訴人から適正な額を超える固定資産税を賦課されたために、適正な課税金額との差額相当額の損害を被り(第一次的違法行為)、また、控訴人が被控訴人に対して提起していた訴訟を取り下げる見返りとして未納分の固定資産税を分割納付する等の合意を結んでその訴訟を取り下げたにもかかわらず、被控訴人が合意を反故にしたために、訴訟を取り下げなければ得られたであろう利益が侵害された(第二次的違法行為)と主張して、被控訴人に対し、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償を請求した事案である。
原審は、控訴人の第一次的違法行為及び第二次的違法行為に基づく請求をいずれも棄却した。
二 当事者の主張は、以下のとおり補正し、後記三のとおり控訴人の当審における補充主張を付加するほかは、原判決の「事実」欄の第二「当事者の主張」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決七頁一六行目の「一平方メートル当たり」の次に「の取得価額を」を加える。
(2) 同一〇頁一九行目の「消滅時効」の次に「(第一次的違法行為に対する主張)」を加える。
(3) 同一一頁八行目の末尾に、「したがって、第一次的違法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、平成一九年九月八日である。」を加える。
三 控訴人の当審における補充主張
(1) 第一次的違法行為について
被控訴人には、適正な課税を行うべき義務があり、そのための判断を行うために資料収集をし、過大な徴収となることを予想し若しくは予想すべきであったにもかかわらず、被控訴人は、漫然と山林部分とコース部分を一体として課税を続けたのであるから、国家賠償法上も注意義務違反がある。
(2) 第二次的違法行為について
本件合意は、固定資産税の完納までの期間は長いものの、被控訴人は、これも考慮して、本件合意をしたものである。
また、控訴人は、固定資産税だけでなく源泉所得税も延滞しており、被控訴人との間で、源泉所得税の納付額について増額協議をしたことはあるが、固定資産税の納付額について増額協議をしたことはない。
そして、本件合意をしてから別件訴訟を取り下げるまでに約九か月を要したのは、本件合意の成立後に、今後の固定資産税の評価に対する被控訴人の対応を見ていたからにすぎない。
第三当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人の第一次的違法行為及び第二次的違法行為に係る請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおり補正し、後記二のとおり付加するほかは、原判決の「理由」欄の第一に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決一七頁一一行目の「ゴルフ場用地の」から二一行目の「ゴルフ場協議会」までを、以下のとおり改める。
「津市内のゴルフ場のうち二一場のゴルフ場で構成される三重県津地区ゴルフ場支配人会・固定資産税見直しを考える有志一同は、市長に対し、平成一八年六月五日付けで、ゴルフ場用地に係る固定資産評価額の見直しを要望する内容の「残置森林(保存自然樹林帯)部分に対する固定資産税見直し(現況課税)のお願い」と題する書面を提出した。そして、上記ゴルフ場の支配人らを中心として、津市ゴルフ場事業者協議会(以下「ゴルフ場協議会」という。)が結成された。
イ 被控訴人の担当職員は、ゴルフ場協議会の構成員ではなかったが、固定資産税賦課処分を担当することから、同協議会に出席していた。
ウ 市長は、上記アの要望や、ゴルフ場協議会」
(2) 同一八頁二一行目の「題する書面」の次に、「と、固定資産課税台帳の写し」を加える。
(3) 同二一頁三行目から一一行目までを、以下のとおり改める。
「前記認定事実によれば、ゴルフ場用地に関する固定資産評価基準には、ゴルフ場等の用に供する土地の評価は、当該ゴルフ場等を開設するに当たり要した当該土地の取得価額に当該ゴルフ場等の造成費を加算した価額を基準とし、当該ゴルフ場等の位置、利用状況等を考慮してその価額を求める方法によるものとされていたが、ゴルフ場の山林部分とコース部分を分離評価しなければならない旨の記載はなかったこと、平成一一年から平成一四年当時の固定資産評価基準解説においても、ゴルフ場用地の評価について、全てを一体として評価するのが適切である旨の解説がされている状況にあり、実際に、被控訴人以外にも、山林部分もゴルフ場開発の結果であり、ゴルフ場のコース部分の効用を高めるものであって、コース部分の一部をなすものであるとの考え方に基づき、山林部分とコース部分とを一体評価している自治体があったことが認められる。
したがって、平成一一年から平成一四年当時、固定資産の評価に関する事務を行う被控訴人の担当職員及び市長が、本件土地について、山林部分とコース部分を一体として評価したことについて、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と課税処分をしたとは認め難いというべきである。」
二 控訴人の当審における補充主張に対する判断
(1) 第一次的違法行為について
控訴人は、被控訴人が、適正な課税を行うべき義務に違反し、漫然と山林部分とコース部分を一体として課税を続けていたものであるから、国家賠償法上も注意義務違反がある旨主張する。
しかしながら、国家賠償法上の違法性は、公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と職務を遂行した場合に認められるものであるところ、被控訴人の担当職員及び市長に職務上通常尽くすべき注意義務違反があったとは認められないことは前述のとおりである。控訴人の上記主張は、国家賠償法上の違法性の解釈について当裁判所と見解を異にするものであり、採用することができない。
(2) 第二次的違法行為について
控訴人は、被控訴人が固定資産税の完納までの期間が長いことも考慮して、本件合意をした旨主張する。
しかしながら、完納までの期間は、七五年余りに及ぶ長期のものであって、被控訴人の担当者であったCも七五年ということはありえない旨証言していることに照らせば、被控訴人が、恒久的な合意として、このような長期間の分割納付を認めたものとは考え難い。
また、控訴人は、被控訴人との間で増額協議をしていたのは、固定資産税ではなく源泉所得税についてである旨主張するが、被控訴人の担当者であったDは、固定資産税の分割納付額について増額協議していた旨証言しているところ、国税である所得税について、控訴人が被控訴人との間で増額協議していたとは考え難い上、控訴人の主張を裏付けるに足りる証拠もない。
さらに控訴人は、本件合意をしてから別件訴訟を取り下げるまでに約九か月を要したのは、本件合意の成立後に、今後の固定資産税の評価に対する被控訴人の対応を見ていたからである旨主張するが、仮に本件合意をしたのであれば、別件訴訟は速やかに取り下げるべきものであるから、控訴人の上記主張は不自然である。
したがって、控訴人の上記主張はいずれも採用できない。
三 よって、その余の点について判断するまでもなく、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 林道春 裁判官 内堀宏達 下田敦史)