大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成25年(ネ)212号 判決 2013年7月19日

控訴人(1審原告)

被控訴人(1審被告)

三菱UFJニコス株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

竹内裕詞

寺島隆宏

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は、控訴人に対し、24万2168円及びこれに対する平成22年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は、弁護士である控訴人が、被控訴人に対して、控訴人が申し出て行われた弁護士法23条の2に基づく照会に対して、被控訴人又はその従業員が必要な事項を報告しなかったことが違法であるなどと主張して、不法行為又は使用者責任による損害賠償請求権に基づき、24万2168円(弁護士会照会に要した費用、探偵会社に調査を依頼したために要した費用、慰謝料等の合計額)及びこれに対する平成22年3月24日(被控訴人が上記弁護士会照会に応じられないと回答した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審が、控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。

2  前提となる事実、争点及び当事者の主張

原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」欄の2ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。

なお、略語は、特に断らない限り、原判決の例による。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、控訴人の請求を棄却すべきと判断する。

その理由は、次の2のとおり原判決を補正するほかは、原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」欄の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。

2  原判決の補正

(1)  原判決10頁23行目の「弁護士は」から25行目末尾までを、次のとおり改める。

「弁護士が、法的に許容された範囲で、受任した事件の処理に必要な事実の調査及び証拠の収集を行うことは、法律専門職である弁護士としての職責に属するから(弁護士職務基本規程37条2項参照)、それを弁護士の「営業権」に基づくものと呼ぶか否かはともかくとして、法的に保護された利益に当たり、それが違法な手段方法により侵害されて損害を被った場合には、不法行為法上の救済の対象となるものというべきである。」

(2)  原判決13頁4行目から16頁4行目までを、次のとおり改める。

「 すなわち、弁護士法23条の2の定める弁護士照会制度における当事者は、照会を行った弁護士会と照会を受けた公務所又は公私の団体(以下「照会先団体」という。)であり、照会先団体が報告義務を負うのは弁護士会に対してであって、弁護士会に当該照会申出をした弁護士に対してではないのであり、同弁護士は、照会先団体が照会に応じて弁護士会に報告をした場合に弁護士会にその内容の開示を請求できるにすぎないのである。

このような弁護士照会制度の構造に照らすと、照会申出をした弁護士は、弁護士法23条の2により弁護士会が運営する公的制度としての弁護士照会制度が実効的に運営されることに重大な利害を有するのであるが、あくまでも同制度の利用者として、同制度の運用による反射的な利益を享受する立場にあるにすぎず、照会先団体に対して報告を請求できる法的な権利を有することはないし、照会先団体が照会申出をした弁護士に対して報告義務を負うようなこともないのである。

そうすると、照会先団体が、弁護士会からの照会に対し、正当な理由がなく報告義務を不履行にした場合であっても、そのことは、当該照会申出をした弁護士との関係で、当該弁護士が有する、法的に許容された範囲で、受任した事件の処理に必要な事実の調査及び証拠の収集を行う法的利益を違法に侵害することにはならないというほかない。

イ このことは、民事訴訟において、当事者が証人尋問の申請をし、それが採用されたが、出頭した証人が証言拒絶事由がないにもかかわらず、証言を拒絶した場合、証人尋問申請をした当事者が、同証人に対して、違法な証言拒絶により同証人の証言という証拠の収集ができず、損害を被ったとして、不法行為による損害賠償請求をすることができるかを考察することにより、より一層明瞭となるものというべきである。

すなわち、民事訴訟において、受訴裁判所は、民事訴訟法が定める証人尋問制度を適切に運営する職責を有するのであり、証人申請をし、それが採用された当事者は、同証人に対する尋問が実効的に実施されることに重大な利害を有するのであるが、そうであるからといって、同証人の証言義務は国民としての公的な義務であって、訴訟の当事者に対する法的義務ではないのであり、必要な証拠である同証人の証言が得られるか否かは受訴裁判所による証人尋問制度の運営の結果であり、訴訟の当事者としてはこれを受け入れるほかないのである。したがって、証人が証言拒絶事由がないのに違法に証言を拒絶した場合にあっては、過料や罰金等の制裁を科せられることがあるものの(民事訴訟法200条による同法192条、193条の準用)、当該証人の尋問を申請した当事者が、そのことが違法であるとして、当該証人に対して、不法行為による損害賠償を請求する余地はないのである。

ウ 以上のとおりであるから、被控訴人が、愛知県弁護士会が控訴人の申出に基づいて行った本件照会に対して、正当な理由なく、報告義務を不履行にしたことをもって、控訴人が弁護士として有する事実調査及び証拠収集を行う法的利益を違法に侵害したものということはできず、控訴人に対する不法行為を構成するものではない。

(4) なお、控訴人は、被控訴人が、Bによる債権回収を妨害する意図に基づいて、本件照会に対する報告をしなかったと主張する。

しかし、前記前提となる事実によれば、被控訴人が、本件照会における照会の理由によって、本件照会の目的が、別件判決に基づくBの債権回収にあることを認識していたことを認め得るものの、この事実から、被控訴人がBによる債権回収を妨害する意図を有していたことを推認することはできず、他に、上記のような意図を有していたことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、被控訴人が、控訴人の主張するような意図を有していたとは認めることができない。」

(3)  原判決16頁5行目の「さらに、」を削除する。

第4結論

よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長門栄吉 裁判官 内田計一 片山博仁)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例