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名古屋高等裁判所 平成25年(ラ)177号 決定 2013年6月10日

抗告人(原審申立人・債務者)

Y株式会社

同代表者監査役

同代理人弁護士

後藤睦恵

榊原尚之

伊藤健二

伊藤聡

大倉範子

近藤信彦

木庭龍二

髙坂愛理

伊藤香

相手方(原審相手方・債権者)

同代理人弁護士

山田尚武

安藤芳朗

尾田知亜記

柚原肇

市橋拓

井上彰

大林哲也

伊藤有紀

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一抗告の趣旨及び理由

別紙「保全抗告申立書」記載のとおり

第二抗告の趣旨及び理由に対する答弁、反論等

別紙「答弁書」記載のとおり

第三事案の概要(以下、略称は原則として原決定の表記に従う。)

相手方(債権者)は、抗告人(債務者)の取締役であったところ、平成二四年一〇月七日に開催された抗告人の臨時株主総会(原決定二頁一九行目の「本件総会」)における解任決議(同二頁二〇行目の「本件決議」)により取締役を解任されたため、本件決議には、本件総会が取締役会決議に基づかないで招集されたことなどの取消原因があると主張して、その効力停止を求める仮処分命令の申立てをした。

保全裁判所は、相手方の抗告人取締役としての任期が満了する平成二四年四月一日から平成二五年三月三一日までの事業年度に関する定時株主総会終結時(本案判決確定がこれに先立つ場合は同確定時)までの期間に限定して上記申立てを認める決定をしたところ、抗告人は、これを不服として保全異議を申し立てたが、原審は、同決定を認可する旨の決定(原決定)をした。

本件は、上記原決定を不服として抗告人(原審申立人)が申し立てた保全抗告事件である。

第四当裁判所の判断

一  当裁判所も、相手方(債権者)の上記申立ては、上記保全決定の限度で理由があると判断する。その理由は以下のとおりである。

二  被保全権利の有無

(1)  招集決議の欠缺について

本件総会の招集に当たり、抗告人において取締役会の決議がされ、その日時・場所が代表取締役に一任された事実の疎明がないことは、原決定五頁一四行目ないし六頁二〇行目のとおりであるから、これを引用する。

この点、抗告人は、従前、抗告人の株主総会の具体的な日時・場所は代表取締役に一任される運用が続いていたことが考慮されるべきである旨主張する。

しかし、本件総会は、抗告人の代表取締役が、平成二四年七月一〇日、昭和五三年以来代表者を務めていたD(相手方の実兄)から、相手方の甥であるA(原決定二頁八行目)に交代した後、わずか三か月弱で開催されたもので、同族会社である抗告人の経営を巡って、親族間で新たな利害対立や経営方針についての意見の相違が生じ得る状況にあったといえるし、実際にも、昭和四八年以来取締役を務めていた相手方の解任が諮られるなど、そこで決議された内容も関係者にとって重要なものであったことを考慮すると、仮に抗告人の株主総会に係る従前の運用が主張のとおりだとしても、これをもって、本件総会の招集に係る手続的瑕疵が不存在ないし治癒されたと評価することはできない。以上の判断に反する抗告人の主張はいずれも採用できない。

(2)  解任取締役の特定について

また、本件決議は実質的に抗告人側提案に基づいて行われたと評価すべきところ、本件総会の招集に当たり、取締役解任を目的とするとの取締役会の決議がされておらず、その招集通知(原決定二頁一四行目の「本件通知書」)が目的事項(解任取締役の氏名)の記載を欠くものであり、本件決議が目的事項以外について行われたものであることは、原決定六頁二二行目ないし八頁二行目のとおりであるから、これを引用する。

この点、抗告人は、会社法施行規則七八条が、取締役が取締役の解任に関する議案を提出する場合には、株主総会参考書類には対象取締役の氏名を記載しなければならないと規定していることを指摘して、対象取締役の氏名は議案であって、議題の一部ではないと主張する。

しかし、上記規定は、株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができること(書面による議決権の行使)を定めた場合において、株主総会招集通知に際して交付すべき書類について定めたものであり(会社法三〇一条一項、同法施行規則六五条)、それ以外の場合において、対象となる取締役の氏名を明示する必要がないことを示すものとはいえない。むしろ、取締役の解任は、必然的に、特定の取締役についての決議となるから(たとえ取締役全員を解任する場合であっても、解任対象となる取締役が特定されていることには変わりがない。)、特段の事情がない限り、あらかじめ対象となる取締役を明示しておく必要があるというべきである。

以上の判断に反する抗告人の主張は、いずれも採用できない。

(3)  まとめ

以上のとおりであるから、その余の取消事由の有無について判断するまでもなく、本件決議は違法(会社法二九八条一項、四項違反、同法二九九条四項違反)であり、相手方はその取消請求権(被保全権利)を有する。

三  裁量棄却の要否

本件総会に関しては、前記二のような手続違背があると一応認められるところ、この違法が重大でないとも、本件決議に影響を及ぼさなかったともいえないことは、原決定八頁九行目ないし二二行目のとおりであるから、これを引用する。抗告人の主張は、いずれも同判断を覆すものではない。

四  保全の必要性の有無

取締役に、取締役会を通じて代表取締役の職務執行を監督する権限や、取締役会において株主総会の目的事項の決定に関与する権限があること、これらの権限を行使できないことによる損害は、その性質上、金銭的賠償によって回復され得ないものであり、相手方に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるために本件決議の効力を停止する必要があることは、原決定八頁二六行目ないし九頁一九行目に記載のとおりであるから、これを引用する。

抗告人の主張のうち、保全の必要性の不存在をいう点は、独自の見解であって採用できないし、保全の必要性の事後的消滅をいう点は、保全異議手続における本決定の結論に影響を及ぼすものではなく、失当である。

第五結論

以上の次第で、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 加藤幸雄 裁判官 達野ゆき 舟橋伸行)

別紙 保全抗告申立書<省略>

別紙 答弁書<省略>

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