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名古屋高等裁判所 平成25年(行コ)48号 判決 2013年10月30日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決中、以下の(2)ないし(4)に係る部分を取り消す。

(2)  処分行政庁が控訴人に対してした平成22年1月29日付け行政文書不開示決定(21教特第487号)を取り消す。

(3)  処分行政庁が控訴人に対してした平成22年12月9日付け行政文書不開示決定(22一東養第248号)を取り消す。

(4)  処分行政庁が控訴人に対してした平成22年12月9日付け自己情報不開示決定(22教特第534号)を取り消す。

(5)  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第2事案の概要等

1  本件は、控訴人が、処分行政庁に対し、愛知県情報公開条例(平成12年愛知県条例第19号。以下「本件情報公開条例」という。)に基づき、愛知県教育委員会管理部特別支援教育課(以下「特別支援教育課」という。)や愛知県内の特別支援学校(以下「特別支援学校」という。)等の保管する行政文書の開示請求をするとともに、愛知県個人情報保護条例(平成16年愛知県条例第66号。以下「本件個人情報保護条例」という。)に基づき、特別支援教育課や特別支援学校等が保有する保有個人情報の開示請求をしたところ、処分行政庁から、上記各請求に対していずれも不開示決定(合計34件)を受けたため、その取消しを求めた事案である(以下、控訴人が原審で取消しを求めた34件の各決定を「本件各不開示決定」という。)。

原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が控訴した。

なお、不服の対象は、上記第1の1(2)ないし(4)の各不開示決定に係る部分のみである。

略語については、特に断らない限り、原判決の例による。

2  条例の定め及び前提事実

原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」2及び3に記載のとおりであるから、これを引用する。

3  争点及び当事者の主張

原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」4に記載のとおりであるから、これを引用する。

第3当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の請求は、いずれも棄却すべきものと判断する。

その理由は、以下のとおり原判決を補正するほかは、原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の補正)

1  原判決19頁14行目と15行目の間に、次のとおり加える。

「( 控訴人は、当審において、発達障害等の定義に関する被控訴人の見解は、法的根拠のない被控訴人においてのみ通用するものであるから、主務課において、各部局間で判断が区々にならないように主管課等と協議するという認定は誤りである旨主張する。しかし、本件情報公開条例に基づく開示請求がされた場合の上記手続の流れは、何ら不自然なものではなく(発達障害等の定義に関する被控訴人内部での見解がどのようなものであろうと左右されない。)、後掲各証拠によって十分に認定できるものであるのに対し、それらの各証拠に反して、主務課が、主管課や知事部局県民生活部県民総務課との間で協議をしないことを窺わせる格別の証拠はないから、控訴人の上記主張は採用できない。)」

2  原判決19頁24行目の「供する」の次に、次のとおり加える。

「(控訴人は、当審において、被控訴人が閲覧日の調整のために開示請求者に電話連絡をすることはなく、条例が求める事務手続を実施していない旨主張するが、上記認定は、開示請求がなされた場合の開示決定通知書等に記載する開示実施日の決定方法に関する一般的な流れに関するものであって、控訴人に対する個別の開示実施日の決定方法を認定するものではないから、控訴人の上記主張は、前提を誤るものであり採用できない。

なお、控訴人に対する開示実施日の調整に関しては、証拠(証人D)によれば、控訴人に電話で確認をしたが、控訴人は異なる話題を話すなどして同意をもらえなかったため、開示決定通知書に日時を記載し、都合が悪ければ連絡を下さいと記載した付せんを貼付したことが多かったことが認められ、これを左右する証拠はない。また、本件情報公開条例(乙1)は、行政文書の開示は、文書等については閲覧又は写しの交付により、電磁的記録についてはこれらに準ずる方法としてその種別、情報化の進展状況等を勘案して実施機関の規則で定める方法により行う旨定めているにすぎず(16条2項本文)、実施機関の規則に、開示実施日の調整を電話によるやり取りで決定しなければならない旨の定めがあると認めるに足りる証拠はないから、被控訴人が、条例で定める事務手続を履践していないということはできない。)」

3  原判決20頁6行目の「乙153、証人A」を「乙77、153、証人D、同A」と改める。

4  原判決21頁6行目と7行目の間に、次のとおり加える。

「( 以上の認定事実に対し、控訴人は、当審において、原判決別紙「原告による開示請求一覧(平成17年度ないし平成22年度)」(以下「本件開示請求一覧」という。)に係る開示請求書が証拠として提出されていないのに、控訴人が、本件開示請求一覧のとおり開示請求した旨認定すること、処分行政庁に対する開示請求のうちの控訴人の開示請求が占める割合に関する数値につき、被控訴人の主張をそのまま認めることは、いずれも誤りである旨主張する。

しかし、本件開示請求一覧について、開示請求書のうち、証拠として提出されているものは存在する(乙2、6ないし9等)。また、後掲各証拠(原判決22頁8、9行目)は、その内容に照らせば、十分に具体性が認められる上(本件開示請求一覧を記載した乙104には、請求番号、請求日付、請求内容、担当課及び(被控訴人の)対応が具体的に記載されており、控訴人の開示請求書の枚数を具体的に記載した乙99及び平成23年(行ウ)第47号事件乙7(特に、後者では、平成19年度ないし平成22年度について、月ごとの数値と年間合計の数値が記載されている。)や、上記開示請求書の記載内容とも合致しているし、乙99には、上記の控訴人の開示請求書の枚数のみならず、平成17年度から平成21年度の全開示請求数が記載されて、処分行政庁に対する開示請求中の控訴人の開示請求が占める割合が算出記載されている。)、控訴人は、自ら開示請求をし、その内容をもっともよく知る立場にありながら、本件開示請求一覧の内容のうち、事実と相違する部分を具体的に指摘しないことを併せて考慮すると、本件開示請求一覧の内容及びそれが処分行政庁に対する開示請求全体に占める割合について、上記のとおりであると優に認定できるから、この認定が誤りであるということはできず、控訴人の上記主張は採用できない。)」

5  原判決25頁5行目と6行目の間に、次のとおり加える。

「( 以上の認定事実に対し、控訴人は、当審において、C教授からは「私の名前を出さないで下さい。」と指摘を受けたのであって、特別支援学校を頻繁に訪問していることを注意されたのではない旨主張する。

しかし、控訴人がC教授から上記のような指摘を受けたことについては、控訴人作成の陳述書(甲65)においても、その旨の記載はない上、控訴人提出のBが愛知県立i学校長に宛てた平成21年3月4日付け「本県特別支援教育を愛する県民の誠意ある対応について」と題する書面(甲69)中には、一県民(控訴人と推認される。)は、平成20年6月上旬、信頼していた教授(C教授と推認される。)から、学校や教育委員会に迷惑をかけているかのごとく電話で怒鳴られたとのことであり、特別支援学校の職員から教授に対して控訴人の情報を伝えることは情報漏洩となる旨の記載があることが認められるから、控訴人の上記主張は採用できない。」

6  原判決25頁11行目の「これを受けて、原告は、」を「控訴人は、一部を除く開示請求につき、取下書に署名したが、その余の取下書についても、c学校のLが署名を求めると、すんなり署名し、」と改める。

7  原判決25頁15行目と16行目の間に、次のとおり加える。

「( 以上の認定事実に対し、控訴人は、当審において、c学校に行きたくて、Bが同席してくれれば、開示請求を取り下げる旨の発言をしたのではなく、Bから開示請求を取り下げてほしいと要求されたので、c学校長が開示請求の取下げを依頼すれば、同請求を取り下げる旨の発言をしたのである旨主張する。

しかし、Bから開示請求を取り下げてほしいと要求されたことを裏付ける証拠はないから(控訴人の陳述書(甲65)にもその旨の記載はない。)、控訴人の上記主張はたやすく採用できない。)」

8  原判決25頁16行目の「乙99、」を「乙64、78、87、99、100、」と改める。

9  原判決26頁18行目の「時点では、」の次に「上記請求分を含めて、」を加える。

10  原判決26頁25行目と26行目の間に、次のとおり加える。

「 以上の認定事実に対し、控訴人は、当審において、処理に必要な枚数、必要とされる時間について、根拠が示されておらず、同月上旬には、最大延べ26時間以上の作業時間が必要となるものと見込まれるというのは、作業内容に具体性がなく、誤りである旨主張する。しかし、被控訴人は、原審準備書面(3)において、具体的かつ詳細に作業内容を主張しているのであって、控訴人からは、それらについて、不自然不合理な点について格別の指摘もないのであるから、控訴人の上記主張も採用できない。」

11  原判決27頁7行目の「応じなくなった」の次に、次のとおり加える。

「(控訴人は、当審において、Dとの接触を拒否したことはなく、控訴人が文書の特定に協力していたのに、文書を特定しない方針を有する被控訴人が控訴人との接触を拒否するようになった旨主張するが、証人Dは、控訴人が接触を拒否するようになった理由につき、控訴人の平成21年9月8日付け自己情報開示請求に関し、文書が著しく大量であるとの理由で被控訴人が特例延長したことについて、控訴人が立腹したためであると具体的に証言しており、控訴人は、有効な反対尋問により証言の信用性を減殺できていないこと、文書が特定されなければ、被控訴人の作業量が増大するのは明らかであるから、被控訴人が文書を特定しない方針を有していたというのは不自然であることに照らすと、控訴人の上記主張は採用できない。)」

12  原判決29頁6行目と7行目の間に、次のとおり加える。

「( 上記認定に対し、控訴人は、特別支援学校における写真撮影は、面談場面の記録であり、本人に写真を渡しているし、女性管理職から写真撮影を拒否されたことを理由として開示請求をしていない旨主張する。

しかし、控訴人が男性の管理職に対して写真撮影を求めたことを認めるべき証拠はないから、面談場面の記録のために写真を撮影したというのは不合理であるし、後記(原判決29頁7行目から34頁3行目)のとおり、控訴人は、写真撮影に応じないと開示請求に及ぶかのような発言や写真撮影に応じれば開示請求を取り下げる旨の発言をしていること(j学校、c学校、v学校、o学校、q学校、r学校及びs学校)、実際、校長から写真撮影を断わられた日に多数の開示請求をした例があること(i学校)に照らすと、控訴人の上記主張は採用できない。

また、控訴人は、特別支援学校の女性管理職の証人尋問を行わずに上記認定をするのは、裁判手続の不備である旨主張するが、写真撮影を強要されたことに関する各学校の校長等の女性管理職及びその関係者の陳述書(乙79ないし95)は多数に及びその内容も詳細であることに加え、証人Dの証言及び前記の客観的事情等に照らせば、控訴人が、上記女性管理職に対し、写真撮影を強要し、拒絶されると行政文書の開示請求に及ぶ行為を行っていたことは明らかであって、尋問によって上記陳述書の内容の信用性を検討しない限り、その内容を採用できないとはいえないから、控訴人の上記主張も採用できない。)」

13  原判決37頁21行目と22行目の間に、次のとおり加える。

「( 控訴人は、当審において、①被控訴人の情報公開担当と思われる職員から情報を提供するとの交換条件を示されて開示請求の取下げを依頼されたため、交換条件を受け入れて同請求を取り下げたのであり、同請求の取下げと情報提供を結びつけたのは、被控訴人の職員であること、②女性管理職等に対する控訴人の対応を認定するのであれば、証人を採用して女性管理職等に対する尋問の機会を設けるべきであったこと、③控訴人が開示文書を閲覧していないのは、被控訴人が控訴人に閲覧の機会を設定しないからであることを主張する。

しかし、①については、前記認定のとおり、処分行政庁は、控訴人の多数の行政文書の開示請求に対応するため、同文書が開示の対象とならない場合には、控訴人に情報提供をして上記請求を取り下げてもらうという対応をしていた時期はあるものの、それは平成18年前半頃までにとどまり、本件各開示請求がなされた当時は、既に控訴人が、同請求の取下げを交換条件として要求に従うように求めるようになっていたのであり(原判決22頁11行目から23頁6行目)、②について、女性管理職に対する尋問の機会を設けない限り、控訴人の女性管理職に対する対応を認定できないものではないことは、既に説示したとおりである。③については、控訴人が、開示された行政文書の閲覧を行わなかった割合が、平成19年度が100%、平成20年度が85.7%であり、本件各開示請求がされた平成21年度以降も90%以上と極めて高かったものの、少数ではあるが、閲覧に来ているものも存在することは、前記認定(原判決21頁20行目から22頁7行目)のとおりであり、控訴人が閲覧をしなかったものが、処分行政庁が閲覧の機会を設定しなかったということはできず、その他、これを認めるに足りる証拠はない。

したがって、控訴人の上記主張は採用できない。)」

14  原判決38頁7行目と8行目の間に、次のとおり加える。

「( 控訴人は、当審において、厚生労働省、文部科学省の発達障害等の定義に関する見解が記載された文書(甲66、70)を裁判所に提出しており、「発達障害」等の定義に関する開示請求が膨大な数に上ったのは、被控訴人が面談により文書特定をしないという対応をしたことが原因であること、被控訴人が、特殊教育の発想に固執した態度、言動等をするため、控訴人の発達障害等の定義等に関する開示請求が多くなったことを指摘して、控訴人の開示請求が膨大な数に上るとの認定は、形式的な開示請求の件数のみに着目するもので誤りであるかのように主張するが、前記認定の事実によれば、控訴人の「発達障害」や「発達障害者」の定義等に関する開示請求が膨大な数に上ったのは、自らの持論に固執し、同じような内容のものを何度も請求をしたり、被控訴人の職員が控訴人の思うような対応をしないと感じた場合に、要求を通すために圧力をかけるなどの交渉材料として請求をするなどした結果というべきであって、被控訴人が、自らの考えに固執し、また、面談により文書を特定するという対応をしなかったことが原因であるということはできない。したがって、控訴人の開示請求が真摯なものではなかった旨の上記判断は、形式的な開示請求の件数のみに着目するものではなく、控訴人の上記主張は採用できない。)」

第4結論

以上によれば、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長門栄吉 裁判官 内田計一 山崎秀尚)

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