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名古屋高等裁判所 平成25年(行コ)5号 判決 2014年5月22日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用及び補助参加によって生じた費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は,被控訴人補助参加人に対し,1億円及びこれに対する平成23年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人ら

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,C市の住民である控訴人らが,同市の執行機関である被控訴人に対し,同市の市長であった被控訴人補助参加人が,原判決別紙物件目録記載1の土地及び同目録記載2(1)ないし(10)の土地(以下「本件土地」という。)の取得に関し,不要な土地を不正の意図で不当に高額で取得するなどして同市に取得代金あるいは適正な価格と取得代金の差額に相当する金額の損害を与えたなどと主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被控訴人補助参加人に対して損害賠償を請求することを求めた事案である。

原審が,控訴人らの請求のうち,①原判決別紙物件目録記載1の土地の売買契約締結に関し支払請求を求める部分及び租税特別措置法の定める証明書の発行に関し支払請求を求める部分に係る訴えをいずれも却下し,②本件土地の売買契約締結に関し支払請求を求める部分を棄却したため,控訴人らが,上記②の請求棄却部分を不服として控訴した。したがって,当審における審判の対象は,上記請求②の当否のみである。

以下,略語は,特に断りのない限り,原判決の例による(ただし,原判決中の「D」とあるのは「被控訴人補助参加人」,「本件土地(E)」とあるのは「本件土地」,「本件売買契約(E)」とあるのは「本件売買契約」とそれぞれ改める。)。

2  争いのない事実

次のとおり原判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の「2 争いのない事実」記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 原判決2頁19行目及び20行目を,次のとおり改める。

「 被控訴人補助参加人は,本件土地取得当時のC市長であった者である。」

(2) 原判決2頁21行目を,次のとおり改める。

「(2) 訴訟の対象となる財務会計行為(甲1,甲10,甲24の1及び2)」

(3) 原判決2頁22行目から3頁11行目までを削除する。

(4) 原判決3頁17行目の「締結した。」を「締結し,同月7日,上記代金を同社に支払った。」と改める。

(5) 原判決3頁21行目から22行目の「F町事案及び」を削除する。

(6) 原判決3頁25行目から4頁6行目までを削除する。

(7) 原判決4頁12行目から24行目までを,次のとおり改める。

「 C市監査委員は,本件監査請求に基づき,平成17年度のG屋外運動場整備等に伴う用地取得(本件売買契約)が違法不当な財産の取得に当たるかを対象として監査を実施し,平成22年12月27日付けで,E事案については,本件監査請求が本件土地を取得するために公金が支出された日から1年以上経過した後になされたことにつき正当な理由(上記同条項)は認められるものの,C市が不正の目的で不要な土地を取得した事実は認められないとして棄却する旨の決定をし,同決定は同月28日以降に控訴人らに到達した。」

3  当審における争点及びこれに関する当事者の主張

本件の争点は,(1)監査請求期間徒過についての正当な理由の有無(本案前の主張),(2)本件土地取得の違法性の有無,(3)被控訴人補助参加人の故意又は過失の有無,(4)C市に生じた損害額であり,これに関する当事者の主張は,次のとおり原判決を補正し,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第4 争点に関する当事者の主張」の1(2),5及び6のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決の補正

ア 原判決6頁26行目「本件売買契約(F町)と同様,」を削除する。

イ 原判決15頁21行目から16頁10行目までを,次のとおり改める。

「6 争点6(C市に生じた損害)について

(控訴人らの主張)

C市は,違法な本件売買契約により,その代金相当額である1億円の損害を被った。

(被控訴人の主張)

争う。 」

(2)  当審における控訴人らの主張

ア 本件土地の取得の違法性について

(ア) 不必要な土地を取得したこと

a C市は,G施設に付属する屋外運動場を整備することを理由に本件土地を取得したが,Gが開設されたときから施設内には既に芝生広場として屋外運動場が設置されており,同運動場は施設建屋東側に隣接し,十分な広さがある。また,施設利用者の活動は,施設建屋内で行われており,既存の屋外運動場は用いられていない。他方で,新設される予定の屋外運動場は,G施設から交通量の多い道路を横断しなければならない場所にあり,不便である。このように,G屋外運動場を新設する必要はない。

また,C市は,新設を予定している運動場の面積を4687㎡必要であるとしながら,本件土地のうち691㎡を不要なものとして,本件土地の取得から2年後の平成19年12月13日に本件土地に隣接する土地所有者と土地の交換(以下「本件交換契約」という。)を行い,運動場面積を3996㎡に削減している。このことは,本件土地取得前の事業計画時の運動場面積が合理的な根拠に基づいて算出されたものでないことの証左である。

b E遺跡の緑地整備については,同遺跡の見学者の数は,個人と団体を含めて年間40人前後である。見学者のための憩いの場として5000万円以上の費用を投資して緑地整備をするというのは費用対便益の観点からしても,行政権の範囲を逸脱するものである。

(イ) 土壌汚染がある本件土地を不当に高額で取得していること

a 本件土地を取得する際のH不動産鑑定所の鑑定評価額は1㎡当たり約1万1200円であり(以下「本件鑑定評価」という。),取得価格は1㎡当たり約1万0750円である。これらの価格は,本件土地に隣接する宅地の固定資産税評価額(1㎡当たり8800円)や公示価格推定値(1㎡当たり8060円)からしても高額である。また,本件交換契約時の本件土地の交換価格は1㎡当たり1799円であるから,これを根拠に本件土地の公示価格推定値を算出すると1㎡当たり3000円となる。

b 本件土地では,平成8年の開業以降,自動車解体作業現場から近隣の田への廃油流出などがあり,C市にも地元から多くの苦情が寄せられていた。また,平成17年8月にI市J地内に産業廃棄物が混在する可能性のある土が持ち込まれたとの通報により,K県及びI市の担当部署職員が現地確認し,黒い廃棄物まじりの土を確認したが,この土の搬出元が訴外Lであった。

また,本件土地についても同年7月29日にK県,I市及びM警察署の担当部署職員が現地調査を行い,土壌汚染を確認している。さらに,同月25日には,本件土地に竹を埋めた可能性があることも判明した。

N協会は,土壌汚染の端緒が確認できる場合,不動産鑑定士は専門機関による土壌汚染状況の調査等を行った上で鑑定評価を行うべきであるとしている。しかし,H不動産鑑定所の鑑定評価書には土壌汚染や地下埋設物に関する記載はなく,本件鑑定評価の条件を「依頼条件に基づき,土壌汚染,地下埋設物等が認められる場合には,当該利用阻害については鑑定評価上考慮外とした」としているが,これは社会通念上,許容される方法ではない。

また,H不動産鑑定所はC市の不動産鑑定評価業務を1社独占に近い約92%という高い契約率で,そのほとんどを随意契約で受注しており,同鑑定所にとってC市は上顧客である。そうすると,H不動産鑑定所が上顧客であるC市が指示する条件を反故にできない背景があるため,このような状況の下で行われた本件鑑定評価は適正なものと認められない。

(ウ) 本件土地を不正な意図を持って取得していること

本件土地について,取得価格を1億円とする事業計画書が提出されたのは平成17年8月24日であり,本件鑑定評価が出される1週間も前である。また,本件鑑定評価を依頼する際,土壌汚染及び地下埋設物等を考慮外として本件鑑定評価が1億円に近づくようにされており,本件売買契約にかかる市有財産評価審議会の審議は同月31日にされている。

このような状況からすると,本件土地の取得は,売主に便宜を図るためのものであり,不正な意図を持って取得されたものであるといえる。

イ 議会の承認を故意に回避したこと

(ア) 本件条例3条は,予定価格3000万円以上の不動産の取得(土地については1件5000㎡以上のもの係るものに限る。)について,議会の議決を要するとしている。

本件条例は,地方自治法96条1項8号を受けたものであるが,同号は,財産の取得処分は執行機関限りでなしうるところ,一定の価格もしくは規模以上の財産の取得,処分が地方公共団体の財政に影響を及ぼす可能性が大きいことを考慮し,条例で指定する重要な財産については個々の取得,処分をなすに当たって議会の議決を要するとしたものである。そうすると,本件条例3条の「1件」とは当該不動産を取得する際の契約の単位を意味すると解するのが相当である。

(イ) 本件土地はC市が施行するG屋外運動場整備事業他のために必要な土地として,面積約9311.41㎡を代金1億円で買い受けるものとして,1件の売買契約書をもって取得されたものである。

しかし,本件土地取得の際,本件条例の規定を潜脱するために,本件土地を「G屋外運動場整備事業(以下「A事業」という。)の用地取得(4687.83㎡)」と「緑地整備事業(以下「B事業」という。)の用地取得(4623.56㎡)」の2つに分割し,議会の承認を経ずに持ち回り決済で平成17年8月31日に決済した。

このB事業のための用地取得は,同月24日のC市の事業計画書には記載されておらず,同月31日の市有財産評価審議会の審議に突然出てきたものである。また,本件土地は上記のとおり2分割されたが,どのような事業計画に基づいて,A事業のための用地とB事業のための用地に分割されたのかも明らかでないから,単に本件条例3条の規定を潜脱するために2分割されたにすぎないといえる。

このように,本件土地取得は本件条例3条の規定を潜脱したという違法性がある。

(ウ) 本件土地取得が本件条例3条による議会の承認を故意に潜脱したことは,本件土地が土地開発基金で取得されていることからも明らかである。

すなわち,土地開発基金で取得した不動産は,金額と土地面積の表示だけで運用状況が報告され,土地開発基金を管理する一部の担当者以外には取得した不動産の具体的な内容が分からないようになっている。また,平成18年11月に議会提案された平成17年度決算報告書の土地開発基金の土地増減の状況の表には,面積も取得価格も高額な本件土地に係る記述がない。このことは,本件土地に関する記述を回避し,住民や議員の目を避けたことを意味するものである。

ウ 被控訴人補助参加人の故意又は過失の有無について

(ア) 平成17年8月24日付けで作成された本件土地に係る事業計画書などには,本件鑑定評価が出る前に,用地取得費として1億円と明記されており,本件鑑定評価は土壌汚染等を鑑定の考慮外としているのであるから,本件鑑定評価に基づき取得代金を1億円としたことに被控訴人補助参加人の過失がある。

(イ) 本件土地で実施するとされた事業のうち,B事業は,事業計画も事業化の稟議もなされていなかったのに,同年8月31日に,同事業のための用地取得の審議が持ち回り決済されている。

また,本件土地取得が2件であるとして議会の承認を得ていない点については,公務員は,法及び条例に依拠しなければならないのであり,これら規定を無視して判断を地方自治制度研究会編集の地方財務実務提要(乙6。以下「実務提要」という。)に依拠するのであれば,その点に過失があることになる。

被控訴人補助参加人が,実体のない2つの事業を作出して,その1事業ごとに1件とし,議会の議決を必要としないと判断したことは重大な過失である。

エ C市の損害額について

本件売買契約は無効であるから,C市は本件土地取得代金1億円の損害を受けた。また,仮に,本件売買契約が有効であるとしても,本件土地取得費用は不当に高額であるから,C市は,近隣宅地を規準とした本件土地の評価額7505万円(1㎡当たり8060円)と本件取引の取得価格1億円との差額2495万円の損害を受けた。

(3)  当審における被控訴人らの主張

ア 不必要な土地を取得したものではないこと

(ア) A事業は,平成15年度頃から必要性が認識されていたものであるし,B事業についても,市民の憩いの場としての緑地整備計画は必要なものと認識されていた。

(イ) 本件土地は,自動車解体作業現場として利用されており,近隣の田への廃油流出事故や,自動車部品などのスクラップが野積されていることに関し,地元から多くの苦情が寄せられていたため,緊急にこれに対処する必要があった。加えて,本件土地が廃棄物処理業者への売却が検討されていたことから,同業者に売却された後は再取得することが困難となり,上記問題に対処することが著しく困難になるおそれがあった。

そのため,C市は,本件土地を,事業目的を異にする2事業のために同時に取得したものである。

イ 議会の承認を故意に回避したものではないこと

本件条例の「1件」とは,昭和38年12月19日付け自治丁行発第93号で,各都道府県総務部長あて行政課長通知(以下「昭和38年行政課長通知」という。)により,「土地の買入れ又は売払いにおいて,その買入れ又は売払いの目的を妨げない限度における単位をいう。」とされている(このことは,実務提要に記載されている。)。そのため,何をもって1件というかは,取得する土地をどのように利用するかで決せられることになる。

本件土地の取得には,A事業とB事業という2つの事業目的があり,A事業の事業目的で取得する土地の面積は4687.83㎡,B事業の事業目的で取得する土地の面積は4623.56㎡であって,いずれも5000㎡未満である。そして,A事業は,既存の施設の屋外運動場を整備する目的であり,取得目的土地の面積はこの事業の遂行する目的を妨げない単位となっており,また,B事業は,E遺跡と一体に市民の憩いの場を提供する目的で行われる事業であり,取得目的土地の面積はこの事業の遂行する目的を妨げない単位となっている。

したがって,C市あるいは被控訴人補助参加人がA事業,B事業の目的ごとに1件と考え,議会の議決を不要と判断したことに誤りはない。

(4)  被控訴人補助参加人の主張

被控訴人補助参加人には,次のとおり本件土地取得につき故意又は過失は存在しない。

ア 被控訴人補助参加人は,平成9年10月から平成15,16年度にかけてG施設の東側に市民や施設利用者が憩う芝生広場を整備し,さらに施設西側にも植物を植え,駐車場として整備していた。

他方,本件土地については廃油流出などの問題が生じており,C市としてもその対策を迫られていたが,平成17年になり,訴外Oから,廃棄物処理場を営む業者に本件土地を売却したいと思っているがC市が買わないかとの打診を受けた。また,同じ頃,被控訴人補助参加人にも,本件土地に関する陳情があった。

このような中で,C市は,産業廃棄物処理業者等の他の業者に先行買受けされることを防ぐために,即時の対応が可能なC市土地開発基金を用いて平成17年9月2日に本件土地を取得したものである。

イ 本件土地取得に議会の議決を得なかった理由は被控訴人が主張するとおりであるし,代金1億円の決定も,C市が事業用地を取得する際に行っている方法(不動産鑑定士による鑑定と市有財産評価審議会の審議)を経ての決定であり,問題はない。

ウ 本件土地の土壌汚染についても,当時のC市の担当職員が本件売買契約前に現地確認したところ,土壌汚染の気配がなく,唯一本件土地の南西角付近に廃油貯蔵用の沈殿層が残っていたため,撤去させている。

また,売主に土壌汚染の専門機関による検査結果報告書を提出させ,土壌汚染がないことを確認している。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人らの請求にはいずれも理由がないと判断する。

その理由は,次のとおりである。

2  認定事実

証拠(甲1,10ないし12,24の1及び2,25,26,31の1ないし3,32,34,35の1及び2,36の1及び2,37,40ないし42,45,48,49の1及び2,50の1及び2,51ないし56,59ないし63,78,80ないし84,88,89,乙2,3,5,8,9の1ないし3,10,丙1,証人P)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。

(1)  本件土地の使用状況

ア 訴外Lは,平成8年頃から,本件土地ないしその隣接地において,自動車の修理工場から廃自動車等を引き取った上でこれを解体し,エンジン等の有用な部分を回収した上,廃プラスチック等の不要部分を産業廃棄物として処分業者に委託して処分するなど,自動車の解体業を行っていた。その間,近隣住民から廃油の流出等について苦情があったため,訴外Lは,対策として油水分離槽を設置するなどしたが,同設備を設置した後も近隣住民からC市に廃油の流出等の苦情があった。

また,訴外Lは,本件土地上に自動車部品などスクラップを野積みしていたため,近隣住民などから景観上もよくないとの苦情もあった。

イ 訴外Lは,平成16年9月30日付けで,K県知事に対し,使用済自動車の再資源化等に関する法律61条に基づき自動車解体業の許可の申請(甲42)をした。

しかし,同年10月26日にはK県から本件土地の立ち入り調査を受け(甲42),法令等が求める設備である使用済み自動車の保管場所における囲いの設置,解体作業場における廃油排液の地下浸透防止措置及び流出防止措置等に不十分な点がある等の行政指導を受けたため,訴外Lは,結局,上記申請を取り下げ,事業継続を断念した。

(2)  本件土地取得に係る経緯等

ア C市は,被控訴人補助参加人が市長に就任した後の平成10年に策定した平成12年から平成21年の新総合計画(甲84。以下「本件新総合計画」という。)において,Gについて,障害のある人もない人も誰もが交流することができるようにして施設建物周囲を屋外運動場やQの丘として整備するなど福祉施設ゾーンとしての体系的な整備に努めることを掲げ,Qの丘等の整備を実施予定事業としていた。

そして,C市においては,平成15年から平成16年にかけて,Gの周辺整備事業の一環として,施設の西側丘陵地帯にC市周辺の固有種であるRの木をボランティアの手を借りて移植し,芝生を植えて,Rの丘と駐車場とし,施設の東側の空き地に芝生を植えて芝生広場を作った(甲36の1及び2,81,丙1)。

イ 平成17年頃,訴外L及び本件土地の所有者である訴外Oの代表者である訴外Sは,訴外Lによる自動車解体業を廃業しようと考え,不動産仲介業者に依頼して本件土地の売却先を探すとともに,C市の担当職員に対し,本件土地を借金の返済等で産業廃棄物処理業者に売りたいが構わないかという相談をした。同じ頃,K県I市選出の元K県議会議員から被控訴人補助参加人に対し,本件土地を産業廃棄物業者が取得して産業廃棄物処理事業をすることになるので,そのことを認めてくれないかとの陳情もあった(丙1)。

被控訴人補助参加人は,C市を緑豊かな「T都市」にすること,同市を健常者も障害者も安心して生活できる「U都市」にすることなどの行政施策を掲げ,政策決定の指針とし,その一環として,上記アのとおり,Gについて福祉施設ゾーンとしての体系的な整備に努めていたことから,本件土地が万一,産業廃棄物処理業者に売却され,産業廃棄物処理場となった場合には,Gを中心とする福祉施設ゾーン構想に大きな打撃となると危惧し,また,かねてより,本件土地の近隣住民から苦情のあった廃油流出の苦情や景観上の苦情の解決の観点からも,本件土地をC市が買い取り,将来的には上記の行政施策のための事業用地に充てようと考え,平成17年7月頃,上記陳情を断るとともに,C市の職員に対し,早急に訴外Oから本件土地を買い取る交渉をするよう指示した(丙1)。

ウ 上記イの指示を受けたC市の担当職員は,訴外Sとの間で本件土地を買い取るための交渉をし,同市に売却した場合の譲渡所得税に関する優遇制度の存在についての説明もした。

その結果,訴外Sは,本件土地をC市に譲渡することとし,本件土地をC市に譲渡する前提として更地にするために,業者に施設の解体整理などを依頼した。依頼を受けた業者は,本件土地上に存した施設等を解体するとともに,敷地等をふるいに掛けるなどした上でその残土を運び出し,I市J及びC市V町等の私有地に埋め立てるなどした。

しかし,当該残土には壁土,瓦片,プラスチック片,木片,金属片等が混じっており,油臭がするなどしたため,K県W事務所長は,平成17年7月29日,上記業者に対し,当該埋立て行為は産業廃棄物の不法投棄に該当するため,当該土地に運んだ廃棄物を早急に撤去し適正に処理をするよう求める勧告等の行政指導を行った(甲40)。

エ C市は,H不動産鑑定所との間で,平成17年7月25日,本件土地について,鑑定事項から土壌汚染,地下埋設物等による土地利用の阻害を除外するとの条件で,不動産鑑定評価の委任契約を締結した(甲49の1及び2,78)。

H不動産鑑定所は,本件土地の実地調査を実施するなどした上,同年8月31日,①規準とする公示価格1㎡当たり3万6500円に時点修正,標準化補正,地域格差及び個別格差による修正をして規準価格を1㎡当たり1万7800円とし,②近隣地域と同一需給圏内の類似地域の工事用地等として実際に取引された4事例に基づき,比準価格を1㎡当たり1万8600円とし,③比準価格を重視して,本件土地の標準画地価格を1㎡当たり1万8000円とした上で,本件土地の個別的要因を考慮して,本件土地の同年8月1日時点の価格を,1㎡当たり1万1200円とし,これに面積を乗じた1億0428万7000円とする旨の本件鑑定評価を内容とする不動産鑑定評価書(甲78)をC市に提出した。

オ C市の担当職員は,平成17年8月になって,本件土地の現地確認に行ったが,その際,本件土地はすでに更地となっていた。もっとも,本件土地が自動車解体業に用いられており,土壌汚染のおそれもあると認識していたことから,訴外Sに対し,土壌汚染の有無について調査するよう指示し,訴外Sから同月2日付けの本件計量証明書(甲31の1ないし3)の交付を受けるとともに,設置してあった油水分離槽等の設備が撤去されたことを確認した。また,本件土地の一部に竹木等が埋設されていることが発覚したため,同月20日,訴外Oにこれを撤去させ,その撤去を確認した。

なお,本件計量証明書の宛名は訴外Lであり,以下の記載のほか,検査対象となった汚染物質(カドミウム,六価クロム等)はいずれも基準値未満である旨の記載がある。

① 試料の種類 土壌溶出試験

② 試料名 C市E1ないし3

③ 検定方法 土壌汚染に係る鑑定基準について(環境庁告示)による

④ 採取者名 持ち込み

カ C市の担当職員は,平成17年8月24日,本件土地を取得し,G駐車場整備と屋外活動施設設置を内容とするG駐車場及び屋外活動施設設置事業計画を立案し,同市都市戦略企画担当部長の決裁を得た。この事業計画書には,Gを運営するに当たり駐車場及び屋外活動施設が不足している旨が記載されていた。

そして,C市の担当職員は,同日,同市に本件土地を売却する訴外Oが租税特別措置法に基づき譲渡所得税の控除を受けられるようにするため,X税務署に対し,事業を「G駐車場及び屋外活動施設設置事業」とし,事業施行地を本件土地,計画面積を9329.79㎡,買取見込を総額1億円とし,同事業が土地収用法3条23号に該当する旨の内容の事前協議説明書(甲59,82)を作成し,訴外Oが,本件土地の譲渡所得税について,譲渡所得税の特例の適用を受けられるかどうかの協議を申し入れ,同税務署との間で協議した。

C市の担当職員は,X税務署との協議において検討を指示された事項について検討した上,同月25日,同税務署に対し,事業内容を「G駐車場及び屋外運動施設設置事業」から,「G屋外運動場整備事業」と変更する内容の事前協議説明書を再度提出した(甲60,61)。これに対し,X税務署長は,被控訴人補助参加人に対し,同月31日付けで,C市が計画するG屋外運動場整備事業が租税特例措置法33条,33条の4の適用を受ける事業であることを確認する旨の回答をした(甲83)。

キ C市の担当職員は,本件土地のうち,総合福祉施設であるGに隣接する4687.83㎡部分をA事業に,また,E遺跡に接する4623.56㎡部分をB事業にそれぞれ利用するとの計画の下に,平成17年8月31日,A事業及びB事業のための用地取得のためとして,予定取得価格につき市有財産評価審議会の持ち回りでの審議を受け,A事業のための用地の予定取得価格を5250万3696円,B事業のための用地の予定取得価格を5178万3872円(両者の合計1億0428万7568円で,本件鑑定評価の額とほぼ同一)とすることで承認を得た(甲62,乙9の1及び2)。

そして,C市の担当職員は,同日,A事業のための用地及びB事業のための用地を取得するため,本件土地を代金1億円で訴外Oから買い受ける旨の本件売買契約を締結すること及び上記代金1億円については,公共土地をあらかじめ取得することにより,事業の円滑な執行を図るために設置されたC市土地開発基金(甲26)を使用する申し込みをすることについて立案し,決裁に回し,被控訴人補助参加人は,同年9月1日,これを決裁した(乙10)。

なお,B事業に関し,控訴人Yが平成23年に公文書の公開を求めたところ,被控訴人補助参加人は,事業計画の稟議書,市有財産評価審議会へ付議する稟議書が存在しない旨の回答をした(甲63)。

ク 被控訴人補助参加人は,平成17年9月2日,訴外Oとの間で,C市が訴外Oから,本件土地を代金1億円で買い受ける旨の本件売買契約を締結した(甲10)。

なお,本件売買契約は,代金が1億円で売買面積が9311.41㎡であったが,その締結に関して,地方自治法96条1項8号によるC市議会の議決を得る手続は執られなかった。

(3)  本件土地取得後の経緯等

ア 本件土地の取得代金はC市土地開発基金から支出されたものであったが,平成17年度の基金の運用状況に関する調書(甲25,26)には,取得した土地に,約4500万円で取得したθ交差点改良事業用地(約205㎡の土地)や,約2100万円で取得したZ自然公園整備事業用地(約2300㎡の土地)は明示して記載されていたが,本件土地の取得は明示されていなかった。

イ C市は,平成19年12月に,本件土地(A事業のための用地)のうち691㎡(公簿面積。実測面積は692.26㎡)と,隣地の1390.29㎡(実測面積)を交換した。本件交換契約は,本件土地の交換渡し物件の価格が約125万円(1㎡当たり1799円),交換受け物件の価格が約136万円(1㎡当たり976円)で等価交換となり,交換差金は発生しないとされたが,この点については事前に,市有財産評価審議会が承認していた(甲37)。

ウ 本件各事業は現在まで進捗しておらず,本件土地の一部は山土の保管場所として使用され,残土の一部がなおも残っているほか,他の部分については簡易舗装が施された上,植物の堆肥化事業であるグリーンリサイクル堆肥化作業の作業場として利用されている。

3  争点(1)(監査請求期間徒過について正当な理由の有無)について

当裁判所も,E事業に係る本件監査請求については,監査請求期間徒過につき正当な理由があるため,適法なものであったと判断するが,そのように判断する理由は,原判決23頁23行目から24頁19行目までの説示のとおりであるから,これを引用する。

4  争点(2)(本件売買契約の違法性)について

(1)  本件土地取得の必要性の有無

ア 上記2の認定事実並びに証拠(乙7,8,丙1,証人P)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人補助参加人は,C市の市長として,同市を緑豊かな「T都市」とすること及び同市を健常者も障害者も安心して生活できる「U都市」とすることなどの行政施策を掲げ,政策決定指針とし,そのことは,平成10年に策定された本件新総合計画にも反映され,同新総合計画において,Gについて,障害のある人もない人も誰もが交流することができるように,施設建物周囲を屋外運動場やQの丘として整備するなど福祉施設ゾーンとしての体系的な整備に努めることが掲げられ,実際にも,平成15年から平成16年にかけて,Gの周辺整備事業の一環として,G施設の西側丘陵がRの丘などとして,また,同施設の東側が芝生広場として整備されたこと,ところが,このように福祉施設ゾーンとして体系的な整備を進めていたGの東側に,道路一つ隔てて隣接する本件土地においては,訴外Lにより自動車の解体等が行われ,自動車部品などのスクラップが野積みされている状態であったため,近隣住民から廃油流出等の苦情や景観上の問題などについての苦情がC市に寄せられ,また,K県が本件土地に立ち入り検査をし,使用済み自動車の保管場所や廃油排液の地下浸透防止装置及び流出防止措置等に関する行政指導をしたりしたこと,そのようなことから,訴外Lは本件土地での事業継続を断念し,本件土地の所有者である訴外Oの代表者である訴外Sは,不動産仲介業者に委託して,本件土地の売却先を探していたところ,不動産仲介業者から,産業廃棄物業者に対する売却の話が持ち込まれ,C市担当職員にその旨を相談したため,そのことが被控訴人補助参加人の耳に入り,他方,被控訴人補助参加人に対し,知り合いの元K県議会議員から,本件土地を産業廃棄物処理業者が取得して産業廃棄物処理業をすることについて,承認の陳情を受けたこと,被控訴人補助参加人は,万一,本件土地が産業廃棄物処理業者に売却されて,産業廃棄物処理場とされた場合には,Gを中心とする福祉施設ゾーン構想に大きな打撃となることから,これを防止し,あわせて,従前からの廃油流出の苦情や景観上の問題の解決の目的もあって,本件土地をC市が買い取り,将来的には,上記の行政施策のための事業用地に充てようと考え,担当職員に対し,早急に本件土地の買取り交渉を指示したこと,そこで,同市の担当職員において,急きょ,本件土地の取得目的について検討し,多少の変更はあったものの,最終的には,A事業及びB事業の事業用地の取得を目的として,本件土地の買取りの手続を進め,本件売買契約を締結して本件土地を取得したこと,以上の事実が認められる。

上記事実によれば,C市が本件土地を取得するについては,本件土地が第三者に売却されて,同市が本件新総合計画の一環として整備を進めていたGを中心とした福祉施設ゾーン構想の妨げとなる産業廃棄物処理施設事業用地となることを防止するという緊急の目的があったものであって,取得後についても,将来的には,G隣接地として,上記の福祉施設ゾーン構想などのための事業用地としての利用プランも考えられていたものということができる。

そして,市長としての被控訴人補助参加人には,新総合都市計画に基づく上記の福祉施設ゾーン構想を,いつ,どのように実現していくかについて広範な行政施策上の裁量権があるものというべきであるところ,上記のような取得目的があった上,取得後の利用プランについても,本件土地とGの位置関係等からすると,それが実現可能性のないものということもできないから,C市に本件土地取得の必要性があったものと認められる。

イ 控訴人らの主張について

(ア) 控訴人らは,訴外Sは,本件土地を廃棄物処理業者に売却するという話はなかったと述べていた旨主張する。

しかし,上記アのとおり,訴外Sは,廃油等流出などのトラブルがあった本件土地を売却しようと不動産仲介業者に委託して売却先を探し,不動産仲介業者から産業廃棄物処理業者への売却の話があったのであり,元K県議会議員から被控訴人補助参加人に対し,これを承認するような陳情もあった事実が認められるから,控訴人らの主張は採用できない。

(イ) 控訴人らは,G屋外運動場については,既存の屋外施設も十分に利用されていないため,新設の屋外施設は不要である旨主張し,それに沿った証拠(甲72ないし74)を提出する。

この点について,被控訴人は,G屋外運動場について,屋外活動に使える場所は極小な芝生広場のみであったため,多様な活動に使用できる屋外運動場を整備する必要があった旨主張し,証人Pは,同主張に沿う証言をし,同人作成の陳述書(乙8)には,より具体的に,芝生広場では散策やウォーキングなど一部の運動しか行えないことから,比較的広い土地を使用するスポーツやリハビリ訓練,障害者の体育大会の練習や,運動会の開催などが行える屋外運動場の整備の必要があった旨の記載がある(乙7の陳述書も同旨の記載がある。)ところ,被控訴人補助参加人が本件土地の取得に関する本件売買契約締結に関する決裁をした際の稟議書(乙10)にも,本件土地を取得する目的の一つとされたA事業については,上記とほぼ同趣旨の記載がされていることが認められる。

これら証拠に,本件土地の西側がGを中心とする福祉施設ゾーンとして体系的な整備が進められていた地域であったことを併せると,被控訴人補助参加人及び担当職員は,本件土地の取得に当たって,本件土地取得後の本件土地の利用計画として,Gについて,上記のような屋外運動施設を整備することが望ましいとして,その整備事業を策定したものと推認されるのである。そして,Gには,上記のような屋外運動施設は存在しなかったのであるから,控訴人ら主張の点やこれに沿う上記証拠をもっては,本件土地に上記のような屋外運動施設を整備する必要がないとはいえない。

(ウ) 控訴人らは,C市は,本件土地取得の2年後に,本件交換契約により本件土地のうち691㎡を不要なものとして交換していることを指摘し,本件土地取得前の事業計画時の運動場面積が合理的な根拠に基づいて算出されたものでなく,A事業の必要もなかった旨主張する。

しかし,証拠(甲1,37,87)によると,本件交換契約の対象となった土地は,A事業用地の一部であるが,交換渡し土地は,法面であるため,上記交換の事実をもって,A事業の必要があったことが否定されるものではない。

なお,上記のとおり,本件交換契約の交換渡し土地が法面であり,本件土地の利用に必要なものであったとは認められないが,当該土地の位置や形状からすると,本件土地から,当該土地を除いた部分のみを買い受けることは訴外Oが到底承諾しないと考えられるから,本件売買契約により当該土地も取得したことが,不要な土地を取得したものとして,本件売買契約の締結を違法とするものではない。

(2)  本件土地の取得代金が不当に高額であるか否かについて

ア 控訴人らは,土壌汚染や地下埋設物を考慮外としていることから,本件鑑定評価は不当である旨主張する。

(ア) 証拠(甲43)によると,財団法人日本不動産鑑定協会調査研究委員会は,土壌汚染に関わる不動産鑑定評価に当たり,土壌汚染の存否が明らかでないようなときには,独自調査により土壌汚染の有無を調査し,価格形成要因とするか否かを判断する必要があるとしていることが認められる。

しかし,不動産鑑定評価は,依頼主との間の委任契約に基づいて行われるものであるから,不動産鑑定評価に,依頼主が設定する条件を明記し,その条件による鑑定評価であることを明らかにしているのであれば,その条件に従って不動産鑑定評価を行うことをもって,何ら違法又は不当ということはできない。

そして,鑑定評価において,本件では,土壌汚染及び地下埋設物等が認められる場合には,当該利用阻害については鑑定評価上考慮外とすることが依頼条件であったのであるから(甲78),土壌汚染及び地下埋設物等を鑑定評価上考慮外としたことについて,本件鑑定評価の手法に違法又は不当があるということはできない。

(イ) 次に,土壌汚染及び地下埋設物等を鑑定評価上考慮外としたことにより,本件鑑定評価の評価額が不当に高額になったかどうかの点について検討する。

上記2の認定事実によれば,訴外Lは,本件土地において少なくとも数年にわたり自動車解体業を営んでおり,その間近隣住民からC市や訴外Lに廃油流出の苦情が申し立てられていたこと,平成16年にK県に解体業の許可を申請した際に汚染防止設備につき不備があることが指摘されていたこと,訴外Lが廃業するに当たって本件土地から運び出された残土には金属の破片等が混じっており,油臭がするものであったことが認められる。

しかし,本件計量証明書によると,上記の残土が搬出された後の本件土地には土壌汚染が認められなかったのだから,本件鑑定評価が土壌汚染を考慮外としたことにより,本件鑑定評価が不当に高額になったと認めることはできない。

控訴人らは,本件計量証明書に係る土壌溶出試験の検体が本件土地のものであることが明らかでないことから,本件計量証明書が本件土地のものであるということはできない旨主張するが,証拠(甲37の1ないし3,証人P)によると,本件計量証明書に係る土壌溶出試験の検体は,K県αセンターへ持ち込まれた土壌検体によるものであるところ,C市の担当職員であるPは,本件売買契約前に,本件土地に土壌汚染の可能性があることから,訴外Sに土壌汚染の検査をするよう依頼するとともに,部下に土壌検体採取に立ち会うよう指示したことが認められ,このような事実関係からすると,訴外Sが本件土地以外の土壌検体をK県αセンターに持ち込むとは考えがたいから,控訴人らの主張を採用することはできない。

また,地下埋設物を鑑定評価上考慮外としたことについては,上記2の認定事実のとおり,本件売買契約前に本件土地に竹木等の埋設が確認されたため,平成17年8月20日に本件土地の竹木等の埋設物の除去工事が行われていることが認められるから,本件鑑定評価において,地下埋設物を考慮外としたことにより,本件鑑定評価が不当に高額になったと認めることはできない。

イ 控訴人らは,本件土地に隣接するβ所有土地の固定資産税評価額が1㎡当たり8800円であるところ,一般論として,地価公示価格と固定資産税評価額との関係は,10:7の関係にあり,β所有地の公示価格推定額は1㎡当たり1万3000円となることから,本件鑑定評価で用いた標準画地価格1㎡当たり1万8000円は相当でなく,本件土地の標準画地価格は1㎡当たり1万3000円であり,本件鑑定評価は不当に高額である旨主張する。

確かに上記2の認定事実並びに証拠(甲68,78)及び弁論の全趣旨によると,本件鑑定評価の1億0428万7000円は,本件土地の1㎡当たりの価格を1万1200円としていること,他方,本件土地に隣接するβが所有する土地(E7403番10,宅地,課税面積250㎡,地上建物あり)の平成17年度の固定資産評価額は1㎡当たり8799円であり,その間に1㎡当たり2401円の差があることが認められるが,土地の評価は,土地の形状や接道状況などによっても変わるものである上,本件鑑定評価の鑑定手法について,特に不合理とすべき点も認められないから,本件土地の隣接土地の固定資産税評価額との比較のみによって(なお,本件土地の1㎡当たりの価格1万1200円とβ所有地の1㎡当たりの価格8799円との比は,100:78である。),本件鑑定評価が不当なものであるということはできない。

なお,控訴人らは,本件鑑定評価に用いられた取引事例が不動産鑑定士の独断で採用されたものである旨主張するが,本件鑑定評価に用いられた取引事例の他に本件鑑定評価の際に参考にすべき取引事例があったのかどうかが明らかでないから,本件鑑定評価の取引事例が恣意的に選択されたものであると認めることはできない。

また,本件交換契約の交換渡し土地は,法面であったのであるから,交換渡し土地の評価額が1㎡当たり1799円であったからといって,本件鑑定評価の価格が不当に高額であるということもできない。

ウ 控訴人らは,H不動産鑑定所がC市の不動産鑑定評価業務を1社独占に近い約92%という高い契約率で,そのほとんどを随意契約で受注していることから,H不動産鑑定所が上顧客であるC市が指示するとおりに本件売買契約の取得代金が1億円になるような本件鑑定評価をした旨主張する。

しかし,H不動産鑑定所がC市の不動産鑑定評価を多数受注しているからといって(甲46),そのことだけで,同鑑定所が不当な鑑定をしていると認めることはできない。

エ 控訴人らは,平成17年8月31日に本件鑑定評価が出される前の同月24日にはC市が取得代金を1億円とする事業計画書を作成していることから,本件鑑定評価が出る前に,取得価格が決まっていた旨も主張する。

なるほど,上記2の認定事実によると,C市とH不動産鑑定所は,同年7月25日に本件土地に係る鑑定の委任契約を締結し,H不動産鑑定所は,価格時点を同年8月1日,鑑定評価を行った日を同月26日として同月31日付けで本件鑑定評価に係る鑑定書を作成していること,ところが,同月24日にC市が作成した事業計画書あるいはX税務署に対する事前協議説明書に本件土地の取得代金が1億円と記載されていることが認められるから,本件土地の取得代金1億円が本件鑑定評価より前に決まっていたのではないかとの疑いがある。

しかし,上記2の認定事実及び証拠(甲89,証人P)によれば,C市の担当職員と訴外Sとの間の本件土地の売買に関する交渉は,平成17年7月には開始され,その交渉の過程で,訴外S側からは,代金額について1億2000万円の提示もあったが,C市の担当職員から,同市に売却することによる租税特別措置法の譲渡所得の特例適用による減税が可能となることの説明がなされた結果,訴外Sにおいて,代金1億円での売却の意向を示すようになったことが認められるから,同年8月24日の上記事業計画や事前協議説明書の本件土地の取得代金1億円の記載は,上記のような交渉結果を踏まえた見込額を記載したものと推認されないではないから,同日時点の上記事業計画書等の取得代金1億円の記載をもって,本件鑑定評価がそのことに影響されたとか,本件売買契約の取得代金が本件鑑定評価と無関係に決定されたと断定することまではできない。

オ 上記認定事実及び上記アないしエに説示したところによると,本件土地の取得価格は,本件鑑定評価及びC市の市有財産評価審議会の審議を経て決定されたものであり,適正なものと認められる。

(3)  本件土地の取得が不正な意図にあったものであるか否か

控訴人らは,本件土地は,売主である訴外Sらを利する目的でされたものである旨主張する。

しかし,本件土地取得の必要性が認められることや,取得代金が相当であることは,上記(1),(2)で説示したとおりであるから本件土地が控訴人ら主張の不正な意図で取得されたものと認めることはできない。

(4)  本件売買契約により本件土地を取得するについて議会の議決の要否

ア 本件条例3条は,C市が予定価格3000万円以上で,1件5000㎡以上の不動産を買い入れるについては,地方自治法96条1項8号の規定による議会の議決を得なければならない旨定めている。

本件売買契約は,C市が,面積合計9311.41㎡の本件土地(10筆の土地からなる。)を代金1億円で,訴外Oから買い受けてその所有権を取得することを内容とする契約であるから,被控訴人補助参加人が同市の市長として本件売買契約を締結して本件土地を取得するについては,あらかじめ議会の議決を得る必要があったものというべきである。

イ 被控訴人は,本件土地の取得がA事業とB事業という2つの事業目的に基づき,かつ,それぞれの事業のために取得する面積はいずれも5000㎡未満となるから,C市が本件売買契約により本件土地を取得することについては,地方自治法96条1項8号の定める議決は不要である旨主張し,その根拠として,実務提要には,それを承けて本件条例3条が制定されたところの同号の規定する政令である地方自治法施行令121条の2第2項にいう「1件」について,土地の買入れ又は売払いの目的を妨げない限度の単位であるとして,事業単位ごとに判断する旨記載されていることを指摘する。

そこで,以下において,上記主張の当否について検討する。

(ア) 地方自治法96条1項8号は,「その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得又は処分すること」について,議会の議決を要するものとしているが,この趣旨は,政令等で定める財産の取得又は処分は,地方公共団体にとって重要な経済行為に当たり,その財政に及ぼす影響が大きなものとなるおそれがあることから,これに関して執行機関の長の判断のみに委ねるのではなく,住民の代表である議会の議決を得ることで,住民の利益を保護し,住民の代表意思に基づいて適正に行われることを期することにあるものと解される(同法同条同項5号に関する最高裁判所平成16年6月1日第三小法廷判決・判例タイムズ1163号158頁参照)。

地方自治法96条1項8号の上記のような趣旨に徴すると,地方自治法施行令121条の2第2項及びこれを承けて制定された本件条例3条にいう「1件」は,その取得又は処分する財産が土地である場合にあっては,特段の事情がない限り,当該土地を取得又は処分する際の契約の単位を意味するものと解するのが相当である。

(イ) 被控訴人は,上記の「1件」について,事業単位の意味であり,土地を取得する事業単位ごとに判断されるべきである旨主張するのであるが,地方自治法96条1項8号及びこれを承けて制定された本件条例3条の規定の文言からは,そこで使用されている「1件」について,地方公共団体の行う事業と関連づけた意味の文言であると解することはできない。

かえって,上記の「1件」を被控訴人主張のように解するときには,例えば,地方公共団体が1個の売買契約で1万㎡を超える土地を10億円で買い受ける場合であっても,その取得の目的が3つの事業の用に各3分の1ずつの,いずれも5000㎡未満となるように分けて利用するという場合には当該地方公共団体から当該土地の取得のために10億円もの巨額の資金が支出されるにもかかわらず,地方自治法96条1項8号による議会の議決を要しないことになるのであって,このような帰結は,上記(ア)で説示した同項8号の趣旨に適わないことが明らかである。

もっとも,上記の「1件」を上記(ア)のとおり契約の単位を意味するものと解すると,同一の事業に供する目的で取得する1万㎡の土地を,格別の理由もなく,恣意的に3ないし4回に分割して売買契約を締結して買い受けることにより,容易に地方自治法96条1項8号による議会の議決を不要とすることができるようになるが,そのような場合には,なお,上記3ないし4回に分割してなされた売買契約が全体として「1件」に該当する場合と解すべき特段の事情があるものとして,同号による議会の議決を要するというべきである。

加えて,そもそも地方公共団体が事業を行う場合には,予算の執行を伴うのを通常とするのであるところ,予算を定めること及び決算を認定することが議会の議決事項とされているため(地方自治法96条1項2号,3号),予算執行が予定される事業については,議会における予算決議の過程で当該事業の要否及び当否,予算額の適否などが審査されることになり,また,決算審議の過程で予算執行の適否や当否が審査されることになるのであって,当該事業に対する議会による事前又は事後の審査(売払いの場合は,少なくとも決算における事後審査)の仕組みが保障されているものと解されるから,地方自治法施行令121条の2第2項及びこれを承けて制定された本件条例3条の「1件」について,被控訴人主張のように事業単位でなく,上記(ア)のとおり契約単位とするとしても,議会のチェック機能が侵害されるものとはいえない。

(ウ) 被控訴人がその主張の根拠として援用する地方自治制度研究会編集の実務提要には,上記の「1件」の意義に関し,昭和38年行政課長通知が引用されており,これによれば,「自治令別表第4における1件の定義は,『土地の買入れ又は売払いにおいて,その買入れ又は売払いの目的を妨げない限度における単位をいう。』とされています。」とした上,「いかなる単位をもって,『その買入れ又は売払いの目的を妨げない限度』とすべきかについては,個々具体的に判断しなければなりませんが,この趣旨は主として経済的一体性を重視しているものとみられることから,例えば,地方公共団体が宅地造成をして,これを売払う場合において,相手方が個々多数の住民になるからといってこれを分割して算定して,議決事件としないとすることは,『その売払いの目的を妨げない限度』を越えるものですから,許されないものと解されます。」と解説しており,また,町道(路線本数3)用地内の潰地を買い上げる場合に議会の議決を要するか否かの質問とその回答(乙6の165・46のものであり,個々の土地を見る限り,議決基準には該当しないが,合計すると議決を要する土地の取得となる事案について,「1件」の判断においては,経済的一体性を重視すべきであり,取得しようとする土地が一団を構成している場合に,その土地が複数筆,複数の所有者から成っている場合であっても,取得する土地が同一目的で取得するものであれば,その一団を一件として取り扱うべきである,すなわち,「1件」とは,その取得又は処分の同一性が要件とされていると解するべきであるとするもの。以下「実務提要a説例」という。),土地開発公社が先行取得した土地6000㎡を公園用地4000㎡と市民プール用地2000㎡として買い戻す場合に議会の議決を要するか否かの質問とその回答(乙6の165・47~166のものであり,1つのまとまった土地を2つ以上の異なる用途に使用するため買収する場合,一応はその用途ごとに「1件」と解することができるが,例外として,複合的施設を併合したコミュニティ施設の建設等相互に密接に関連する施設を整備する場合や,ひとまとまりの土地を公園として整備し,管理上プールと他の用途に分けるというものであれば,全体として1件と解し,議会の議決を要するとするもの。以下「実務提要b説例」という。),福祉センター建設用地として合計1万2000㎡の土地を2年度に分けて2人の所有者から買い受ける場合に議会の議決を要するか否かの質問とその回答(乙6の166のものであり,この場合,購入目的は1つの目的であるが,契約の締結は予算に従って行われるものであり,かつ,契約すべき相手方まで議会の議決の要件となるので,会計年度を超えてなお同一目的があるとすることは予算の性格上無理があるものと考えられるため,初年度と次年度における買入れを各々1件として取り扱うことは差し支えないと解されるとするもの。以下「実務提要c説例」という。)において,いずれも,上記「1件」の意義ないし昭和38年行政課長通知にある「土地の買入れ,又は売払いの目的を妨げない限度」の意義について,経済的一体性を重視して判断すべきである旨記述するなど,被控訴人主張の事業単位に合致する内容となっている。

しかし,実務提要が実務提要a説例ないしc説例において採用する「1件」の意義に関する上記のような考え方は,「1件」の意義を実質的に考えて議会の議決の要否を判断すべきであるとの趣旨に出たものとして理解できないではないが,議会の議決の要否という重要な事項に関する判断基準としての客観性に欠け,その運用が恣意的になるおそれが大きく,その結果,上記(ア)に説示した地方自治法96条1項8号の趣旨に反することにもなりかねないのであり,賛成し難い。

(エ) 以上のとおりであるから,本件土地が被控訴人主張のとおり,A事業とB事業という2つの事業目的で取得され,かつ,A事業及びB事業のために取得する土地の面積がそれぞれ5000㎡未満となるものとしても,9311.41㎡の面積を有する本件土地を1億円で買い受けるという1個の本件売買契約により本件土地を取得するものである以上,本件条例3条の場合に該当し,本件土地の取得についてはC市議会の議決を要するものというべきである。

ウ したがって,C市が本件売買契約により本件土地を取得することについては,地方自治法96条1項8号によるC市議会の議決を要する場合であったのに,同議決を得ずになされた違法があることになる。

なお,被控訴人補助参加人は,本件土地が産業廃棄物業者に買い受けられるのを防ぐための緊急の必要があった旨の主張をするが,上記の緊急の必要が本件土地をC市が取得するについて,同市議会の議決を得る手続を履践することができない程に緊急なものであったことについての主張立証はないし,仮にそのような場合であれば,地方自治法179条により被控訴人補助参加人がC市長として専決処分をし,事後的に議会に報告してその承認を求める方途があったのに,そのような方途も講じていないのであるから,被控訴人補助参加人の主張は採用できない。

5  争点(3)(被控訴人補助参加人の故意又は過失の有無)について

(1)  上記2の認定事実と証拠(甲61ないし64,乙6ないし8,9の1ないし3,乙10,丙1,証人P)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 被控訴人補助参加人は,平成17年,知り合いの元K県議会議員から,本件土地を産業廃棄物業者が取得して産業廃棄物処理業を行うことの承認についての陳情を承けるなどしたことから,万一,本件土地を産業廃棄物処理業者が取得することになると,C市が本件土地の西側隣地で進めてきたGを中心とする福祉施設ゾーン構想に大きな打撃となるため,本件土地を同市において取得し,本件土地が産業廃棄物業者等に売却されることを防止するとともに,取得後の本件土地は,今後,上記福祉施設ゾーン構想に沿う事業用地などとして利用するとの考えの下に,担当職員に対し,早急に本件土地の取得のための交渉をするよう指示した。

イ 上記の指示を受けた担当職員は,担当である都市戦略企画推進部の職員を中心として,本件土地の所有者である訴外Oとの間で本件土地買取りの交渉を進め,本件土地を買い取る目処を付ける一方,本件土地取得後の利用計画の策定など,同市において本件土地を取得するために必要な手続等の検討をし,本件土地の利用計画としては当初,G駐車場整備と屋外運動設備設置を内容とする事業計画案を策定し,同事業計画案に基づきX税務署との間で売主の訴外Oが租税特例措置法に基づく譲渡所得の控除の特例が受けられるようにするため,事前協議を行った。

ウ また,C市においては,本件土地を取得するために必要な手続等の検討の一環として,本件土地がその面積が5000㎡を超え,その取得のために要する売買代金の額が3000万円を超えることが見込まれるものであっため,本件土地の取得について地方自治法96条1項8号に定める議会の議決を要するかについての検討もされ,その過程で参考とされた実務提要には,昭和38年行政課長通知として,地方自治法121条の2第2項を受けた地方自治法施行令別表第4にある「土地については,市町村にあっては1件5000㎡以上のものに限る」とある「1件」について,「土地の買入れにおいて,その買入れの目的を妨げない限度における単位をいう。」との記載があり,これに対する設問として,実務提要b説例が挙げられ,これに対する回答が「1つのまとまった土地を2つ以上の異なる用途に使用するため買収する場合,一応はその用途ごとに「1件」と解することができるが,例外として,複合的施設を併合したコミュニティ施設の建設等相互に密接に関連する施設を整備する場合や,実務提要b説例でも,ひとまとまりの土地を公園として整備し,管理上プールと他の用途に分けるというものであれば,全体として1件と解し,議会の議決を要する。」と解説されていたことから,担当職員においては,本件条例3条の「1件」について,まとまった土地を2つ以上の異なる用途に使用するために買い取る場合には,買い取る用途ごとに「1件」とし,例外的に,相互に密接に関連する施設を整備する場合のように,これらを一体として捉えることが適切である場合においては,全体を「1件」とすべきものとして,議会の議決の要否を判断することになるものと考えるに至った。

エ 担当職員においては,被控訴人補助参加人から本件土地の早急な取得を指示されたものと理解していたことから,上記ウの検討結果を踏まえて,本件土地の取得について議会の議決が不要となるように,本件土地の取得の目的をG屋外施設整備事業(A事業)とE遺跡の見学者らのための緑地整備事業(B事業)との2つの異なる事業の用に供することとし,かつ,A事業のための用地を4687.83㎡,B事業のための用地を4629.56㎡とそれぞれ5000㎡未満となるよう按分するとの事業計画を策定し,C市有財産評価審議会に付し,原案を適当と認めるとの審議結果を得たため,同日,本件売買契約原案とともに,被控訴人補助参加人の決裁に付した。

上記事業計画案は,上記のとおり,早々の間に作成されたため,その具体的内容までは十分に検討されておらず,本件土地をA事業のための用地とB事業のための用地に分割する図面も概略のもので,分割範囲を確定させるようなものではなかった。

オ 被控訴人補助参加人は,上記エの事業計画案が,被控訴人補助参加人がC市の市長として市の本件新総合計画に従って進めるGを中心とする福祉施設ゾーン構想に合致し,また,E遺跡の隣接地を緑地として整備する内容であることから,実現の可能性もあると考え,本件土地の取得について議会の議決を要するものか否かについては特に検討することなく,平成17年9月1日,本件売買契約書案とともに,承認して決裁した。

その結果,C市議会の議決を得ることなく,同月2日,被控訴人補助参加人は,訴外Oとの間で本件売買契約を締結し,同月7日,本件土地の売買代金1億円が訴外Oに支払われた。

(2)  上記4(4)のとおり,C市が本件売買契約により本件土地を取得するについては,地方自治法96条1項8号による議会による議決を要する場合であったにもかかわらず,被控訴人補助参加人は,同議決を得ることなく,本件売買契約を締結して本件土地を取得したものであるが,上記(1)の事実によれば,同市が本件土地を取得するについて,同市の担当職員が,議会の議決を要するか否かを検討し,実務提要に示された昭和38年行政課長通知と同書に記載された見解に従って,本件土地取得のための手続を進め,議会の議決を不要とする事務処理を行い,被控訴人補助参加人は,補助職員である担当職員の上記事務処理をそのまま是認して本件売買契約を締結し,売買代金を支払ったというのであるから,議会の議決を不要とする上記担当職員の処理に故意又は過失があるときは,市長としての被控訴人補助参加人に故意又は過失があると同視されるべきものというべきである。

しかるところ,担当職員の上記事務処理は,昭和38年行政課長通知とこれを踏まえた実務提要の記述に依拠してされたものであるところ,証拠(乙7,8,証人P)及び弁論の全趣旨によれば,地方自治法96条1項8号に関する昭和38年行政課長通知とこれを踏まえた実務提要の記述は,地方公共団体において行政事務を担当する者がこれを信頼して行政事務を行っているものであることが認められるところ,上記の実務提要の記述に反する文献の存在することについての主張立証はないし,地方自治法施行令121条の2第2項にいう「1件」の意義について例示した最上級審の判決も存在しない状況(なお,甲71)にあるから,C市の担当職員が,昭和38年行政課長通知及び実務提要の記述(特に実務提要設例b及び同c)に依拠して,本件条例3条による「1件」の意義について,まとまった土地を2つ以上の異なる用途に使用するために買い取る場合には,買い取る用途ごとに「1件」とし,例外的に,相互に密接に関連する施設を整備する場合のように,これらを一体として捉えることが適切である場合においては,全体を「1件」とすべきものとして,議会の議決の要否を判断することになるものと考えて,上記(1)エのとおり事務処理をし,本件売買契約の締結について議会の議決を要しないと判断したことにつき,故意又は過失があるとまではいうことができないと解するのが相当である。

上記に反する控訴人らの主張は採用し得ない。

6  まとめ

以上によると,本件売買契約に基づく本件土地の取得については,C市議会の議決を要する場合であるのに,その議決を得ることなく本件売買契約を締結したとの違法があるが,この違法については,被控訴人補助参加人に故意又は過失があるとは認められないことから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人らの請求には理由がないものである。

第4結論

よって,控訴人らの請求を棄却した原判決は結論において相当であり,控訴人らの控訴には理由がないから,これを棄却主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長門栄吉 裁判官 眞鍋美穂子 裁判官 片山博仁)

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