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名古屋高等裁判所 平成25年(行コ)76号 判決 2014年5月16日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  名古屋市α区社会福祉事務所長が平成24年6月18日付けで控訴人に対してした生活保護法63条に基づく保護費返還決定を取り消す。

第2事案の概要

1  本件は,大韓民国の国籍を有する外国人で名古屋市α区において生活保護を受給していた控訴人が,同区社会福祉事務所長から平成24年6月18日付けで保護費返還決定(以下「本件決定」という。)を受けたため,本件決定の取消しを求めた事案である。

原審が,本件決定は抗告訴訟の対象となる行政処分ではなく本件訴えは不適法であるとして却下したところ,控訴人が控訴した。

2  関係法令等の定め,前提事実,争点及び当事者の主張は,3のとおり控訴人の当審における補充主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2ないし4に記載するとおりであるから,これを引用する。

3  控訴人の当審における補充主張

憲法の保障する基本的人権は,広く外国人にも保障されるところ,憲法25条が保障する生存権は,人の生存を支える人権の中でも根幹をなす重要な人権であるから,少なくとも日本人と変わらない生活実態を有し納税義務も果たしている永住資格のある外国人には保障され,これを具体化した生活保護法の適用も認められるべきである。仮に,外国人には生活保護法の適用はなく,生活保護の給付に処分性がないとしても,日本が法治国家である以上,国が外国人に対してしていた生活保護の給付について変更したときは,少なくともその変更の是非については司法審査の対象になると解すべきである。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,本件訴えは不適法であると判断する。その理由は,2のとおり控訴人の当審における補充主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1に記載するとおりであるから,これを引用する。

2  控訴人の当審における補充主張に対する判断

控訴人は,少なくとも永住資格を有する外国人には生活保護法が適用されるべきである旨主張する。しかし,生活保護法がその適用対象を日本国民に限定していることは,原判決が第3の1(2)で説示するとおりであって,永住資格の有無にかかわらないのであるから,永住資格を有する外国人について別異に解すべき理由はない。

控訴人は,国の外国人に対する生活保護の給付については処分性がないとしても,その変更の是非については司法審査の対象になると解すべきである旨主張する。しかし,本件決定の処分性が否定される以上,本件決定が本件保護費の返還義務を形成し又はその範囲を確定するものではないこと,本件決定の公定力が認められない結果,控訴人は,被控訴人による本件保護費の返還請求訴訟又は控訴人による債務不存在確認訴訟等の民事訴訟において本件保護費の返還義務の存否を争うことができることは,原判決が第3の1(4)で説示するとおりである。したがって,本件決定の是非について司法審査の対象になるのであって,本件決定について抗告訴訟の対象としなければ司法審査が及ばず不当である旨の控訴人の主張は採用することができない。

3  よって,本件訴えを却下した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木下秀樹 裁判官 舟橋伸行)

裁判官 加島滋人は,転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 木下秀樹

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