大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成26年(ネ)223号 判決 2014年7月04日

当事者目録

控訴人(附帯被控訴人)

学校法人Y学園

同代表者理事長

同訴訟代理人弁護士

森田辰彦

生田晃生

被控訴人(附帯控訴人)

同訴訟代理人弁護士

石塚徹

小島髙志

安井典高

主文

1  本件附帯控訴に基づき、原判決主文第2項及び第4項を次のとおり変更する。

2  控訴人は、被控訴人に対し、728万7156円並びにうち28万1727円に対する平成23年4月23日から、うち51万9686円に対する同年5月24日から、うち105万2980円に対する同年7月1日から、うち110万8935円に対する同年12月10日から、うち104万9164円に対する平成24年6月30日から、うち111万2750円に対する同年12月11日から、うち104万9164円に対する平成25年6月29日から及びうち111万2750円に対する同年12月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  本件控訴を棄却する。

4  訴訟費用は第1、2審とも控訴人の負担とする。

5  この判決の第2項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(控訴の趣旨)

(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(2) 前項の取消にかかる被控訴人の請求をいずれも棄却する。

(3) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人の附帯控訴の趣旨に対する答弁)

(1) 本件附帯控訴を棄却する。

(2) 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(控訴の趣旨に対する答弁)

(1) 主文第3項と同旨

(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。

(附帯控訴の趣旨)

(1) 原判決主文第2項及び第4項を次のとおり変更する。

(2) 主文第2項と同旨

(3) 訴訟費用は第1、2審とも控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、控訴人が設置・経営しているa大学の教授であり、控訴人から平成23年4月1日付けで教職員研修室(兼務)の配転命令(以下「本件配転命令」という。)を受け、これを拒否したことを理由に普通解雇(以下「本件解雇」という。)された被控訴人が、控訴人に対して、

(1)  労働契約上の権利を有する地位にあることの確認

(2)  平成23年4月分の未払給与30万6327円及び同年5月分の未払給与51万9686円の合計82万6013円並びに上記30万6327円に対する支払日の翌日である同年4月23日から、上記51万9686円に対する同5月24日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払

(3)  平成23年6月分以降の給与として、月額51万9686円及びこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払

を求めた事案である。

2  原審は、本件配転命令は、業務上正当かつ合理的な理由や人選の合理性はないのみならず、被控訴人に対し不当な目的を持って行われたもので不当労働行為にも該当するから無効であり、これに従わなかったことを理由とする本件解雇も無効であるとして、被控訴人が控訴人に対して労働契約上の地位にあることを確認すると共に、平成23年4月分の未払給与28万1727円及び同年5月分の未払給与51万9686円の合計80万1413円並びに上記28万1727円に対する同年4月23日から、上記51万9686円に対する同年5月24日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払、並びに同年6月分以降の給与として月額51万9686円及びこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を控訴人に命じる限度で被控訴人の請求を認容し、その余の請求を棄却した。

そこで、これに不服のある控訴人が本件控訴に及び、被控訴人も附帯控訴をした。なお、被控訴人は、当審において、附帯控訴の趣旨(2)のとおり、平成23年度から平成25年度の夏期手当及び年末手当並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めて請求を拡張すると共に、平成23年4月分の未払給与額についての請求を減縮した。

3  本件の前提事実(争いのない事実等)、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決3頁26行目末尾の次に、行を改めて、次のとおり付加する。

「(8) 被控訴人が控訴人において労働契約上の権利を有する地位にある場合、控訴人の給与規定(証拠<省略>)によれば、給与の支給日は毎月23日(ただし、当日が休日に当たるときは、その前日)であり、被控訴人の1か月分の給与の額は51万9686円である。

また、上記給与規定によれば、控訴人は、期末勤勉手当として夏期手当及び年末手当を支給しており(10条1項)、これらは、本俸、地域手当、扶養手当、役付手当及び職能手当を基礎とする「期末・勤勉手当基礎給与」により(同条2項)、6月1日及び12月1日に、それぞれ在職する教職員に対して、期末・勤勉手当基礎給与に理事会の定める支給割合等を乗じて算出することもの(同条3項)と定められている。

被控訴人の期末・勤勉手当基礎給は、50万8686円(=46万1100円(本俸)+5万5332円(地域手当)-7746円(55歳超減額))であるところ、a大学教員に支給された平成23年度から平成25年度の夏期手当及び年末手当は、控訴人の理事会において下記支給率が決定され、下記各支給日に支給されているから、被控訴人が控訴人において労働契約上の権利を有する地位にある場合、被控訴人の夏期手当年末手当の額は下記のとおりである。(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

ア 平成23年度夏期手当

支給率 期末手当1.31か月、勤勉手当0.76か月、合計2.07か月

支給日 平成23年6月30日

支給額 105万2980円(=50万8686円×2.07)

イ 平成23年度年末手当

支給率 期末手当1.42か月、勤勉手当0.76か月、合計2.18か月

支給日 平成23年12月9日

支給額 110万8935円(=50万8686円×2.18)

ウ 平成24年度夏期手当

支給率 期末・勤勉手当合計2.0625か月

支給日 平成24年6月29日

支給額 104万9164円(=50万8686円×2.0625)

エ 平成24年度年末手当

支給率 期末・勤勉手当合計2.1875か月

支給日 平成24年12月10日

支給額 111万2750円(=50万8686円×2.1875)

オ 平成25年度夏期手当

支給率 期末・勤勉乎当合計2.0625か月

支給日 平成25年6月28日

支給額 104万9164円(=50万8686円×2.0625)

カ 平成25年度年末手当

支給率 期末・勤勉手当合計2.1875か月

支給日 平成25年12月10日

支給額 111万2750円(=50万8686円×2.1875)

(9) 控訴人は、被控訴人に対し、平成23年4月22日、同月分の給与として23万7959円を支払った。(争いのない事実)」

(2)  原判決6頁7行目から8行目にかけて「教職員研究室業務」とあるのを、「教職員研修室業務」と改める。

(3)  原判決8頁13行目末尾の次に、行を改めて、次のとおり付加する。

「 なお、一般論として、配転命令における人選の合理性については、使用者において微に入り細を穿つような主張・立証は、そもそも不要と解される。というのは、もとより使用者には、労働契約上、業務内容や勤務場所を決定する包括的な権限が労働者から委ねられていると解されるのであり、配転命令の業務上の必要性は、『余人をもっては容易に代え難い』といった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは肯定すべきものとされている。すなわち、具体的に誰に対して配転命令を出すかについては、使用者側に相当広い裁量権があると解されているのである。

したがって、使用者が配転命令を出すに当たり、その人選の合理性が厳格に要求されるわけではなく、使用者において、人選の合理性について高度な主張・立証をしなければ、その配転命令が違法となるものではない。

被控訴人は、控訴人が教職員研修室に配属する人員を選択するにあたり、あたかも組合員を狙い撃ちしたかのように主張するが、別段組合員を狙い撃ちにしているのではなく、学内行政に対する貢献度が低い、すなわち、あからさまにいえば比較的暇な教員を選ぶと、結果的に組合員に当たるにすぎない。

そもそも、教職員研修室の室員を選任するのに、特に人格高潔な教員を選任しなければならない理由はない。プロフェッショナルとしての仕事を遂行する能力と人格とは別問題である。控訴人には、被控訴人に様々な問題行動があったればこそ、被控訴人を教職員研修室に配属することが被控訴人の行動に良い影響を与えるのではないかとの目論見もあった。」

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は、被控訴人の請求については、当審において拡張した部分も含めて、理由があるからこれを全部認容すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。当審において新たに取り調べた証拠(証拠<省略>)を付加して検討しても、上記認定判断は何ら左右されない。

(1)  原判決29頁3行目に「申立てたこと」とあるのを、「申し立てたこと」と改める。

(2)  原判決30頁26行目末尾の次に、次のとおり付加する。

「控訴人は、具体的に誰に対して配転命令を出すかについては、使用者側に相当広い裁量権があるとして、別段組合員を狙い撃ちにしているのではなく、学内行政に対する貢献度が低い、すなわち、あからさまにいえば比較的暇な教員を選ぶと、結果的に組合員に当たるにすぎず、控訴人には、被控訴人に様々な問題行動があったればこそ、被控訴人を教職員研修室に配属することが被控訴人の行動に良い影響を与えるのではないかとの目論見もあったなどと主張して上記認定判断を批判するが、様々な問題行動のある人物を教職員に対する研修を実施する立場にある教職員研修室の室員に選任するのはむしろ不合理というべきであって、上記控訴人の目論見をもって業務上の必要性があるといえるものではないから、上記控訴人の主張は採用できない。」

(3)  原判決32頁22行目「命じたが、」の次に、「B教授に命じられた業務内容は、CやE教授が命じられた業務内容とは異なっており、」を付加する。

(4)  原判決34頁1行目冒頭から同頁7行目末尾までを、次のとおり改める。

「 そうすると、平成23年4月分の未払給与28万1727円及び同年5月分の未払給与51万9686円の合計80万1413円並びに上記28万1727円に対する支払日の翌日である同年4月23日から、上記51万9686円に対する同5月24日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は、理由があるから認容すべきものである。」

(5)  原判決34頁11行目末尾の次に、行を改めて、次のとおり付加する。

「 さらに、上記前提事実(8)のとおり、控訴人の給与規定(証拠<省略>)によれば、控訴人は期末勤勉手当として夏期手当及び年末手当を支給しており(10条1項)、これらは、本俸、地域手当、扶養手当、役付手当及び職能手当を基礎とする「期末・勤勉手当基礎給与」により(同条2項)、6月1日及び12月1日に、それぞれ在職する教職員に対して、期末・勤勉手当基礎給与に理事会の定める支給割合等を乗じて算出するもの(同条3項)と定められているところ、被控訴人の期末・勤勉手当基礎給は、50万8686円(=46万1100円(本俸)+5万5332円(地域手当)-7746円(55歳超減額))であり、a大学教員に支給された平成23年度から平成25年度の夏期手当及び年末手当は、控訴人の理事会において上記前提事実(8)のとおりの支給率が決定され、各支給日に支給されているから、被控訴人が控訴人から支払われるべき平成23年度から平成25年度の夏期手当及び年末手当の額は上記前提事実(8)アないしカのとおりであると認めることができる。したがって、被控訴人の平成23年度から平成25年度の夏期手当及び年末手当並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分も、理由があるから認容すべきものである。」

2  よって、これと結論を異にする原判決主文第2項及び第4項を本件附帯控訴に基づき変更し、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 筏津順子 裁判官 榊原信次 裁判官 山本健一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例