大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成26年(ネ)448号 判決 2014年9月25日

控訴人

株式会社Y

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

那須國宏

岩﨑友就

安田昂央

神田輝生

被控訴人

同訴訟代理人弁護士

渥美雅康

外2名

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、控訴人に従業員として雇用されていた被控訴人が、控訴人に対し、控訴人の被控訴人に対する解雇が無効であると主張して、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②解雇された平成24年10月以降の未払賃金及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、上記解雇は無効であると判断して、被控訴人が、控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに、平成24年10月1日から同月15日までの賃金12万9212円及びこれに対する支払期日の翌日である同年11月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに同年11月から本判決確定の日まで毎月末日限り1か月25万8425円の割合による賃金及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で被控訴人の請求を認容し、その余の賃金請求については訴えの利益を欠くことを理由として却下した。

これに対し、控訴人が、原判決の上記認容部分を不服として、控訴を提起した。

2  その余の事案の概要は、以下のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」欄の第2の1及び2記載のとおりであるから、これを引用する。なお、控訴人の当審における主張については、後記「第3当裁判所の判断」において摘示し、これに対する判断を加えることとする。

(1)  原判決3頁8行目末尾の次に、「本件覚書は、控訴人と本件組合との間で交わされたものであるが、その末尾には、被控訴人も、組合員として署名、押印した(証拠<省略>)。」を加える。

(2)  同4頁1行目の「解雇した」を「解雇するとの意思表示をした」に改める。

(3)  同4頁6行目の「毎月15日締め」の次に「当月」を加える。

(4)  同6頁24行目の「よって、本件解雇は有効である。」を「以上のとおり、控訴人の経営状況が逼迫していることや、休職前の勤務態度について被控訴人に反省や改善の意欲が見られないことなどから、控訴人は、被控訴人について、控訴人の就業規則第22条1項12号の「その他前各号に準ずるやむを得ない事情があったとき」に該当するものと判断して、解雇の意思表示をしたものであり、本件解雇は有効である。」に改める。

第3当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人の請求は、原審が認容した限度で理由があり、その余の請求は不適法であると判断する。その理由は、以下のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」欄の第3記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決15頁16行目を除く。)。

1  原判決10頁15行目から16行目にかけての「同月28日から復職可能との診断書」を「うつ状態(適応障害)にて同院で通院加療中だが、現在、症状は改善しており、同月28日より出勤可能と考える、業務上の配慮として、時間外勤務、休日出勤、交替勤務及び出張は当分禁止とすべきと考えるが、復帰2か月経過後より、上記の順で所属長と相談の上、解除可能である、なお、2週間に1回程度の通院を必要とする旨が記載された診断書」に改める。

2  同10頁23行目の「C前社長は、」の次に「本件覚書の存在を知らず、被控訴人の対応次第では被控訴人を解雇することになると考え、事前に解雇通知書(証拠<省略>、以下「本件解雇通知書」という。)を作成して被控訴人との面談に臨み、」を加える。

3  同11頁18行目の「記載されている」の次に「が、被控訴人の勤務態度等に問題がある旨の記載はない」を加える。

4  同12頁8行目の「従来の労働条件通りで」から11行目末尾(「得ない。)。」)までを「被控訴人が就労可能を証する診断書を提出し、その際、控訴人は、従来の労働条件どおりで被控訴人を元の職場(e課)に復職させることを約束しているところ、被控訴人が就労可能を証する診断書を控訴人に提出したにもかかわらず、控訴人は本件解雇をしたのであるから、これは本件覚書に反するものといわざるを得ない。なお、C前社長は、原審の証人尋問において、本件覚書は、被控訴人が真摯に過去の勤務態度等について反省をしている場合に効力を生ずるかのような供述をするが、本件覚書にはそのような限定は付されていないし、C前社長は本件解雇時には本件覚書の存在すら知らず、その作成にも全く関与していなかったものであることに照らすと、そのような限定が付されているということはできない。」に改める。

5  同12頁15行目の「認められるものの、」から20行目末尾までを次のとおり改める。

「認められるが、本件覚書の上記内容によれば、控訴人(a社)において、休職前の被控訴人の勤務態度に問題があったと認識していたとしても、控訴人(a社)は、被控訴人から復職可能の診断書が提出されれば、何ら条件を付さずに、被控訴人の復職を認めたのであるから、休職前の被控訴人の勤務態度が問題であることを理由として被控訴人を解雇することは許されないものというべきである。

控訴人は、被控訴人について、解雇事由について定めた就業規則第22条1項12号の「その他各号に準ずるやむを得ない事情があったとき」に該当すると主張するが、本件解雇通知書に記載された事由は同号に直ちに該当するとは認められない。また、控訴人は、当審において、被控訴人の休職前の勤務態度が、同条2号の「協調性がなく、注意及び指導しても改善の見込みがないとみとめられるとき」、同条4号の「勤務意欲が低く、これに伴い、勤務成績、勤務態度その他の業務能率全般が不良で業務に適さないと認められるとき」及び同条11号の「会社の正社員としての適格性がないと判断されたとき」にも該当する旨主張するが、上記のとおり、被控訴人の休職前の勤務態度が問題であることを理由として被控訴人を解雇することは許されないというべきであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。

さらに、控訴人は、控訴人が小規模な会社であり、その中で、被控訴人が、入社当初から、度重なる注意・指導や配置換えを経ても上司や他の従業員と良好な人間関係を築くことができず、自身の勤務態度について全く反省していないから、控訴人との間の信頼関係は破壊されている旨主張する。しかし、本件覚書によれば、控訴人(a社)は被控訴人に対して復職を約束していたのであるから、被控訴人との間の信頼関係が破壊されていたとは認められない。復職を求めてC前社長と交渉したときの被控訴人の態度についても、これによって控訴人と被控訴人の信頼関係が破壊されたということはできない。したがって、控訴人の上記主張も採用することができない。

したがって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、その権利を濫用したものとして、無効というべきである。」

6  同12頁25行目の「裏付ける客観的な証拠は全くない。」から13頁6行目末尾までを次のとおり改める。

「裏付けるに足りる証拠はない。この点、控訴人が当審で証拠として提出した控訴人の決算報告書(証拠<省略>)によっても、控訴人は資産超過の会社であって、平成23年4月1日から平成24年3月31日までの間の当期純利益は6644万7673円に上り、同年4月1日から平成25年3月31日までの間の当期純利益は5413万1721円に上ることが認められ、危機的な経営状況であるということはできない。

また、被控訴人に対して医師から付された就労の制限は、時間外勤務、休日出勤、交替勤務及び出張を当分禁止すべきというにすぎないし(復職に際し、医師の意見に基づいて、被雇用者にこのような配慮をすることは雇用者の義務である。)、これも復帰2か月経過後より、上記の順で所属長と相談の上、解除可能であるというものであるから、その就労の制限をもって、被控訴人が控訴人を雇用する余裕がないということはできない。

したがって、控訴人の上記主張を採用することはできない。」

7  同13頁13行目の「原告の勤務態度は」から15行目の「とおりである上、」までを「被控訴人の勤務態度が適切でなかったことをもって被控訴人を解雇することができないことは、前記(2)において説示したとおりである上、」に改め、17行目の「さらに、」の次に「本件覚書で控訴人の復職を認めていることからすれば、」を加え、18行目の「蓋然性があることを認めるに足りる証拠もない。」を「蓋然性があるとは認められない。」に改める。

8  同15頁2行目末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。

「 控訴人は、当審において、被控訴人に就労の制限が付されていることや、診断書に「2週間に1回程度の通院を必要とします」と記載されていることなどをもって、未だ客観的にも復職可能な健康状態になっていたとはいえない旨主張する。しかし、控訴人の就業規則(証拠<省略>)の第16条3項には、「休職事由が傷病等による場合は、休職期間満了時までに治癒(休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に回復することをいう。以下同じ。)又は復職後ほどなく治癒することが見込まれると会社が認めた場合に復職させることとする。」と規定されているところ、被控訴人に対する就労の制限が前記認定の程度にとどまり、通院の必要性も2週間に1回程度にとどまることに鑑みると、被控訴人は、休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に回復しており、少なくとも復職後ほどなく治癒することが見込まれていたと認められ、客観的に復職可能な健康状態になっていたというべきであるから、控訴人の前記主張を採用することはできない。」

第4結論

よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林道春 裁判官 森脇淳一 裁判官 下田敦史)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例