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名古屋高等裁判所 平成26年(ネ)498号 判決 2014年12月18日

名古屋市<以下省略>

控訴人兼附帯被控訴人

X(以下「控訴人」という。)

同訴訟代理人弁護士

石川真司

辻顕一朗

森島佳代

東京都中央区<以下省略>

被控訴人兼附帯控訴人

セントレード証券株式会社(以下「被控訴人会社」という。)

同代表者代表取締役

東京都<以下省略>

被控訴人兼附帯控訴人

Y1(以下「被控訴人Y1」という。)

名古屋市<以下省略>

被控訴人

Y2(以下「被控訴人Y2」という。)

上記3名訴訟代理人弁護士

川戸淳一郎

滝田裕

主文

1  控訴人の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,515万3920円及びこれに対する平成23年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  控訴人の被控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

4  被控訴人会社及び被控訴人Y1の附帯控訴をいずれも棄却する。

5  控訴につき,訴訟費用は第1,2審を通じてこれを5分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人らの負担とし,附帯控訴につき,附帯控訴費用は被控訴人会社及び被控訴人Y1の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴関係

(1)  控訴人

ア 原判決を次のとおり変更する。

イ 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して645万4900円及びこれに対する平成23年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

ウ 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

(2)  被控訴人ら

ア 本件控訴を棄却する。

イ 控訴費用は,控訴人の負担とする。

2  附帯控訴関係

(1)  被控訴人会社及び被控訴人Y1

ア 原判決を次のとおり変更する。

イ 控訴人の請求を棄却する。

ウ 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。

(2)  控訴人

ア 本件附帯控訴を棄却する。

イ 附帯控訴費用は,被控訴人会社及び被控訴人Y1の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,控訴人が,被控訴人会社との間で,その従業員である被控訴人Y1と被控訴人Y2から勧誘や説明を受けて,外国為替証拠金取引(いわゆるFX取引。以下「FX取引」といい,控訴人が被控訴人会社との間で行ったFX取引を「本件FX取引」という。)をして,合計585万4900円の損失が生じたところ,被控訴人らの勧誘と取引には不招請勧誘禁止違反,適合性原則違反,説明義務違反,両建て取引勧誘等の違法があると主張し,被控訴人らに対し,不法行為に基づき(被控訴人会社は民法709条又は715条,被控訴人Y1及び被控訴人Y2は民法709条),上記損失相当額の損害賠償金585万4900円及び弁護士費用60万円の合計645万4900円並びにこれに対する不法行為後である平成23年11月24日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決が,控訴人の請求のうち,被控訴人会社及び被控訴人Y1に対し,203万6000円(損失相当額の損害賠償金183万6000円と弁護士費用20万円)及びこれに対する平成23年11月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を認め,被控訴人会社及び被控訴人Y1に対するその余の請求と被控訴人Y2に対する請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴し,被控訴人会社及び被控訴人Y1が附帯控訴した。

なお,控訴人は,当審において,被控訴人らに対する請求を次のとおりとした。

(1)  被控訴人会社に対する請求(いずれも選択的請求)

ア 被控訴人Y1及び被控訴人Y2の個々の不法行為についての使用者責任(民法715条)

イ 被控訴人Y1及び被控訴人Y2の本件FX取引開始前から取引終了時までの一連一体の不法行為についての使用者責任(民法715条)

ウ 組織的不法行為による責任(民法709条)

(2)  被控訴人Y1に対する請求(いずれも選択的請求)

ア 被控訴人Y1の以下の各不法行為責任(民法709条)

(ア) 不招請勧誘行為

(イ) 適合性原則違反(本件FX取引開始時及び取引継続中の適合性原則違反)

(ウ) 新規委託者保護義務違反(本件FX取引継続中の適合性原則違反とほぼ同義)

(エ) 説明義務違反(本件FX取引開始時及び南アフリカランドを含む個々の売買勧誘時)

(オ) 両建て取引の勧誘

(カ) 過当取引

イ 被控訴人Y1の上記アの各不法行為について上司である被控訴人Y2との共同不法行為責任(民法719条)

ウ 被控訴人Y2との本件FX取引開始前から取引終了時までの一連一体の不法行為責任(民法719条)

(3)  被控訴人Y2に対する請求(いずれも選択的請求)

ア 被控訴人Y2の以下の各不法行為責任(民法709条)と,被控訴人Y1の上記(2)アの不法行為に上司として荷担したことによる共同不法行為責任(民法719条)

(ア) 適合性原則違反(本件FX取引継続中の適合性原則違反)

(イ) 新規委託者保護義務違反(本件FX取引継続中の適合性原則違反とほぼ同義)

(ウ) 説明義務違反(個々の売買勧誘時,具体的には平成23年10月31日の豪ドルの途転売りの勧誘,同年11月2日の豪ドルの途転買いの勧誘)

(エ) 両建て取引の勧誘(平成23年11月2日の豪ドルの買い勧誘と同月11日の豪ドルの売り勧誘)

(オ) 過当取引

イ 被控訴人Y1との本件FX取引開始前から取引終了時までの一連一体の不法行為(民法719条)

以下,略語は,特に断りのない限り,原判決の例による。

2  前提事実

次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の「2 前提となる事実(争いがないか,容易に認められる。)」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)

原判決3頁11行目の「損失が発生する。」の次に,行を改めて,次のとおり加える。

「 必要証拠金の額は,取引の額(想定元本)の4%であり,レバレッジの倍率は25倍である。有効証拠金額(預り証拠金に評価(値洗)損益を考慮した実質的な純資産額)が計算時の必要証拠金額の50%を下回ると,その相当額を翌営業日のNYクローズまでに追加預託する必要がある(これを「マージンコール」という。)。追加預託がないと,強制的に決済(ロスカット)され,その結果,損失が発生した場合には,顧客の負担となる。

また,手数料は,1取引(1万通貨)当たり,通常片道1500円であるが,50万通貨単位以上の取引の場合は1000円,100万通貨以上は500円である。」

3  争点及びこれに関する当事者の主張

(1)  次のとおり,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の「3 中心的な争点」,「4 原告の主張」及び「5 被告らの主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(2)  当審における控訴人の主張

ア 被控訴人Y1及び被控訴人Y2による過当取引について

本件は,証拠金取引のようなハイリスクな取引の経験を持たず,そういった取引を行おうとする投資意向などを持ち合わせていなかった控訴人に対して,①平成23年10月17日から同年11月24日までのわずか1か月間余りの間に,約585万円もの損害を与えた事案であって,②実質の取引日27日のうち,13日は何らかの売買勧誘がされ,③その合計回数は,売り買い合計21回にものぼり,④こうした頻回な取引は,すべて被控訴人会社従業員から架電して勧誘したものばかりであったというものであり,違法な過当取引であるといえる。

イ 被控訴人Y2が被控訴人Y1の不法行為に上司として荷担したこと,被控訴人Y1,被控訴人Y2の本件FX取引開始前から取引終了時までの一連一体の不法行為及び組織的不法行為について

(ア) 被控訴人Y2は,名古屋支店営業部部長として,同支店営業部を統括する立場にあった。

そのため,被控訴人Y2は,控訴人の属性を知りうる立場にあり,被控訴人Y1による控訴人の口座開設新設を承認し(乙1の3),その後の本件FX取引についても被控訴人Y1作成の管理者日誌に「上席」として承認印を押し(乙2),平成23年10月28日以前の本件FX取引の内容を十分に認識していた。被控訴人Y2は,被控訴人Y1が控訴人から実質的な一任を取り付け,控訴人の知識,経験,財産,投資意向に適合しない頻繁かつ過大なFX取引の受託を行うことを容認,奨励していた者であり,被控訴人Y1がこのような違法行為に出た後に,手数料稼ぎ等を行う意思を共通にして,その後を担当した。

したがって,被控訴人Y2は,被控訴人Y1の共同不法行為者として本件FX取引開始後からの全損害について不法行為責任を負うものである。

(イ) なお,取引に損失が生じたり,取引内容に疑問が生じ,委託者が担当外務員の対応に不信感を持ったり,あるいは持ちそうになったりした状況で,受託者である業者が担当外務員を上司等に交代させることは商品先物取引被害においてよく見られることである。このようなことは,旧日本商品先物取引協会の受託等業務に関する規則5条1項14号で禁止されていたことであるが,被控訴人Y2も被控訴人Y1も,かつては商品先物業界に身を置き,数社を渡り歩いており,担当外務員を交代させることによって不満をそらせ,委託者に更に入金させる手口が身に付いていた者であって,共同不法行為者として意を通じ,組織的不法行為を行ったものである。

ウ 一体的不法行為による責任について

(ア) 対面取引により商品先物取引が行われる場合,委託者は,この一連の流れの中で,常に外務員の強い影響を受け,連続性・継続性のある取引がその影響下で行われるのが常であり,各段階における外務員の違法行為は相互に密接な関連を有している。したがって,外務員による個別の行為を分断して違法性を検討するのでなく,手数料稼ぎという目的を達するために行われた一連の取引を,一体的な不法行為として評価,判断することが事案の正しい評価につながる。

(イ) 本件は,証拠金取引という点で商品先物取引と類似のリスクをもつFX取引の対面取引型の取引について,被控訴人会社が手数料稼ぎを目的として,同社従業員をして,勧誘段階では仕組みやリスクの十分な説明をせず,とにかく取引を開始させ,取引を開始させるや外務員の主導により頻繁に売買をさせたといった投資取引被害における典型的なケースの一つである。原判決は,こうした一体的な不法行為構成を意識しないまま,各違法要素を分断して個別に判断を加えて,ランドの勧誘についての説明義務違反のみを認めたものであり,投資取引被害の実体を見誤ったものであることは明らかである。

エ 過失相殺について

被控訴人らの過失相殺の主張は,争う。

(3)  当審における被控訴人らの主張

ア 被控訴人Y1及び被控訴人Y2による過当取引について

本件FX取引が過当取引であるとはいえない。

イ 被控訴人Y2が被控訴人Y1の不法行為に上司として荷担したこと,被控訴人Y1,被控訴人Y2の本件FX取引開始前から取引終了時までの一連一体の不法行為及び組織的不法行為について

(ア) 控訴人は,被控訴人Y2は,被控訴人Y1の違法行為を容認,奨励していたと主張するが,控訴人にはFX取引の不適格要素を見いだすことはできないから,控訴人の口座開設について被控訴人Y2が承認したことが違法であるとはいえないし,被控訴人Y1の取引について管理者日誌に確認印を捺印したとしても,被控訴人Y1の行為に共同したことにはならないから,仮に,被控訴人Y1の行為が違法性を帯びるとの前提に立っても,被控訴人Y2を共同不法行為者とすることはできない。

(イ) 控訴人の組織的不法行為の主張について,控訴人が引用する規則は,旧商品取引所法に基づく協会規則であり,FX取引にそのまま引用することは適当ではない。しかも,上記規則5条1項14号は,頻繁に担当登録外務員を交代させることを禁止していたのであって,被控訴人Y1から被控訴人Y2への交代をもって,特定の意図の基に頻繁に担当者を交代させたとすることはできない。

ウ 一体的不法行為による責任について

一体的不法行為構成は,あくまでも取引期間を通じて個々の行為の違法性判断が前提となるものであり,個々の行為と損失(損害)発生との相当因果関係を全体的に考察する点に意味があるのであって,個々の違法行為を分析することを排除するものではない。

また,この一体的不法行為構成は,あくまでも各行為者(従業員)の個別的違法行為と使用者である各行為者(従業員)らの帰属主体(会社等)との民法715条の解釈論理であって,個々の従業員間の責任構成論理でもない。

被控訴人Y2は,平成23年10月28日以降の本件FX取引に関与したものであって,それ以前に本件FX取引に関与していた事情は存在しない。

エ 過失相殺について

控訴人は,証拠金取引であるFX取引の仕組みを理解していたのであり,投資判断ないし投資決定等を行う機会を全く奪われていた訳ではないから,仮に被控訴人Y1に説明義務違反等があるとしても,過失相殺はされるべきである。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,控訴人の請求は,被控訴人らに対し,連帯して,515万3920円及びこれに対する平成23年11月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求には理由がないものと判断する。

その理由は,次の2のとおり原判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

2  原判決の補正

(1)  原判決8頁3行目の「甲2,乙2,7から12まで」を「甲2,4,5,11から14まで,乙1から13まで」に改める。

(2)  原判決8頁9行目の「資産として,」の次に「父から相続した」を加える。

(3)  原判決9頁20行目から10頁5行目までを,次のとおり改める。

「 被控訴人Y1は,控訴人に対し,持参した便箋の4枚に手書きで図示するなどして記入しながら,FX取引について,おおむね次のような説明をした。すなわち,①実際の取引金額よりも少ない証拠金で取引するためにレバレッジ効果があり,ハイリスクハイリターンであること,②レバレッジ効果により,スワップポイントも証拠金額に対して高い利率になること,③証拠金取引であることからマージンコール(追加証拠金の入金)やロスカットルールがあること,④追加証拠金を入金することによって,値上がりするまで長期的に取引を継続することもできるが,一旦決済して更に値下がりしたところで買い直すこともできることを説明し,⑤具体的に,1豪ドル79円で取引をすると仮定して,1万豪ドルを外貨預金した場合には,79万円が必要であるところ,FX取引では,最低100万円からであるが,実際に動かすのはその一部でよく,レバレッジ(4%=25倍)があるため,1万豪ドルの取引をするのに3万1600円でよいこと,さらに,外貨預金の利率は年4.75%であるため1年後の利息は3万7525円であるが,FX取引には1日当たり70円,1年後には2万5550円のスワップポイントが付加されること(甲5の1枚目),1万豪ドルを外貨預金した場合に,1豪ドル82円となると3万円の利益が出るが,1豪ドル76円になると3万円の損失が出ること(甲5の2枚目),他方,3万1600円で1万豪ドルのFX取引をすると,3万1600円の証拠金に対し,1豪ドル82円になると3万円の利益が出て,1豪ドル76円になると3万円の損失が出るが,3万1600円と比較してもプラス1600円であること,10万豪ドルのFX取引をすると,31万6000円の証拠金を要するが,利益,損失ともそれぞれその10倍となり,証拠金が31万6000円で,1豪ドル82円になると,利益30万円に加えて,スワップポイント1日当たり700円,1年25万5000円が得られ,1豪ドル76円になると,損失30万円が出るが,1年持ち続ければ25万5500円のスワップポイントが得られる(差引の損失は4万4500円となる。)こと(甲5の3枚目),100万円を預けて,10万豪ドルの取引をし,1年後の為替レートが1豪ドル75円となったときには元金100万円が40万円マイナスとなるが,FX取引の場合はスワップポイント25万5500円があるので,それを織り込んだ損益になり,手数料(3万円)を差し引いても元金は82万5500円になること,ただし,FX取引の場合には,マージンコールというものがあるため,為替レートが1豪ドル72円と7円変わると,マージンコールが発生し,追加証拠金を入金するのか,取引の全部又は一部を終了させる必要が出てくること(甲5の4枚目)を説明し,控訴人は,これらの便箋(甲5)を受け取った。また,売りスタートといって,値段が下がればプラス,上がればマイナスになる運用方法があること,買いスタートと売りスタートの両方を同時に持つことによって両建てになるところ,メリットは損失が固定されること,デメリットは手数料がかかり,スワップのマイナスが負担になることと説明した。」

(4)  原判決10頁21行目の「記載されている。」の次に「ただし,被控訴人Y1は,便箋等に手で書きながら,FX取引やそのリスク等について説明しており,上記の取引説明書は,控訴人に交付しただけである。」を加える。

(5)  原判決11頁5行目の「12通」の次に,「(同年10月17日付け,同月25日付け,同月26日付け,同月31日付け,同年11月2日付け,同月8日付け,同月9日付け,同月10日付け,同月17日付け,同月18日付け,同月22日付け,同月24日付け)」を加える。

(6)  原判決11頁9行目の「取引終了までに」から10行目の「受け取っている。」までを,「本件FX取引開始後,「残高照合通知書」4通(同年10月20日付け,同月31日付け,同年11月30日付け,同年12月31日付け)を受け取っている。」に改める。

(7)  原判決11頁17行目から12頁1行目までを,次のとおり改める。

「ケ 被控訴人Y1は,同年10月24日,控訴人に電話をし,金価格が上昇しているとして,南アフリカ通貨ランドを買うこと,相場が逆に動いたときのために,逆に15銭動いたら,仕切るか売りの新規を建てるかすることを提案した。

控訴人は,同日午後5時,ランド40取引単位(400万ランド)を成行による買い注文と,9円45銭での逆指値での売り注文をし,同日午後5時,ランド40取引単位が買建て(約定価格9円60銭)され,その後,ランドが急落し,同日午後7時40分,ランド40取引単位が売り建てられ(約定価格9円45銭),いわゆる両建て取引となった(なお,この両建てにより,買建てと売建ての約定価格の差15銭により,60万円の損が確定するとともに,手数料が,買建て,売建てともにランド40取引単位(400万ランド)であるため,それぞれに20万円(100万通貨以上の取引では1取引(1万通貨)当たり片道500円の手数料が必要であるから,400×500円=20万円)必要となった。)。

被控訴人Y1は,同月25日,ランドが値下がりしているため買いポジションを決済することを提案し,控訴人はこれに応じて,同日午後5時25分,前日に取引したランド40取引単位の買いを仕切った(約定価格9円55銭。売買損20万円,手数料20万円)。

翌26日午後7時24分頃,被控訴人Y1は,控訴人に電話をし,豪ドル,ランドが値下がりしているが,豪ドルの方が下がっているため,それぞれの売りを提案し,控訴人は,同月24日に取引をしたランド40取引単位の売りの仕切り(約定価格9円65銭。売買損80万円,手数料20万円),さらに,豪ドル50取引単位の新規売建てをした(この結果,控訴人は,豪ドル50取引単位について売りと買いのいわゆる両建てとなった。)(なお,控訴人は,同月26日の取引担当者は,被控訴人Y2であった旨を陳述書(甲2)に記載し,本人尋問でもその旨供述する(控訴人本人調書34頁)が,証拠(乙2)によると,同日の取引担当者は被控訴人Y1であったと認めるのが相当である。)。」

(8)  原判決12頁3行目から8行目までを,次のとおり改める。

「コ 控訴人は,同年10月28日,被控訴人会社の名古屋支店営業部長である被控訴人Y2から,電話で連絡を受け,証拠金の余裕があったほうがよいのではないかとの説明を受け,被控訴人会社に200万円を送金した(控訴人は,同日の200万円の入金は,被控訴人Y2から,マージンコールが生じたために入金するよう言われたものである旨陳述書(甲2)に記載し,本人尋問でもその旨供述するが(控訴人本人尋問調書33頁以下),控訴人が同日付けの入出金確認書に記載したメモ(甲13の2)にも,被控訴人Y2からマージンコールが生じたと言われた旨の記載はない(200万投資は,300万回すためであり,損300早く取り戻すために,応援処置として200を準備する趣旨の記載がある。)ため,控訴人の上記陳述書の記載及び供述を採用することはできない。)。

サ 被控訴人Y2は,同月31日午後7時15分頃,控訴人に電話をし,為替介入が入って一時値上がりしたが,その後,下がっているから,買いのポジションを決済して豪ドル50取引単位を売ることを勧め,控訴人は,同日午後7時15分,同月17日に取引をしていた豪ドル50取引単位の買いを仕切り(売り),さらに,豪ドル50取引単位の新規売建てをした(いわゆる途転売り。約定価格はいずれも82円)。

シ 被控訴人Y2は,同年11月2日午前9時30分頃,控訴人に電話をし,豪ドルのレート(80円前半まで値下がり)を伝え,1豪ドル81円を超えるようであれば,豪ドル50取引単位の売りの決済と,新規豪ドル100取引単位の買建てを勧め,その注文を受けた。控訴人は,同日午後3時8分,同年10月31日に取引をしていた豪ドル50取引単位の売りを仕切り(約定価格81円03銭),豪ドル50取引単位の新規買建てを2回行った(合計豪ドル100取引単位。うち豪ドル50取引単位の買いはいわゆる途転買い(約定価格81円06銭)となり,残りの豪ドル50取引単位の買い(約定価格81円07銭)は,同月26日に取引をした豪ドル50取引単位の売りと両建てとなった。)。

ス 被控訴人Y2は,同年11月10日午後6時37分頃,控訴人に電話をし,豪ドルのレート(78円前半の動き)を伝え,78円を下回るとマージンコールラインとなる,今は戻しているが,下げたことを考えて,78円40銭で豪ドル50取引単位の売りの逆指値することを勧め,その旨の注文を受けた。なお,当時,豪ドル50取引単位の売りポジション(約定価格78円43銭)と,豪ドル100取引単位の買いポジション(約定価格81円06銭と81円07銭が各50取引単位)を保有している状態であった。そして,翌11日午前0時49分に豪ドル50取引単位の売建てが約定した(約定価格78円35銭)。その結果,買いも売りも,豪ドル100取引単位での両建てとなった。

セ 控訴人は,その後も,被控訴人Y2を担当者として,原判決別紙取引一覧表記載のとおりの取引を継続したが,同年11月24日,被控訴人Y2に対し,取引を全て終了したいと伝え,同日午後7時18分の豪ドル50取引単位の買いを仕切ること(売り取引)によって,本件FX取引を終了させた。控訴人は,被控訴人Y2に対し,損失額が大きすぎる旨の不満を述べた。」

(9)  原判決12頁23行目の「不招請禁止」を「不招請勧誘禁止」に改める。

(10)  原判決13頁8行目から9行目までを,次のとおり改める。

「ア 控訴人は,控訴人がFX取引をすることは適合性の原則に違反する旨主張する。」

(11)  原判決13頁24行目から18頁18行目までを,次のとおり改める。

「 以上によれば,控訴人がFX取引を自己責任で行う適性を欠き,取引市場から排除されるべきであったとはいえず,控訴人の本件FX取引が適合性の原則から著しく逸脱するものであったとは認められない。

これに対し,控訴人は,FX取引の価格変動リスクに鑑みれば,FX取引のリスクを理解することは困難である旨主張する。

しかしながら,FX取引が取引対象の通貨価格の変動によって損益が生じる仕組みであり,一般的にも広く知られている取引であることからすれば,控訴人がそれまで投資信託など比較的元本毀損リスクの小さな取引しか行っていなかった者であることを考慮しても,控訴人の有していた資産からすれば,控訴人がFX取引を自己責任で行う適性を欠き,取引市場から排除されるべきであったということはできず,いわゆる適合性原則違反を認めることはできない。控訴人は,約2000万円の資産について,教育費や生活費に使い道を限定していた旨の供述をするが,全資産や家計の収支の状況を示す確たる資料はないから,同供述を採用することはできないし,家族構成やその状況に照らしても,約2000万円のうちの500万円を余裕資産として運用に充てることは必ずしも不合理とはいえない。追加の200万円についても,同様である。

以上から,控訴人について,適合性原則違反を認めることはできない。

イ 控訴人は,本件FX取引は,新規顧客保護義務及び取引継続中の適合性原則に違反している旨主張する。

控訴人の主張によると,取引継続中の適合性原則違反というのは,いわゆる新規顧客保護義務違反をいうと解されるところ,控訴人は,新規顧客保護義務は,取引上の信義則から,あるいは,FX業者が負う誠実公正義務(金融商品取引法36条1項)から導かれる当然の義務である旨主張し,商品先物取引においては,受託者である金融商品取引業者に対し,取引開始後の一定期間,取引数量を制限する等の配慮をすべきであるとされている。

FX取引も,商品先物取引と同様に,いわゆるハイリスクハイリターン取引であることに加え,証拠(乙1の3,被控訴人Y1調書26頁)によると,控訴人について,口座開設が承認された際,被控訴人会社の内部書類には,特記事項(条件付等)として,「取引限度400万円」との記載があることからすると,本件FX取引においても,被控訴人会社について,信義則上,上記のような新規顧客保護義務を認めることができるものと解されるが,控訴人については,初めてFX取引を開始した後,1か月強の期間,豪ドルの買いが4回,売りが3回の取引を行い,売買損326万5000円,手数料74万円,差引損益として400万5000円の損失,ランドの買いが1回,売りが1回の取引を行い,売買損100万円,手数料80万円,差引損益として180万円の損失(合計580万5000円)を被っている(他にスワップポイントの損が4万9900円ある。)ことは認められるが,取引通貨の変動があれば取引の回数や損失額が大きくなることがある上,控訴人の資産が約2000万円であったことからすると,本件FX取引において,新規顧客保護義務違反があるとまでは認めることはできない(したがって,控訴人が主張する取引継続中の適合性原則違反を認めることもできない。)。

(3) 被控訴人Y1の説明義務違反について

ア 控訴人は,FX取引がハイリスクな取引であるにもかかわらず,被控訴人Y1が控訴人にその旨の説明をせず,スワップポイントの有利性をことさらに強調してFX取引を始めさせたと主張する。

この点について,FX取引は,為替相場により変動するものであり,元本が保証されず,レバレッジにより元本以上の損失を被る可能性がある取引であるのみならず,マージンコールにより追加証拠金等の支払を求められることもあり,ロスカットされることもあるという取引であるため,金融商品取引業者としては,①為替相場により変動するものであり,元本は保証されないし,元本以上の損失を被る可能性があることのみならず,②どのような場合に追加証拠金等の支払を求められ,取引が終了となる可能性があるのか,どのような場合に元本割れが生じるのかなどのリスクについて,為替相場がどれくらい動いたら追加証拠金の支払が求められたり,元本割れが生じたりするのかを具体的に説明することが必要であると解される。

イ これを本件についてみると,被控訴人Y1は,取引開始に当たり,控訴人に対し,FX取引の仕組みやリスクなどの外国為替証拠金取引の概要を記し,元本保証がなく,レバレッジ効果によるリスク等がある旨を記載した取引説明書(甲14)を交付し(ただし,取引説明書に基づいてその内容を説明することはしていない。),4枚の紙(甲5)に書きながら,上記認定事実のような説明をしたことが認められる。

しかしながら,被控訴人Y1の上記の説明は,FX取引のスワップポイントによる有利性を強調し,リスク(マージンコール)に対する説明が不十分で,控訴人に対しリスクについて誤解を生じさせるものである。

すなわち,被控訴人Y1の上記の説明は,甲5の3枚目では,FX取引では,1豪ドルが79円から76円に3円下がっても,31万6000円の証拠金に対し,30万円の損失が出るが,1年持ち続けるとスワップポイント25万5500円が得られる(1年後の純資産は,27万1500円となり,差引4万4500円の損(マイナス約14%)にしかならない。)として,スワップポイントによる有利性を説明している。これに対し,甲5の4枚目では,控訴人が,100万円を証拠金として預け,そのうちの31万6000円のみを利用して10万豪ドルを買い,他の68万4000円はそのまま証拠金として預けておくことを前提としてリスク説明をしていると思われる。なぜなら,元本が31万6000円しかない場合には,4円も下がる前にマージンコールが発生してしまい(例えば,2円下がれば,20万円の評価損が発生するため,有効証拠金は11万6000円(=31万6000円-20万円)となるところ,必要証拠金は,30万8000円(2円下がれば1豪ドル77円。10万豪ドル(770万円)の4%)となり,その50%は15万4000円である。上記の有効証拠金の額は,この額を下回るため,2円下がるまでにマージンコールが発生する。正確には,1円61銭強下回るとマージンコールが発生する。),1豪ドル75円どころか,77円までも,そのままでは持ち続けることができないため,最低取引額100万円を前提として,7円の下落でマージンコールが発生すると説明しているのである(なお,本件の豪ドルの取引では,1豪ドルで最も高いのが平成23年10月31日の売りの約定価格82円であり,最も低いのが同年11月24日の仕切り(売り)の約定価格75円20銭であるから,約1か月の取引期間の間に,6円80銭の幅がある。)。このような説明は,仮にそれ自体が誤った説明ではなかったとしても,初めてFX取引について説明を受ける者にとって,25倍ものレバレッジがある場合のマージンコールの水準を現実よりも幅のあるものと誤解させるもので,レバレッジの大きなリスクを小さいものと思い込ませる危険性があるものである。さらに,被控訴人Y1は,甲5の4枚目に関連して,1年後の為替レートが1豪ドル75円となっていたときでもFX取引の場合にはスワップポイントがあるので,手数料を差し引いても元金は82万5500円であることを説明しているが,1年の取引期間中に為替レートが円高となり,マージンコールが発生すれば,単純に,100万円を投資して残元金が82万5500円になるとはいえない。被控訴人Y1の上記説明は,為替変動によってマージンコールが発生したときの控訴人のリスクについての説明が不十分であるだけでなく,控訴人の損失について,マージンコールが発生したときのリスクを加えたものとなっておらず,リスクについて誤解を与えるものとなっているといわざるを得ない。

現に,控訴人の場合,平成23年11月18日及び同月22日の取引は,被控訴人Y2から,マージンコールが発生したとの連絡を受けてなされたもの(乙9)であり,そのリスクが顕在化して,控訴人の損害が発生している。

なお,被控訴人Y1の取引開始時の7円の下落でマージンコールが発生するとの説明や,被控訴人Y2からの同月18日及び同月22日の取引でマージンコールが発生したとの連絡によれば,マージンコールは,有効証拠金額が必要証拠金額(その50%ではなく必要証拠金額の100%)を下回った場合に発生するとの基準で運用されていた疑いがあるが,そうであれば,なおさら上記で検討した以上にマージンコールが発生しやすくなり(例えば,1豪ドル79円の場合に,316万円の証拠金で100万豪ドルを買建てしたときは,少しでも下がれば,直ちにマージンコールが発生する。),リスクが高くなるから,より誤解を与えないような説明をしなければならない。

そうすると,被控訴人Y1には,本件FX取引開始時の説明義務違反があることは明らかといわなければならない。そして,控訴人が,FX取引について,具体的にどのような状況になれば(為替相場がどのように動いたら),追加証拠金が求められ,ロスカットされてしまうのかなどの本件FX取引のリスク(特に,本件では25倍となるレバレッジリスク)について,誤解を招かないような正確で具体的な説明を受けないままFX取引を開始し,取引を継続していることからすると,その後の個々の取引についても説明義務違反があったと認められ,被控訴人Y1のこれらの説明義務違反と相当因果関係のある損害は,控訴人が被控訴人会社との間で行った本件FX取引による全ての損害であると認めるのが相当である。

ウ また,控訴人は,平成23年10月15日,被控訴人Y1から,主に豪ドルを例示してFX取引について説明を受け,同月17日,豪ドル50取引単位を買ってFX取引を始めたが,それから間もない同月24日,被控訴人Y1から,電話連絡を受け,金価格が上昇していることを根拠に,ランド40取引単位(400万ランド)の買いと,相場が逆に動いたときのために仕切るか売りを新規で建てることを提案され,直ちに,成行での買い注文と9円45銭(注文時のレート9円60銭から15銭下げたもの)での逆指値での売り注文をした結果,その日の午後5時にランド40取引単位が買建てされ,午後7時40分にランド40取引単位が売建てされ,両建てとなった。

しかしながら,被控訴人Y1は,控訴人がFX取引を始めて間もない時期に,資料を提示するなどしてランドの相場変動リスク(カントリーリスク。通貨の変動リスクは各通貨により異なり,一般的には新興国と評されている南アフリカ通貨のランドについては,必ずしも周知性があるとはいえず,かつ,時期によってはその価格変動が大きいことも想定される(甲7から9まで参照)。現に,本件では,平成23年10月24日午後5時に9円60銭(新規買建て)で,その2時間40分後の同日午後7時40分に9円45銭(新規売建て),翌日の同月25日午後5時25分に9円55銭(買いの仕切り),翌日の同月26日午後7時29分に9円65銭(売りの仕切り)となるなど,価格変動が大きかった。)や手数料(150万円強の証拠金による取引(ランド40取引単位(400万ランド))につき,片道20万円の手数料がかかるので,決済時を合わせると40万円の手数料が必要となる。)について詳しく説明をしないで,直ちに買いを決断させたばかりか,15銭下げたところでの売建ても同時に決断させているが,15銭の相場変動の見通し,両建てのリスク(スワップ金利のスプレッドによる逆ざや,反対売買のスプレッドのコストの二重負担,手数料が二重にかかる場合があること),両建てを仕切る場合には両建てではない場合の仕切りに比べてより難しい判断が要求され,利益を得るのが容易ではないことなどについても,詳しく説明をしないで,直ちに両建てとなる売りの逆指値注文を決断させている。被控訴人Y1は,これらの点について十分説明をしないまま,控訴人もこれらのリスクについて理解しないまま取引を決断したと認められるのであり,これらの点について,被控訴人Y1の説明義務違反があると認められる。

(4) 被控訴人Y2の説明義務違反(個々の売買勧誘時,具体的には平成23年10月31日に豪ドルの途転売りの勧誘,同年11月2日の豪ドルの途転買いの勧誘)及び両建て勧誘について

ア 控訴人は,被控訴人Y2による平成23年10月31日の豪ドルの途転売りの勧誘,同年11月2日の豪ドルの途転買いの勧誘及び被控訴人Y1及び被控訴人Y2の両建て勧誘には経済的合理性がなく,違法であると主張する。

イ 上記認定事実によれば,被控訴人Y2は,平成23年10月31日,当時,豪ドル50取引単位が両建てとなっていた(同月17日に買建て(約定価格79円95銭)したものと,同月26日に売建て(約定価格78円43銭)したもの)ところ,同月31日,為替介入が入って一時値上がりしたが,その後下がっているから,買いのポジションを決済して,さらに豪ドル50取引単位を売ることを勧め,控訴人からそのとおりの注文を受け,同日午後7時15分,約定価格82円で,買いを仕切り,新規売建てをした事実が認められる。

これは,途転売りを勧めたものであるが,両建てとなっている取引が,買建てをした際の約定価格よりも高くなっており,それが値下がり傾向にあるとすれば,買いポジションを仕切ることにより利益を確定し,今後の下げを予想して売建てを勧めることは,既に,50取引単位の売り(約定価格78円43銭)のポジションを有していたから,ナンピンとなり,裏目に出た場合のリスクは大きくなるものの,平均単価が上がるから,不合理とはいえず,上記の説明で理解もできると認められるから,説明義務違反は認められない。

ウ また,上記認定事実によれば,被控訴人Y2は,同年11月2日午前9時30分頃,当時,控訴人が豪ドル100取引単位の売りポジションを保有していた(約定価格は,50取引単位が78円43銭,50取引単位が82円)ところ,豪ドルのレート(80円前半まで値下がり)を伝え,1豪ドル81円を超えるようであれば,豪ドル50取引単位の売りの決済と,新規豪ドル100取引単位の買建てを勧め,その注文を受け,同日午後3時8分,売りの仕切り(約定価格82円で売建てしたポジションを仕切ったもので,その約定価格は81円03銭),新規買建て50取引単位(約定価格81円06銭)と同50取引単位(同81円07銭)を行った事実が認められる。

82円の約定価格で売建てしているポジションを保有し,豪ドルのレートが80円前半まで下がっているときに,今後値上がりが予想されるとして,81円を超えるようなら,その売りを決済することは,合理性がある。また,その際,今後の値上がりが予想される場合に,買建てを勧めること(途転買い)自体は,合理性がなくはないが,この新規買建ては,保有していると50取引単位の売りポジション(約定価格78円43銭)との関係で両建てとなる取引である。ところが,被控訴人Y2は,損切りをしたくないとの控訴人の意向があったので,両建てを勧めたと述べるのみ(被控訴人Y2本人調書21頁以下)で,両建てのリスクについては,特段の説明をしたことがうかがえない。そうすると,被控訴人Y1の控訴人に対するランドの両建て取引に対する説明が不十分であって説明義務違反が認められることは,上記のとおりであるから,控訴人は,両建てのリスクについて十分な説明を受けることなく,同日の豪ドルの両建ての取引をしたといわざるを得ない。被控訴人Y2には,両建て取引についての説明義務違反が認められる。

エ さらに,上記認定事実によれば,控訴人は,被控訴人Y2の勧めにより,同月10日,豪ドル50取引単位について売建てを注文し(78円40銭の逆指値),同月11日,約定(約定価格78円35銭)している事実が認められるところ,この取引も両建てであり,両建てのリスクについて特段の説明をしたことがうかがえないから,同月2日の取引と同様,被控訴人Y2に説明義務違反があると認められる。

(5) 過当取引について

控訴人は,被控訴人Y1及び被控訴人Y2が控訴人に勧誘した取引の回数及び金額からして,本件FX取引が過当取引として違法である旨主張するが,原判決別紙取引一覧表からうかがわれる豪ドルやランドの為替相場の動きや本件FX取引の内容からすると,被控訴人Y1及び被控訴人Y2は,為替相場の動きに対応して控訴人に各取引の勧誘をしていたと認めることができるのであり,控訴人の取引の回数や金額を考慮しても,これを違法な過当取引であるとまでは評価することができない。

(6) 被控訴人らに対する責任原因について

ア 被控訴人Y1について

被控訴人Y1には,控訴人に対し取引開始に当たっての説明義務違反及び両建て取引についての説明義務違反が認められる。取引開始に当たっての説明義務違反がなければ,控訴人は本件FX取引を開始しなかったし,両建て取引についての説明義務違反がなければ,控訴人は両建て取引をしなかったといえるから,これらの説明義務違反について不法行為が成立する。

イ 被控訴人Y2について

被控訴人Y2は,本件FX取引開始後,平成23年10月28日以降,被控訴人Y1から引き継いで,控訴人に対し,継続して勧誘して取引を拡大させたものであるところ,そのうち,同年11月2日,同月11日の両建て取引についての説明義務違反が認められる。これらの両建て取引についての説明義務違反がなければ,控訴人は両建て取引をしなかったといえるから,この説明義務違反について不法行為が成立する。

ウ 被控訴人Y1と被控訴人Y2との共同不法行為責任及び一連一体の不法行為責任並びに被控訴人らの組織的不法行為について

(ア) 控訴人は,被控訴人Y2については,被控訴人Y1の不法行為に上司として荷担した共同不法行為責任が認められるし,被控訴人Y2と被控訴人Y1との間には,一連一体の不法行為が成立する旨主張する。

被控訴人Y1の控訴人に対するFX取引の説明は,FX取引の特徴とされるハイリスクハイリターンについて,一応の説明はしているものの,そのリスクの説明は顧客に誤解を与えるものとなっていること,FX取引のリスクとされるマージンコールの発生についても一応の説明をしているものの,具体的にどのような場合にどの程度の追加証拠金を求められるのか,その際の顧客の損益の全体についての説明が不十分なものであることが認められるところ,被控訴人Y1が,控訴人に説明した当時,被控訴人会社の名古屋支店営業部次長の地位にあった者であるだけでなく,平成25年11月19日の原審本人尋問時(その当時は,被控訴人会社東京本社営業部長)においても,自らの説明がFX取引の説明として十分なものであると認識しているとうかがわれることに鑑みれば,被控訴人Y1の上記説明は,少なくとも,被控訴人会社名古屋支店営業部において,FX取引のリスクの説明として十分なものであると是認されていたことが推認される。

そして,被控訴人Y2が本件FX取引当時,被控訴人会社名古屋支店営業部長であり,その当時,同営業部が被控訴人Y1の上記説明をFX取引のリスクの説明として十分なものであると是認していたと推認されるところ,被控訴人Y2が被控訴人Y1の上司として,被控訴人Y1による控訴人との本件FX取引を承認し(乙1の3),被控訴人Y1を担当者とする控訴人との取引を上席として承認していた(乙2)上で,平成23年10月28日から,FX取引のリスクの説明として不十分な説明しか行っていない被控訴人Y1を引き継いで控訴人の担当者となったこと,被控訴人Y1及び被控訴人Y2の両名に両建て取引の際の説明義務違反も認められることからすると,被控訴人Y1と被控訴人Y2の行為について,取引開始から終了までの一連一体の不法行為及び共同不法行為を認めるのが相当である。

(イ) 控訴人は,被控訴人らが意を通じて組織的不法行為を行ったものであると主張するが,被控訴人らが,手数料を荒稼ぎするために,意を通じ,組織的に不法行為を行っていたとまで認めることはできない。

エ 被控訴人会社について

被控訴人会社は,その従業員である被控訴人Y1及び被控訴人Y2が本件FX取引に関し,一連一体の不法行為及び共同不法行為により控訴人に加えた損害について使用者責任(民法715条)を負う。

(7) 損害及び過失相殺について

ア 以上によると,本件FX取引により控訴人に生じた損害(売買差損金426万5000円,手数料154万円,スワップポイントの損失4万9900円の合計585万4900円)は,被控訴人Y1及び被控訴人Y2の一連一体の不法行為及び共同不法行為によって生じたものであるといえるから,控訴人の上記損害が上記被控訴人らの不法行為と相当因果関係にある損害と認める。

イ もっとも,控訴人は,為替相場により変動し,元本保証がないことなどFX取引のリスクについて一応の説明を受けた上でFX取引を開始しているのであり,本件FX取引中にも売買報告書や残高照合通知書の交付を受け,自己の取引内容(いくらの損が出ているのか)を認識しうる状態にあったこと,投資に対する控訴人の積極的な姿勢(本件FX取引開始時に,外国為替取引に関する確認書兼口座開設申込書兼約諾書の「ご投資の目的」の欄の「スワップ等定期的収入も重視するが,併せて投資資産の価値の増大も追究」の欄にチェックマークを付けていたこと(乙1の1),取引開始に当たって200万円の預託を勧められたのに対し,500万円を送金していること,平成23年10月28日にも,取引に余裕をもたせるために更に200万円を送金していること)など,本件に顕れる一切の事情を考慮すると,控訴人については,全体の損害額に対し2割の過失相殺を認めるのが相当である。

そうすると,上記損害から2割を過失相殺した後の損害額は,468万3920円となる。

ウ 本件事案の内容,その他本件に顕れた全事情に照らせば,本件の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,47万円と認めるのが相当である。

エ よって,被控訴人らが控訴人に対し賠償すべき損害額は,515万3920円となる。

2  まとめ

以上によれば,被控訴人らは,控訴人に対して,連帯して,515万3920円及びこれに対する平成23年11月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うことになり,控訴人の請求は,上記限度で理由があり,その余の請求には理由がない。」

第4結論

以上のとおりであるから,控訴人の控訴に基づき,原判決を上記第3の1の趣旨に変更し,被控訴人会社及び被控訴人Y1の附帯控訴には理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 揖斐潔 裁判官 池田信彦 裁判官 眞鍋美穂子)

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