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名古屋高等裁判所 平成26年(行コ)22号 判決 2014年7月30日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,A株式会社に対し,同社との間で締結した蒲郡競走場に係る都市ガス供給契約に基づく一切の公金支出,債務その他の義務の負担をしてはならない。

第2事案の概要

1  本件は,蒲郡市が蒲郡競走場の施設改修に当たり,空調熱源とする都市ガスの供給契約を随意契約の方法によりA株式会社(以下「A」という。)との間で締結したことについて,蒲郡市の住民である控訴人らが,上記契約は随意契約の制限を定めた地方自治法234条に反して違法であると主張し,蒲郡市の執行機関である被控訴人に対し,同法242条の2第1項1号に基づき,上記契約に基づく一切の公金支出,債務その他の義務の負担の差止めを求めた住民訴訟である。

控訴人らは,上記の都市ガス供給契約は,競争入札に適しないものではないから,随意契約の方法により締結したことが違法である旨,また,Aを契約締結の相手方に選定した判断は,裁量権の逸脱又は濫用があって違法である旨主張した。被控訴人は,本案前の抗弁として,本件の訴えのうち控訴人Bの訴えは,出訴期間経過後に提起されたもので不適法である旨主張し,本案について控訴人らによる上記違法の主張を争った。

原審は,被控訴人による本案前の抗弁を排斥した上で,蒲郡市が本件の都市ガス供給契約を随意契約の方法により締結したことは適法であり,Aを契約の相手方に選択したことについて,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものではない旨判断して,控訴人らの本訴請求をいずれも棄却した。そこで,控訴人らが控訴を提起した。なお,被控訴人が控訴しないので,控訴人Bに係る本案前の争点については当審での審理の対象にはならない。

2  本件に関係する法令の定めは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2(原判決別紙「関係法令の定め」)に記載するとおりであり,前提事実は,同3に記載するとおりであるから,これを引用する。

争点及び当事者の主張は,3のとおり控訴人らの当審における補充主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点及び当事者の主張」の2に記載するとおりであるから,これを引用する。

3  控訴人らの当審における補充主張

(1)  本件ガス供給契約を随意契約により締結したことの違法について

地方自治法234条2項,同法施行令167条の2第1項各号の趣旨からすると,契約を締結し得る業者が複数いる場合,特に本件では,C,Aの双方が相応の資力,信用,技術,経験等を有しているから,特段の事情がない限り一般競争入札を実施すべきである。本件ガス供給契約を締結するに際しては,価格の有利性だけでなく,ガス供給方法の安全性,被害予防,安全対策,災害時の際の適切かつ迅速な対応等についても競争原理を働かせるべきである。

(2)  本件ガス供給契約をAと締結した違法について

ア 蒲郡市が蒲郡競走場の空調熱源として都市ガスを導入するに至ったのは,電気より経済面及び設備面で有利性が見込めたためであるから,ガス供給業者を選定するに当たっては,提示されるガス料金が優先的に考慮すべき事項といえる。しかるに,控訴人Bの住民監査請求に対する蒲郡市の監査委員が監査した結果を通知した書面(甲5。以下「本件監査結果通知」という。)には,ガス料金の経済性を考慮してAをガス供給契約の相手方として選択してはいない旨記載されている。したがって,蒲郡市は,ガス料金の経済性を考慮しないで,Aの提示した価格が安価であるとして同社を契約の相手方として選択したもので違法である。

イ 蒲郡市の照会に対しAが回答したガス料金は,導入準備中の空調向け価格であって,平成23年3月当時の価格ではない。蒲郡市が,Aに対して,現在の価格ではなく将来の価格をも提示するように申し向けたのであれば,Cに対しても,同様に将来の価格を含めた回答をするように申し向けるべきであった。しかるに,蒲郡市は,Cに対しては,将来の価格を含めた回答をすることができないような回答期限が差し迫った時期に価格の提示を求め,将来の価格を提示するよう求めないまま,Aの提示した価格が安価であるとして同社を本件ガス供給契約の相手方として選択したのである。したがって,手続的な適正に反して事実に齟齬があるままで料金を比較考量した結果に基づいてAを選択した被控訴人の判断には,裁量権の範囲からの逸脱又は濫用があるといわざるを得ない。

ウ 豊橋市のAの本社所在地付近は,液状化や津波の危険性が極めて高い地域であるが,名古屋市に本社を置くCはその危険性は極めて低く,しかも,隣接市町村のうち額田郡α町,岡崎市及び豊川市を供給エリアとして全てのエリアを自営多重無線ネットワークを結んでおり,Aと異なり安全防災対策について盤石な基礎を持っている。しかるに,蒲郡市は,Aとの地域的なつながりを偏重し,ガス供給の安全性や災害発生時の迅速対応の可否,復旧対応力などについて何ら調査せず,考慮しないでAをガス供給契約の相手方として選択したのであり,違法である。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も原判決と同様に,控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,2のとおり控訴人らの当審における補充主張に対する判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の2及び3に記載するとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決の15頁20行目の「乙10ないし12」を「乙12」に改める。)。

2  控訴人らの当審における補充主張に対する判断

(1)  本件ガス供給契約を随意契約により締結したことの違法について

控訴人らは,本件ガス供給契約を締結するに際しては,価格以外に,ガス供給方法の安全性,被害予防,安全対策,災害対応等についても競争原理を働かせるべきである旨主張する。

しかし,ガス事業法では種々の規制があり,本件ガス供給契約の締結に当たっては,蒲郡市において契約の相手方や料金その他の契約条件を自由には決められないという都市ガス供給契約の性質上,本来的に競争入札によることが適当ではないことは,原判決が第4の2(2)で説示するとおりである。C,Aの双方が相応の資力,信用,技術,経験等を有しているからといって一般競争入札を実施するのが相当だということにはならない。控訴人らが主張するように,単純に価格のみを比較するのではなく控訴人ら主張の諸事情についても競争原理を働かせて契約の相手方を決めるというのであれば,それは,価格を含む諸条件を比較検討して本件ガス供給契約の相手方として適切な者を選択するということである。そうであれば,「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するのであり,随意契約の方法により本件ガス供給契約を締結するのが相当で適法ということになる。そして,蒲郡市が,導管敷設工事に伴う負担金の有無を含めてAとCに対して照会し,その回答を踏まえて,東三河地域の地域的な結びつきや産業振興等を考慮して,特定の相手方を選定してその者との間で契約を締結するのが妥当であると考えたことには十分な理由があり,契約の相手方として東三河地区に活動拠点を置いて都市ガスを供給してきた実績を有するAを選定したことが合理性を欠くとはいえないことは,原判決が第4の2(2)で説示するとおりである。

(2)  本件ガス供給契約をAと締結した違法について

ア 控訴人らは,蒲郡市が,本件ガス供給契約の相手方を検討する過程でガス料金の経済性を考慮していないのに,Aの提示した価格が安価であるとして同社を契約の相手方として選択したのは違法である旨主張する。

しかし,蒲郡市は,Dを介して行った照会の結果を踏まえ,ガス料金の経済性も考慮してAを選択したとみられることは,原判決が第4の2(2)で説示するとおりである。本件監査結果通知(甲5)における控訴人らの指摘する「ガス料金の経済性を考慮してAを選択したわけではない」との関係者の説明については,それに連なる前の説明内容からみて,蒲郡市がガス料金の経済性を唯一又は重要な理由としてAを選択したものではないという趣旨に読みとれるのであって,蒲郡市がガス料金を全く考慮しないでAを選択したことを裏付けるものではない。

イ 控訴人らは,DがAとCに対して価格の提示を求めた過程に問題があるから,蒲郡市がAの回答した導入準備中の空調向け価格を前提に判断したのが不当である旨主張する。

しかし,Dが価格の提示を求めた中で,控訴人らが主張するようにAに対して将来の価格をも提示するように申し向けたことは何らうかがわれない。また,証拠(乙7の1ないし4,乙22の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,Dは,平成23年3月17日,CとAに電話して,通知書(乙7の1,2)の照会事項を伝えたところ,Aからは当初の期限の同月25日に回答(乙7の3)があったが,Cからは,同月24日,回答期限を同月29日にしてもらいたい旨の要請があったことから,回答期限を同日とする通知書(乙7の2)をメールでCに送付したことが認められる。したがって,DがCに対しあえて回答期限の差し迫った時期に照会の通知をしたとは認められず,いずれにしてもDが価格の提示を求めた過程に問題があったと認めることはできない。供給開始予定時期(平成25年11月)の2年以上前に行われたガス料金の単価の照会は,その後の価格変動を念頭に置いて参考となる資料を収集したものにすぎないことは,原判決が第4の2(4)で説示するとおりであり,蒲郡市が価格及びそれ以外の要素をも考慮してAを選択したことは,アで説示したとおりである。そうすると,手続的な適正にも何ら反しておらず,蒲郡市は,価格以外の要素をも考慮して本件ガス供給契約の相手方としてAを選択しているのであるから,その判断について,裁量権の範囲から逸脱し又はこれを濫用したということにはならない。

ウ 控訴人らは,ガス供給の安全性や災害対応の迅速性においてCがAより優位にあるのに,これらについて何ら調査せず,考慮しないでAを本件ガス供給契約の相手方として選択した旨主張する。しかし,Aの本店所在地付近が液状化や津波の危険性が極めて高い地域とは認められないし(甲22),Aにおいても地震・防災対策として相応の予防対策,緊急対策及び復旧対策を取っており(乙17,18),ガス供給の安全性や災害対応の迅速性においてCがAよりも明らかに優位にあるとまでは認め難いものである。そして,蒲郡市において,地理的条件からみた天災発生時の復旧対応の難易度等も踏まえて,地元等とのつながりが深いAとの間で本件ガス供給契約を締結したとみられるのであり(原判決の第4の2(2)),ガス供給の安全性や災害発生時の迅速対応の可否,復旧力などについて何らの調査もせず,考慮もしなかったとは認め難いものである。

(3)  以上により,控訴人らの主張は,いずれも採用することができず,蒲郡市が随意契約の方法によりAとの間で本件ガス供給契約を締結したことは適法と認められる。控訴人らは,その他縷々主張するが,いずれも上記判断を左右するものではない。

第4結論

よって,本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木下秀樹 裁判官 前澤功 裁判官 舟橋伸行)

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