名古屋高等裁判所 平成26年(行コ)4号 判決 2014年5月22日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2)ア 三重県収用委員会が原判決別紙1ないし3の各物件目録記載の土地について平成24年5月28日にした裁決(平成24年第1号)中,控訴人に対する損失補償金が2173万1132円とあるのを8252万3286円と変更する。
イ 被控訴人は,控訴人に対し,6079万2154円及びこれに対する平成24年12月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
1 本件は,被控訴人(国土交通大臣)を起業者とする高速自動車国道近畿自動車道尾鷲多気線の新設工事及びこれに伴う附帯工事に関して,三重県収用委員会が,控訴人所有地について土地収用法48条に基づく権利取得裁決及び同法49条に基づく明渡裁決(以下,上記の権利取得裁決と明渡裁決とを併せて「本件裁決」という。)をしたところ,控訴人が,本件裁決が定めた控訴人所有地に対する補償金の額は不当に低額であると主張して,被控訴人に対し,①本件裁決における控訴人所有地に対する補償金の額を控訴人が主張する正当な補償金の額8252万3286円に変更するよう求めるとともに,②本件裁決が定めた補償金の額2173万1132円と上記金額との差額である6079万2154円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成24年12月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決が,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴した。
以下,略語は,特に断りのない限り,原判決の例による。
2 前提事実及び法令等の定め
原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 法令等の定め」及び「3 前提事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
次のとおり当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「4 争点及び当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(当審における控訴人の主張)
(1) 本件各土地は宅地として評価されるべきであること
ア 本件各土地の北側には住宅地があり,本件各土地周辺には,Aα支店,Bβ店,C,D等があり,Aα支店の南側隣地にはE銀行γ支店新築工事が行われていることからすると,本件近隣地域について,自然的要因,社会的要因,経済的要因及び行政的要因の検討を踏まえ,その種別を「農地地域」とすることは相当でない。
イ 本件各土地やその近傍土地は荒れ地であり,登記簿上の地目は「田」となっているが,農地として利用されないままの状態であったこと,平成24年度の固定資産税評価証明書では,本件各土地は「農地」でなく現況地目「雑種地」とされていることからも,本件各土地の種別を「農地」とすることも相当でない。
(2) 本件各土地の評価は1㎡当たり3万円が相当であること
本件各土地について,宅地として利用する計画のもとに既に盛土がなされており,上記(1)アのとおり,近隣にもAα支店,Bβ店,C,D等があり,Aα支店の南側隣地にはE銀行γ支店新築工事が行われていることなどからすると,本件各土地の相当な価格,すなわち被収用地の客観的価格は,本件裁決が評価するような1㎡当たり7900円,公衆用道路1㎡当たり500円という極めて低廉な価格を算定価格とすべきでない。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求にはいずれも理由がないものと判断する。
その理由は,次の2のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における控訴人の主張に対する判断
(1) 本件各土地は宅地として評価されるべきであること
控訴人は,本件各土地周辺の状況から,本件近隣地域を「農地地域」とすることは相当でなく,本件各土地の種目も「農地」とするのは相当でない旨主張する。
しかし,原判決が認定するとおり(原判決8頁(1)ア),本件各土地の周辺には,建物や構造物等は建築されておらず,耕作されることも,樹木や竹等の生育の用に供されることもなく,有効利用されないままの状態の土地が広がっており,そのほとんどの登記簿上の地目は,本件各土地と同様,「田」であること,本件近隣地域は,紀北町からは農業振興地域の整備に関する法律8条2項1号所定の農用地等として利用すべき土地の区域には指定されていないものの,三重県知事により,同法6条所定の農業振興地域として指定されており,都市計画区域の指定を受けていないことが認められるから,本件近隣地域は農地地域と認めるのが相当である。
また,本件各土地は,不動産登記簿上の地目が「田」であり,当審における控訴人の主張によると,農地としてポンプ設置工事が行われているため,農地以外の土地とすることができず,農地転用許可が受けられないというのであるから,仮に,控訴人が本件各土地を宅地として利用しようと考えていたとしても,当該土地の物理的状況や利用規制の状況等といった現況により評価される本件各土地の客観的かつ正常な価格(土地収用法71条にいう「相当な価格」)を算定するに当たり,本件各土地を「宅地」として評価することはできない。
したがって,控訴人の主張は採用できない。
(2) 本件各土地の評価は1㎡当たり3万円が相当であること
本件裁決が,本件各土地のうち現況雑種地の評価を1㎡当たり7900円,現況公衆用道路の評価を1㎡当たり500円として補償額を合計2173万9826円としたことが相当であることは,原判決(15頁20行目から16頁2行目まで)が適切に説示するとおりであり,控訴人の主張は採用できない。
第4結論
以上によれば,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長門栄吉 裁判官 眞鍋美穂子 裁判官 片山博仁)