名古屋高等裁判所 平成3年(行コ)9号 判決 1992年4月30日
名古屋市北区東大曽根町上一丁目八三七番地
控訴人
丹羽章夫
右同所
控訴人
丹羽あき子
右両名訴訟代理人弁護士
青木栄一
同
成瀬伸子
名古屋市北区清水五丁目六番一六号
被控訴人
名古屋北税務署長 本保登
右指定代理人
大圖玲子
同
山下純
同
金川裕充
同
間瀬暢宏
主文
控訴人らの当審における新請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とする。
事実
第一控訴人らの請求の趣旨(当審における訴の交換的変更に基づく新請求)
1 被控訴人が、亡丹羽久章の死亡(その死亡日昭和六〇年八月二三日)に起因する相続税について、控訴人丹羽章夫に対して平成四年一月二四日付で、控訴人丹羽あき子に対して同月三〇日付でそれぞれなした更正処分のうちそれぞれ課税価格一億五三二五万九〇〇〇円を超える部分及び同各日付の各過少申告加算税賦課決定処分のうち右部分に対応する部分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決の事実欄第二に記載されているとおりであるから、これをここに引用する。
(1) 原判決二枚目表一〇行目から同枚数裏一〇行目までを次のとおりに改める。
「1 亡丹羽久章(以下「久章」という。)は昭和六〇年八月二三日に死亡したが、その相続人は、嫡出子である控訴人両名及び非嫡出子である藤原久代(平成三年四月一八日認知の裁判確定)の三名である
(以下「本件相続」という。)。
2 本件相続に係る相続税について、控訴人らがした当初各申告及び各修正申告、さらには、右藤原久代の認知の裁判が確定した後になされた各更正の請求及びこれらに対して被控訴人がした各再更正処分(以下「本件再更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定の変更処分(以下合わせて「本件処分」という。)の経緯は、別表一(本件課税処分等の経緯)に記載されているとおりである。」
(2) 同二枚目裏末行及び同三枚目表四行目の各「本件更正」をいずれも「本件再更正」と改める。
(3) 同三枚目表六行目から八行目までを次のとおり改める。
「4 よって、控訴人らは、請求の趣旨1記載(前示第一の1)のとおりの裁判を求める。」
(4) 同四枚目表九行目の「各人二分の一」を「控訴人ら各五分の二、藤原久代五分の一」と改め、同枚目表末行の「速算表により、」の後に「控訴人らについては」を、同枚目裏一行目の「控除したもの」の後に「、藤原久代については六〇パーセントを乗じて二二五万円を控除したもの」をそれぞれ加え、同枚目裏三行目の「四億一五五八万八六〇〇円」を「三億七六二四万四〇〇〇円」と、同枚目裏七行目から八行目にかけての「二億〇七七九万四三〇〇円」を「一億八八一二万二〇〇〇円」とそれぞれ改める。
(5) 同五枚目表三行目の「本件更正」を「本件再更正」と、同枚目表九行目の「一二〇七万六五〇〇円」を「一〇一〇万九〇〇〇円」とそれぞれ改める。
(6) 控訴人らの主張
(一) 乙土地の仲介手数料一五〇〇万円の支払債務が相続税法一四条一項所定の相続債務であることについて
停止条件の成就が未確定である債務であっても、相続税の申告時に条件成就が確実である場合においては、なお、これは相続債務とされるべきである。久章が昭和六〇年七月二〇日にした覚書(甲一)による合意について、もしも相続人である控訴人らにおいて右合意に基づく債務の履行としての売買契約を成立させなかったとすれば、控訴人らは、右合意に関して債務不履行の責任を負わなければならないことになるから、右仲介手数料債務の発生についてその停止条件に該当する売買契約を控訴人らが成立させるであろうことは、すでに本件相続開始当時確実であったというべきである。
したがって、右事情からして、右仲介手数料債務はその発生が確実なものであるから、相続債務に当たるというべきである。
(二) 過少申告加算税の賦課決定が不当であることについて
甲、乙土地は、従前いずれも名鉄不動産の所有に属していたものであるところ、ナカイが中間買主として介在したために、甲、乙土地について、久章はナカイとの間で、またナカイは名鉄不動産との間でそれぞれ売買契約を締結していた。そして、右各売買契約の内容に関連し、久章の死亡による相続開始時において、同人が甲、乙土地に対していかなる権利を取得していたかについては、人により法的評価が異なり得るのであり、その評価いかんにより税負担に多大な差異が生ずるのである。そこで、控訴人らは、久章がすでにその生前において、右各売買契約により甲、乙土地の所有権を取得していたものと自己に有利に判断し、その判断に基づき本件相続税の申告をしたのである。
したがって、右に述べた事情は国税通則法六五条四項所定の「正当な理由があると認められる」場合に該当するから、本件に関して、控訴人らに対して過少申告加算税を課すことは違法・不当である。
(7) 被控訴人の控訴人らの右(6)の主張に対する認否
控訴人らの主張(一)(二)はいずれも争う。
第三証拠
証拠関係は、原審及び当審の訴訟記録中の証拠目録欄に記載されているとおりであるから、これらをここに引用する。
理由
一 当裁判所は、控訴人らが当審において交換的に変更した請求はいずれも理由がないものと判断する。そして、その理由は、次に賦課するほかは原判決の「理由」欄に説示されているとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、本判決事実欄第二の(1)ないし(5)において、原判決の記載が訂正されている部分については、その訂正のとおり読み替えるものとする。)。
1 控訴人らの主張(一)すなわち、本判決の事実欄第二の(6)の(一)の主張について
相続税法一四条一項所定の「控除すべき債務が確実と認められる」か否かは、相続開始時を基準として判断されるべきものと解されるところ、控訴人ら主張の覚書による合意は、単に将来締結される売買契約の条件の要旨を約したものにすぎないことはすでに説示したとおりであり(原判決一一枚目裏、一七枚目裏)。そして、控訴人ら主張のその余の点は相続開始後における一般論を述べるにすぎず、本件において控訴人らの主張する仲介手数料債務の発生がすでにその相続開始時において確実であると認められる特段の事情ということはできないから、控訴人らの右主張は理由がない。
2 同主張(二)すなわち、本判決の事実欄第二の(6)の(二)の主張について
国税通則法六五条四項所定の「正当な理由がある場合」とは、例えば、税法の解釈に関して申告時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い、修正申告をし、又は更正を受けるに至った場合とか、災害又は盗難等に関し、申告時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け、又は盗難品の返還を受ける等のため修正申告をし、又は更正を受けるに至った場合等のように、申告時においてはその当時の諸状況に徴して適法と認められるべきであった申告が、その後の事情の変更等により、納税者の故意過失に基づかないで当該申告が過少となった場合のように、当該申告が真にやむをえない理由によると認められる場合をいうものと解される。
ところで、控訴人らは、相続した権利の性質について法的評価が異なり得る場合には、相続人はその判断により自己に有利な権利関係を選択して相続の申告をすることが許されると主張する。しかしながら、相続人にこのような恣意的な選択が許されるべき根拠はなく、本来その有する権利の性質に基づいて相続の申告がなされるべきことは当然のことであるばかりでなく、本件において、控訴人ら指摘に係る甲、乙土地の売買契約関係の性質は、相続開始の時点においてすでに明確であって、これに対する控訴人らの主張がとうてい採用できないことは前記説示(原判決の理由二)のとおりであるから、控訴人ら主張の理由をもって、国税通則法六五条四項所定の正当な理由ということはできない。
したがって、控訴人らの右主張(二)もまた採用できない。
二 よって、控訴人らが当審において交換的に変更した本件各請求は、いずれも理由がないから棄却することとし(なお、右変更前の請求を棄却した原判決は右請求が交換的に変更されたことにより失効した。)、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 服部正明 裁判官 林輝 裁判官 鈴木敏之)
別表一
本件課税処分等の経緯
<省略>
別表二
相続財産等の種類別価額表
<省略>
別表三
相続税額の計算明細表
<省略>
付表
相続税の総額の計算
<省略>
<省略>
別表四
過少申告加算税の税額計算書
<省略>