名古屋高等裁判所 平成4年(ネ)867号 判決 1994年2月24日
名古屋市中村区名駅南四丁目一〇番一八号
松興ビル
控訴人
株式会社総合駐車場 コンサルタント
右代表者代表取締役
堀田正俊
右訴訟代理人弁護士
大場正成
同
鈴木
右輔佐人弁理士
足立勉
名古屋市中区栄一丁目三一番四一号
被控訴人
大井建興株式会社
右代表者代表取締役
大井友次
右訴訟代理人弁護士
富岡健一
同
瀬古賢二
同
四橋善美
同
高澤新七
右訴訟復代理人弁護士
舟橋直昭
右輔佐人弁理士
石田喜樹
主文
原判決を取り消す。
本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。
事実
第一 当事者の申立て
一 控訴人
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
第二 当事者の主張
本件は、控訴人が有している特許権について、被控訴人が特許法三五条一項(いわゆる職務発明)に基づく通常実施権を有するとして、控訴人に対し、その確認を求めるものであり、被控訴人の請求原因、控訴人の請求原因に対する認否、同抗弁及び被控訴人の抗弁に対する認否は、原判決四頁初行から一四頁八行目までの記載と同一であるから、これを引用する。
第三 証拠関係
本件記録中の原審及び当審における書証目録並びに原審における証人等目録の記載と同一であるから、これを引用する。
理由
一 本件記録によれば、原審における訴訟の経過は次のとおりであったことが認められる。
1 被控訴人は、昭和五七年五月一一日、控訴人及び堀田正俊(以下「堀田」という。)を共同被告とする名古屋地方裁判所昭和五七年(ワ)第一四七四号職務発明の通常実施権者たりうべき地位確認等請求訴訟(以下「本訴」という。)を提起した。
被控訴人の控訴人及び堀田に対する本訴の請求の趣旨第一項は、「被告等は、被告会社(控訴人・以下同じ。)の特許出願(特願昭五二-八八〇七八、発明の名称「傾床型自走式立体駐車場におけるフロア構造」)について特許権設定登録がなされたときは、原告が右特許出願に係る特許権につき特許法三五条一項に基づく通常実施権を有することを確認する。」というものであり、その請求原因の要旨は、「被告会社は本件発明について特許出願をしているが、本件発明は堀田が原告(被控訴人・以下同じ。)に在職中の昭和五一年七月一日から同五二年七月二〇日までの関に、その職務に関してなしたいわゆる職務発明であるから、堀田から本件発明について特許を受ける権利を承継した被告会社が特許を受けたときは、使用者たる原告はその特許権につき特許法三五条一項の通常実施権を有する。」というにある(なお、堀田に対する訴え(後記予備的請求を含む。)は、平成三年三月六日の第三七回口頭弁論期日において取り下げられ、堀田は右訴えの取下げに同意した。また、控訴人に対する請求の趣旨第二項及び第三項の請求も同四年一〇月一六日受付けの訴えの一部取下書によって取り下げられ、控訴人は右取下げに同意した。)。
2 被控訴人は、本件発明について特許権設定登録がなされたことに伴い、昭和五九年一月三〇日の第一〇回口頭弁論期日において、本訴の請求の趣旨第一項を、「原告が、被告会社の有する特許第一一四八六六三号、発明の名称「傾床型自走式立体駐車場におけるフロア構造」につき特許法三五条一項に基づく通常実施権を有することを確認する。」と変更し、その請求原因も要旨、「被告会社は本件発明について特許権を有しているが、本件発明は堀田が原告に在職中の昭和五一年七月一日から同五二年七月二〇日までの間に、その職務に関してなしたいわゆる職務発明であるところ、被告は堀田から本件発明について特許を受ける権利を承継して本件特許を受けたものであるから、使用者たる原告は本件特許権について特許法三五条一項の通常実施権を有している。」と変更した。
なお、被控訴人は、控訴人及び堀田に対し、昭和五九年九月二八日の第一四回口頭弁論期日において、「被告らはいずれも、原告が主位的請求の趣旨第一項記載の特許権について特許法七九条に基づく通常実施権を有することを確認する。」との予備的請求を追加したが、平成三年三月六日の第三七回口頭弁論期日において、控訴人に対し右予備的請求を撤回し(堀田に対しては前記1のとおり訴えを取り下げた。)、控訴人は右撤回に同意した。
3 日本パーキング建設株式会社(以下「参加人」という。)は、本訴係属中の昭和六一年一月二三日、被控訴人と控訴人及び堀田を相手方として民訴法七一条の独立当事者参加の申立て(名古屋地方裁判所昭和六一年(ワ)第一五六号)をし、同年四月一八日の第二三回口頭弁論期日においてその旨を陳述した。
参加人の請求の趣旨は、「相手方らはいずれも本件特許権について、参加人が特許法三五条一項に定められた職務発明による通常実施権を有することを確認する。」というものであり、その請求原因の要旨は、「被告会社は本件発明について本件特許権を有しているが、本件発明は堀田が参加人に在職中の昭和四八年ころその職務に関してなしたいわゆる職務発明であるところ、被告会社は堀田から本件発明について特許を受ける権利を承継して本件特許を受けたものであるから、参加人は本件特許権について特許法三五条一項の通常実施権を有している。」というにある。
被控訴人と控訴人及び堀田は、「参加人の請求を棄却する」旨の判決を求め、請求を失当として争った。
4 昭和六二年一一月二日の第三二回口頭弁論期日に原審裁判所より和解勧告がなされ、平成元年二月一日、参加人と控訴人及び堀田との間で別紙「和解条項」記載のとおりの裁判上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。そして、参加人は、同年四月一〇日、残りの訴えを取り下げる旨の取下書を裁判所に提出し、被控訴人は、同月一一日、右訴え準の取下げに同意した。これにより参加人の被控訴人、堀田及び控訴人に対する訴訟は終了したものとされ、その後は控訴人及び堀田と被控訴人との間で本訴の審理が継続されたが、前記1及び2のとおり堀田に対する訴えは取り下げられ、控訴人に対する訴えも一部取り下げられた。
5 原審裁判所は、平成四年八月二八日、本訴について口頭弁論を終結し、同年一二月二一日、被控訴人が本件特許権につき特許法三五条一項に基づく通常実施権を有することを確認する旨の判決を言い渡したところ、控訴人が被控訴人に対し本件控訴を申し立てた。
二 右のとおり、参加人は被控訴人、堀田及び控訴人を相手方として民訴法七一条の独立当事者参加をしたものであるところ、本訴の訴訟物は、本件特許権についての特許法三五条一項に基づく通常実施権であり、参加人の被控訴人、堀田及び控訴人に対する参加請求の訴訟物も、本件特許権についての特許法三五条一項に基づく通常実施権であって、右の両請求はその主張に照らし択一的関係にあるというべきであるから、本件は、右の両請求につき、控訴人、堀田、被控訴人及び参加人間において合一にのみ確定されなければならない、いわゆる三面訴訟であることが明らかである。
しかるところ、本件のような三当事者間の法律関係を合一に確定させることを目的とする訴訟において、そのうちの二当事者のみの間において当該訴訟物につき裁判上の和解(その内容が残りの当事者に不利益か否かを問わない。)をすること及び参加人が参加の相手方の一方のみに対して参加の申立てを取り下げることは、三当事者間の一紛争を一つの判決により合一に確定すべき独立当事者参加訴訟の構造を無に帰せしめるものとして許されないものと解するのが相当である。
そうすると、被控訴人を除外してなされた参加人と控訴人及び堀田との間の本件和解並びに参加人の被控訴人のみに対する参加申立ての取下げはいずれも無効であり、参加人の被控訴人、堀田及び控訴人に対する参加訴訟は未だ終了していないものといわざるを得ない。
そして、本件のようないわゆる三面訴訟においては、三当事者間で合一に確定させることを要する各請求につき一個の終局判決がなされるべきであって、そのうちの特定の請求についてのみ判決をすることは許されないところであり、したがって、特定の請求についてのみ判決がなされた後に、残余の請求について追加判決をすることも許されないものである。
しかるに、原審裁判所は、本件和解の成立及び参加人の被控訴人に対する参加申立ての取下げにより、参加人の被控訴人、堀田及び控訴人に対する参加訴訟が終了したものとして以後の手続を進め、控訴人と被控訴人間の本訴事件についてのみ判決をしたものであるから、原判決の手続にはこの点において違法があり、その瑕疵は補正することができないものである。
三 よって、原判決を取り消し、本訴請求及び参加請求における各当事者間の権利関係を合一に確定させるため、本件を名古屋地方裁判所に差し戻すこととし、民訴法三八七条、三八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上野精 裁判官 喜多村治雄 裁判官 林道春)
和解条項
一. 被告ら及び参加人は、本件特許発明(登録・昭和五八年五月二六日・特許第一一四八六六三号)は被告堀田正俊が参加人会社に在職中、その職務に起因して完成したものであることを相互に確認する。
二.1.被告株式会社総合駐車場コンサルタント(以下「被告会社」という.)は、参加人が本件特許発明(その利用発明を含む。)を実施することを許諾する。
2.右許諾は、参加人が自らは設計せず、あるいは第三者をしてさらに請負わせる等、参加人が工事のすべての過程を支配していない場合においても、適用される。
三. 参加人は、本件特許発明を実施する場合には、予め工事の内容、規模等を被告会社に通知しなければならない。
四. 本和解に係る駐車場設置の実施料率は、全工事高の一・五パーセントとする。
五. 参加人は、その工事の設計を被告会社に委託したときは、第三項の義務及び前項に定める実施料の支払義務を負わない。
六. 被告会社は、参加人から本件特許発明を実施することになる設計の委託の注文があったときは、建設省が告示する設計に関する報酬の基準の範囲内の費用で受注するようにしなければならない。
七. 本和解は、本件特許権が有効な期間、その効力を有する。
八. 被告会社と原告との間で、本件特許発明に関し和解が成立したときは被告会社及び参加人は、本和解条項の見直しのために、相互に協議するものとする。
九. 参加人は、被告らに対しては、独立当事者参加の申立て(当庁昭和六一年(ワ)第一五六号)に係るその余の請求を放棄し、原告に対しては、右参加の申立てを取り下げる。
一〇. 参加人と被告ら間の本件訴訟費用は、各自の負担とする。
以上