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名古屋高等裁判所 平成6年(う)66号 判決 1994年7月13日

本店所在地

名古屋市中村区乾出町二丁目七番地

商号

有限会社邦託商会

右代表者代表取締役

越喜邦

本籍

愛知県一宮市森本四丁目二一番地の一

住居

名古屋市中村区乾出町二丁目七番地

正和ビル三〇三号室

会社役員

越喜邦

昭和五年一月一九日生

右被告人有限会社邦託商会に対する法人税法違反、右被告人越喜邦に対する法人税法違反、同法違反幇助各被告事件につき、平成六年一月二七日、名古屋地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人両名から控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官寺坂衛出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人髙木康次名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、「被告人有限会社邦託商会を罰金一五〇〇万円に処する、被告人越喜邦を懲役一年六月及び罰金一五〇〇万円に処する、被告人越喜邦が罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する、被告人越喜邦に対し、裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する」旨言い渡した原判決の量刑は、特に罰金刑についていずれも検察官の求刑どおりの金額を言い渡し、また、罰金を納付することができないときは、被告人越喜邦を一五〇日間にわたって労役場に留置することとしている点において、重過ぎて不当である、というのである。

記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討する。

被告人有限会社邦託商会(以下「被告会社」という。)は、不動産の売買等を目的とする会社であり、被告人越喜邦は、被告会社の代表取締役として業務全般を統括しているものであるが、本件は、<1>不動産取引に関与した他の不動産ブローカーなどの税金をごまかすため、被告会社を税金のかぶり役とすることを引き受けた被告人越が、被告会社と他の不動産ブローカーなどが共同して地上げし、転売したのに、被告会社だけが売買の当事者であるかのように仮装し、あるいは、同じく共同して不動産取引の仲介をしたのに、被告会社が不動産を買い受け、これを他に転売したかのように仮装して、架空の売上及び架空の仕入、経費を計上する等の方法で、結局、被告会社の所得を秘匿し、昭和六三年一一月一日から平成元年一〇月三一日までの被告会社の事業年度の所得について虚偽過少の申告をし、右年度における法人税六二二五万円余りを免れ、<2>知人の経営する不動産会社が土地を転売して得た利益に関し、仕入価格を水増し計上して右会社の法人税一億八九五九万円余りを免れるに際し、その事情を知りながら、報酬を受け取る約束の下に、被告会社が他から右の土地を購入した旨の、また、この土地を右不動産会社に転売した旨の、内容虚偽の不動産売買契約書二通を作成し、右不動産会社の脱税をほう助した、という事案である。

被告会社及び被告人越の法人税法違反事件は、他の不動産ブローカーなどと税金をごまかす企てをし、被告会社を不動産取引における税金のかぶり役とすることを引き受けた被告人越が、不動産取引の売上をすべて被告会社の単独の売上とした上で、その所得金額を圧縮するため、内容虚偽の契約書や領収書等を調えて架空の仕入、経費を計上し、結局、被告会社が不動産取引の共同事業で得た収入等に関する所得について、正規の法人税額の約八六パーセント余りをほ脱したものであるし、被告人越の法人税法違反幇助事件も、被告人越が、知人の経営する不動産会社の法人税の脱税をほう助するため、内容虚偽の契約書を作成し、被告会社の所得については、架空の売上、仕入、経費を計上する等の方法でいい加減な申告をしてつじつまを合わせ、その報酬等として一億五〇〇〇万円を受け取っていたものであり、動機、態様、結果等において、いずれも犯情は悪質である。

そうしてみると、不況の影響で被告会社の営業が不調のため、本件に関する三六〇〇万円余りの税金の未納分(本税の残と重加算税)も支払えない状態にあることに加え、被告人越の年齢、健康状態等所論が指摘する事情及び証拠上肯認し得る被告人両名に有利な諸事情を考慮しても、被告会社及び被告人越に対する罰金額等の点を含め、原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よって、本件各控訴は、その理由がないから、刑訴法三九六条によりこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本光雄 裁判官 志田洋 裁判官 石山容示)

○控訴趣意書

法人税法違反 有限会社 邦託商会

同法違反、同法違反幇助 越喜邦

右両名の者に対する頭書被告事件について、名古屋地方裁判所の平成六年一月二七日付けで言い渡した判決に大して、被告人両名の申し立てた控訴の趣意は、左記のとおりです。

平成六年四月一五日

被告人両名の弁護人

弁護士 高木康次

名古屋高等裁判所 御中

原判決は、検察官の被告人有限会社邦託商会(以下、単に被告人会社と略称します。)に対して罰金一五〇〇万円・被告人越喜邦(以下、被告人越と略称します。)に対して懲役一年六月及び罰金一五〇〇万円に処するのを相当とする旨の求刑に対して、公訴事実のとおり事実認定した上、被告人会社を罰金一五〇〇万円に処し、被告人越を懲役一年六月・三年間執行猶予と罰金一五〇〇万円・完納できないときは一日一〇万円の割合で労役場に留置する旨言い渡しましたが、懲役刑のみならず罰金刑について検察官の求刑のとおり、また、罰金刑を完納できないときは一日一〇万円の割合で労役場に留置すると言い渡した点において、量刑著しく重きに失し、到底破棄を免れないものと思料します。

その理由は次のとおりです。

第一 本件犯行、脱税のための隠蔽工作の方法等については、被告人越が主犯ではなくて、共犯者岩田直志(以下、共犯者岩田と略称します。)が主犯であります。

関係各証拠によりますと、主犯は共犯者岩田であり、また、被告人越が税金の「かぶり屋」となったのは、共犯者からの誘いによるものであります上、徹底した隠蔽工作の方法等も共犯者岩田からの指示、指図ないし教示によるものでありますので、被告人会社ないし被告人越には情状酌量すべきものが認められます(この点について、さらに控訴審において詳しく立証の予定です。)。

これをみますと原判決の量刑、特に罰金刑について検察官の求刑のとおり言い渡したのは著しく重きに失し到底破棄を免れないものと認められます。

第二 被告人両名は、未だに税金の一部を納付しておりませんものの、本税と延滞税は納付済みであって、未納付の税金は重加算税のみであります。

一 公訴事実(「罪となるべき事実」)の要旨は、被告人会社については、昭和六三年一一月一日から平成元年一〇月三一日までの法人税約六二二五万円の逋脱した事案(昭和六三年度の事案です。)、被告人越については、右同旨(右同。)と共犯者岩田の営む会社(有限会社岩佐)の平成元年五月一日から平成二年四月三〇日までの法人税約一億八九五九万円の逋脱に際して幇助した事案でありますところ、検察官請求に係る平成五年一〇月一四日付け「査察官報告書」によれば、昭和六〇年一一月一日から平成四年一〇月三一日までの本税、延滞税、重加算税のうち、大半が納付済みであって、重加算税の二一三二万九〇〇〇円のみが未納付の状態であって、起訴された公訴事実(すなわち「罪となるべき事実」)に該当する年度の法人税は全て納付済みであります(なお、右「査察官報告書」によれば、未納付の重加算税については、昭和六三年一一月一日から平成元年一〇月三一日までの税額(昭和六三年度)として記載されておりますものの、右項目の上部にある「法人税」と「法人臨時特別税」の項目をみますと、平成二年一一月一日から平成四年一〇月三一日までの平成二年度と平成三年度の法人税に充当されております上、その額も未納付となっている重加算税以上の税額を充当されております。)。

二 被告人越は、前記のとおり、起訴された事実以外の年度に該当する重加算税のみが未納付の状態でありますところ、現在の不況時であるため、営業も中断している状況であります上、被告人越の営む株式会社「大恵産業」の所有する土地も売却できず、また、他人に貸した金を請求しても返還して貰えない状況でありますので、本来は起訴された事案ではない公訴事実に充当されたため、本件事案の重加算税を納付できない状況であります。

三 しかし、間もなく経済状況も好転するやに漏れ聞いておりますので、その際には、営業をすることによる利益金、貸金の返済金、土地の売却金から即座に未納付の重加算税を納付する決意でおります(以上の点について、詳しく控訴審において立証の予定です。)

これをみますと、原判決の量刑、特に罰金刑について検察官の求刑のとおり言い渡したのは著しく重きに失し到底破棄を免れないものと認められます。

第三 被告人越は、高齢であるばかりか、病歴もあります。

被告人越は、六四歳という高齢であるばかりか、「脳梗塞」を患ったという病歴もあって、現在においても「脳梗塞」が再発ないし病状悪化するかも知れない状況であります上、現在においては未納付の重加算税の納付、罰金刑の納付もできない状況でありますところ、原判決は、被告人両名に罰金刑をそれぞれ一五〇〇万円と言い渡したのですが、ここで罰金額に相当する金員を納付できなかった際、一日一〇万円の割合による計一五〇日間という長期間にわたって労役場に留置されることになって仕舞います。

そうしますと、被告人越は、労役場に留置されていた際に「脳梗塞」の再発ないし病状悪化によって死亡して仕舞うおそれが大であります(この点について、控訴審において詳しく立証の予定です。)

第四 結論

右のとおり、被告人両名の情状関係についてみてみますと、原判決の量刑は、被告人両名に対する量刑の有利な事情を看過し、不利な事情のみに惑わされて、言い渡したものであり、著しく重きに失し到底破棄を免れないものと認められます。

以上のとおり、原判決は、その量刑著しく重きに失し、到底破棄を免れず、適正な判決の言い渡しを求めて、本件控訴を申し立てました次第です。

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