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名古屋高等裁判所 平成8年(う)28号 判決 1997年10月16日

本店所在地

名古屋市東区東桜二丁目三番七号

有限会社岩佐

(右代表者取締役 岩田直志)

本籍

名古屋市守山区西新一九〇四番地

住居

名古屋市守山区西新一九番七号

会社役員

岩田直志

昭和一〇年三月一六日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、平成七年一二月一九日名古屋地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官河野芳雄出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

当審において訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人中田寿彦、同近藤之彦、同村元博連名の控訴趣意書に、これに対する検察官の答弁は、検察官河野芳雄名義の答弁書にそれぞれ記載のとおりであるから、これらを引用し、各論旨につき、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討する。

第一原判決第一の事実(平成元年四月期)についての事実誤認の論旨

一  大阪岩佐ビル関係

所論は、要するに、原判決は、被告人有限会社岩佐(以下、被告会社という)が大阪岩佐ビルの取引(大阪市西区内の土地を取得し、その土地にビルを建築し、土地及びビルを一括して売却した取引)に関して経費計上した永井孝則(以下、単に永井という)に対する仲介手数料二〇〇〇万円につき、<1>永井は大阪岩佐ビルの取引には一切関与していないから、被告会社のした右のような経費計上は認められない、もっとも、<2>永井に対する二〇〇〇万円の支払い事実自体を否定することはできず、<3>支払いの趣旨は、永井のこれまでの尽力に対する感謝と今後の協力関係を円滑にすることにあると認められる、そうすると、<4>右二〇〇〇万円は、当時の租税特別措置法六二条にいう「交際費等」に当たる、しかし、<5>当該事業年度における交際費等は、すでに損金算入限度額を超えている、よって、<6>右二〇〇〇万円については、損金として算入することはできない、と認定判断している。しかし、不動産取引業界においては、不動産販売業務の過程で主に同業者から販売のノウハウを授かる等のコンサルティングを受けた場合に「報酬」を支払う取引慣習があり、右「報酬」は経費とされるべきであるところ、右二〇〇〇万円はまさに右「報酬」に該当するから、原判決の右<3>ないし<6>の認定判断は不当であって、原判決には事実の誤認がある、仮に、右の点につき、原判決に事実の誤認がないにしても、右二〇〇〇万円を経費に計上したのは、被告人岩田(以下、単に被告人という)の判断の誤りであって、被告人に法人税ほ脱の故意はない、という。

しかしながら、原判決が、その〔争点に対する判断〕(大阪岩佐ビルについて)の項(原判決一二頁以下)において、詳細に説示するところは、いずれも正当なものとして、当裁判所もこれを是認することができ、原判決の認定判断に誤りはない。

また、原判決の説示する事実によれば、右二〇〇〇万円の損金処理につき、被告人に法人税ほ脱の故意があったことも明白であるというべきである。

所論は理由がない。

第二原判示第二の事実(平成二年四月期)についての事実誤認の論旨

一  姫路物件関係

1  所論は、原判決が、被告会社は、永尾玲子(以下、単に永尾という)から姫路物件(姫路市飾磨区内の面積合計一七七・五六坪の二筆の土地)を買入れるに当たり、赤字会社である有限会社邦託商会(以下、単に邦託商会という)をダミーとして中間に介在させ、脱税経費として同社に一億六四二四万四一三九円を支払い、このような脱税工作を行うことによって、一億五二三七万一四〇〇円を脱税したと認定しているが、右の認定では、脱税経費がほ脱税額を超えており、脱税工作をしたことによってかえって手取額を減らしたということになって、いかにも不合理であり、このことは、邦託商会がダミーであるとの原判決の事実認定に根本的な無理のあることを如実に示すものである、という。

しかしながら、右の論難は、以下のとおり、明らかに失当である(なお、原判決が平成二年四月期には姫路物件に関する不当行為のほか、別の物件に関する不当行為もあったと認定しているにかかわらず、所論は、右の事業年度には姫路物件に関する不当行為しかなかったものとして論じているから、この点において既に不正確な議論というべきであるが、右の点をさておいても、その失当たることは、以下のとおりである)。

すなわち、本件の姫路物件について、被告会社は、邦託商会が永尾から坪三五〇万円で購入し、邦託商会はこれを坪六五〇万円で被告会社に売却し、被告会社はこれを坪七〇〇万円で株式会社三友(以下、単に三友という)に売却したとの形式を作為し、自らは坪五〇万円分の法人税納付で済ませようとしたものであるところ、原判決は、邦託商会は被告会社が脱税経費一億六四二四万四一三九円を支払って仕立てたダミーであり、事の実質は、被告会社が、永尾から購入し、三友に転売したものであること、また、永尾と被告会社との間の実際の売買代金は坪五〇〇万円であり、被告会社は、これを、永尾の要求により、坪三五〇万円を表で、坪一五〇万円を裏で支払ったものであることの事実をそれぞれ認定し、その上で、仕入原価は実際に支払った坪五〇〇万円であるとして正当税額(一億六四三三万三二〇〇円)を算出し、虚偽過少申告における申告税額である一一九六万一八〇〇円との差額である一億五二三七万一四〇〇円を脱税したものと判示しているのである。

しかるに、所論は、右の原判決につき、脱税経費(一億六四二四万四一三九円)がほ脱税額(一億五二三七万一四〇〇円)を上回るから、いかにも不合理であると論難するのである。その趣旨は、脱税工作をした場合には、虚偽過少申告税額と脱税経費の合計額を支払うのに対し、脱税工作をせずにまともに申告した場合には、原判決認定の正当税額(虚偽過少申告税額とほ脱税額の合計額)を支払えば済むということを当然の前提とした上で、前者の額が後者の額より大きいから、被告会社は手取額を減らすために脱税工作をしたというおかしなことになるではないか、というにあると解される。

しかしながら、所論は、脱税工作をせずにまともに申告した場合には原判決認定の正当税額を支払えば済むということを前提としている点で、明らかに誤っている。

すなわち、邦託商会を介在させるという脱税工作をせずにまともに申告する場合には、仕入原価を坪三五〇万円(転売粗利益坪三五〇万円)として申告するほかないのであるが(なぜならば、坪三五〇万円を表で、坪一五〇万円を裏で支払うというのが、永尾の要求であり、この要求を呑まなければそもそも同人から買い入れることができない)、そうすると、当然のことながら、この場合の申告税額は、仕入原価を坪五〇〇万円(転売粗利益坪二〇〇万円)として算出された原判決認定の正当税額よりはるかに高い金額となるのである。

このようにして、所論は、脱税工作をせずに申告した場合の申告税額が、計上する仕入原価の違いから、原判決認定の正当税額よりはるかに高くなるものであることに思いを至さず、脱税工作をすることに意味があるか否かの検討を、その検討にはおよそ不適切な数値を比較して行い、原判決を論難するものであって、その失当たることは明らかである。

2  所論は、原判決が、邦託商会は、永尾及び被告会社の両者の脱税のためのダミーであり、坪五〇〇万円から坪三五〇万円を差し引いた坪一五〇万円分のダミー料として、永尾から四〇〇〇万円を、また、坪六五〇万円から坪五〇〇万円を差し引いた坪一五〇万円分のダミー料として、被告会社から一億六〇〇〇万円を、それぞれ受け取った、と認定しているとした上で、同じ坪一五〇万円分の転売利益を秘匿するものであるのに、相互のダミー料に約四倍もの違いがあるのは不自然であるし、永尾との間では、少額過ぎて、ダミーとしてのビジネスが成立せず、原判決の認定は不合理であり、事実誤認がある、という。

しかしながら、右の論難は、原判決を曲解するものである。原判決は、措辞いささか適切を欠くところがあるが、その趣旨は、被告会社は、その姫路物件の転売利益について脱税をするため、ダミーとして、邦託商会を、永尾と被告会社との間に、永尾から坪三五〇万円で購入し、被告会社に坪六五〇万円で転売したとの形で介在させたものであること、邦託商会は、赤字会社であるとの触れ込みであったことから、転売利益に対する三〇パーセントの土地重課税の支払いは免れないものの、一般の法人税約四〇パーセントは支払わずに済むという点において、右のように介在させることに実益があったこと、邦託商会をこのように介在させることは、仕入原価を坪三五〇万円ではなく坪六五〇万円と坪三〇〇万円も高く計上することにより、転売利益の圧縮、ひいては、税金を安く上げたいとの被告会社の脱税意図を満たすことはもとよりとして、公表する売却金額を坪三五〇万円に押さえて税金を安く上げたいとの売主永尾の要望にも沿うものであって、これを評するに、邦託商会は、永尾及び被告会社の脱税のためのダミーとして関与したということができる、というにとどまるものであって、決して、永尾が邦託商会を、自分のダミーとして使ったなどと判示するものではない。関係証拠を精査しても、永尾から邦託商会に対するダミーとなることの依頼は何らなかったし、永尾としては、坪一五〇万円分について被告会社から裏で支払ってもらえば十分なのであり、被告会社が右の支払い分をいかにして捻出し、仕入原価が安くなることによる税額の増加をどのようにやり繰りするかについては、特に関心もなかったのである。このようにして、所論の原判決に対する理解、すなわち、原判決が、坪五〇〇万円から坪三五〇万円を引いた坪一五〇万円分については、邦託商会は永尾のダミーであり、永尾は邦託商会に右のダミー料として四〇〇〇万円を支払った、また、坪六五〇万円から坪五〇〇万円を引いた坪一五〇万円分については、邦託商会は被告会社のダミーであり、被告会社は邦託商会に右のダミー料として一億六〇〇〇万円を支払った、と認定しているとの理解には誤りがあるというほかなく、このように原判決を曲解した上での論難は失当たるを免れない。

3  所論は、原判決は、永尾から姫路物件を購入したのは被告会社一人であり、有限会社小南興産(以下、単に小南興産という)は仲介者であると判示しているが、永尾から姫路物件を購入したのは、被告会社及び小南興産の二人(共同買主)であるから、原判決には事実の誤認がある、という。

しかしながら、姫路物件の購入費用は被告会社が全額負担しており、転売できずに長期在庫化するときの危険は被告会社がすべて一人で負うべき立場にあったといえるから、永尾から姫路物件を購入したのは被告会社一人であるとの原判決に事実の誤認はなく、小南興産が仲介者であるとの原判決もまた正当である。所論は、小南興産を共同買主及び共同売主であるとみるべき根拠として、被告会社の行っていたいわゆる地上げ業においては、情報が極めて重要であること、小南興産は、被告会社から一八〇〇万円のほか六二〇〇万円もの高額の金員を受け取っていること、被告会社は、小南興産から三友なる転売先があることの情報を事前に貰っていたからこそ、姫路物件を購入する意思決定ができたこと、などを上げている。地上げ業において、情報が重要であり、情報提供者である仲介者がしばしば高額の仲介手数料を取得することはそのとおりである。本件の場合も、小南興産は高額の金員を取得している。兵庫県加古川市で不動産業(小南興産)を営む小南旭(以下、単に小南という)は、同じ兵庫県内の姫路市内の物件情報を、かねて銀行勤めをしていたときの同僚という諠から、名古屋で不動産業(有限会社岩佐)を営む被告人に提供し、被告会社は、このおかげで相当の利益を上げることができたことから、被告人において、小南興産に大盤振る舞いをしたものと解される。しかし、情報が重要であり、情報提供の対価として受け取った金額が大きいからといって、情報提供者が仲介者であることを超えて共同買主及び共同売主になるものでないことはいうまでもない。また、購入時点で被告会社が、小南興産から三友なる転売先があることの情報を事前に貰っていたなどという事実のないことは、当審における小南及び小松徹の各証言に照らして明らかである。

所論は理由がない。

なお、原判決は、姫路物件を三友に売却するに当たっては、被告会社と小南興産とが共同売主であると判示しているが、前記の永尾からの買入れ経緯に照らしても、右判示は誤りであり、被告会社一人が売主であるというべきである。右の原認定は、小南の検察官に対する供述調書における、姫路物件について被告人を現地に案内した際に、被告会社と小南興産の共同事業とすることを約束した旨の供述に基づくものと思われるが、右の供述調書でも、「共同事業」の趣旨は明確でなく、少なくとも、姫路物件を共同購入する、ないしは、被告会社が単独購入した後にその出資を受けるという趣旨の具体的供述はない。また、小南は、姫路物件に関し、被告人から、最初、一八〇〇万円、その後、六二〇〇万円を受け取っているところ、右の供述調書では、小南は右の六二〇〇万円につき、被告人は随分沢山くれるんだなあと思った、と供述しているのであり、右の供述は、六二〇〇万円が、事前の約束に基づくものではなく、被告人の裁量によって支払われたことを前提とするものと解され、このことは、むしろ、被告会社一人が売主であることをうかがわせるものである。そして、当審における小南の証言によれば、姫路物件については、当初、被告会社が単独購入した土地の上にビルを建設し、土地とビルを一括して売却するという話があったこと、また、ビル建設の資金の一部を小南興産が融資を受けて提供するという話もあったこと、しかし、小南興産によるビル建設資金の一部提供の話については、日本モーゲージで融資を断られたことにより、すぐに沙汰やみになり、ビル建設についても、小南において、平成二年四月から姫路市内において、三〇〇平方メートル以上の売買については国土利用計画法の規制区域になるようだとの情報を得たことなどから、被告会社に対して早く売却するように勧めるに及んで、同じく沙汰やみになったこと、勧めに応じ、被告人から坪七〇〇万円で売却するとの話があったことから、小南は、かねて付き合いのあった三友に話を持ち込んだところ、三友は、すぐに購入してくれたことなどの各事実が認められ、このようにして、当審における事実取調べにより、被告会社一人が売主であることが明確になった。

以上の次第で、姫路物件については、被告会社が一人で買い、一人で売ったと認めるのが正当であり、原判決が、小南興産と被告会社が共同で売却したとして、両者間で譲渡益の収支分割を行い、また、譲渡人に課せられるものとして土地重課税につき、被告会社のほか、小南興産にも支払い義務があるとしているのは、事実を誤認したものというべきであるが(なお、当時の租税特別措置法六三条一項一号、同施行令三八条の四第二項によれば、土地重課税は、土地の譲渡人のほか、土地の売買の媒介に関し宅地建物取引業法第四六条一項に規定する報酬の額を超える報酬を受ける行為をした者にも別途課せられるのであり、本件の場合の小南興産は、譲渡人に課せられるものとしての土地重課税の支払い義務は負わないものの、仲介行為者としての土地重課税の支払い義務を負うことになる)、右の誤認は被告会社が支払うべき税額を過少に認定したというもので(過少であることの計算関係については、当審における検察官の弁論参照)、被告人に有利な方向での誤認であり、また、そもそも第一審の検察官の主張自体が収支分割による右過少額をいうものであったことにもかんがみて、被告人からの控訴しかない本件においては、判決に影響を及ぼすものとはいえない。

4  所論は、原判決は、脱税経費否認額につき、これを被告会社のみに帰属させているが、小南興産にも分割して帰属させるべきである、という。

しかしながら、姫路物件については、被告会社が一人で買って、一人で売ったものと認められることは、3に述べたとおりであり、被告会社は、その譲渡益に対する課税を免れるため、単独で脱税工作をしたというべきであるから、脱税経費否認額を小南興産に分割して帰属させるべきいわれはない。

所論は理由がない。

5  所論は、そのほかにもるる理由を挙げて原判決の事実認定の不合理性等を指摘するが、これらは、永尾と邦託商会、及び、邦託商会と被告会社のそれぞれの間に実質的な売買行為があったとの独自の判断に立ち、ときには、独自の命題をも併せ持ち込み、その上で原判決を論難するものであって、いずれも理由がない。

第三原判示第三の事実(平成三年四月期)についての事実誤認の論旨

一  本陣物件関係

1  所論は、要するに、原判決は、本陣物件(名古屋市中村区本陣通所在の五筆面積合計一〇四七・九一平方メートルの土地。所得者は青山喜美子であり、同土地上には東海銀行則武支店の建物が立っていた)の購入及び売却は、被告会社と永井との「民法上の組合契約」に基づいてなされた共同事業であり、被告会社の得た利益は、土地譲渡所得であって、土地重課税の対象となるものと認定しているが、本陣物件の購入及び売却は、永井の単独事業であり、被告会社は、永井に三億二三〇〇万円を融資し、その報酬として一億八〇〇〇万円(原判決では一億九五〇〇万円)を受け取ったに過ぎないものであり、右報酬収入につき、一般の法人税を負担するのは格別、土地重課税を負担するいわれはないのであって、原判決には、判決に影響を及ぼすべき事実の誤認がある、という。

2  しかしながら、関係証拠、特に、永井の検察官に対する供述調書(検甲九一号証、記録一六冊二八二〇頁)などによれば、<1>永井は本陣物件の購入及び売却により利益を上げることを考えたが、購入資金がなかったので、これまでにも一緒に仕事をしたことのある被告人に対し、「利益は折半ということで一緒にやらないか。資金の方をお願いしたい」と話を持ち掛けたところ、被告人は、「判った。金の方は任せてくれ。一緒にやろう」とその話を了解し、ここにおいて、被告会社が資金調達及び金銭管理を行い、永井が物件の購入及び売却の各交渉を行うとの役割分担及び利益を折半することの合意が成立したこと、<2>永井は購入交渉の経緯を逐次被告人に報告してその了解を得ながら作業を進め、被告会社は、平成二年一月一七日から同年二月二八日までに、永井に求められる都度、売主である青山に対する手付金分五〇〇〇万円、中間金分一億円、裏金分五〇〇〇万円、残額決済金(一部)分一億〇八〇〇万円の各金員を永井に渡したこと(被告会社は、残代金のうち二億五〇〇〇万円については、これを調達できず、永井が金融業者の有限会社ドンポリ商事から借り入れて調達した。なお、同商事に対する金利等として支払われたのは一三〇〇万円に過ぎない)、<3>所有権移転登記は、青山から永井へと経由されたが、残代金の支払と登記に必要な書類の受渡しの際には、永井のほか、被告人も立ち会っていること、<4>本陣物件の購入後、売主青山の代理人である山森昌勝に一五〇〇万円を謝礼として渡すことにしたが、その際にも、被告人は永井から相談を受け、右支払分の金員を永井に渡していること、<5>東海銀行に転売するに際し、転売価格を名古屋市からの指導価格どおりとすることにつき、永井と被告人とが相談の上で決定していること、<6>永井は、転売益がかなりのものとなることが見込まれたことから、株式会社竹内重設(代表取締役竹内直剛)から本陣物件の購入に当たって多額の購入資金を借り入れて高額の利益配当をしたことを仮装することとし、本陣物件に、同社を債権者とする抵当権設定登記を付けているところ、被告人は、自らも直接竹内と会って、竹内重設の決算内容、特に、かなりの累積赤字があることを聞き、また、右のように永井が抵当権設定登記を付けるという具体的脱税工作を実行するに当たっては、永井からその旨を聞き、了承を与えていること、<7>転売先の東海銀行との契約書作成・代金決済・登記関係書類受渡しの際には、被告人も立ち会っていること、<8>右の代金決済に先立ち、被告人が、本陣物件取引の純利益を計算したところ、約三億九〇〇〇万円となり、被告人は、右の数字につき永井に説明をしてその了承を得、そこで、二人は、事前の約束どおり、これを折半することとし、代金決済日の平成二年五月三〇日、一億九五〇〇万円ずつ取得したこと(東海銀行への売却代金一〇億七九三四万七三〇〇円から土地仕入代金五億八七八七万七五一〇円を控除して得られる粗利益四億九一四六万九七九〇円から、山森に支払った仲介手数料一五〇〇万円、宮崎・森・道家・大崎の各司法書士に支払った登記料合計四一二万四四二〇円、不動産取得税二四七万七一〇〇円、印紙代一〇五万六〇〇〇円、被告会社が受け取る利息一六六〇万四二七三円、ドンポリ商事に支払う利息一三〇〇万円、竹内らへの脱税報酬五〇〇〇万円の各経費を差し引くと、三億八九二〇万七九九七円となり、確かに、約三億九〇〇〇万円となる。なお、永井が仕入れ及び売却の過程で支払った取引関係者との折衝費用〔記録一六冊二八四〇丁によれば、六五五万円〕については、飲食代等のこまごまとしたものの総計であることや右の純利益の計算は被告人が行ったものであることなどにかんがみると、右の純利益の計算に当たっては考慮されていないものと認めるのが相当であり、したがって、永井の利益分配金である一億九五〇〇万円の中には、本来経費として認容されるべき右の六五五万円の折衝費用が含まれているものと解される)、<9>その後、被告人は、株式会社竹内重設に、同社の所得申告に当たって前記の仮装工作に沿った申告をさせるため、竹内と会い、同人に対し、自ら書いたメモ(記録二四冊四六一二丁)に基づき、「永井と竹内重設の共同事業であり、利益のほとんどを資金提供者である竹内重設に分配したこととする」旨を説明し、さらには、竹内から所得申告を依頼された税理士のもとへも赴いて、同様の説明をしていることなどの事実が認められる。そして、これらの事実、ことに、被告会社と永井との間には、相互の役割分担及び利益配分について、事前の合意があり、実際にも、右の合意に基づいて役割を実行し、また、利益を配分しているとの事実に基づいて判断すると、本陣物件の購入及び売却は、被告会社と永井孝則とが共同して行ったものと考えるほかないのであり、本陣物件の取引により被告会社が取得した利益につき、一般の法人税のほか、土地重課税も課せられることになるとみるのが相当であって、これと同旨の原判決の認定判断に誤りはない。

3  被告人は、捜査段階においては、右の事実関係をほぼ認めていた(検乙一九号証、記録二四冊四五八九頁)が、原審公判に至るや、<1>当初、永井から、「青山から本陣物件を総額五億八〇〇〇万円で買えることになった。手付金を交付した段階で東海銀行と転売交渉に入って話をまとめるつもりなので、手付金、裏金各五〇〇〇万円合計一億円を貸して欲しい」旨言われ、資金の余裕もなく、一度は断ったが、たまたま姫路物件取引の関係で資金繰りをつけることができたことから、結局、被告人個人名義で手付金分として五〇〇〇万円、裏金分として五〇〇〇万円を貸し付けた、<2>右の貸し付けに当たって、永井との間で、見込まれる転売利益につき、その配分の話は一切なかった。<3>その後、永井から、「東海銀行は、手付けを打っただけでは駄目で、所有権移転登記を経由して所有者にならないと相手にしてくれない。ついては、決済資金を融資して欲しい」旨言われ、約束が違うと思ったが、手付金流れは惜しいし、姫路物件取引の関係で新たな進展があり、ある程度資金繰りがつきそうであったので、全額は無理であると断った上で、追加融資をすることとし、中間金分一億円、次いで、残金決済金(一部)分一億〇八〇〇万円を被告会社名義で貸し付けた、<4>永井に登記名義が移った後、同人は東海銀行との間で転売の話を進めていたようであるが、転売できることが決まった段階で、永井から、被告会社名義の二億〇八〇〇万円の貸付行為に対する利息及び報酬分としての一六六〇万円のほかに、転売利益の半分(一億八〇〇〇万円)を報酬として渡すとの話があった、などと供述している。しかし、捜査段階における供述を変えるに至った理由として、捜査段階では共同事業の意味(土地重課税がかかること)を十分に理解していなかったなどと述べている点は、竹内に対して脱税工作の内容として自ら説明している内容や、右検察官に対する供述調書には、「土地重課等を免れ」るために竹内重設を利益隠しに利用することにしたとの記載があることに照らしても、信用できないし、右公判後述の内容自体も、永井から突如として極めて高額の報酬支払いの話があったということになる点などにおいて、いかにも不自然不合理であって(記録二九冊四七七丁の被告人の供述参照)、被告人の右の原審公判供述は、とうてい信用できない。

4  なお、弁護人は、被告会社が永井との折半によって得た一億九五〇〇万円の利益分配金の中には山森に対して支払った一五〇〇万円の回収分が含まれている旨主張するが、右の主張が正当でないことについては、前記2で説示した約三億九五〇〇万円の算出過程で右の一五〇〇万円が経費として引かれていることのほか、原判決がその七三頁以下で説示しているところによって明らかである。

二  道下物件関係

所論は、要するに、原判決が、道下物件(名古屋市中村区道下町所在の五筆面積合計一二三・五一平方メートルの土地及び同土地上の鉄筋コンクリート造陸屋根三階建の建物)を購入し転売した主体は被告会社であると認定しているのは、事実の誤認であり、実際の取引主体は、株式会社大恵産業である、というのである。

しかしながら、原判決が〔争点に対する判断〕(道下物件について)の項(原判決八二頁以下)において、詳細に説示するところは、当審としても、これを正当として是認することができ、原判決に事実の誤認はない。

そもそも、所論は、被告会社は、株式会社大恵産業に購入資金と名義を貸しただけであるから、右取引による利益については、納税義務を負ういわれはないというのであるが、名義を貸しただけというのであれば格別、資金も被告会社が提供し、しかも被告人自身がその取引に関与したというのであれば、まさに、取引の主体は、被告会社であり、取引による利益については被告会社が納税義務を負うというべきであって、主張自体もいささか奇妙なものであり、仮に、被告人が大恵産業の出資者であり、取締役でもあるなどの特殊事情から、被告会社において右道下物件の取引によって上げた利益を大恵産業に移し換えたとしても、それは、利益の事後処理に過ぎないものであって、これによって納税義務を免れることのできないことは明らかである。

所論は理由がない。

三  沢下物件関係

所論は、要するに、原判決は、被告会社の沢下物件(名古屋市熱田区沢下町内の面積二〇五・九四平方メートルの土地)の取引に関する譲渡所得の発生時期について、平成三年四月期であると認定しているが、平成五年四月期と解すべきであるから、原判決には、事実の誤認がある、というのである。

しかしながら、原判決が〔争点に対する判断〕(沢下物件について)の項(原判決九三頁以下)において、詳細に説示するところは、当審としても、これを正当として是認することができ、原判決に事実の誤認はない。

所論は、原判決が、被告会社は沢下物件を有限会社ボーベンカンパニーに転売して所有権を移転させ、その引渡しもしたものであるが、このことが表面化すると、名古屋市との間の五年間の転売禁止条項に違反することとなって買戻しされることを避けるため、便法として右売買代金額を貸付金額とする抵当権設定金銭貸借契約公正証書を作成するなど種々の方策を講じたと判示しているのに対し、これを正解せず、便法としてとったに過ぎない法律構成に藉口し、所有権は移転していないなどとして、原判決を論難するものであって、その理由のないことは明らかである。

所論は、また、被告会社には、譲渡所得の発生時期について判断の誤りがあったのであるからほ脱の故意がないとも主張する。しかし、原判示の経過に照らすと、右の点の判断に誤りはなく、意図的に所得を除外したものと認められる。

所論は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により、本件各控訴を棄却し、当審における訴訟費用については、同法一八一条一項本文、一八二条により、被告人両名に連帯して負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笹本忠男 裁判官 志田洋 裁判官 川口政明)

平成八年(う)第二八号

控訴趣意書

被告人 有限会社 岩佐

同 岩田直志

右の者に対する法人税法違反被告事件についての控訴の趣意は左記のとおりである。

平成八年四月十八日

右弁護人 中田寿彦

同 近藤之彦

同 村元博

名古屋高等裁判所刑事第二部 御中

争点に対する判断についての原判決の事実誤認

第一、大阪岩佐ビル

一、本件物件についての起訴事実の要旨は、被告人両名が、本件物件について、二〇〇〇万円の架空経費を計上して同金額につき逋脱行為をなした、即ち、永井孝則に支払ったのは架空領収書の対価としての五〇〇万円だけであり、右は脱税経費であるから経費とは認められず、二〇〇〇万円全額が逋脱の対象であるとするものであり、これは平成七年八月一五日の論告要旨においても維持されている。

二、この点については、原判決は、正当にも、検察官の右主張を排し、次のとおり判示している(判示、二、(三))。

(三) 他方、永井にしてみれば、同人が被告人会社から受領した金額についてより少なく供述する方が、自己の所得が減少して税金が減少し、自己に有利になるのであって、同人の供述の信用性については十分吟味する必要があること、更に、被告人岩田個人が他人に架空の領収証の作成を依頼し、脱税したケースは認められないこと、被告人岩田と永井とのそれまでの関係からして、今までの謝礼とともに今後の協力を期待して永井に金銭を差し上げることは不自然ではないことなどからして、永井に渡した金額についての被告人岩田の供述が虚偽とまで断定することはできず、結局、永井に二〇〇〇万円渡した旨の被告人岩田の弁解を排斥することはできない。

即ち、被告人両名が、本件物件について、二〇〇〇万円の架空経費を計上して同金額につき逋脱行為をなしたものでないことは原判決によって認められたのである。

三、しかし、原判決は、被告人会社が永井孝則に支払った二〇〇〇万円を、租税特別措置法六二条にいう「交際費等」に該当するとし、「関係各証拠によれば、被告人会社は、昭和六三年五月一日から平成元年四月三〇日までの事業年度における交際費については、すでに法律上損金として算入できる金額以上の金員を使っていることが認められるから、右二〇〇〇万円について損金として算入することはできず、脱税額に加算されるというべきである。」(判示、四)として、最終的には被告人両名の主張を排斥した。

四、不動産取引業界においては、取引慣習として「報酬」の授受が行なわれている。これは、不動産販売業務の過程で、主に同業者から販売のノウハウを授かる等のコンサルティングを受けた場合に支払われるものであって、宅地建物取引業法上の「仲介手数料」などとは趣旨を異にするものである。

これら授受にあたっては、領収証の発行がされ、受け取る方は事業収益(「報酬収入」等の勘定科目)、支払う方は販売費及び一般管理費(「支払報酬」等の勘定科目)として処理し、申告しており、原判決の言う「交際費等」とは性格を異にするものなのである。

交際費に対する課税措置については、企業の冗費抑制の他に、交際費の支出によって経済的利益を受ける個人に対する所得税の代替課税という目的もあるのであるから、本件「報酬」の如き、支払者、受領者の双方が申告処理をすることが前提となっている(本件においても、永井孝則から領収書の交付を受け、これを経費申告した被告人岩田においては、受け取った永井孝則が所得として申告をすることを前提にこれを交付したものであることは明らかであり、たまたま永井が、授受の趣旨に反して売上除外をなしただけなのである)金銭の支払をもって「交際費」と考えるべきではないのである。

本件において、もし永井孝則が、二〇〇〇万円について「売上除外」をなさず、事業収益(「報酬収入」等の勘定科目)として申告・納付していれば、国税当局としては、「これは、支給者側(被告人会社)の交際費として課税処理されるべきものである」として受領を拒否したりなどせず、必ずやその納付を受けていた筈である。その上で、被告人会社の申告に際して、これを交際費と認定して損金算入額超過を理由に経費計上を否認すれば、国家は、同一金員について「二重課税」をしたことになるのである。

若干、例は異なるが、所得税を源泉徴収すべき場合において、源泉徴収義務者が納付を怠ったとしても、源泉分を控除した金額の支給を受けた者が源泉徴収義務者に代わって納付義務を負うものではないのである。本件においても、たまたま永井孝則が申告・納付を怠ったことをもって、被告人会社の交付した金員を交際費とするのであれば、国家が、理由のない代替課税によって責任を被告人会社に転嫁することを容認することになるのであり、不合理であること明かである。

法人税に関する文献には、以下のように述べられている。

問 九州地区の販売を促進するため、従来の代理店に販売奨励金を支出するとともに、新しく代理店契約を結ぶ相手にも助成金を支出したいのですが、税務上どのように取り扱われますか。

答 まず、従来からの代理店に対する販売奨励金は、法人が販売促進の目的で特定の地域の得意先である事業者に対して販売奨励金として金銭又は事業用資産を交付する場合の費用であれば、交際費に該当しません。(措通62(1)-7)ただし当該事業者が小売業者等を旅行、観劇等に招待するための費用の全部又は一部の負担であるときは交際費になります。(措通62(1)-12)

また、新しく代理店契約を結ぶための助成金は、取引関係を結ぶために相手方である事業者に対して金銭又は事業用資産を交付する場合の費用であれば、交際費に該当しません。(措置62(1)-12(2))(注))

こうした費用が交際費とされないのは、交際費に対する課税には本来企業の冗費抑制のほかに、交際費の支出によって経済的利益を受ける個人に対する所得税の代替課税という目的もあるからで、販売奨励金等が相手の事業者に受け入れられて収益に計上される場合には、所得税の代替課税を考える必要がないからです。したがって、相手先の社長等個人に贈与した場合は交際費になりますので、相手方の事業者に受け入れられたことを確認するとともに、領収書をとっておくことが必要です。

森田政夫著・平成二年版・問答式法人税事例集(株式会社清文社)

五、仮に、百歩譲って、右、四、の主張が最終的に認められないとしても、このような微妙に判断の別れる事案においては、被告人のなした判断上の過失は、(法人税法上の重加算税徴収の対象となることはあっても、)これをもって被告人に対し、当該損金処理につき法人税の「逋脱の故意」ありとして刑事罰を課することは到底許されないものである。

第二、姫路物件

原判決は被告人らが平成二年四月期に

一億五二三七万一四〇〇円

の法人税額を脱税した旨を認定したが、この認定は、原審が関係証拠を精査せずに被告人を無罪とすべき証拠を看過した結果、事実を誤認したものであり、到底破棄をまぬがれない。

一、原判示の脱税工作・脱税経費について。

原審が被告人らにおいて原判示の巨額の脱税経費を使い脱税工作を施し脱税をしたと認定する以上、その当然の帰結として、被告人会社は脱税をしたことによる実質利益(脱税利益)を得られていなければならない。

なぜなら、脱税は脱税利益の取得を唯一の目的とし、その取得を唯一の動機として敢行されるからである。

脱税利益を取得し得ないところに、脱税経費を使い所謂赤字を出してまでして脱税工作の行われる余地は皆無である。

たとえば、六〇〇〇万円の脱税工作費を使って一億円の脱税を行えば、差引四〇〇〇万円の脱税利益が得られるので、この四〇〇〇万円の脱税利益の取得を唯一の目的としての脱税工作及び脱税は行われ得る。

しかるところ今度は逆に、六〇〇〇万円の脱税を行うのに、一億円の脱税工作費を費消しての脱税が行われるであろうか、このような差引四〇〇〇万円の赤字が発生する脱税行為は行われる余地がないのである。

以上の関係を図解したものが、別紙1及び別紙2である。

原審は、以上のような脱税額と税額経費と脱税利益、以上の三者の相関関係を一切考慮に入れることなく、原判示第二の罪となるべき事実を認定した。

しかしながら右三者間の相関関係を考えるとき、本件において被告人会社は、第二取引の利益分配金六二〇〇万円を、単なる売上除外なる方法で脱税したというにとどまり、原判示の脱税工作や同工作の結果にもとずく脱税の行われる余地は全く無いのである。

以下にその理由を明らかにする。

1、原審は原判示別紙3記載の通り姫路物件取引で生じた土地譲渡利益額の内、被告人会社が

<1> 二億三二六五万〇五二二円

を取得したものと認定し、右金額の内、脱税経費として、

<2>邦託商会へ支払の否認ダミー料 一億六二二三万三一五九円

<3>否認登記料 二〇一万〇九六〇円

<3><2>合計 一億六四二四万四一一九円

を、被告人会社において費消した旨を認定している。

2、それでは約一億六四二四万円もの脱税経費をかけた挙句、被告人会社は一体いくらの脱税利益を得たのであろうか。

右被告人会社の取得した脱税利益額を図解したものが別紙4である。

原判示によると被告人会社は

C 一億五二三七万一四〇〇円

の脱税をするために

E 合計一億六四二四万四一三九円

の脱税経費をかけた。

この為被告人会社は脱税利益を得るどころか、差引

B 一一八七万二七三九円

の赤字を計上した。

そしてこの赤字を正規税額控除後の正規所得税額

六一二五万九二六七円

の内から補填しなければならない破目となった為、かえって右の所得額が

A 四九三八万六五二八円

に減額されてしまっているという結果になっている。

3、納税者の手取実額を増やす脱税はあり得ても、納税者の手取実額をわざわざ減らす脱税は経験則上起り得るべくもない。

脱税経費を使って脱税工作を行い脱税するよりも、正規税額をきちんと申告した方がより多くの正規の手取所得実額が得られるときに、わざわざ脱税額以上の脱税経費を使って脱税し、その結果その正規の手取所得実額を減らすような真似をする納税者はこの世に一人として居ないのである。

原判決は、その事実誤認を指摘する以前の問題として、本件についての物の見方や考え方、観点が根本的に間違っていると云わざるを得ない。

いずれにせよ、原判示第二の罪となるべき事実の誤認は、経験則に違背し、事実を誤認しており到底破棄をまぬかれない。

4、ところで以上の点については、弁護人が原審における弁論要旨三四ページ~三八ページにかけて、累々指摘したにもかかわらず、原判示は一言半句もこの点に触れてはいない。

原審においては、右の点についての判断を殊更に回避した。

被告人らの有罪無罪を左右する右の点についての判断を原審が回避したのは、原判決に審理不尽の違法があるというべきであり、この点においても原判決は破棄をまぬかれない。

5、原判決が、被告人・弁護人らの原審における前記3及び4の各主張に対する判示・判断を回避して、以上のようなおよそ見当違いの脱税の事実を認定したそもそもの原因は、原判決が被告人・弁護人ら主張の第二取引を脱税工作であると認定していることにある。

原判示認定とはうらはらに第二取引は被告人会社にとって脱税工作の体をなしていないのである。

まず、第二取引においては、邦託商会がその実坪五〇〇万円で仕入れた姫路物件を被告人会社へ坪六五〇万円で売却することにより、邦託商会に坪一五〇万円の転売差益が発生する。

この転売差益には、邦託商会に法人税が賦課される。

その際の法人税とは、一般の税額(税率四〇%)と土地重課税(税率三〇%)である。

右の内、決算時の当期利益に課税される一般の税額については、邦託商会のかかえている多額の累積欠損額で前記転売差益の全額を消却できることになっていたので、邦託商会の決算の際に前記転売差益が当期利益を生じさせることがなかった。

このため、邦託商会には一般の税額は賦課されないことになっていた。

ところが右の内、土地重課税については決算の際の当期利益の有無にかかわらず、前期転売差益額自体に課税されるので、邦託商会はその賦課からまぬかれることはできなかった。

そこで被告人会社は第二取引の利益分配に際し、別紙7記載の通り、その転売差益の内から邦託商会に対して、

利益分配金として 六二〇〇万円

土地重課税納付資金として 約八〇〇〇万円弱

以上合計 約一億四二〇〇万円弱

を実額交付したのであった。

原判決は、第二取引において被告人会社が坪五〇〇万円の売買代金を、坪六五〇万円に引きあげたことをもって、被告人会社の三友への転売差益(第二取引がなかったとすると本来は坪二〇〇万円の転売利益が発生)を坪二〇〇万円から坪五〇万円に圧縮し、差引坪一五〇万円の転売差益についての脱税をはかったという。

仮に百歩譲って原判示の通り第二取引が被告人会社の脱税工作であったとすると、被告人会社の手許には、第二取引を行うことによって得た、なにがしかの脱税利益が残存していなければならない。

脱税工作は、右の脱税利益の獲得を唯一の目的として行われるのであるから、当然のことである。

しかるところ、被告人会社は第二取引において邦託商会に土地重課税納付資金として、約八〇〇〇万円の金員を分配したことにより、被告会社は、何等の脱税利益を得られていない。

第二取引により三友への転売差益が坪一五〇万円分圧縮された結果、被告人会社がその圧縮分についての税額(土地重課税約八〇〇〇万円弱)申告をしなかったことは原判示の通りである。

しかしながら、他方において被告人会社は前記の通り邦託商会に対し、第二取引において転売差益坪一五〇万円分の土地重課税納税資金約八〇〇〇万円弱を分配している事実がある。

つまり原判示において脱税(脱税額約八〇〇〇万円弱)をしたとされている一方で、被告人会社はこれと同金額の納税資金を邦託商会へ分配している結果、被告人会社の手許には差引一銭の脱税利益額も残存していない。

このような脱税工作(原判示の云う第二取引)はおよそ行うこと自体全く意味がない。

以上の通り脱税利益の得られないところに、脱税工作や脱税の行われる余地は無いのであるから、原判示の被告人会社における脱税工作は事実誤認の何物でもない。

姫路物件を三友へ転売するにつき、第二取引が脱税工作であると云い得るがためには、被告人会社が邦託商会に約八〇〇〇万円弱の土地重課税の納付資金を分配していないことが大前提となる。

なぜなら、この場合には被告人会社に約八〇〇〇万円弱の脱税利益額が残存することになるからである。

しかるに被告人会社が右の約八〇〇〇万円弱の土地重課税納付資金を邦託商会に分配している以上、第二取引が原判示認定の脱税工作たり得ることはないのである。

二、原判示のダミー料と否認登記料について。

次に原判決は、姫路物件につき原判示別紙1の(注)において『(有)邦託商会はダミーであり、同社の代表取締役越喜邦に対し支払った金員(永尾の分担を除く)は、脱税経費であり、経費であることは否認する』旨判示する。

そして原判決五六ページにおいて被告人岩田が越に対し支払った金員の額は

一億六二二三万三一五九円

であり、右金額を脱税経費とする旨判示するのである。

1、ここで再び別紙4を参照していただきたい。

平成二年度における被告人会社の原判示脱税額は

C 一億五二三七万一四〇〇円

である。

これに対し、原判決が脱税経費であるとして否認している金額、つまり被告人岩田が越へ支払った金額は、

一億六二二三万三一五九円

である。

被告人岩田の越への原判示支払額(ダミー料)は原判示脱税額を

九八六万一七五九円

も上廻る金額である。

そうすると被告人会社は、一億五二三七万円(端数略、以下同じ)の脱税をするために一億六四二四万円(端数略、以下同じ)の脱税経費をかけた結果、被告人会社には一一八七万円(端数略、以下同じ)の欠損が発生したということになる。

確かに税法上は否認さえすれば、否認経費額は人為的に所得額に化することになる。

しかしながら、それはあくまでも課税上の擬制にすぎないのであって、現実には支出されて手許に存在しない金員額を手許に温存されている所得として取扱うだけのことである。

従って右のような課税上の擬制が為されると否とにかかわらず、被告人会社の手許から、原判示で否認されている一億六四二四万円が邦託商会と登記料へ流出している現実には少しの変わりもないのである。

しかもこの一億六四二四万円は原判示によると脱税経費であるというのであるから、一億五二三七万円の課税をまぬかれるための経費支出であった。

仮にそうであるならば、右の脱税経費を使って右の脱税などをするよりも、脱税をせずに一億五二三七万円の正規税額を正規に申告した方が、被告会社にとっては一一八七万円(端数略、以下同じ)分安上がりということになる。

つまり被告人会社においては一一八七万円分もの余分な費用(脱税経費)をかけて、わざわざ脱税する必要も理由もなく、原判示の脱税工作や脱税は起り得るべくもなかったのである。

以上結論として、被告人会社が邦託商会へ支払った一億六二二三万円はダミー料(脱税経費)であるということをもってしてはその説明がつかない。

右支払金員をダミー料(脱税経費)であるとする原判示は、事実を誤認していると断ぜざるをえない。

早い話が原判示をもってしては、被告人会社の邦託商会への支払金員がダミー料であることの説明ができないのであり、かつ又説明不能なのである。

又原判示の証拠は右の支払金員がダミー料である事実を解明し証明していないのである。

2、なぜ原判決は右の支払金員をダミー料である旨の事実を誤認したのか。

その理由は簡単明瞭である。

それは原判決が、邦託商会を被告人会社のダミーであると頭から決めつけて事実認定を行ったことにその原因がある。

原判示五九ページから六〇ページによると姫路物件取引は、被告人会社一人の売買であったとされている。

小南興産は共同事業者であるとは云え、単なる姫路物件の仕入先・販売先の紹介者にすぎず、又邦託商会にいたっては共同事業者ですらなく被告人会社の単なるダミーにすぎないと、原判決は云うのである。

仮りにそうとすれば、姫路物件取引において一番重要な役割を果たしたのは被告人会社であり、以下その果たした役割の大小軽量の序列は、小南興産、邦託商会の順となる。

従って姫路物件取引で得られた利益の右三者間における分配額の多寡も右の序列順になっていなければならないし、またそうなるのが自然である。

さてここで本書添付別紙3を参照していただきたい。

姫路物件取引における原判示土地譲渡利益額は

三億四二六五万〇五二二円

であるとされていて、右金額が被告人会社、小南興産、邦託商会、以上三者に分配されている。

原判示によると、右三者への分配金の手取実額は、

小南興産 一億一〇〇〇万〇〇〇〇円

邦託商会 一億六二二三万三一五九円

被告人会社 六八四〇万六三八三円

となっている。

もっとも右の内、邦託商会への分配金手取実額中には姫路物件取引についての納税資金八〇〇〇万円が含まれているので、これを差引くと、邦託商会の実質的な手取実額(可処分所得額)は、

八二二三万三一五九円

となる。

3、右の結果から明らかなように、姫路物件取引の利益分配において、原判示では一番重要な役割を果たしているとされている被告人会社の利益分配額が一番少ない。

被告人会社の利益分配額は、被告人会社のダミーにすぎないとされている邦託商会よりも

名義額で 九三八二万六七七六円

実質額で 一三八二万六七七六円

も下廻っていることが明らかである。

原判示によれば、被告人会社の一人取引であるとさえ指摘されている姫路物件取引において、被告人会社の利益分配額よりも、そのダミーにすぎない邦託商会の方が多額であるのは余りにも不自然である。

原判示の通り邦託商会が被告人会社のダミーであるならば、右のような利益分配額の逆転は起り得るべくもない。

被告人会社及び邦託商会が姫路物件取引において果たしたそれぞれの役割についての原判示と、被告人会社及び邦託商会の利益分配額の原判示とは、明らかに矛盾しており、原判示はその理由に齟齬があり、到底破棄をまぬかれない。

4、要は原判示において姫路物件取引につき、邦託商会がその実共同事業者であるのに、これを被告人会社のダミーであると認定し、かつ被告人会社が邦託商会へ支払った金員がその実共同事業利益分配金であるのに、これを脱税経費であると認定し、経費否認をして被告人会社の法人所得に組入れていることに全ての原因がある。

これが原因して原判決は、別紙4記載のとおり被告人会社が一億五二三七万円(端数略)を脱皮するために、これを上廻る金額である一億六四二四万円(端数略)の脱税経費を使った旨の不自然不条理な認定をしたり、又一億五二三七万円(端数略)を脱税するために、これを上廻る脱税経費一億六二二三万円(端数略)を被告人会社が邦託商会へ支払った旨の全同様の認定をすることの事実誤認に陥っているのである。

さらには別紙3記載の通り、被告人会社の利益分配金(手取実額)と邦託商会の利益分配額(原判示の云うダミー料、仮りに経費否認すべきものであったとしても、ダミーの対価・報酬として邦託商会へ支払われたことには変わりはない)とが、原判示において逆転しているのも同じ原因に起因しているものである。

三、原判示の永尾分ダミー料と被告人会社分ダミー料との比較。

原判示は、その四九ページにおいて、邦託商会は永尾と被告人会社の双方のダミーである旨判示する。

邦託商会が永尾のダミーであることは、原審以来被告人・弁護人の主張する所である。

しかしながら邦託商会が被告人会社のダミーでないことは、原判示において被告人会社が邦託商会へ支払ったとされているダミー料の金額が原判示永尾分ダミー料の約四倍近くの金額である事実に徴し、明白である。

別紙5『ダミー料金額比較表』は右の事実関係を図示したものであり、同表記載に沿って、以下にその事実を明らかにする。

1、原判示の永尾裏金の金額は、坪あたり一五〇万円の一七七・五六坪分の金額、

すなわち、

二億六六三四万円

である。

永尾は、その実右金額を売買代金として取得しておきながら、邦託商会が永尾のダミーとして介在することにより、これを裏金としてその分の課税をまぬかれた(別紙5<1>参照)。

平成元年一一月三〇日の永尾・邦託商会間の売買契約時点において、邦託商会は永尾から坪五〇〇万円(表坪三五〇万円、裏坪一五〇万円)で取得した姫路物件を、裏表なしの坪五〇〇万円で被告人会社へ売却する旨の売買契約をも合わせて被告人会社と締結した。

その結果、邦託商会は表向きは坪三五〇万円で仕入れた姫路物件を坪五〇〇万円で売却することになったため、邦託商会には坪一五〇万円、総額二億六六三四万円の名目上の土地譲渡利益額が発生することになった。

この名目土地譲渡利益額に対してはその三〇%相当額の土地重課税、

約 八〇〇〇万円弱

と四〇%相当額の一般の税額

約一億〇六五三万円弱

合計 約一億八六五三万円弱

の法人税が課税されることになった。

早い話が、永尾の裏金所得を邦託商会がかぶって邦託商会の所得とし、永尾に課税されるべき土地重課税及び所得税を、永尾にかわって邦託商会が納税することになった。

以上が、邦託商会が永尾のダミーであると云われている所以である。

以上の脱税工作を行った報酬として、邦託商会は永尾から原判示四六三四万円の報酬(ダミー料)を得た(別紙5の<1>参照)。

右報酬額を控除した永尾の裏金取得実額は原判示によると二億二〇〇〇万円であったという。

2、次に邦託商会が被告人会社からダミー料を取得するに至った経緯は、原判示によると以下の通りである。

前記の通り平成元年一一月三〇日の時点で邦託商会は姫路物件を坪五〇〇万円で被告人会社へ転売することになっていたが、平成二年一月に入って被告人会社は日本モーゲージから一〇億円の融資を得られることになった。

そこで被告人会社は、その融資金を資金に使って邦託商会からの買値を従前の坪五〇〇万円から坪六五〇万円に引上げた。

つまり邦託商会を被告人会社のダミーに使って邦託商会から姫路物件仕入値を坪一五〇万円分高くし、被告人会社の三友への転売差益をその分圧縮するという脱税工作を被告人会社が敢行したと、原判決は云うのである。

原判示の被告人会社の脱税工作により、邦託商会が被告人会社にかわって所謂かぶることになった土地譲渡利益額は、別紙5<2>記載の通り、坪一五〇万円((値上げ額)分の一七七・五六坪についての金額、すなわち、

二億六六三四万円

である。

右の金額は、邦託商会が永尾にかわってかぶった土地譲渡利益額と同一金額である。

しかるところ原判示によると、被告人会社は永尾の場合と同一のかぶり金額二億六六三四万円について、邦託商会に対し、

一億六二二三万三一五九円

を支払ったと云うのである。

被告人会社の支払った右ダミー料は、永尾の支払ったダミー料の実に約四倍にも相当する。

3、ところで被告人会社の行った原判示脱税工作についてのダミー料には、これに先行して行われた永尾の脱税工作において同一金額のかぶりについてのダミー料が 四六三四万円

であるとの先例が既に存在していた。

仮りに原判示の通り被告人会社が邦託商会へ支払った一億六二二三万三一五九円がダミー料(脱税経費)であるとするならば、永尾の場合と同額の四六三四万円を支払えば、これをもって被告人会社は邦託商会に対するダミー料を決済できた筈であった。

被告人会社が邦託商会へ支払ったダミー料は、永尾の場合のダミー料の約四倍相当額であり、金額的観点から考えても、ダミー料であるとは直ちに決めつけることのできない金額である。

被告人会社が邦託商会へ支払った金員がダミー料であると認定するのであれば、被告人会社支払のダミー料がなぜ永尾分ダミー料の四倍なのか、被告人・弁護人がダミー料ではないと争っているのであるから、原審はその理由・事情も合わせて審理し原判決に判示すべきであろう。

原判決はこの点の審理・判決を全く行うことなく、被告人会社が邦託商会へ支払った金員がダミー料(脱税経費)であるとする原判示認定は、審理不尽・理由不備のそしりをまぬかれず、右認定は違法であり、破棄をまぬかれない。

4、被告人会社の邦託商会に対する支払金額は、ダミー料であると云うよりむしろ共同事業利益分配金相応の金額であり、原審において検察官からは、永尾分ダミー料と被告人会社分ダミー料との間に四倍もの格差の存在することの相当性につき、何等の主張も立証もなかったのであるから、原審は被告人会社の邦託商会に対する支払金員が共同事業利益分配金である旨を優に認定することができた筈であった。

被告人会社の邦託商会への支払金員をダミー料(脱税経費)であるとする原判示認定は明らかに事実を誤認しており、到底破棄をまぬかれない。

四、永尾分ダミー料金額についての事実誤認について。

原判決は、邦託商会が永尾から四六三四万円のダミー料を貰って永尾のダミーになった旨を認定する。

しかしながら、右の原判決認定の方法をもってしては、邦託商会は永尾のダミーになろうにもなれなかった。

その理由は簡単明瞭である。

それは、以下の事情により原判示の方法をもってしては、邦託商会においてビジネスとして原判示のダミー業が成り立つ余地がなかったからである。

原判示の右認定は不合理かつ不自然であり、到底破棄をまぬかれない。

1、前記の通り平成元年一一月三〇日の契約時点で、邦託商会は永尾から姫路物件を表向きは坪三五〇万円(プラス裏金坪一五〇万円)で仕入れて、これを坪五〇〇万円で被告人会社へ売却する約定をした。

2、その実坪五〇〇万円で仕入れたものを坪五〇〇万円で売却するのであるから、邦託商会に利益は全く生じない。

又原判示によると、三友への姫路物件の売却は被告人会社と小南興産の二人だけの共同事業になっているため、三友への売却利益の分配に邦託商会はあずかることができない。

その一方で、表向きは坪三五〇万円で永尾から仕入れたものを坪五〇〇万円で被告人会社へ売却するのだから、邦託商会には表向き坪一五〇万円の名目差益(土地譲渡利益)が発生する。

この名目差益に対しては法人税が邦託商会に課税されることになる。

この課税される法人税には、土地重課税と一般の税額とがある。

3、この法人税の内、一般の税額は邦託商会の平成二年四月期における損益計算書及び貸借対照表上の当期利益額(繰越損益額を含む)に課税されるところ、邦託商会は多額の累積欠損金を抱えている由にて、前記名目差益額は累積欠損と差引勘定され、累積欠損額に吸収されてしまうため、一般の税額は邦託商会につき発生しない(邦託商会が永尾のダミーになるについてはそのような触込みになっていた)

ところが土地重課税の方は、一般の課税とは異なり、当期利益額に課税されるのではなく、個々の取引自体の土地譲渡利益に課税される。

このため邦託商会が如何に多額の累積欠損をかかえていたとしても、それとは無関係に土地重課税(税率三〇%)が発生してしまう。

4、邦託商会が永尾のダミーを兼ねた姫路物件の買主になることにより、邦託商会に生ずる土地重課税は約八〇〇〇万円弱であった。

そうすると、邦託商会は永尾から原判示ダミー料四六三四万円ばかりの金を支払って貰っても、邦託商会には差引三三六六万円の赤字が発生してしまい、採算がとれず、ビジネスとして成り立つ余地がなかった。

永尾のダミーを兼ねた同物件の買主になったところで邦託商会は一銭の得にも無いどころか、差引三三六六万円の租税負担のみを負うことになるからである。

これでは、前記原判示事実をもってしても、邦託商会は永尾のダミーを兼ねた同物件の買主になろうにもなれる筈も無かったし、又被告人会社においてもその実情が良く判っているだけに、邦託商会に対して、永尾のダミーを兼ねた同じ物件の買主になってくれと依頼するわけにはゆかなかったのである。

原判示は右の点を見落としたために事実を誤認した。

五、邦託商会が共同事業者になった経緯<その1>

被告人岩田が永尾のダミーを邦託商会へ依頼するにあたり考えたことは、右の原判示とは異なり、以下の通りであった。

1、法人税の内、一般の税額の発生原因となる表向き坪一五〇万円の名目利益額は、邦託商会の累積欠損額との差引勘定で消去されるので邦託商会に一般の税額は発生しないことになる。

2、次に法人税の内、土地重課税(税額約八〇〇〇万円弱)については、邦託商会の累積欠損金額を使うことによってはその処理ができないので、邦託商会は永尾から、坪一五〇万円の永尾裏金総額二億六六三四万円の内、約八〇〇〇万円をダミー料として支払を受け、邦託商会はこのダミー料を土地重課税の支払資金にして納税する。

3、以上1・2の措置により、邦託商会の法人税問題は邦託商会の負担にならずに全て解決される。

しかし、その結果邦託商会は永尾のダミーを兼ねた同物件の買主をつとめても、金銭的利益を全く得られないことになる。

それでは邦託商会に永尾のダミーを引き受けては貰えない。

しかし邦託商会がその買主をかねた永尾のダミーになることにより被告人会社が邦託商会を介して永尾から姫路物件を取得できさえすれば、被告人会社は同物件を三友へ転売できることになる。

そこで邦託商会の被告人会社に対する姫路物件の引渡しを、被告人会社及び小南興産の行う三友への転売の共同事業行為とし、三友への同物件の転売を可能にした最大の功労者として、邦託商会を共同事業者の一人に加え(その結果、共同事業者は被告人会社、小南興産、邦託商会の三者となる)、三友への転売益(転売差益坪二〇〇万円の一七七・五六坪分、合計三億五五一二万円)を、邦託商会を含む三者間で分配し、邦託商会の功労に報いることにする。

六、邦託商会が共同事業者になった経緯<その2>

被告人岩田が越に対し、邦託商会において永尾のダミーになって貰いたい旨を依頼するについては、被告人岩田の以上の考えを越に申向け、越も被告人岩田の考えに同意をして、その結果、邦託商会が永尾のダミーになることを引き受けたのである。

邦託商会がひとまず永尾のダミーになり、しかる後に引続いて被告人会社及び小南興産と共に姫路物件取引の共同事業者となることについては、被告人岩田から小南興産へその旨を提案し、小南も同提案を了解した。

邦託商会が加わることで、共同事業者が一名増加し三名になれば、三友への転売利益についての一人頭分の共同事業利益分配金が減少することになる。

このため、被告人岩田が小南の了解を得るのは当然のことであったが、小南が被告人岩田の提案に異論のあろう筈もなかった。

なぜなら、邦託商会に永尾のダミーを引受けて貰えなければ、姫路物件を永尾から引取って三友へ転売することが不能となり、その結果小南興産は金額の多寡を問わず、三友への転売利益についての分配を得られなくなり、小南の行って来た従前の御膳立(被告人会社という資金提供者の確保、三友という転売先の確保等々)が水泡に帰すことになるからであった。

以上の経緯を経て邦託商会は永尾のダミーをかねた姫路物件の買主になったのである。

この時点段階においては、邦託商会が坪五〇〇万円(表坪三五〇万円、裏坪一五〇〇万円)で永尾から引取った姫路物件を、被告人会社が同額の坪五〇〇万円(表・裏なし)で邦託商会から引渡を受けたうえ、坪七〇〇万円で三友へ転売し、その転売益を三者間で分配することになっていた。

従って、この時点段階では被告人会社も又小南興産も三友への転売利益の一部を邦託商会にかぶってもらう考えも又その予定もなかったから、邦託商会は如何なる意味においても、被告人会社のダミーではなく、被告人会社及び小南興産に並ぶ姫路物件取引の共同事業者の一人であった。

邦託商会は永尾と被告人会社との双方のダミーを兼ねて姫路物件取引に関与した旨の原判示認定は、明らかに事実を誤認している。

原判決は、被告人会社の邦託商会からの姫路物件取引値が従前の坪五〇〇万円から坪六五〇万円に値上げされた事実をもって、邦託商会を被告人会社のダミーであると決めつけている。

しかしながら右の値上げは平成二年一月に入ってからのことであって、邦託商会が姫路物件取引に関与し始めた当初の平成元年一一月三〇日(契約締結日)の時点段階においては、右の値上げは予定されておらず、又被告人会社、小南興産、邦託商会の三者間において、予見すらされていなかったことであった。

以上の通り邦託商会が姫路物件取引に関与したのは、永尾との関係においては永尾の脱税手段としてのダミーであったにしても、被告人会社・小南興産との関係においては、姫路物件を永尾から引取って被告人会社へ引渡す(共同事業行為)という、三友への同物件転売を可能にするための共同事業行為者であったのである。

七、邦託商会が共同事業になった経緯<その3>

ところで小南興産と被告人会社は原判示三三ページ記載の通り、かねてより日本モーゲージに融資の申入れをしていたが、日本モーゲージから果たして融資が得られるか否か、又は融資が得られるとしてもその融資額は一切不明であった。

しかるところ、平成二年一月五日に至りはじめて一〇億円の融資の得られることが判明し、同月一〇日には被告人会社に一〇億円の融資が実行された。

これを受けて被告人岩田は、始めて邦託商会から姫路物件の取引値を従前の坪五〇〇万円から坪六五〇万円に引上げて、その結果邦託商会の手許に発生することになる差引坪一五〇万円の差益(総額二億六六三四万円)を被告人会社、小南興産、邦託商会、以上の三者間で分配しようと考え、かつこれを実行した。

もともと姫路物件取引は被告人会社と小南興産の二者限りの共同事業として始めたものであった。

ところが永尾から坪一五〇万円の裏金を要求された。

この裏金要求につき、被告人会社及び小南興産においては累積欠損金が存在しないため、その裏金処理ができなかった関係で姫路物件を買取ることができなくなった。

仮りに被告人会社・小南興産が裏金要求をのんで姫路物件を買取り三友へ転売したすると、別紙6<2><3>記載の通り正規の転売差益(坪二〇〇万円)に加え、裏金坪一五〇万円分の名目上の転売差益(二億六六三四万円)が表面化し、この名目差益に課税されることになる。

この名目差益に課税されるおよその法人税額は、

一般の税額(四〇%) 約一億〇六五三万円

土地重課税(三〇%) 約七九九〇万円

合計 約一億八六四三万円

であり、右の税額を正規の転売差益の中から負担しなければならない。

その外に坪二〇〇万円の正規の転売差益(一七七・五六坪分、総額三億五五一二万円)につき、

一般の税額 約一億四二〇四万円

土地重課税 約一億〇六五三万円

合計 約二億四八五七万円

を支払わなければならない。

以上の税額総額は、別紙6<3>記載の通り、

約四億三五〇〇万円

となり、正規転売差益額三億五五一二万円を超過してしまい、その結果坪二〇〇万円の転売差益の全てを税金にとられたうえ、更に七九八八万円の支払不能の税額が残存することになる。

これでは利益どころか登記料等の経費すら出ず、姫路物件取引が商売として成り立たない。

このため被告人岩田は永尾からの姫路物件の買取と三友への転売を断念せざるを得なかったのである。

被告人会社が断念せざるをえなかった、この姫路物件取引を実現可能にしてくれたのが、邦託商会であった。

それ故に、被告人会社及び小南興産にとってみれば、邦託商会は三友への同物件転売実現の最大の功労者だったのであり、その功労のゆえに邦託商会は姫路物件取引の共同事業者になったのである。

ところが平成二年一月に入り日本モーゲージから一〇億円の融資を受けたことで被告人会社には資金に余裕が生じた。

そこで被告人会社と小南興産は、心ならずも共同事業者にせざるを得なかった邦託商会がその分配にあずかることのできる三友への転売差益の範囲を、右の余裕資金を使って本来の坪二〇〇万円から坪一五〇万円に仕切ったうえ、その残余坪五〇万円の差益を元々の共同事業者である被告人会社と小南興産の二者だけで分配し、その分配から邦託商会を除外しようとした。

その手段方法が、邦託商会からの従前引取値坪五〇〇万円を坪一五〇万円引上げて坪六五〇万円に変更し、その結果邦託商会に生ずることになった坪一五〇万円、一七七・五六坪分の差益二億六六三四万円を三者間で分配するという方法だったのである。

右の措置によって、三者の内最大の功労者である共同事業者の邦託商会への差益分配金額の膨脹を防ごうとしたのである。

この点につき原判決はその二六ページから二八ページにおいて弁護人主張を種々論難し、結果として『一つの物件の売買が買主と売主の共同事業者であって、売主が得た利益を買主を含めた共同事業者間で分配するという主張自体が、合理性を欠いた主張であると云わざるを得ない』(原判示二八ページ)などとしている。

しかしながら右判示の見解は、平成元年一一月三〇日(契約締結日)に邦託商会が姫路物件取引にはじて関与した時には被告人会社のダミーになる余地がなかったにもかかわらず、これを正解せず、邦託商会はその時点から永尾及び被告人会社の双方のダミーとして同取引に関与したのだ、という事実誤認を前提とする間違った見解である。

更に右の原判示見解は、邦託商会が、同日、他の二人と共に同物件取引の共同事業者になったときの、その対象たる共同事業の範囲及び内容が『永尾から姫路物件を取得して三友へ同物件を転売すること』であったことを正解していないことに起因するものである。

以上の次第により右原判示見解は失当たるをまぬかれない。

右の通り邦託商会が共同事業者に加わった結果、三者間の役割分担は、

・邦託商会………永尾から姫路物件を取得して被告人会社へ引渡す、

・小南興産………同物件の売主(永尾)と同物件の転売先(三友)の確保、

・被告人会社……資金提供

ということになった。

八、永尾の取得した裏金の実額と永尾分ダミー料金額。

原判決は、その三五ページにおいて被告人会社が永尾に渡した裏金は二億二〇〇〇万円である旨を認定し、更にその五五ページにおいて、被告人会社が邦託商会の越喜邦に渡した永尾ダミー料は四六三四万円である旨を認定するが、右認定は以下に記載する通りいずれも事実誤認である。

1、永尾から邦託商会へ支払われたダミー料が原判示の四六三四万円どまりであっては、邦託商会はその課税にかかる約八〇〇〇万円弱の土地重課税を支払うことができないばかりか、差引約三三六四万円の欠損を出し採算がとれない。

このため邦託商会が第一取引において永尾のダミーになることは不可能であった。

以上の次第により原判示の右永尾ダミー料金額が事実誤認であることは先に指摘した通りである。

邦託商会が第一取引において永尾のダミーになることができるためには、被告人会社を介して邦会商会へ支払われたダミー料額が、第一取引につき邦託商会へ課税される土地重課税相当額約(八〇〇〇万円弱)と同額か、あるいはそれ以上でなければならなかった。

邦託商会への永尾ダミー料の支払原資は永尾分裏金額の

二億六六三四万円

であったから、被告人会社から永尾へ支払われた裏金の交付実額は、別紙7の<1>記載の通り右土地重課税相当額(約八〇〇〇万円弱)控除後の

一億八六三四万円余り

でなければならない。

つまり、永尾裏金の共同保管管理者の一人(もう一人の保管管理者は邦託商会)であった被告人会社としては、第一取引について邦託商会に約八〇〇〇万円弱の土地重課税が課税されることを考え合わせるならば永尾に対して

一億八六三四万円余り

以上の裏金を実額交付しようにも交付できなかったのである。

要するに被告人会社は永尾に約一億八〇〇〇万円台の裏金しか実額交付していないのである。

現に検甲第七六号証小南旭の供述調書二二ページから二四ページにおいて、小南旭は『岩田から現金が入った鞄を渡され、私が現金を確認した、全部で一〇〇〇万円の束が一八個あり、一億八〇〇〇万円あった』と供述しており、又被告人岩田も検乙第一四号証の自供調書において『良く覚えていないが、一億九〇〇〇万円か二億円だつたと思う』と供述している。

以上の次第により、被告人会社の永尾に対する裏金の交付実額を二億二〇〇〇万円であるとする原判示認定は事実誤認である。

九、被告人会社分ダミー料認定についての審理不尽。

原判示は邦託商会が被告人会社から交付された金員実額は二億〇八五七万三一五九円である旨を認定している。

この認定は、被告人・弁護人らが原審にて主張立証したところをほぼ是認したものとして評価に値するものである。(弁論要旨五三ページ参照)。

しかるに原判決は、右の二億〇八五七万三一五九円が、どうゆう経緯によりどうゆう趣旨で被告人会社から邦託商会へ実額交付されるに至ったのかを、全く判示していない。

原判示が右金員につき判示しているのは、右金員が

<1> 七〇〇〇万円

<2> 四〇〇〇万円

<3> 四〇〇〇万円

<4> 五七六七万三一五九円(通帳残高)

<5> 九〇万円

合計 二億〇八五七万三一五九円

の五回目に分割されて被告人会社から邦託商会へ実額交付されたこと及び右金員のうち四六三四万円が永尾分のダミー料であることを判示するのみである。

その残余の金員一億六二二三万三一五九円について原判決は邦託商会を頭から被告人会社のダミーと決めつけたうえ、ダミーに渡された金員なるが故にその全額がダミー料だ、脱税経費だと云う。

仮に百歩譲って右の金額が原判示通り所謂ダミー料(脱税経費)であったにせよ、

一億六二二三万三一五九円

もの多額の金員について、何がしかの明細が存在しないはずはない。

そこで右金員がダミー料であることの検証がなされるためには、『その明細と明細金額』及び『その明細がいずれもダミー料の性質を有すること』、『その各明細の合算額が右金額になること』以上の諸点が判示されなければならないのに、原判示はこのことにつき何一ツ判示していない。

更に原判示によると、邦託商会は共同事業者の小南興産とは異なり、ダミー行為をしたにとどまり、何一ツ共同事業行為をしていないというのである。

その結果、姫路物件を三友へ売却したことにより、発生した転売差益(坪二〇〇万円)に対する貢献度は邦託商会が一番低いということになる。

従って三友への転売差益を被告人会社、小南興産、邦託商会への三者間で分配するときに、共同事業者ではない邦託商会への利益分配額は右三者間において最も低額であって然るべきである。

ちなみに小南興産への利益分配金は第三取引分を含めて一億一〇〇〇万円である。

そこで邦託商会がダミーであったとすると、邦託商会への利益分配額(原判示の云うダミー料)が、右の一億一〇〇〇万円を上廻ることはあり得べくも無い。

ところが原判示によると、被告人会社から邦託商会への利益分配額(原判示の云うダミー料)はこの前記の通り

一億六二二三万三一五九円

であると云うのであるから、小南興産への利益分配額をはるかに超えている。

同様に別紙3記載の被告人会社の第三取引分を含めた利益分配金手取実額

六八四〇万六三八三円

をもはるかに超えている。

単なるダミーにすぎなかった邦託商会に対し、共同事業者である小南興産や被告人会社への利益分配額をはるかに超える利益分配額(原判示の云うダミー料)が、なぜなされたのか、その事情・理由を原判示は何一ツ判示していない。

邦託商会への利益分配額が単にダミー料であるとするだけでは、その説明が充分につくされたとは云えない状況にあるのである。

原判示の、邦託商会が被告人会社のダミーである旨の認定と邦託商会の得た利益分配額(原判示の云うダミー料)が三者間で最高金額である事実とは相容れずに矛盾しているのである。

この相反する二ツの事実関係について矛盾のない合理的な説明を、原判決は何一ツ判示していない。

第二取引につき邦託商会がダミーであると認定する以上、原判決にはこの点につき審理不尽、理由不備の違法があり、到底破棄をまぬかれない。

一〇、原判示ダミー料の明細。

そもそも被告人・弁護人らが原審において邦託商会へ交付した金員の総額(検察官主張額は一億五〇〇〇万円)が

約二億〇八五〇万円

である旨を主張した理由は次の通りである。

即ち別紙7の<1><2>記載の通り被告人会社から邦託商会に交付された金員の明細内容は、

A 第一取引における土地重課税資金税相当額の永尾分ダミー料 八〇〇〇万円弱

B 第二取引における利益分配金 六二〇〇万円

C 第二取引における土地重課税納税資金相当額 八〇〇〇万円弱

合計 約二億〇八五〇万円

であることを立証するためであった。

右のA・B・Cの内訳の内、AとCは邦託商会に課税される土地重課税の納税資金であり、邦託商会経由で納税されるため、邦託商会の可処分所得にならない。

邦託商会の可処分所得になるのは、Bの六二〇〇万円のみである。

つまり、邦託商会が被告人会社及び小南興産と同様の六二〇〇万円の利益分配を等しく受けている事実の立証をもって、邦託商会が被告人会社及び小南興産に同じく姫路物件の共同事業者であることを証明しようとしたのであった。

邦託商会が第二取引の共同事業者になった理由は、先にも記載した通り、第一取引において永尾のダミーとなった邦託商会が、永尾からダミー料八〇〇〇万円弱の支払を受けたものの、可処分所得を全く得られていなかったことの補償ないし、埋め合せであった。

邦託商会が永尾から八〇〇〇万円弱のダミー料しか得られないのでは、永尾のダミーとなって姫路物件を買取り被告会社へ売渡すことの協力を邦託商会から得ることができず、その結果姫路物件取引から被告人会社は手を引かざるを得なかった。

そこで被告人会社と小南興産は、邦託商会の被告人会社に対する姫路物件引渡行為を、被告人会社が同物件を取得して三友へ転売することの共同事業行為であると評価して、邦託商会を第二取引の共同事業者の一人とし迎え入れて、邦託商会に共同事業利益の分配を行うことにしたのである。

その結果が、被告人会社においては前記の通り邦託商会に対し

合計二億〇八五〇万円

を支払うという事実となって現われて来たのである。

そして今、原判示において被告人・弁護人らの原審での主張額(約二億〇八五〇万円)にほぼ沿った金額(二億〇八五七万三一五九円)が認定されるに至った。

原判決は右認定金額の内、永尾裏金を支払原資とする四六三四万円がダミー料として被告人会社を介し永尾から邦託商会へ支払われた旨を判示するが、その余の金額(一億六二二三万円)の明細については判示するところが何もない。

そこで仮りに原判決が右の金額の明細につき審理を尽くしたと仮定すれば、邦託商会が被告人会社から受取った金員の明細が、被告人・弁護人主張の通り

別紙7の<1>のA

〃<2>のB

〃<3>のC

であることを優に認定することができた筈である。

かつ又第一取引で永尾のダミーにすぎなかった邦託商会が第二取引では被告人会社及び小南興産の共同事業者として同取引に関与し、六二〇〇万円の共同事業利益の分配、八〇〇〇万円弱の土地重課税資金の分配を受けたことを合わせて原判決は認定することができた筈である。

要するに原判決は、その認定するところの被告人会社が邦託商会に交付した二億〇八五七万三一五九円の明細につき、その全容解明の審理を怠ったのである。

その審理不尽が原因で、被告人・弁護人の主張する邦託商会が第二取引の共同事業者であることの事実及び邦託商会が第二取引で被告人会社から支払を得た金員が共同事業利益分配金であることの事実を、ついに認定することができずに事実を誤認した次第である。

一一、土地重課税の納税義務者について。<その1>

原判決は、その二一ページないし二二ページ及び五九ページにおいて複数の者が不動産取引に関与した場合には、一般論的な定義として、

・民法所定組合契約にもとずく場合

・商法所定匿名組合契約にもとずく場合

の二通りがあり、そのいずれかに該当するかによって土地重課税の仕方、つまり同税の納税義務者が異なることを説示している。

その一方で原判決はその三六ページ及び五九ページにおいて小南興産が姫路物件取引につき被告人会社の共同事業者である旨を認定している。

しかしながら原判決は、被告人会社と小南興産との共同事業である姫路物件取引が、民法上の組合契約にもとずく組合に該当するのか、あるいは商法上の匿名組合による共同事業に該当するのか、を一言半句も判示していない(つまりこの点の審理を遂げていない)。

ちなみに、原審において検察官は、姫路物件取引は民法上の組合契約による共同事業である旨を主張していたが、原判決はこの検察官主張についてすら同主張を肯定する判示も、又、否定する判示もしていないのである。

しかしながらこの点を原判決で明確に判示しないことには、仮に邦託商会がダミーであって共同事業者ではないと仮定したとしても、その余の『共同事業者』であるとされている被告人会社と小南興産の内、誰が一体土地重課税の納税義務者なのかを確定することはできない。

つまり、納税義務者は被告人会社一人なのか、それとも小南興産一人なのか、はてまた、納税義務者はその双方なのか、を確定することはできないのである。

つまり原判決は、姫路物件につき土地重課税の納税義務者を確定していないのである。

納税義務者が正規税額を申告せずに不実の申告をすることが脱税(法人税法違反)となることはあっても、もともと納税義務の無い者が申告しなかったからといって法人税法違反に問われる筋合ではない。

このように原判決はみずからその説示する前記定義の具体例である姫路物件取引につき、同取引が前記定義のうちいずれの共同事業に該当するか、その結果同取引の土地譲渡利益に対する土地重課税納税義務者は誰なのか、を判示することなく被告人会社につき罪となるべき事実を認定している。

原判決の右認定には審理不尽、理由不備の違法があると云わざるを得ず、原判決は到底破棄をまぬかれない。

一二、土地重課税の納税義務者について。<その2>

原審においては検察官ですら、姫路物件取引は被告人会社と小南興産との民法上の組合契約による共同事業である旨を主張していた。

仮に検察官主張の通りとすると、被告人会社が邦託商会へ交付した原判示の二億〇八五七万三一五七円の脱税経費否認額は原判決五九ページ判示の一般的定義に従い、被告人会社と小南興産との間に各手取実額に応じた収支分割されるべきであった。

しかるに原判決は、姫路物件取引が検察官主張の民法上の組合契約による共同事業であることを明確に判示していない。

原判決がこの点を判示することなく、その六一ページにおいて、被告人会社が邦託商会に支払った脱税経費は被告人会社が一人負担するべきである旨を判示したことは、その論理に飛躍がありすぎ、粗雑乱暴に失し審理不尽、理由不備の違法を犯している。

なぜなら仮に姫路物件取引が検察官主張の民法上の組合契約による共同事業であるならば、被告人会社のみならず小南興産も同様に土地重課税の納税義務者である。

そうとすれば原判決五九ページ判示の定義に従い、脱税経費否認額は土地重課税の納税義務者である小南興産にも収支分割されるべきであったからである。

従前は通常の経費として取扱われていた費用が、当局の判定により脱税費用として経費否認されれば、そこに共同事業者に分配されるべき未分割の共同事業利益が事後的に出現するのであるから、このいまだ収支分割を経ていない共同事業利益額が、共に土地重課税納税義務者である共同事業者相互間に収支分割され、かつこの収支分割につき、各共同事業者が納税義務を負うのは極当然のことである。

原判決は、共同事業者である小南興産が被告人会社と共に等しく土地重課税の納税義務者であることを見落していたのである。

原判決五六ページないし六二ページの脱税経費についての原判示は、被告人会社一人のみに土地重課税義務があって、まるで小南興産には同税の納税義務が無いのかの如きである。

そして小南興産には納税義務がない関係で納税義務のある被告人会社一人のみに脱税経費否認額が収支分割されるべきであるとしているのであるが、この原判示は全て事実誤認たるをまぬかれない。

一三、土地重課税の納税義務者について。<その3>

原判決は、姫路物件取引が民法上の組合契約にもとずく共同事業者であること判示していないものの、その土地譲渡利益額(原判示別紙1・2参照)の内、一億一〇〇〇万円を小南興産へ収支分割するについては、同取引を明らかに民法上の組合による共同事業者として取扱っている。民法上の組合契約による共同事業の取扱いをするのでなければ、小南興産へ一億一〇〇〇万円が収支分割されることは起り得ないからである。

この場合、小南興産は土地譲渡利益額についての土地重課税の納税義務者であるということである。

ところがその一方で原判決は、同物件取引が商法上の匿名組合契約にもとずく共同事業であることは判示していないものの、脱税経費否認額の全額を被告人会社へ収支分割するについては、同取引を明らかに商法上の匿名組合による共同事業として取扱っている。

商法上の匿名組合契約による共同事業の取扱をするのでなければ、少なくとも『被告人岩田が自分の判断で姫路物件を購入するか否かを決め、その購入費用は被告人会社が全額負担している等の諸事情を考慮すれば永尾から姫路物件を購入したのは被告人会社一人であって小南興産は右物件の買主ではない』(原判示六〇ページ)ことを理由に脱税費用否認額の全額が被告人会社一人に収支分割されることは起り得ないからである。

原判決は右六〇ページの判示により姫路物件取引が民法上の組合契約による共同事業であることを明確に否定しているのである。

仮りに同物件取引が民法上の組合契約による共同事業であるとするならば、脱税費用否認額は、その一部が一億一〇〇〇万円と共に小南興産へ収支分割されなければならないのに、前記原判示の事実を原因として、小南興産へは、ただの一円すら脱税費用否認額を収支分割していないのである。

このように原判決は共同事業である姫路物件取引を一方では小南興産への一億一〇〇〇万円の収支分割につき民法上の組合契約扱をするかと思えば、他方では手の掌を返したように脱税経費否認額の全額を被告人会社へ収支分割して、これを商法上の匿名組合扱をすると云った両刀使をしている。

以上の通り原判決は姫路物件の取扱につき、理路一貫しておらず、その都度場当り的な事実認定を繰返し、その結果、その認定事実が相互に矛盾する結果をきたしている実状にあるので、到底破棄をまぬかれない。

一四、原判示収支分割の不当性について。<その2>

前記の通り原判決は、罪となるべき事実の認定にあたり、姫路物件を民法上の組合契約による共同事業扱をしたり、そうかと思えば商法上の匿名組合による共同事業扱をしたりしているが、基本的な方向としては、民法上の組合による共同事業であることを前提としているやに思われる。

それというのは、原審において検察官が姫路物件取引は民法上の組合契約による共同事業である旨を主張していること、及び原判決が右検察官の主張を前提として土地譲渡利益額の全額を被告人会社が取得したとすることなく、検察官主張の通り、その一部である一億一〇〇〇万円を小南興産へ収支分割していること、から右のように思われるのである。

ところが、前記の通り原判決は同取引が民法上の組合契約による共同事業であるとは、一言半句も判示していない。

その理由は原判決において同取引が民法上の組合にあたる共同事業である旨を、大上段に振りかざして認定し明確に判示することができない事情があったからである。

その事情とは、仮に原判決が右のように民法上の組合契約にあたる旨を認定し判示したときには、原判示二〇ページないし二二ページ及び五九ページの定義により、多額にのぼる脱税経費否認額の全額を、検察官主張の通りに被告人会社へ収支分割して所謂かぶせることが直ちにできなくなるからである。

又その結果右脱税経費否認額の一部を小南興産に対しても収支分割せざるを得なくなるからであった。

このため原判決は、姫路物件取引についての判示冒頭に前記の定義を高らかにかかげたものの、前記定義にかかる二通りの共同事業のうち、姫路物件取引が民法上の組合契約にあたることを、明確に判示しようにも判示できなかったものである。

かくして原判決は、姫路物件取引が民法上の組合契約による共同事業であることを敢えて明言することなく、この点をあいまいなままにして所謂なしくずし的に、その五六ページから六三ページにおいて被告人会社のみが脱税経費を負担すべきことを累々として判示している。

1、そもそも姫路物件取引というのは、永尾から同物件を仕入れて三友へ転売するという一連の取引をいう。

この一連の取引(仕入と転売)を被告人会社と小南興産の二人の共同事業として行ったのである。

小南興産は原判示の通り右一連の取引につき、永尾という仕入先の確保をし、又三友という転売先を確保していた。

右の確保ができていたため、小南興産は被告人会社の関与を得ず、独自に小南興産の仲介で同物件を永尾から三友へ直接売買しようと思えば、それも可能であった。

しかしながら、小南興産は敢えてそれをしなかった。

その理由は、右の場合には仲介手数料しか得られず、たいした儲けにならなかったからである。

小南興産は右の仲介方式をとらず、同物件を永尾から一旦仕入れて三友へ転売し、その間の莫大な転売差益を得ようとした。

しかしながら右転売方式をとるには億単位の莫大な資金を必要とした。

残念ながら小南興産にはその資金力が無かったのである。

そこで小南興産は原判示の通り被告人会社に声をかけて、被告人会社に同物件取引に要する資金の提供者になってもらい、二人の共同事業により仕入と転売の一連の取引を行うことにした。

右一連の共同事業における二人の分担は、

小南興産が仕入と転売先の確保

被告人会社が資金提供

ということであった。

以上要するに被告人会社と小南興産は姫路物件についての

仕入段階

のみならず、その仕入後の

転売段階

の双方を共同事業として行うということである。

そもそも同物件の転売差益なるものは永尾から仕入れた同物件を三友へ転売して始めて発生するのであるから、小南興産が転売差益の分配にあずかる以上、仕入と転売の双方を共同事業して行うことは、云うまでも無いことである。

それ故にこそ、小南興産は共同事業者として仕入と転売の双方に関与した挙句に、単なる仲介手数料の域をはるかに超えた、一億一〇〇〇万円と云う莫大な金員を転売差益分配金として得ることができたのである。

2、この点につき原判決は、その六〇ページにおいて『被告人岩田が自分の判断で姫路物件を購入するか否かを決めたものであり、その購入費用は被告人会社が全額負担していることなどの事情も考慮すれば永尾から姫路物件を購入したのは、被告人会社一人であって小南興産は右物件の共同買主ではない』と判示している。

しかしながら右判示は事実誤認もいいところである。

まず、右原判示は被告人会社が姫路物件を永尾から仕入れる段階について、その仕入れは、被告人会社の単独事業(被告人会社の単独買主、単独所有)であるとし、小南興産との共同事業(小南興産との共同買主、共有)であることを明確に否定している。

そのうえで、被告人会社の単独事業(単独買主)として同物件を被告人会社が永尾から仕入れたのであるから、脱税費用は被告人会社一人が負担すべきであり、同費用否認額は被告人会社一人へ収支分割されるべきだというのである。

右に関して、同物件の三友への転売が単独事業(単独売主、単独転売)か、共同事業(共同売主、共同転売)か、につき原判決六〇ページは何等触れていない。

しかし右の原判示を前提とすれば、その当然の論理的帰結として被告人会社における同物件の三友への転売も同様に被告人会社の単独事業(単独売主、単独転売)であるということにならざるを得ない(被告人会社が同物件の単独所有権を取得したとする以上、これを転売する関係においても被告人会社単独で転売したことになり、小南興産が共同売主となって共同転売をしたことにはならない)。

被告人会社が姫路物件を一人で永尾から仕入れたものであるならば、同物件を三友へ転売する関係においても、被告人会社一人の単独事業としてこれを転売したことになるわけであり、被告人会社のこの単独転売を阻害する事情は何も無い。

被告人会社一人がその単独事業(単独売主)として姫路物件を三友へ転売するにつき、永尾からの仕入のときと同様に小南興産がその仲介者として関与することは無論であり得る。

しかしながら被告人会社の右単独転売行為につき、姫路物件の共同買受人でもなく、その共有者でもないとされる小南興産が、少なくとも被告人会社の共同事業者(共同売主)としてその転売に介在できる余地はなく、被告人会社においても小南興産を共同事業者・共同売主としてその転売に関与させる必要も理由も又その余地も無いことになる。

要するに原判決五六ページないし六一ページの『脱税経費について』の判示は、仕入と転売からなる一連の姫路物件取引につき、仕入のみならず転売についても被告人会社と小南興産との共同事業であることを明確に否定していることになるのである。

原判示の通り、仮に永尾からの同物件の仕入が被告人会社一人の単独事業(被告人会社の単独買主、単独所有)であるならば、同物件の三友への転売も同様に被告人会社一人の単独事業(被告人会社の単独売主、単独所有)たらざるを得ず、その転売についてだけ、小南興産との共同事業関係・共同売主関係が成立する余地は全くないからである。

ところがその一方において原判決は、その五八ページにおいて小南興産を被告人会社の共同事業者であると認定し、被告人会社の小南興産に対する三〇〇〇万円、一八〇〇万円及び六二〇〇万円の共同事業利益分配金の支払を認定している。

以上の通り原判決はその判示において相矛盾する事実を認定しており理路一貫しておらず、その判決理由に理由齟齬の違法がある。

3、さらには、永尾からの姫路物件の仕入が被告人会社と小南興産との共同事業(共同買主)であればこそ、はじめて三友への転売も又右二人の共同事業(共同売主)として成立することになる。

しかるに原判示の通りその仕入段階が被告人会社の単独事業であるとした場合(被告人会社の単独買主、単独所有)にその後の転売について、なぜ被告人会社と小南興産との共同事業(被告人会社と小南興産との共有物件を二人が共同売主になって共同転売する)が成立するのか、その理由につき原判決は何も判示するところがない。

原判決は右一連の取引につき、その前半の仕入を被告人会社の単独事業としているのであるから、原判示のいう共同事業の内容は後半の転売しか残されていない。

前半の仕入が共同事業でないにもかかわらず、後半の転売についてだけ共同事業が成立する事情・理由についての判示なくして、三友への同物件転売につき右二人の共同事業の成立(二人の共同売主関係の成立)を認定した原判決には理由不備の違法がある。

よって原判決は到底破棄をまぬかれない。

4、被告人会社及び小南興産はみずから姫路物件を使用収益することを目的として永尾から同物件を仕入れたのでなく、これを三友へ転売するために仕入れた。

同物件は被告人会社及び小南興産にとっては右(仕入先)から左(転売先)へさばく商品なのである。

同物件は、これを商品として永尾から仕入れて三友へ転売することにより、その間の転売差益(土地譲渡利益)を得るための手段、所謂『商売のネタ』にすぎなかった。

従ってこの転売差益を得るために一番重要なことは、仕入先確保についての情報とその仕入物件の転売確保についての情報であり、商品である当該土地の取得経緯とか当該土地の仕入後の所有関係(原判示の単独所有か共有か)如何ではない。

被告人会社が行っていた所謂地上げ業は、土地の買い手(土地の需要者)と土地の売り手(土地の供給者)についての情報を集めて売り手と買い手を結びつけるという、所謂情報産業そのものであり、その情報なくして地上げ業は成り立たないのである。

その情報が仕入や転売という売買を成立させ、その結果莫大な転売差益を生み出すのであるから、その情報の保有する財産的価値は、測り知れないものがある。

資金提供者と情報提供者とが共同事業者として所謂地上げを行うことにつき、情報提供者の方が資金提供者よりも、その得られた転売差益に対する貢献度は高いのである。

原判決が判示しているような、商品である土地の仕入経緯とか、その仕入れ後の当該土地の所有関係についての重要性などは、本件の共同事業関係にとって二の次、三の次の話である。

原判決は、姫路物件取引につき以上の視点・観点からの考察、特に小南興産が保有していた土地の仕入先及び転売先についての情報の価値、についての考察に全く欠けている。

原判決はその六〇ページにおいて、同物件の取得(仕入)経緯のみを基準として、小南興産は同物件の共同買主でなく、又共有者でもないなどと云って、小南興産が同物件仕入れにつき共同事業者であることを否定するという、まるで見当違いの判示をしているのもこのためである。

その使用収益を窮極の目的として土地を取得するときには、その取得経緯とか、その取得後の所有関係はたしかに重要であろう。

しかし土地が商品であるときには、これを売買することにより転売差益を得ることが窮極の目的であるから、仕入れ先はあるのか、仕入れ後の転売先はあるのか、仕入れて転売したときに転売差益を得られるのか、が一番重要な事柄なのである。

この一番重要な事柄についての情報保有者であり、かつ又その情報提供者が小南興産だったのである。

原判決は、姫路物件の仕入時に被告人会社の関与の態様と程度(同物件取得時の経緯)を基準として同物件の買主は被告人会社一人だと判示するが、右判示は事実誤認である。

仮に右判示の通りであったとして、原判示の如く平成二年一月一六日に永尾から仕入れた同物件は、その三七日後の平成二年二月二一日には三友へ転売され(原判示二四ページ)、被告人会社は極く短期間に同物件の所有者ではなくなっている。

しかも、右の三七日間に被告人会社の所有権行使によって同物件が使用収益された実績は皆無である。

同物件の買主は誰か、被告人会社一人なのか(単独買主)、はてまた被告人会社と小南興産の二人(共同買主)なのか、を認定するのに際してその取得経緯を云々してみたところで、その三七日後には転売が実現して窮極の目的が遂げられてしまっている。

窮極の目的が遂げられてしまえば、同物件取得・仕入の経緯がどうであれ、さして重要なことではない。

原判示のようにさして重要でない同物件取引経緯を基準に、同物件の買主を決定するのは相当ではない。

同物件の取得(仕入)も、又その取得後の転売も、要は転売差益を得ると云う窮極の目的を遂げるために行われたにすぎないのであるから、この窮極目的を遂げるに誰がどれだけ貢献をしたのか、を基準に同物件取得時の買主と同物件転売時の売主が決定されなければならない。

まず、被告人会社がその所有名義にて邦託商会経由で姫路物件を取得できたのは、小南興産から永尾なる同物件の仕入先が存在することについての情報提供を受けたことによる。

次に被告人会社が(邦託商会経由で)永尾から同姫路物件を買取る旨の意思決定ができたのは、小南興産から三友なる同物件転売先が存在することの情報提供を受けていて短期に転売できることが判っていたからであった。

日本モーゲージから一〇億円もの高金利付の融資を受け、内約八億八〇〇〇万円余もの金員を仕入代金として姫路物件につぎこむのであるから、転売先が確保されていない状態では、そのような借入も又はその様な仕入代金の支払をすることも被告人会社としてはできない相談であった。

姫路物件を(邦託商会経由で)永尾から買取っても、同物件が転売できずに長期在庫化するならば、長期間経過後に三友以外の転売先へ転売できて転売差益が得られたとしても在庫期間中の金利に転売差益を皆喰われてしまい、経費倒れになってしまうからであった。

このように被告人会社が邦託商会経由で姫路物件を買取ることができたのは、実に小南興産の情報提供のおかげであった。

その情報提供なくしては、被告人会社は姫路物件を買取ろうにも買取ることができなかったのである。

小南興産の情報提供の功績は実に顕著にして重大なものがあった。

それ故に小南興産は被告人会社と共に姫路物件の共同買主なのである。

原判決はその六〇ページにおいて『姫路物件は被告人岩田が自分の判断で姫路物件を購入するか否かを決めた』などと判示するが、見当違いの事実誤認もはなはだしい。

小南興産は単なる仲介者であるなどという原判示も同様で、本書において反論にも値しない。

次に原判決はその六〇ページにおいて『その購入費用は被告人会社が全額負担している』と判示する。

しかしながら共同事業者としての被告人会社の役割分担は、もともと資金提供にあったから、被告人会社は共同事業者として当然なすべきことをしたまでのことである。

小南興産は資金提供者ではなかったものの、永尾からの姫路物件共同買主として、永尾に対し売買代金支払義務を負う立場にあったからこそ、被告人会社と共同して日本モーゲージからの資金借入交渉にあたったのであった。

従って被告人会社が右原判示の購入費負担行為をしたからと云って、姫路物件の買主を被告人会社一人であるとする根拠たり得ない。

以上の次第により原判決六〇ページの、姫路物件の買主についての判示は相当性を欠き、かつ又事実を誤認しているので到底破棄をまぬかれない。

5、姫路物件取引が民法上の組合契約にもとづく共同事業であるというからには、共同事業者間にそれぞれの役割があるのは当然である。

本件の場合、小南興産の分担した役割は姫路物件の仕入先の確保とその転売先の確保であり、被告人会社のそれは資金提供であった。

役割分担があるからには、共同事業の一人一人が個々具体的な役割行為(共同事業行為)を分担して行うのも又当然のことである。

共同事業(姫路物件の永尾からの仕入と三友への転売による転売差益獲得)だからと云って、共同事業者の全員が、個々の共同事業行為の全てに加担したり関与したりするわけではないのである。

たとえ共同事業者の一人が他の共同事業者の関与加担なく単独で行った行為であったとしても、当該行為が、共同事業の趣旨目的に合致するのであり、かつ又当該共同事業者の役割分担の範囲内の行為であるならば、当該行為は共同事業行為と見做され、他の共同事業者の利益・不利益を問わず、その結果は共同事業者全員(つまり組合)に帰属することになる。

被告人会社の永尾からの姫路物件取得は、同物件を三友へ転売して転売差益を得るためのものであったから、原判示の通り、仮に被告人会社がその取得を行ったものであるとしても、共同事業の趣旨目的に合致し、かつ資金提供という被告人会社の役割(その取得した同物件を担保に資金を借入れて、資金提供を行う役割)の範囲に帰属する。

のみならず、被告人会社は小南興産に隠れてこれを行ったのではなく、小南興産の立会いの上でその了解を得て売買契約をしているのである。

原判示のように、共同事業者の一人である被告人会社が単独で行ったことだから、小南興産は同物件の共同買受人ではない、というのであれば、被告人会社の行為の結果が小南興産に帰属しないことになり、これでは二人の間の共同事業関係の成立存在は無いということになる。

なぜなら転売差益は仕入値と転売値の差額から発生するのであり、転売値のみから発生するものではないからである。

従って小南興産がこの転売差益を原資とする六二〇〇万円もの利益分配金を受けるには、共同事業者として仕入と転売の双方に共同買主、共同売主として関与しなければならない。

小南興産が永尾からの仕入に共同事業者・共同買主として関与していなければこそ、姫路物件は被告人会社と小南興産との共有になり、同物件を三友へ転売するときにも、小南興産は共有者であればこそ共同売主になることができる。

姫路物件の共同買主でもなく共有者でもない小南興産が三友への転売において共同売主にはなれない。

それを原判示のように、小南興産は共同買主ではないとすると、小南興産は同物件の共有者ではないということになるから、三友への同物件転売につき、小南興産は共同売主、共同事業者になる余地はない。

そうすると、姫路物件は被告人会社一人が永尾から単独で仕入れて、しかる後、単独で三友へ転売したということになるから、そこに二人間の共同事業関係は成立存在する余地が無いことになる。

その結果、小南興産は単なる仲介者にとどまることになり、転売差益は全て被告人会社一人へ帰属することになり、小南興産は仲介手数料を得ることはできても転売差益につき六二〇〇万円もの転売差益の分配を受けることができなくなってしまうのである。

原判決は小南興産を共同事業者であるとして小南興産への六二〇〇万円もの転売利益の分配を判示しておきながら、その一方において(原判決六〇ページ)『永尾から姫路物件を購入したのは被告人会社一人であって、小南興産は右物件の共同買主ではない』と判示し、姫路物件の購入が二人の共同事業であることを明白に否定している。

つまり原判決は一方において小南興産が共同事業者であると認定しながら、他方において小南興産が三友への転売につき共同売主、共同事業者となるための原因事実、即ち小南興産が永尾からの共同買主である事実を否定してしまっている。

右の原判示をもってしては、小南興産は三友への転売についても共同売主、共同事業者にはなれないことになる。

結論として、小南興産が三友への転売につき共同事業者であることの原判示認定と、小南興産が共同買主ではない旨の原判示認定とは相容れず、明白に自己矛盾をきたしていることになる。

よって原判決の右各認定は理由齟齬の違法があり、破棄をまぬかれない。

6、そこで仮りに原判示の通り、姫路物件の永尾からの仕入が被告人会社一人の単独事業であるとするならば、永尾からの仕入と三友への転売からなる一連の姫路物件取引の内、小南興産の行った行為につき原判決は何をもって被告人会社と小南興産との共同事業行為であると云うのか、その共同事業行為の具体的内容を一切判示をしていない。

更に又、先にも触れた通り、原判決においては、永尾からの仕入が共同事業でないとした場合、これに引続く転売だけがなぜ二人の共同事業になるのか、その理由や事実関係についても一切判示されていない。

この点において原判決には理由不備がある。

そのうえ、原判決はその五六ページから六一ページにおいて小南興産は『仲介者としての役割が中心であった』とし、これを根拠に『永尾から姫路物件を購入したのは被告人会社一人であった』と判示する。

右一連の判示には、小南興産が共同事業者であることの原因となる具体的事実関係についての摘示がなく、小南興産は、単なる仲介者にすぎないと云わんばかりにもっぱら小南興産が仲介者であることばかりがしきりに強調されている。

しからば小南興産は仲介者の役割を超える共同事業者として如何なる共同事業行為をしたのか、この点につき原判決は何も判示していない。

つまり、小南興産が三友への転売についてだけの共同事業者であることの事実関係や理由についての判示が原判決には全くなされていないのである。

原判決が強調する程に事程左様には小南興産が仲介者であるならば、被告人会社は小南興産に対して仲介料のみ支払えばすんだ筈であって、仲介料をはるかにこえる土地譲渡利益を分配する必要は更々なかった筈であった。

しかるに原判決は小南興産が仲介者であることを強調する一方で、小南興産が仲介者の域をこえる共同事業者であることを認定すると共に、共同事業者であることを前提に小南興産に一億一〇〇〇万円もの多額の土地譲渡利益の分配を認定している。

小南興産が単なる仲介者であるならば、脱税経費否認額が小南興産へ収支分割されることはないのであるが、小南興産が共同事業者であるならば、同否認額は小南興産へ収支分割されなければならない。

しかるに原判決は小南興産を共同事業者であるとする一方で、同否認額を小南興産へ収支分割しないのであるから、原判決は自己矛盾をきたしている。

そればかりか原判決は右各判示が相互に矛盾しないことを明らかにする事実関係や理由を判示していないのであるから、原判決には理由不備、理由齟齬の違法がある。

7、被告人会社の共同事業者としての役割は先にも触れたように、姫路物件取引の資金提供者であり、その資金として一〇億円が必要であった。

資金提供者ではあるにしても被告人会社がその手許に一〇億円もの手持現金を保有しているわけではなかった。

被告人会社が姫路物件取引きの実現に資金を提供するためには、これを日本モーゲージから借入れなければ提供しようにも提供できなかった。

一〇億円もの資金を借入れるには当然のことながら担保が必要であった。

その担保として被告人会社は姫路物件を日本モーゲージに提供しなければならなかった。

日本モーゲージからのこの一〇億円の資金借入と日本モーゲージへの担保提供を被告人会社がその役割分担上行わなければならなかった関係で、被告人会社はその単独所有名義をもって邦託商会経由で永尾から姫路物件を取得したのである。

そして同物件はその取得と同時に、予定通り平成二年一月一六日に被告人会社から日本モーゲージに担保提供されて、一〇億円の資金借入が実現した(検甲第八号証五三枚目)。

以上の理由により同物件の取得は、被告人会社と小南興産との共同事業であるにかかわらず、被告人会社の単独所有名義をもって行われたのであった。

以上明らかな通り、被告人会社の姫路物件取得は小南興産との共同事業の一環としてなされているため、共同事業である小南興産は同物件共同買受人であり、かつ又その共有者である。

原判示は被告人会社がその所有名義をもって取得した姫路物件の取得経緯に重点をおいて、その取得は被告人会社の単独行為であり、同物件は被告人会社の単独所有であるなどと判示するが、右判示は事実誤認もはなはだしい。

仮に原判示の如く姫路物件の取得経緯を云々してみたところで、その所有権は三友へ転売する迄のたった三七日間における経過的かつ一過性のものにすぎず、しかも同物件は被告人会社がこれと取得すると同時に、日本モーゲージの被担保債権一〇億円の抵当に入ってしまっており、この抵当権がついている限り、その資産価値はゼロであった。

被告人会社がその所有名義をもって所有していた間の姫路物件の右の状態に徴するとき、原判示のいうその取得経緯云々は、三友への転売という共同事業の究極目的(永尾からの仕入れと三友への転売による転売差益の獲得)に比し、極めて些細なことにすぎず、小南興産が共同買主か否かの判定にその取得経緯を云々すること自体、意味がないというべきである。

そもそも小南興産と被告人会社とに収支分割された原判示の土地譲渡利益(転売差益)は、姫路物件を二人が永尾から共同取得(仕入)して三友へ共同転売することにより発生している。

それ故にこそ、小南興産は仲介手数料のほかに莫大な利益分配がなされている。

原判決において、小南が一八〇〇万円と三〇〇〇万円の仲介手数料(原判決三五ページ)のほかに六二〇〇万円もの土地譲渡利益の分配(原判決五八ページ)被告人会社から受けている旨を判示しているということは即ち、原判決が同物件の永尾からの取得(仕入)をも共同事業の内容として是認(共同取得、共同転売を是認)していなければ、とても判示することのできない事実関係である。

小南興産が、永尾からの姫路物件取得(仕入)に関与しておらず、共同買主ではないというのであれば、三友への転売の関係において被告人会社の単独転売というとこになり、小南興産が三友への共同売主になれる筈もないから、小南興産へ支払われるのは合計四八〇〇万円の仲介手数料料どまりであった筈で、六二〇〇万円もの利益分配金が小南興産へなされる筈もない。

原判決が仲介手数料のほか小南興産への右六二〇〇万円の利益分配金(転売差益分配金)を判示している以上、原判決は小南興産が姫路物件の永尾からの共同買主であると共に三友への共同売主であることを判示しているも同然であるから、その帰結として小南興産が共同買主である旨の判示がなされて然るべきである。

よって小南興産か共同買主ではないとする原判示は理路一貫せず、理由齟齬の違法をまぬかれない。

8、原判決は、小南興産が姫路物件の土地譲渡利益のうち六二〇〇万円の分配を受けたことを判示している。

ところで小南興産取得の六二〇〇万円は、被告人・弁護人ら主張の第二取引きの結果生じたものである。

原判決は、この第二取引きが脱税工作であるとして、被告人会社がこの脱税工作を行うために邦託商会への交付した金員二億八〇八五七万三一五九円の内、

一億六二二三万三一五九円

は脱税経費であると判示して経費否認をしたうえ、被告人会社へのその否認額の全額を収支分割している。

つまり原判決は、被告人会社が原判事の脱税をすることができたのは、右の通り脱税経費をかけて脱税工作をしたことによるものであるとしている。

それでは小南興産はどうだったのか、この六二〇〇万円の利益分配金を脱税せずにきちんと確定申告したのか。

原判示の如く第二取引を脱税工作とすれば、小南興産も又被告人会社と同様にこの六二〇〇万円を確定申告せずに脱税しているのである(小南興産の脱税については後述のとおり)。

それではなぜ小南興産は右の六二〇〇万円を脱税することができたのか。

そのわけは、第二取引を行うことにより、邦託商会が第二取引の土地譲渡利益全額の取得者となり、かつ又同利益の確定申告者となった為である。

それ故に被告人会社も又小南興産も第二取引にによってそれぞれが得た六二〇〇万円あての利益分配金を売上除外して確定申告しなかったのである。

原判決が第二取引を脱税工作であるとし、第二取引を行うために被告人会社が邦託商会へ支払った金員を脱税経費であるというのであれば、右脱税工作と脱税経費の受益者は被告人会社一人のみならず、小南興産も同様にその共同受益者なのである。

従って小南興産は、右の脱税工作及び脱税経費の共同利用者として、又、その共同受益者として右の脱税経費を負担しなければならない。

つまり小南興産も被告人会社と同様に脱税工作と脱税経費の共同受益者であるならば、脱税経費否認額を被告人会社一人のみに収支分割されるいわれは無い。

小南興産と被告人会社の第二取引土地譲渡利益分配金手取実額は、それぞれ六二〇〇万円宛であった。

そうであるならば原判示脱税経費否認額の、

邦託商会への交付額 一億六二二三万三一五九円

否認登記料 二〇一万〇九八〇円

合計 一億六四二四万四一三九円

は、その二分の一相当額である

八二一二万二〇六九円

を共同事業者である小南興産の負担とし、同金額を小南興産へ収支分割されて然るべきである。

よって、右脱税経費否認額の全額を被告人会社一人に収支分割をした原判決を事実を誤認しており、到底破棄をまぬかれない。

尚、小南興産が利益分配を受けた六二〇〇万円を脱税していた事実については、本件が名古屋地方検察庁へ送検される前の約一年半にわたる名古屋国税庁調査段階において小南旭がその利益分配を否認し続けた挙句、同検察庁検事の取調の際(平成四年一二月一六日)に始めてその旨を自供した事実(検甲第七六号証)、及び小南旭が利益分配金六二〇〇万円を脱税していることの口止料として、越に合計六〇〇万円を支払っている事実(甲第七六号証)から容易に推認し得るところであるが、その確定的な事実関係は控訴審において立証する。

9、原判決は、脱税経費を被告人会社一人の負担とし、脱税経費否認額の全額を被告人会社に収支分割をしたことの理由の一ツとして、その五八ページにおいて『邦託商会を介在させることについて、小南は関与していない』旨を判示する。

しかしながら、右判示は事実を誤認しており、原判決は破棄をまぬかれない。

(一) 邦託商会を永尾からの姫路物件の買主として手配したのは、原判示のとおり被告人会社である。

しかしながら同物件取引は被告人会社と小南興産との共同事業であた、小南興産の了解なく被告人会社の一存で同取引に邦託商会を介在させるわけにはゆかなかった。

被告人会社は邦託商会を介在させるにつき、当然のことながら事前に小南旭にその旨を相談し、小南旭はその旨の了解をしていた。

(二) 平成元年一月三〇日の契約には、永尾・邦託商会間の同物件売買契約のみならず、邦託商会・被告人会社間の同物件売買契約が同時に締結された。

右二ツの売買契約が締結されたときには、小南旭はその場に居合わせ、右二ツの契約締結に立会した。つまり小南旭は邦託商会の介在を承知し、かつ積極的に容認していたのである。

永尾の裏金要求との関係で、被告人会社は邦託商会から同物件の転売を受けるという方法でなければ、同物件を取得できなかったのであり、姫路物件の取得とその転売につき被告人会社の共同事業物であった小南興産が、邦託商会の介在に異論のあろう筈もなかったからである。

邦託商会介在についての関与の程度の軽重はさておき、小南興産は永尾の目から見て、その関与の程が明確に認識し得る程度に関与していたのである。

そして永尾、邦託商会の介在によって、はじめてその要求する坪一五〇万円あての裏金の実現ができることを合わせて承知していた。

原判決は、たとえば、その五七ページにおいて小南興産が被告人会社と共同で日本モーゲージとの資金借入交渉を行った旨を認定しているが、この資金は被告人会社が姫路物件購入代金を永尾へ支払うために必要な資金であったから、小南興産の右借入交渉は永尾からの同物件買受という共同事業行為の一環であった。

仮りに原判示六〇ページ記載のとおり小南興産が永尾・被告人会社間の同物件取引の単なる仲介者であったとするならば、小南興産が永尾へ支払う売買代金支払資金の借入交渉にあたることなどは、およそあり得べからざることであった。

右の次第により小南興産は、永尾からの同物件の共同買主であり、同時に三友への共同売主であって、それ故にその間の転売差益の共同帰属者となったのである。

小南興産がその出発点において同物件の永尾からの共同買主でないとするならも、転売差益の共同帰属者の立場に小南興産が立つことは理論上あり得ず、小南興産は転売差益につき利益分配を受ける地位になかった。

しかるに原判決は、その六〇ページにおいて、姫路物件の永尾からの買主は被告人会社一人であって小南興産はその買受人(共同事業者)ではない旨を判示している。

右判示を前提とすると、別紙8の図示<2>記載の通り、姫路物件は被告人会社一人の単独所有となる。

被告人会社が同物件を単独所有したとすると、その理論的帰結として三友への同物件転売についても、被告人会社一人が単独売主となり、小南興産はその転売取引きの仲介者にはなり得ても、共同売主・共同事業者にはなり得なかった。

つまり右原判示を前提とすると、姫路物件は被告人会社一人が永尾から購入して、被告人会社一人が三友へ転売したことにならざるを得ないから、その転売差益は被告人会社一人に帰属することなり、小南興産は同取扱引仲介者として仲介手数料を得ることはあっても右転売差益自体の共同帰属者とはなり得なかった。

つまり同物件買受の当事者でもなく、又同物件転売の当事者でもない小南興産は転売差益自体の分配(収支分割)を受ける立場になかっことになる。

以上結論として、原判示の云うように小南興産が姫路物件の共同買主でないとした場合には、原判決の通りに共同事業の範囲を仮りに三友への転売だけに絞ったとしても三友への同物件転売につき被告人会社と小南興産との共同事業が成立する余地は全く無いことになるのである。

以上の次第により、小南興産が姫路物件の永尾からの共同買主ではないとする原判事と、三友への転売のみが被告人会社と小南興産の共同事業であるとする原判事は理路一貫しないことになる。

よって原判決には理由齟齬の違法があり到底破棄をまぬかれない。

仮りに右の各原判示に理由齟齬の違法が無いというのであれば、姫路物件の共同買主でなかった小南興産が、いつ、如何なる事由で、三友への同物件転売に際して共同売主・共同事業者になったのか、この点につき原判決は何らの判示もしていないのであるから、原判決になったのか、この点につき原判決は何らの判示もしていないのであるから、原判決には理由不備の違法があり、破棄をまぬかれない。

そもそも転売差益(土地譲渡利益)なるものは、『買い』と『売り』の双方に売買当事者として関与することにより始めて得られるものであること、そして、その双方に売買当事者として関与した者のみに転売差益が帰属すること、原判決は失念していると云うより外はない。

以上の次第により原判示脱税費用の二分の一相当額は、姫路物件買受の共同買受人・共同事業者である小南興産へ収支分割されるべきである。

一六、原判示収支分割の不当性について。<その4>

更に原判決は先に触れたように、被告人会社と小南興産との間の共同事業は姫路物件の三友への転売だけであるというが、被告人会社・三友間において小南興産のしたことと云えば買主の三友と被告人会社とを仲介したことの一事につきる。

同取引きにつき、それ以外のことを小南興産は何一ツしていない(小南興産の行った日本モーゲージからの資金借入交渉は永尾・被告人会社間取引の買受資金をえるためのものであって、三友への転売には直接関係が無い)。

原判示が永尾・被告人会社取引につき小南興産は単なる仲介者にすぎず、被告人会社一人が姫路物件の単独買主であると云うのであれば、いずれの取引においても仲介者以上のことしていない小南興産が、一方(永尾・被告人会社間取引)では単なる仲介者にすぎないとされ、他方(被告人会社・三友間取引)においては共同売主・共同事業者であるとする原判決の認定は、まことに不可解かつ不条理というより外はない。

原判示の通り、三友への転売が共同事業であるとするならば、尚更のこと永尾からの買受も同様に小南興産・被告人会社の共同事業であると認定されなければ理路一貫しないことにてり、原判示の認定は失当たるをまぬかれない。

以上の次第により、被告人ら主張の第二取引が脱税工作であるというのであれば、その脱税経費は、永尾からの姫路物件買受の共同事業者である小南興産にも収支分割されるべきである。

第三、本陣物件

原判決は、本陣物件の購入及び売却は、被告人会社と永井との「民法上の組合契約」に基づいてなされた共同事業であり、被告人会社の得た利益は、土地の譲渡により所得であって土地重課の対象となるものと認定している。

しかしながら、原判決の内容を検討すると、弁護人が第一審で主張した以下の事情を無視ないし見過ごしており、事実誤認も甚だしいと言わねばならない。

一、取引の経緯とポイント

1、被告人が永井から本陣物件について正式に融資の申込を受けたのは平成二年一月になってからである。

一方、永井は平成元年一二月一日には、国土利用計画法に基づく土地売買等届出書を名古屋市長宛に提出しており、すでに売買限度額を平方メートル当たり五六万一〇〇〇円(坪単価一八五万円余)とする価額指導表の送付を受けていた(検甲第92号・96号・以下頁は弁論要旨と同一につき省略する。)。

2、永井の話は≪青山から国土法勧告価格である坪当たり約一八五万円、総額五億八〇〇〇万円で買えることになった。永井名義でしか買えない。手付金、裏金各五〇〇〇万円合計一億円貸して欲しい。≫趣旨のもので、すでに永井から青山に渡す裏金の約束まで出来ていた。

3、仲介者の山森に被告人が初めて会ったのは平成二年二月二八日である(検甲第96号・同97号)。

4、永井の話はリスクが大きすぎるので被告人は乗り気でなく断りたかったが、これまでの恩義もあり、かつ、永井は「東海銀行は底地は必ず買うから心配は要らない」と断言するのを信用し、当時姫路物件の第二取引で邦託商会へ引き渡す利益分配金一億五〇〇〇万円があったので、一ケ月流用させて欲しい旨の了解を越からもらい、永井に対する被告人個人の貸付金として融資する決断をした(検甲第92号)。

5、被告人は一億円以上融資する気もなかったし、永井も当初それ以上の申込はしなかった。永井の供述調書にある被告人が「金の方は任せてくれ」と言ったとか、「被告人会社と共同で本陣物件を買う」(検甲第92号)との記述は検察官の作文か、そうでなければ永井の検察官への阿りによるもので客観的な状況とも反する。

6、青山と永井との売買契約は平成二年一月一七日(売買契約書では平成二年二月六日となっている。)になされた。同日手付金五〇〇〇万円を被告人は永井に貸付け、領収書も貰った(検甲第92号・同97号)。永井はその後東海銀行と精力的に交渉を始めた。

7、その後、永井は≪東海銀行は底地を買う意向は持っている。しかし、永井に所有権移転登記をし所有者にならないと相手にして貰えない。青山との手付金契約だけでは相手にして貰えない。ついては、青山に対する残金支払いのための決済資金を融通して貰えないか。≫と追加融資の申し出をして来た。約束が違うので、被告人は苦情を言ったが、五〇〇〇万円の手付金流れはあまりにも惜しいので、被告人は今まで取引のあった日本モーゲージやGGSといったファイナンス会社に融資を打診したが、借地権付きの土地では担保にならないため借入は困難な状況であった。

8、融資の資金繰りに考慮していたところ平成二年一月二六日姫路物件の第三取引の契約が成立した。被告人会社の利益は三〇〇〇万円位あり、GGSから借入金一億二七〇〇万円の返済猶予を得られたので、自己資金を併せて二億円を調達した。

9、永井はこの頃、トンボリ商事という金融屋から資金を借りる交渉をしていた。その結果永井から二億五〇〇〇万円借りる見通しが出来たと言って来た(検甲第92号証・検甲第100号証)。

10、原判決は、資金面は被告人が担当したと言っているが、永井も資金集めをしている。決済金の目処がついたため、平成二年二月六日に正式の契約が行われた。この時永井の要請で中間金一億円と裏金五〇〇〇万円を永井に渡した。この一億五〇〇〇万円は永井から青山・山森に渡っている(検甲第92号証・検甲第96号証・検甲第97号証)

この一億円は被告人から永井への貸付金として計上した(平成二年四月期元帳、現金勘定、貸付金勘定)。又、五〇〇〇万円の裏金は岩田個人から永井への貸付金として領収証を受領した。

残金決済は平成二年二月二八日に東海銀行則武支店で行われた。この時永井から初めて青山喜美子を紹介された(検甲第96号証)。

この時は決済金の一部一億八〇〇万円を永井に渡した。この金はトンボリ商事からの借入金二億五〇〇〇万円と共に永井から青山に渡されている(検甲第92号証・検甲第96号証)。

この一億八〇〇万円は被告人会社から永井への貸付金として計上した(平成二年四月期元帳、現金、貸付金勘定)。

11、トンボリ商事からの借入金には本陣物件に抵当権が設定された。これはトンボリ商事の要請によるものである。被告人会社から永井への貸付金二億八〇〇万円にも抵当権の設定をするよう永井に申し入れたが、永井からトンボリ商事の借入に支障があってはまずいので抵当権設定はしないで欲しいとの要請があった。やむなく売買予約仮登記を設定することで永井と合意した(検甲第96号証・添付謄本)

仮登記に担保力があることは自明である。

12、青山から永井への所有権移転登記が完了したと同時に永井は東海銀行との交渉を再開した。東海銀行の窓口は則武支店から本店総務部へ移っていた。当初は永井一人で東海銀行との交渉を入れていたが、その後、北島不動産の林亨も間に立って交渉している。この経緯は、検甲第92号証・検甲第105証通りである。

東海銀行との交渉は永井と北島不動産の林の二人で全て行われ、被告人会社は全く関与していない(検甲第105号証・検甲第104号証)。

売買価格の決定について永井は被告人が決めたようなことを言っているが(検甲第92号証)、国土法の届出等も永井が北島不動産と相談して行ったもので、被告人は関与していない(第105号証・検甲第104号証)

13、裏金として永井から青山喜美子に渡った五〇〇〇万円の外に永井から山森昌勝に一五〇〇万円渡っている。永井から、青山から土地を買う橋渡しをして貰った山森には最初からの約束で謝礼を一五〇〇万円払うことになっているので、何とか都合をつけて欲しいと頼まれ、やむなく、二月六日契約後一五〇〇万円を姫路資金から流用して永井に渡した(検甲第92号証・検甲第98号証)。

これまでの永井への貸付金を整理すると、

被告人個人名義で永井に貸した手付金 五〇〇〇万円

被告人個人名義で永井に貸した青山への裏金 五〇〇〇万円

被告人個人名義で永井に貸した山森への裏金 一五〇〇万円

被告人会社名義で永井に貸した決済金の一部 二億〇八〇〇万円

合計 三億二三〇〇万円

となる。

14、永井から山森に渡った一五〇〇万円の裏金を渡すについて、永井は被告人と相談して決めたと言っているが(検甲第92号証)、永井と山森との間で取り決めたものである(検甲第97号証)。被告人は相談を受けていない。

永井と山森の間で取り交わされた「メモ」(検甲第97号証添付資料3)に記載されている総額一〇億一五三七万一〇〇〇円は平成一年一二月一日付で、提出の国土法届出価格と一致している。つまり、一二月一日国土法提出時には既に永井と山森間で売買の約束と裏金の取り決めが行われていたものと思われる。

15、永井は東海銀行との交渉を行っていたが、四月頃東海銀行との話がまとまり、国土法の届出をすることになったと言って来た。届出価格は坪単価三九五万円であると言っていた。被告人は永井が青山から買った坪単価が一八五万円と聞いていたので、買ってすぐ売るのであるからこんな高い値段が出る筈がないと思って驚いた。しばらくして国土法の指導価格は三四〇万円に決まったとの連絡を受けた。届出価格は無理と思っていたが、それでも考えていたものより大分高い価格であった(検甲第92号証・検甲第104号証)。

永井からはこの価格で東海銀行に売却することに決めたと言って来た。

上記売値が決まり、利益の計算が出来るようになってから、永井から、被告人会社の貸付金に対する報酬についての話があった。永井は今回の取引では裏金まで貸して貰ったため取引が成立したことでもあるし、また、丁度その頃始めた大須物件に被告人会社から資金を借りることを条件に、利益の半分を報酬として渡すと約束した。

16、脱税工作の経緯は弁論要旨一六八頁以下に詳述した通りである。

二、結び

1、証拠により認められる前記取引の経緯を総合的に判断すれば、本件の売買に伴う買い付け及び売却はすべて永井が行ったものであり、被告人ないし被告人会社は永井からの要請に応じて買い付け資金を融資しただけであり、本陣物件の取引は永井の単独事業であって被告人会社との共同事業ではないことは明白である。

本陣物件と類似の白浜物件(検察官冒頭陳述書 三〇)については邦託商会の単独事業とされているが、原判決では弁護人の弁論要旨一五六頁で指摘しているに拘わらず白浜物件と本陣物件の相違点につき全く説明がなされていない。

更には、原判決は脱税工作に関与したことを共同事業の認定の証拠として指摘しているが、永井が竹内重設から金を借りる形をとることも被告人の聞知しないことだし、借入れに対する抵当権設定処理にも関与していないことを見過ごしている(検甲第108号・同107号・同101号)。

2、従って、被告人会社が本件で受け取った一億八〇〇〇万円(原判決では一億九五〇〇万円)は「課税土地譲渡利益」ではなく、被告人会社ないし被告人から永井に対する融資の謝礼=「報酬」収入である。

従って被告人会社の受領した金員は報酬としての法人所得であり、「課税土地譲渡所得」には該当しない。

第四、道下物件

一、道下物件についての原判決の判示は、さしたる長文ではないので、以下にその全文を引用する。

(道下物件について)

一 被告人岩田は当公判廷において、名古屋市中村区道下町三丁目二三番の二、三、六、七、九の土地(実測面積合計一二三・五一平方メートル)及び同土地上の鉄筋コンクリート造陸屋根三階建の建物(以下併せて「道下物件」という。)の取引に関し、被告人会社は株式会社大恵産業(以下「大恵産業」という。)に対し、購入資金と名義を貸しただけであり、大恵産業が利益を得たものであって、被告人会社は右取引からは何ら金銭的な利益を受けていない旨主張する(捜査段階においても同趣旨の弁解をしている。)。

二 関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。

<1> 道下物件は、足立稔(以下「足立」という)。の友人が購入したものであるが、足立がその購入資金を支払ったことから、同人が所有権の登記名義人であった。

三重銀行中村公園前支店の支店長は大恵産業取締役の越喜邦(以下「越」という。)に、同銀行の債権回収のため、担保となっている道下物件の処分を依頼した。

大恵産業は、被告人岩田、越及び越の内妻の西尾智津子が出資して設立した会社であり、代表取締役は右西尾と登記されていたが、実際には越が実権を握っており、被告人岩田も同社の取締役であった。

越は、現地を見に行き、多少の転売利益が見込める物件であると考え、足立と会い、総額五四二〇万円で大恵産業が道下物件を購入する旨合意した。

<2> しかし、大恵産業には購入資金がなかったため、越は道下物件購入の話を被告人岩田に伝え、被告人岩田も現地を見た上で、転売利益が見込めると判断し、被告人会社が関与することになった。

<3> 足立、岩田、越らは、平成二年五月一五日ころ、大恵産業の事業所に集まり、足立が被告人会社に対し、道下物件を総額五四二〇万円で売却する旨の契約書を作成し、被告人会社がその場で足立に約定の手付金五〇〇万円を支払い、大恵産業は立会業者として記名押印した。

なお足立は契約当日に、買主が大恵産業ではなく被告人会社であることを知ったが、越が大恵産業も被告人会社も一緒だから問題はない、手数料は不要である旨述べたので、足立は被告人会社との取引に応じた。

被告人会社は足立に対し、右契約書の約定どおり、平成二年六月一五日ころ右契約の残代金四九二〇万円を支払ったが、越もその場に立ち会った。足立はそのとき、所有権移転登記に必要な書類を被告人岩田側に渡した。

右四九二〇万円は、被告人岩田が被告人会社の裏金から捻出したものであった。

なお、足立は大恵産業には右取引の仲介手数料を払っていない。

<4> 被告人岩田及び越は、道下物件の土地は法律上一年間の転売禁止となっており、被告人会社名義に所有権の移転登記をすると、一年間は転売できなくなるため、所有権の移転登記はせず、新たな買受人を探し、足立から右買受人に中間省略の方法で直接登記することにした。

<5> 大恵産業では、道下物件の売却について三回新聞広告を出した。野村則夫こと武夫(以下、「野村」という。)は、平成二年八月ころ新聞の広告欄を見て道下物件を知り、仲介業者と記載されていた大恵産業に電話し、同社従業員から現地を案内され、購入しようと考えた。

野村は、取引銀行から融資を受けられることになったので、値切らずに、広告に乗っていた六三五〇万円で道下物件を購入することにし、手付金なしで、契約と同時に代金全額を支払う旨大恵産業に伝えた。

<6> 中間省略の所有権移転登記をするのに必要であるため、越は足立に対し、新たな契約書に署名押印するよう依頼した。足立は、売買代金が六三五〇万円で買主欄が空白の契約書を渡されたため、それでは約九〇〇万円余も余分に利益を得たことになって課税されては困るとしぶったが、越は絶対に迷惑をかけないからと説得した。足立は右契約書に署名押印した。

被告人岩田は、道下物件は被告人会社が足立から購入し、被告人会社が野村に売却するもので、前記足立と野村間の売買契約書に関し足立は一切責任がない旨の念書を、足立に書いて渡した。

足立は、実際には支払っていないのに、同人が大恵産業に対し、仲介手数料として一九六万五〇〇〇円、内装(改装)工事代金として七三三万五〇〇〇円の合計九三〇万円を支払った旨の領収証二通を越から受け取った。

<7> 野村、被告人岩田、越及び司法書士らは、平成二年九月二八日に、野村の取引銀行である愛知商銀に集まり、足立が野村に道下物件を六三五〇万円で売却する旨の契約書の契約書を作成し、大恵産業は立会業者として右契約書に名を連ねた。

野村はその場において、購入代金の内二〇〇〇万円を愛知商銀の銀行保証小切手で、残りは全額現金で支払い、所有権移転登記に必要な書類を受け取った。

右小切手は、三重銀行中村公園前支店の被告人岩田名義の普通預金口座に入金された。

野村はその席で大恵産業に対し、仲介手数料として一九六万五〇〇〇円を現金で支払い、その領収証を受け取った。

<8> 大恵産業の三重銀行中村公園前支店の口座に、野村から右売買代金を受領した平成二年九月二八日に三八九万円が入金されているが、内約半分の一九六万五〇〇〇円が野村からの仲介手数料である。大恵産業の帳簿には、足立から実際には仲介手数料を受け取っていないのに、足立と野村の双方から仲介手数料を受け取った旨記載されている。

(1) 被告人岩田は、被告人会社が足立との売買契約に買主として記名押印したのは名義を貸したにすぎないと供述する。

しかしながら、証拠上、被告人会社が名義を貸さなければならない必要性は認められない。

被告人岩田は当公判廷において、法律上一年以内の転売禁止の制限があるため大恵産業が買主とはなれず、被告人会社が買主となった旨供述する。

しかしながら、買主が被告人会社であっても、右制限は受けるのであり、前記認定のとおり、足立に新たな野村との契約書に署名押印させ、足立から野村へ直接所有権移転登記を経由しているのである。

仮に大恵産業が真実の買主であるとしても、右のような方法をとるのであるから、被告人会社の名義を借りる必要性は全くない。

他に、被告人会社の名義を借りる必要性は特段認められない。

(2)

<1> 大恵産業の三重銀行中村公園前支店の口座に、平成二年九月二八日に三八九万円が入金されているが、内約半分の一九六万五〇〇〇円が野村からの仲介手数料であることは前記認定のとおりである。

大恵産業の帳簿では、足立と野村の双方から仲介手数料を受け取ったことになっているが、足立は仲介手数料を支払っておらず、前記認定事実及び関係各証拠によれば、残りの一九二万五〇〇〇円は、道下物件の仲介手数料として、被告人会社が大恵産業に支払ったものと認められること、したがって、大恵産業は本件取引によって三八九万円の利益を受けていることが認められる。

<2> 他方、被告人岩田は当公判廷において、本件取引から、被告人会社は何ら利益を得ていない旨供述する。

被告人会社は足立に対し、売買代金として平成二年五月一五日ころに五〇〇万円、同年六月一五日ころに四九二〇万円を支払い、同年九月二八日にはその全額を回収している。

被告人岩田の供述を前提とすると、大恵産業は道下物件の取引により、野村からの仲介手数料を含めて約一一〇〇万円の利益を得たことになる。

他方、被告人岩田の供述するように、被告人会社は大恵産業に資金を貸し付けたものであるとすると、利息等何ら被告人会社が経済的利益を受け取っていないことは、被告人岩田と被告人会社及び大恵産業との密接な関係を考慮しても不自然である。

(3) 前記認定のとおり、越は道下物件が売りに出ているとの情報を入手し、購入価格を決定していること、更にその売却についても、大恵産業が積極的に関与していることが認められるものの、大恵産業としても前記のとおり三八九万円の利益を得ているのである。

他方、被告人岩田も現地を見た上で、転売利益が見込めると判断し、道下物件の取引に関与することになったものであること、被告人会社は、足立との契約書に買主として記名押印していること、右物件の購入代金を全額負担していること、被告人岩田は、足立との契約の場及び野村との契約の場のいずれにも立ち会っていること、足立に対して、前記二<6>認定のとおり、道下物件は被告人会社が足立から購入し、被告人会社が野村に売却するものである旨の念書を書いていること及び前記三(1)、(2)で認定・判断した事実からして、足立から道下物件を購入し野村に売却したのは、被告人会社であると十分認められ、被告人会社は大恵産業に対し、金銭と名前を貸しただけである旨の被告人岩田の主張は失当である。

四 被告人岩田は、道下物件の利益はすべて越に渡した旨供述するので検討する。

(1) 野村が、道下物件の購入代金の一部として支払った愛知商銀の銀行保証小切手(額面二〇〇〇万円)が三重銀行中村公園前支店の被告人岩田名義の普通預金口座に入金されたことは前記認定のとおりである。

(2) 大恵産業の従業員で道下物件の取引に関与した川口一郎は、検察官に対し、「野村が購入代金の決算のため支払った小切手を誰が持っていったかについてはっきりとした記憶がないが、現金は全部被告人岩田が持っていった。」旨供述している。

同人は、越及び被告人岩田が大恵産業の役員であることを十分承知しており、中立的な立場ということができ、同人の供述は信用できる。

(3) 越についても、「被告人岩田が右利益を受け取ったもので、大恵産業は仲介手数料以外には利益を得ていない。」旨、検察官に対して供述している。

(4) 被告人会社が何ら利益を受けていないのは不自然であることは、前記三(2)で検討のとおりである。

(5) 以上の理由からして、道下物件の利益はすべて越に渡した旨の被告人岩田の供述は信用できず、道下物件の売買による被告人会社が取得したものと認められる。

二、以上の判示のうち、判示、二、の事実認定については、同<2>のうち、被告人岩田、被告人会社の行為内容について「被告人岩田も現地を見た上で、転売利益が見込めると判断し、被告人会社が関与することになった」との部分、同<7>のうち、被告人岩田が、「野村、越、司法書士ら」とともに、野村の取引銀行である愛知商銀に集まったとの認定を除いては、概ね被告人両名の言い分と符合する。

右のうち、「被告人岩田も現地を見た上で、転売利益が見込めると判断し、被告人会社が関与することになった」との部分は、越喜邦の「抵当に入っている土地建物は、中村日赤の裏にあり、土地三七坪と三~四階建の小さなビルであり、私は多少の転売利益は見込める物件だと思いました。そこで、私は、この話を岩田さんのところに持っていきました。岩田さんは、現地を見て私に『越さんが銀行に頼まれたなら岩佐で買ってやるよ。でも、越さんが銀行から頼まれてやることだから利益はやれないよ』などと言い、私が銀行から頼まれたことで、岩佐で買い上げることにするが、岩佐は私が銀行から頼まれたことで取引することだから、転売の利益は私の方にやれないと言ってきたのです。」との供述(検甲第一一二号証・越喜邦の平成五年二月四日付検面調書5~6頁)を単にうのみにしたものに過ぎない。

しかしながら、被告人岩田は、取引が完了するまでの間に、道下物件につき、現地赴いて見分したことさえもない(この点につき、被告人岩田は公判定において明言こそしていないが、同人の道下物件取引についての供述内容から伺えるものであるし、また、川口一郎の供述(検甲第九号証、平成五年二月四日付検面調書29~37頁))からも伺えるものである)。したがって「転売利益が見込めると判断し、被告人会社が関与することになった」との事実もない。ことの経過は、原審における弁論要旨(一八一~一九三頁)に述べたとおりである。

また、被告人岩田が、「野村、越、司法書士ら」とともに、野村の取引銀行である愛知商銀に集まった、との部分については、被告人岩田は、「野村、越、司法書士ら」に同行して愛知商銀に赴いたものではなく、取引の終了を見計らって、(貸付金回収の目的で)単独で愛知商銀に赴いている。

三 関係者の供述

原判決は右川口の供述につき「越及び被告人岩田が大恵産業の役員であることを十分承知しており、中立的な立場ということができ、同人の供述は信用できる」という。

しかし、原判決が認定の拠りどころとする、同人の「野村が購入代金の決済のため支払った小切手を誰が持っていったかについてははっきりとした記憶がないが、現金は全部被告人岩田が持っていった。」との供述については、同人は当該取引の担当者としての立場で、取引の受渡の現場において、受渡が完了した時点で、「誰が現金・小切手を携帯して取引現場を辞したのか」を供述しているにすぎないのであり、誰が利益を受けたものかを供述したものではなく、また、そのようなことを供述できる立場にはなかったものである。

これに引き換え、当時大恵産業の代表者であり、同社の実権を握っていた越喜邦の内妻であった西尾智津子は、(川口と異なり)物件取引に関与はしていない反面、(川口と異なり)単に大恵産業の経理事務を行うだけでなく、同社の金庫番的な立場にあったものである。

その西尾智津子が、道下物件の売上げは大恵産業に入金していることを認めているのである(同人は越喜邦の内妻であり、殊更に被告人岩田に有利な供述などする筈もない)。

九 同様、この出納帳を見てもらえば判るとおり、株式会社大恵産業には、仲介手数料として、

<1> 平成元年四月二八日 愛宕町の物件 二〇〇万円

<2> 同年一二月一九日 五反城の物件 二九一万円

<3> 平成二年一月三一日 鍋片の物件 六〇〇万円

<4> 同年二月二八日 蟹江の物件 一七七万円

<5> 同年三月三一日 鍋片の物件 一八六万円

<6> 同年五月三〇日 千成通の物件 四六九万円

<7> 同年六月一四日 村雲の物件 一二万円

<8> 同年九月二八日 道下の物件 一九六万五千円

一九六万五千円

七三四万円

<9> 同年一二月二五日 東松山の物件 三八七万円

<10> 平成三年八月六日 村雲の物件 一、〇〇〇万円

二、五〇〇万円

と言った収入が載っていますが、これは、全て越や岩田さんの指示でこのように処理したものでした。

私が事務所に顔を出す以前も、越や岩田さんの指示で経理処理していましたし、私が平成二年八月ころから事務所に顔を出すようになって以降も、越や岩田さんの指示で処理したものでした。

私は、越や岩田さんの言われるまま処理したものでしたので、これらの収入が本当に不動産取引の仲介手数料であったのかどうか、当社が関与した形態は全く知らなかったので、判りません。

本当に仲介手数料であったかどうかは別にしてこういった入金があったことは間違いありません。

(検甲第87号証・西尾智津子の供述調書19~21頁)

また、越喜邦という人物の供述が、(こと、自身が連座する虞のある場面では)全く信ずるに値しないものであることは、姫路物件についての同人の供述の検討(原審の弁論要旨参照)から明らかである(本件の一件記録を検討すると、各取引の関係者がことごとく、すべての責任を被告人岩田に押しつけて、自らは司直の手を逃れようとしていることが十分に窺われる。原審は、大阪岩佐ビルについては、正当にも、「二〇〇〇万円の領収書を切ったが、受け取ったのは五〇〇万円だけである」との永井孝則の供述を排して被告人岩田の供述の真性を認めながら、道下物件については(川口証言の評価も加わったとはいえ)越喜邦の供述を認定の根拠として採用しているのは、到底理解し難いところである。

右のように、原判決判示指摘にかかる関係者の供述を総合しても、道下物件の売却利益が被告人会社に帰属したことを認定しうべきものではなく、これのみをもって被告人両名を有罪としうるものでないばかりか(むしろ、西尾供述によれば、「売却利益は大恵産業に帰属している」との被告人両名の言い分を裏付けるものである)、他の証拠との総合認定の一助ともしえないものである。従って、道下物件についての売却利益の被告人会社への帰属=被告人会社による逋脱事実の認定にあたっては、これら関係者の当該供述部分を全て捨象し、その余の証拠に基づく事実検討により、被告人両名の言い分の当否を判断すべきものである。

四、被告人会社が道下物件の実質的取引主体であるとの認定にあたって原判決が認定の根拠とした取引経過上の事実(判示、三、(3))は以下のとおりである。

<1> 被告人岩田が現地を見た上で転売利益が見込めると判断し、道下物件の取引に関与することになったものであること

<2> 被告人会社は、安達との契約書に買主として記名押印していること

<3> 右物件の購入代金を全額負担していること

<4> 被告人岩田は、足立との契約の場及び野村との契約の場のいずれにも立ち会っていること

<5> 足立に対して、道下物件は被告人会社が足立から購入し、被告人会社が野村に売却するものである旨の念書を書いていること

<6> 証拠上、被告人会社が名義を貸さなければならない必要性が認められないこと(判示、三、(1))

<7> 利息等何ら被告人会社が経済的利益を受け取っていないことは、被告人岩田と被告人会社及び大恵産業との密接な関係を考慮しても不自然であること(判示、三、(2))

1、まず、<1>(被告人岩田が現地を見た上で転売利益が見込めると判断し、道下物件の取引に関与することになったものであること)については、前述したように、原判決が越喜邦の供述をそのままうのみにして認定したものであるが、このような事実のないことは前述(ニ、)のとおりである。

2、次に、<2>(被告人会社は、足立との契約書に買主として記名押印していること)については、名義貸しであればその買主名義人である被告人会社が買主として記名押印するのはことの当然であり、「名義貸しではなく実質取引である」との認定の根拠として掲げるのは極めて不当である。

3、次に、<3>(右物件の購入代金を全額負担していること)についても、何ら被告人両名の言い分の真実性を阻害するものではない。

通常、名義貸しにおいては、(沢下物件における松原宗雄のように)名義人は名義を貸すのみで、資金等は名義を借りた者が支弁するものである。

しかし、被告人会社が越喜邦と共同事業をするときは、越喜邦に資金手当ての能力が乏しかったことから、資金面においては、もっぱら被告人会社がこれを負担することがあたりまえとなっていた。

一三 この時本職は、平成四年一二月一日付け検事跡部敏夫作成の捜査報告書(清流苑物件について)末尾の契約書、領収書等写を示した。

これは、越さんが、大恵産業の保養所にするために会社で買いたいので、物流を押さえてくれというので、私が五月四日ころに現地へ行って物件を押さえに行きました。

(中略)

契約の時、越さんから現金三〇万円を預かって払いましたが、越さんが残金を払う金の都合ができず、手付け流れになってしまいました。

(検甲九号証・平成五年二月四日付川口一郎の検面調書28~29頁)

しかも、本件取引は、当初は、「買い手もつけてあるので、大恵産業で手付契約をしてすぐ転売してしまうので、手付金のための資金五〇〇万円を貸してほしい」との依頼から始まったものであり、そのため、被告人岩田は本件物件に関して何ら資金手当をしていないのである。これが原判示認定のように「被告人岩田も現地を見た上で、転売利益が見込めると判断し、被告人会社が関与することになった」というのであれば、被告人岩田は購入資金につき融資を受けるなどの手当てをする筈である。しかるに、被告人岩田が、足立との残金決済の時点に至っても、何ら融資に関する手当をなさず、姫路物件についての納税準備金をもって道下物件の残金決済に振り向けたことは、残金決済の間際になって急に手当が必要になった、即ち「転売先への中間省略登記」による精算が間際になって不可能となったことを示しているのである。

結局、越喜邦が考えていた右の思惑が外れてしまったからこそ、被告人会社において残金分まで支弁する結果となったに過ぎないものであり、右の事実をもって、「契約の実質的当事者が被告人会社である」との認定の根拠とすることはできない。

4 次に、<4>(被告人岩田は、足立との契約の場及び野村との契約の場のいずれにも立ち会っていること)について何ら異とするに足りない。

まず、足立との契約については、手付金相当額を越喜邦に引き渡すとともに、被告人会社の名義による契約の事実確認(被告人岩田は、越喜邦が行っていた交渉の過程で足立とは会ったこともない)を兼ねて自身で契約書に記名押印するために立ち会ったもので、名義貸し主の行動として何ら異とするに足りないものであり、次に、野村との契約については、契約当事者は売主・足立、買主・野村であるが、被告人岩田としては、五四二〇万円もの金員を貸し付けており、売却が実現した時点で速やかにその返還を受けるために受渡場所に赴いたものであって、野村のケースは「契約の場に立ち会った」というものではない。

なお、これに関連して、原判決は、「野村が、道下物件の購入代金の一部として支払った愛知商銀の銀行保証小切手(額面二〇〇〇万円)が三重銀行中村公園前支店の被告人岩田名義の普通預金口座に入金されたこと」について、ことさらに言及する(判示、四(1))。

しかしながら、右の事実は、被告人両名の主張に則っても、何ら異とするに足りないものである。即ち、被告人岩田は足立との取引において手付金五〇〇万円、残金四九二〇万円の合計を立て替え支払っており、野村からの売買代金六三五〇万円のうち、五四二〇万円を被告人岩田が返還を受けて、残金九三〇万円を大恵産業の手許に残すのであるから、この精算のためには、二〇〇〇万円の小切手と三四二〇万円の現金を被告人岩田が受け取って、現金九三〇万円を大恵産業に残すという方法しかないのであり、また、「ザラ金取引」で受け取った小切手(銀行渡りであるから口座を通さないと換金できない、それも二〇〇〇万円という多額のもの)を取立にも回さず長期間もっていることに何らの意味もないので、取り立てたために被告人岩田個人名義の口座(越喜邦に貸した道下物件の購入代金は姫路物件の納税資金分、即ち、被告人会社の簿外資金を充てたものであり、その返還金を被告人会社の口座に入金したのではつじつまが合わなくなる)に入金したにすぎない。

つまり、被告人岩田は、契約の実質的当事者であったから右小切手を換金したのではなく、回収した貸付金の一部が小切手であったから換金したのである。

以上のとおり、「被告人岩田は、足立との契約の場及び野村との契約の場といずれにも立ち会っていること」も、「野村が、道下物件の購入代金の一部として支払った愛知商銀の銀行保証小切手(額面二〇〇〇万円)が三重銀行中村公園前支店の被告人岩田名義の普通預金口座に入金されたこと」も、被告人両名の主張と齟齬を生じる部分は微塵もなく被告人会社が実質的取引当事者であるとの判示認定の一助たり得ないものである。

5 次に、<5>(足立に対して、道下物件は被告人会社が足立から購入し、被告人会社が野村に売却するものである旨の念書を書いていること)についても、被告人両名の主張と何ら齟齬を生じるものではない。

原判決も認定するとおり、第一契約において、足立は契約当日に、買主が大恵産業ではなく被告人会社であることを知ったが、越が大恵産業も被告人会社も一緒だから問題はない、手数料は不要である旨述べたので、足立は被告人会社との取引に応じた。(判示、二、<3>)。

そして、中間省略の所有権移転登記をするのに必要であるため、越は足立に対し、新たな契約書に署名押印するよう依頼した。足立は、売買代金が六三五〇万円で買主欄が空白の契約書を渡されたため、それでは約九〇〇万円余も余分に利益を得たことになって課税されて困るとしぶったが、越は絶対に迷惑をかけないからと説得し、足立は右契約書に署名押印した(判示、二、<6>)。

即ち、越喜邦と足立の折衝の過程で作成されたのが右念書であり、足立にとっては、越喜邦の作成名義の念書では税務処理上意味がないので、第一契約における買主名義人であった被告人会社の作成名義の念書を求めた(あるいは、越喜邦から足立に対して説得材料として積極的に持ちかけた)結果として作成されたものであるから、これをもって、被告人会社が名義貸与者ではなく実質的取引当事者であるとの認定の一助たり得ないものである。

6 次に、<6>(証拠上、被告人会社が名義を貸さなければならない必要性が認められないこと)についても、被告人会社の名義を使用することは越喜邦の発想であって被告人岩田は越の依頼にしたがったに過ぎないのであるから、これをもって、被告人会社が名義貸与者ではなく実質的取引当事者であるとの認定の一助たり得ないものである(越は、名義貸しではなく被告人会社自身の取引であった旨供述しているが、同人の内妻である西尾が、越の指示で道下物件の転売利益の大恵産業への入金処理、架空経費の出金処理を行っていることに照せば、到底信ずるに値しないものである)。

7 最後に、<7>(利息等何ら被告人会社が経済的利益を受け取っていないことは、被告人岩田と被告人会社及び大恵産業との密接な関係を考慮しても不自然であること)については、道下物件の取引が、(a)前述したように、当初は手付金相当分の資金貸与の話から始まって、最終的に購入資金全額の貸与、契約名義の貸与へと変貌して行った、いわば、被告人会社の本来業務・本線から外れた仕事であったこと、(b)越喜邦の説明から受ける転売利益の額もさしたる金額ではなかったことから、銀行支店長からの依頼事案についての「越喜邦に対する協力」というスタンスでかかわったために利益分配を求めなかったものである(被告人岩田は、当然利潤追求のために不動産業界に入ったものであるが、銀行員出身ということもあり、やや「えっこしい」という側面を持っていることは、大阪岩佐ビルについての二〇〇〇万円の供与の動機からも伺えるところであり、道下物件について、越と一緒に作った会社・大恵産業の利益になればといことで、スポット的に「無償協力」をしたことは何ら奇異なことではない)。

逆に、原判決が、それまで、被告人会社との「共同事業」において常に「折半」と呼べるほどの利益分配を受けている越喜邦が、本件取引(越の知人であって被告人岩田とは面識もない銀行支店長から頼まれたものである)について、僅かな仲介手数料のみを大恵産業に帰属させて残りを全て被告人会社に取得させて諒としていたとの越喜邦の不自然な言い方に従った認定をして、顧みないことこそ奇異である。

原判決は、「抵当に入っている土地建物は、中村日赤の裏にあり、土地三七坪と三~四階建の小さなビルであり、私は多少の転売利益は見込める物件だと思いました。そこで、私は、この話を岩田さんのところに持っていきました。岩田さんは、現地を見て私に『越さんが銀行に頼まれたら岩佐で買ってやるよ。でも、越さんが銀行から頼まれてやることだから利益はやれないよ』などと言い、私が銀行から頼まれたことで、岩佐で買い上げることにするが、岩佐は私が銀行から頼まれたことで取引することだから、転売の利益は私の方にやれないと言ってきたのです。」との供述(検甲第一一二号証・越喜邦の平成五年二月四日付検査面調書5~6頁)をうのみにしているのであるが、本件起訴にかかる一連の事案において、いずれの事案においても、協力者に対して、常に十分すぎるほどの利益配分をしている被告人岩田が、この道下物件に限って、このような利己的な対応をする筈もなく、越喜邦の右供述が、被告人会社との連座を恐れ、全てを被告人両名に押しつける意図でなされた、ためにする供述であることは明かである。

以上のとおり、原判決が、道下物件における実質的契約当事者が被告人会社であると認定するにあたって、その根拠として基礎事実は、その一部(<1>)は事実誤認であり、その余の基礎事実も、いずれも被告人の言い分にしたがってもそのまま妥当するものばかりであって、これらの基礎事実をかき寄せて、前述、三、掲記の関係供述と併せて、道下物件における実質的契約当事者が被告人会社であると認定し、引いては、同物件の売却利益が被告人会社に帰属したものと断定した原判決には、甚だしい事実誤認があり、「被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない」とする刑事訴訟法三三六条の要請に全く応えていないのである。

五、原判決は、大恵産業の帳簿に

<8> 同年九月二八日 道下の物件 一九六万五千円

一九六万五千円

との記帳がなされていることを捉えて、「大恵産業の帳簿では、足立と野村の双方から仲介手数料を受け取ったことになっているが、足立は仲介手数料を支払っておらず、前記認定事実及び関係各証拠によれば、残りの一九二万五〇〇〇円は、道下物件の仲介手数料として、被告人会社が大恵産業に支払ったものと認められること、したがって、大恵産業は本件取引によって三八九万円の利益を受けていることが認められる」と判示しているが(判示、三(2)<1>)、これが越喜邦がなした単なる帳簿操作に過ぎないものであることは明かであり、右記載に続く同日付の金七三四万円の入金の記載に目を掩った明白な事実誤認である。

この時本職は、前記報告書中の供述人が指示された領収書写を本調書末尾に添付した(資料10)。

資料の中に、大恵産業が足立さんにあてた領収証が二枚ありますが、これは、越さんの指示で私が作成しました。

仲介手数料については、足立さんからは受け取っていません。

「建物、内装(改装)工事代金として」の領収証は、どういうことか全く理解できません。

この二枚の領収証の金額は合計すると九三〇万円になり、岩佐が足立さんから買った時の金額と一致します。

ですから、先程の念書だけでは足立さんが不安に思ったことから、足立さんの譲渡益を消すために越さんが架空の領収証を切ってやったのだと思います。

(検甲九号証・平成五年二月四日付川口一郎の検面調査書34~35頁)

即ち、一九二万五〇〇〇円一口が野村から受け取った仲介手数料であり、残りの一九二万五〇〇〇円一口と金七三四万円が大恵産業が取得した道下物件の転売利益なのである。

以上のとおり、道下物件についての原判決の認定は、「実質的契約当事者が被告人会社である」との点についても、「売却利益が被告人会社に帰属した」との点についても、検察官はその立証を尽くしていないのに、その主張を認めたものであって、破棄されるべきものである。

第五、沢下物件

一、沢下物件についての事実経緯ならびに被告人両名の主張は、原審における弁論要旨二〇四頁以下に詳述したとおりである。

沢下物件の購入、売却、申告、納付に至る過程は、以下のとおりである。

1 前述(第一、)したように、被告人岩田は、住友信託銀行退職と同時に永井孝則と提携して不動産業を始め、永井からノウハウの伝授を受けた外、その指導のもとに同人と共同で、名古屋市の保留地を取得したが、沢下物件も、その一つである。

沢下物件は、昭和六二年七月二三日に入札取得したものであるが、この入札においては、被告会社、被告人岩田、同人の妻佐智子、永井孝則、松原宗雄及び同人の息子である松原卓也の七者が各一物件づつ入札に加わった。

右のように多人数で入札に参加したのは落札の確率を高めるためであり、誰の名義で落札した物件であっても、実際は被告会社が売買代金を支弁し、被告会社が取得するという前提であった。

結局、松原宗雄の名義で入札した本件沢下物件と永井孝則の名義で入札した「三本松」物件の二物件を落札することができた。

2 右のように、実際は被告会社が購入したものではあるが、松原宗雄名義で登記を経由していたため、税務上は別途項目で仮計上していたが、帳簿上、一見して「名義借物件」と判る処理をしており、脱税の意図はなかった。

3 名古屋市の保留地入札には、五年間の譲渡(転売)禁止条項が付されており、これに違反すると、購入時の代価で買い戻しに応じなければならないことになっており、この特約は登記簿にも記載されていた(検察官請求証拠関係カード甲番号126-1日比美奈子の供述調書末尾添付の資料1、登記簿謄本、甲区欄付記1号参照)。

被告会社は、右沢下物件を、値上がりを待って転売する目的で購入したものであるが、購入資金はGGSというノンバンクからの借入金によっており、かなりの金利を負担していたため、転売までの運用として第三者に賃貸することとし、トヨタ部品愛知共販株式会社との間で駐車場としての賃貸借契約を締結した。

4 平成二年に入ると、沢下物件の相場価格は入札取得時の倍程度に値上がりしたものと判断された。

検察官の冒頭陳述書別紙1の取引物件一覧表より明らかなように、被告会社は次々と不動産を購入し、反面、金利負担も増加しており、沢下物件については、このまま保有し続けるよりも、転売して投下資本を回収する方が得策と判断されたため、被告人岩田は永井孝則、松原宗雄らに転売先を探すよう依頼するとともに、自らも不動産業者に持ち込んで買い手を探したが、前述の転売禁止の登記の抹消ができないことがネックとなって、全て契約に至らないまま話は壊れてしまった。

5 同年九月頃、松原宗雄から沢下物件に買い手が表れたとの連絡を受け、同人の交渉方を依頼した。買主は有限会社ボーベルカンパニーという飲食業の会社であり、売買価格については、暫定的に、坪あたり二〇〇万円、合計一億二四五八万円と合意された(将来、転売禁止が解けた時点で、国土法の届け出をし、勧告された金額に従う)。

それまでネックとなっていた転売禁止の登記の問題については、以下のように合意された。

・当面、被告会社・ボーベルカンパニー間において、売買予約を締結する(転売禁止が解除になった時点で売買契約、受け渡しをする)。

・右予約の合意につき買主を事実上拘束するため、また、予約期間中も被告会社に利益を得させるため、前記暫定合意代金と同額を買主の親会社である株式会社愛正から被告会社が融資を受けて、これにつき担保設定をする。

・転売禁止が解けた時点で、国土法の届け出を経由して、被告会社・ボーベルカンパニー間で売買契約、受け渡しをなし、受領代金を株式会社愛正に返済する。

・国土法による勧告価格が暫定合意代金を下回ったときは、売買代金についてはあくまで勧告を遵守するが、差額については、株式会社愛正は返還債務を免除する。

右の合意により、被告会社としては、事実上の経済効果としては、売却処分と同様の効果を生じることとなったが、法律上は、「予約」はあくまで「予約」であり、後日、転売禁止が解けた段階で(あるいは、それまでの段階で)買主・ボーベルカンパニーが「売買契約はしない」との意思を表明すれば、これを強制することは不可能であり、株式会社愛正から前記貸付金の返還を求められれば、これに応じざるを得ないのであり、現実に売買契約が成立するまでは、被告会社は極めて不安定な立場に置かれることとなった。

右の不安定な立場を強化するためには、売買予約の解消についてペナルティーを設けるのも一法であったが、万一、今回の合意が名古屋市の知るところとなり、買い戻し権を行使された場合には、逆に被告会社側がペナルティーの対象となるおそれもあり、この方策も取り得なかった。

結局、被告会社としては、売買予約成立と同時に本物件を買主に引き渡し、現実に利用させることによって、事実上(心理的に)予約の解消をしにくくさせるという方法しかなかった。

右の合意が調ったので、平成二年一二月三日に、右趣旨の覚書(検甲第126号証・日比美奈子の供述調書添付の資料7)を作成している。

買主・ボーベルカンパニーは、右提案を受け入れ、売買予約と同時に、前記トヨタ部品愛知共販株式会社との間で、株式会社愛正を新貸主とする賃貸借契約締結した。

被告会社は、株式会社愛正からの借入金の中から、仲介手数料として金三〇〇万円(検甲第122号証・松原宗雄の供述調書添付の資料6の領収書)を松原宗雄に支払ったが、永井孝則への利益分配は、この時点ではしていない。

しかし、右の物件引渡の効果もあくまでも事実上のものであり、被告会社としては、買主・ボーベルカンパニーが翻意することなく転売禁止期間が満了することを祈るしかなかった。

6、幸いにして、買主において翻意することなく、平成四年七月二四日の転売禁止期間の満了に至り、同八月一七日、売買契約成立に至った。

右の売却によって確定した沢下物件についての利益は三二六〇万円であり、右物件の取得は永井孝則との共同事業であったことから、被告会社はこの時点で確定した右利益金の半額一六三〇万円を永井に支払った。

以上の次第で、買主の系列会社である株式会社愛正から転売代金相当額が被告会社に入金し、反面、本物件は買主・ボーベルカンパニーに占有が移転して、取引完了の如き外観を呈してはいたが、本契約締結に至るまでは、買主・ボーベルカンパニーにおいて、いつにても売買契約締結を拒否(解約ではない)できる状態にあったものであり、前記平成二年一二月三日に株式会社愛正から受領した金員は、その時点では、被告会社にとり「借入金」ないし「借受金」にすぎないものであって、当該年度の所得に計上すべきものではない。

また、計数上からみても、受領した金員は、前記の如く金一億二四五八万円であるが、売買代金額(及び、譲渡所得金額)については、転売禁止期間の満了後、現実に国土法の届け出をなして勧告の有無を確認してからでなければ具体的に金額も確定されないもの(前述の「国土法による勧告価格が暫定合意代金を下回ったときは、売買代金についてはあくまで勧告を遵守するが、差額については、株式会社愛正は返還債務を免除する」との約定も、あくまで、差額につき返還義務を免れるだけで、国土法の勧告価格が「売上げ」であって、返還を免除された差額は「譲渡所得」ではない)であったのであるから、この点からも、当該年度の所得に計上すべきものではなく、現実に金額が確定して決済された平成四年八月一七日の該当年度(平成四年四月期)を申告年度とするものである。

そして、被告人岩田自身、法人税の申告納付について、このような取引形態の場合、実際に譲渡所得が確定した時点で申告、納付すべきものと考えていた。

そして、被告会社は、当初の予定どおり、右沢下物件の譲渡所得につき、平成五年六月三〇日、名古屋東税務署にこれを申告、納付し、受理されている(弁第3号証3枚目)。

検察官は本件につき「売上げ除外」であると主張する。

被告会社ならびに被告人岩田には本物件につき売上げ除外即ち全面的逋脱の故意などはなかったことは、右の経過によっても明らかであるが、凡そ、不動産という登録制度の完備している物件の購入、売却については、売上の「全面的除外」などということは、(「購入価格よりも損をして売ったので差益はない。」というスタイルでもとらない限りは)不可能なことなのである。

沢下物件について、平成三年四月期に申告、納付すべきものとする検察官の主張に従えば、転売禁止が外れた時点でボーベルカンパニーが翻意して売買契約の締結を拒否し、愛正から請求を受けて借入金を返済した場合には、「修正申告をして還付を受けるべきもの」とでもしなければならないのであろうが、このような取扱いが不合理であること、言を俟たない(相続税において、申告期間内に法定相続分に従った申告、納税をしておいて、その後の遺産分割により修正申告をするというのとは、訳が違うのである)。

以上のように、沢下物件については、法人税の申告納付時期は平成五年四月期であるから、前述のように、被告会社がこれを平成五年六月三〇日に申告、納税したことは適正であるから、被告会社がこれを平成三年四月期に申告、納付しなかったことをもってしては、法人税法一五九条の「偽りその他不正の行為により……法人税を免れ」との構成要件に該当しないものであって、これにつき、無罪である。

また、百歩譲って、被告人ら、弁護人らの見解が誤っており、法解釈上、平成三年四月期に申告、納付すべきものであったとしても、前述の各経緯に鑑み、被告人らの行為は法人税逋脱の故意を欠くものであるから、同じく法人税法一五九条の「偽りその他不正の行為により……法人税を免れ」との構成要件に該当しないものであって、これにつき、無罪である。

二、原判決は、右被告人両名の主張事実とほぼ同旨の事実を認定している(但し、以下掲記の事実を判示において特記する)。

右公正証書には、「年七・九五パーセントの割合による利息を、弁済期日に一括して支払う。」旨の条項があるが、実際には当事者間において利息を支払うとの約束はなされておらず、利息も支払われていない。(判示、一、(4))

なお、右覚書では乙が本件物件を買わないという選択権はなかった(判示、一、(6))

本件売却による利益(約三二〇〇万円強)は、被告人岩田の息子名義の預金口座に入金した上で、被告人会社で運用していた。(判示、一、(8))

しかしながら、原判決は「被告人会社は沢下物件を有限会社ボーベルカンパニーに売却したのにかかわらず、名古屋市との転売禁止条項に違反することから、売買契約という目的を達成するための便法として、金銭消費貸借契約という形式をとって、一億二四五八万円を借り入れたことにしたが、右金員は実質的には売買代金であり、被告人岩田はそのことを十分認識していたものと認められる。したがって、当該申告時期に右売買契約による収入を申告しなかったことは脱税に該当する。」として、被告人両名の主張を排斥した。

原判決は、被告人会社が有限会社ボーベルカンパニー(有限会社愛正)との金銭消費貸借契約を締結したことを強調する反面、右金銭消費貸借契約が本件土地についての被告人会社・ボーベルカンパニー間の売買予約を前提とするものであったことには、全く言及していない。

また、原判決は「なお、右覚書では乙が本件物件を買わないという選択権はなかった」(判示、一、(6))と言うが、右覚書は民事上、売買(本)契約と解することはできないものであるから、買主を拘束しないこと、また、被告人両名の主張する売買予約も、被告人会社に予約完結権を付与するものでない以上、同じく買主を拘束しないことを看過している。

そして、さらに、本件合意は、覚書成立と同時に、当事者内部において所有権が買主に移転するが、転売禁止期間経過の時点において買主が求めたときは売主に買戻し義務が発生するとの合意でもない。

以上、いずれの点から見ても、覚書及び金銭消費貸借契約締結の時点において本件物件の所有権が被告人会社から有限会社ボーベルカンパニーに移転したと解することはできないものである。

譲渡所得とは、資産の譲渡(所有権移転)の対価として取得した金銭をいうのであるから、所有権の移転前に受け取った金員は、その額の多寡にかかわらず、その性質は前受金・仮受金に過ぎず、確定的所得とは言えないのであって、こう解することは課税における発生主義と何ら矛盾するものではない。

「買戻特約付売買により不動産が譲渡された場合において、右契約締結のときではなく、売主が買戻権を喪失したときに、課税の対象となる『資産の譲渡』があったもの」とするのが先例(昭和63年6月30日大阪高等裁判所判決・判例タイムズ678号93頁)である。一旦は所有権移転の効果が生じる買戻特約付売買においてさえ所得が発生するのは買戻権喪失の時点であるならば、本件においては、なおさら、転売禁止期間経過の時点において被告人会社(名義人・松原宗雄)から有限会社ボーベルカンパニーに対する登記手続がなされた時点(またはそれに先行する正式売買契約の時点)をもって、所得の発生時期と考えるべきものなのである。

原判決は、「本件合意が、金銭消費貸借契約なのかまたはそれに名を籍りた売買なのか」との点のみを重視し(そこには、「所得の発生時期はいつなのか」という観点はない)、「金銭消費貸借契約に名を籍りた売買」=「売上除外」との短絡的発想によって被告人両名の逋脱行為を擬制しているに過ぎない。

また、被告人会社は本件起訴後の、平成五年六月三〇日、沢下物件の譲渡所得を申告・納税しているが、これは本件起訴がなされたから申告・納付したものではなく、当初から平成四年四月期の所得として翌平成五年六月に申告・納付すべきものとの見解であったからなのである。

原審の弁論要旨(二二〇~二二三頁)においても述べたように、凡そ、不動産という登録制度の完備している物件の購入、売却については、売上の「全面的除外」などということは、(「購入価格よりも損をして売ったので差益はない。」というスタイルでもとらない限りは)不可能なことなのである。

検察官の冒頭陳述書の一七ページを見ますと、本件ではあなたはこの沢下物件についてはほ脱行為をしたという嫌疑を受けておるわけで、検察官の冒頭陳述書ではこの沢下物件については売上除外であると。売って売上げがあったのにそのこと自体を全く除外して申告しなかった。売上げ全体を隠したんだと、こういう主張をされておるわけですが、あなたは沢下物件について売上除外をして譲渡所得全体を免れようと、こういう意図がありましたか。

そういう意図は全くありません。

あなたにとって、申告の年度にかかわらず、沢下物件の売上げ自体を申告から除外することは可能だったでしょうか。

それは不可能だったと思います。

おっしゃる理由はどういうところにありますか。

これは名義人である松原宗雄からボーベルカンパニーに所有権の移転登記がされているわけですから、当然この移転登記の事実が税務当局によって調査される。それが当然有限会社岩佐に及ぶということは、これは分かり切っていたことだと思いますし、名義人の松原宗雄さんはこの物件の売却に関して確定申告はしないわけですから、当然これは当局にとっても不審なこととして調べるでしょうし、私はこの一連の取引に関しての書類はすべて松原さんにお渡ししております。ですから、松原さんがそういう調査を受けたときには全部そういう書類は提出されるでしょうし、説明もされるでしょうから、今言われたようなことは全く不可能だと思います。

要するに登記を経由する不動産を、ある程度の金額以上の不動産を売却して名義が変わっていく経過の中で、そういったものの売上げ自体を全部除外するなどということは不可能だと、こういうことですね。

はい、そのとおりです。

先程の証言の中にありましたけれども、この物件を松原さんの名義で購入した時点で、登記名義が岩佐には来ていないから固有資産として帳簿には計上していないけれども、五年後に売却したときにその張じりが合うような帳簿の処理はしてあったわけですね。

はい、してありました。

ということは、もしこの所得を有限会社岩佐が全額を売上除外するとなれば、元の帳簿処理とのつじつまも合わなくなるわけですね。

はい、当然そうです。

結局、あなたとしては検察官のほうに指摘されたときに申告をしていなかっただけで、そのとき以後に申告をしなければ最終的な帳じりは合わせようがない。こいうことになりますか。

はい、そのとおりです。

(被告人岩田の第九回公判における供述調書二三~二四丁)

仮に、所得発生時期についての前記主張が認められないとしても、被告人両名の所為をもって、所得税法二三八条にいう「偽りその他不正の行為」により所得税を免れたものとすることは、所得発生時期(申告納付時期)についての判断上の過失をもって逋脱の故意を擬制するに等しいものであり、「所得税逋脱犯の故意が、右のように具体的又は個別的な脱税の認識である必要がないというのは、免れた全税額につき全体として脱税の認識が認められれば足りるという趣旨であって、故意に所得を隠匿する行為とは無関係に生じた収入の過少記載又は経費の過大記載によって生じた所得の過少申告分をも包含する趣旨に解すべきではない。」とする先例(昭和五四年三月一九日東京高等裁判所判決・高等裁判所刑事判例集三二巻一号四四頁)にも反するものである。

別紙1

納税者が脱税利益を得られる場合

<省略>

〔解説〕

上図の通り脱税経費を使って脱税をしたとき、納税者の手取実績はA+B+C1となり、脱税額のうちC2は脱税経費に費消される。

脱税経費を使って脱税工作を行い脱税を行った場合、納税者が取得実額として脱税利益を得るには、上図の通り、その脱税経費額は脱税額未満でなければならない。

脱税経費額が脱税額を超えるときは、別紙2記載の通り、納税者は脱税利益を得ることができない。

別紙2

納税者が脱税利益を得られない場合<その1>

<省略>

〔解説〕

<1>正規税額(申告税額+脱税額=正規税額)を申告し、脱税をしなかった場合、納税者の手取実額は上図の通りA+Bと成る。

<2>脱税経費を使って脱税工作を行い脱税した場合、脱税経費が上図の通り脱税額を上廻るときは、納税者の手取実額はAのみにとどまり、正規所得額の内Bの部分は脱税経費に費消されてしまう。

<3>結論として脱税経費を使った脱税をする場合、脱税経費が脱税額未満におさまって納税者は脱税利益を得ることができる。

別紙3

原判示の収支分割額とその内訳

<省略>

別紙4

納税者が脱税利益を得られない場合<その2>

<省略>

〔解説〕

被告人会社が原判示通りの脱税経費を使って脱税工作を行い脱税したと仮定すると、被告人会社はCの1億5237万円を脱税するために、Eの1億6424万円の脱税経費をかけているため、差引Bの1187万円の赤字を計上し、本来の6125万円の正規所得をAの4938万円に減少させている。

別紙5

ダミー料金額比較表

<省略>

別紙6

被告人会社が姫路物件を永尾から買取れなかった理由

<省略>

別紙7

被告人会社から邦託商会へ交付された2億0850万円の内訳

<省略>

別紙8

転売差益の行方

<省略>

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