名古屋高等裁判所 平成8年(ネ)321号 判決 1996年7月30日
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
理由
【事実及び理由】
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人ら各自に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成七年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二 事案の概要
以下のように当審における当事者双方の主張を付加するほか、原判決事実欄第二に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(当審における当事者の主張)
一 当審における控訴人らの主張
地方自治体は、住民が直接選挙した首長や議会議員により行政を運用する間接民主制をとっているが、それにとどまらず主権者の意思を直接反映させるための制度の一つとして住民監査制度を設け、違法、不当な行政を是正することを請求する権利を直接住民に認めている。控訴人らは、監査委員の義務が公法的義務であることを否定するものではないが、その義務は、監査請求をした個々の住民に対し、適正な監査を行うべき義務を包含して負っているものである。したがって、監査委員が右の義務に違反したときは、国家賠償法上も違法というべきであり、原判決のように違法の意味を限定することは不当である。
二 控訴人らの右主張に対する被控訴人の反論
控訴人らの主張は争う。
第三 証拠関係《略》
第四 争点に対する判断
当裁判所も、住民監査請求の請求人が監査委員に対し監査及び必要な措置等を求め得る地位は、公益的かつ公法的なものであって、公権力の行使による個々人の私的な権利利益に対する侵害を保護すべき国家賠償法上の保護の対象にはならないから、控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、原判決一三枚目裏初行から五行目までを削り、同六行目「5」を「4」に改めるほか、原判決の理由説示(原判決一二枚目表二行目から同一四枚目表二行目まで)と同一であるから、これを引用する。
なお、控訴人らは、監査委員は個々の監査請求の請求人との関係で、適正な監査を行う義務を負っていると主張する。確かに、適法な監査請求があったときは監査委員は請求人に対し監査を行う義務を負っているといえるが、しかし、その監査委員の義務は、前示(原判決を引用してした当裁判所の判示)のとおり、請求人個々人の権利利益との関係で負う義務ではないというべきであるから、控訴人らの主張は理由がない。
第五 むすび
よって、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水野祐一 裁判官 岩田好二 裁判官 山田貞夫)