名古屋高等裁判所 平成8年(ラ)67号 決定 1996年7月11日
抗告人
中部電力株式会社
右代表者代表取締役
太田宏次
右代理人弁護士
高橋正藏
同
奥村敉軌
相手方
中川徹
同
三浦和平
同
早川善樹
同
早川彰子
同
柴原洋一
同
田中良明
同
中垣たか子
同
小松猛
同
増田勝
同
小木曽茂子
同
天野美枝子
同
河田昌東
同
大嶽恵子
同
大谷早苗
同
竹内泰平
同
杉本皓子
同
小野寺瓔子
同
寺町知正
同
寺町緑
同
大中眞弓
右相手方ら代理人弁護士
松葉謙三
同
齋藤誠
同
石坂俊雄
同
新海聡
同
名嶋聰郎
同
平井宏和
同
矢花公平
同
米山健也
主文
一 本件抗告を棄却する。
二 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨及びその理由
本件抗告の趣旨は「原決定を取り消す。抗告人が本件訴訟に被告ら全員を補助するため参加することを許可する。本件補助参加の申出に対する異議により生じた手続費用は相手方らの負担とする。」との裁判を求めるというのものであり、抗告の理由は別紙記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 補助参加の制度は、補助参加人が被参加人を補助して訴訟を追行し、被参加人を勝訴させることによって、自己の法律上の利益を擁護しようとするものであると解されるが、民事訴訟法六四条によれば、補助参加できる者は「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者」であることを要するところ、「訴訟ノ結果」とは、立法論は格別として、右の文言及び趣旨に照らし、訴訟の勝敗即ち本案判決の主文で示される訴訟物たる権利又は法律関係の存否を指し、判決理由中で判断される事実の存否についての利害関係では足りないと解するほかない。したがって、補助参加人の権利義務、法律上の地位は、訴訟物である権利関係の存否を前提として決せられることになる。
抗告人は、補助参加人に対する判決の効力は、判決理由中の判断にも及ぶとする最高裁判所判決(昭和四五年一〇月二二日、判例時報六一三号五二頁)を引用し、したがって民事訴訟法六四条の「利害関係」とは、判決理由中の判断につき利害関係を有する場合も含まれると解すべきであると主張している。しかし、最高裁判所の右判断部分は、補助参加人と被参加人との間にはいわゆる参加的効力が生じることを確認的に説示したにとどまると解され、判決理由中の判断が「訴訟ノ結果」に含まれると判断したものとは解することはできない。訴訟当事者間においても既判力の及ばない判決理由中の判断について、広く第三者に利害関係を肯定することは妥当でないというべきである。
2 本件訴訟は、抗告人(補助参加申出人)が平成五年一二月一六日に三重県度会郡南島町の古和浦漁業協同組合(以下「古和浦漁協」という。)に対して二億円を支出したが、その支出には、(1)古和浦漁協が抗告人から右金員を受け入れるためには総会の決議が必要なのに、何の決議もされておらず、抗告人は右事実を知りながらその支出をし、(2)また抗告人の右支出は、古和浦漁協の意思決定を歪めることを目的としてされた等の違法があるところ、被告らは抗告人の取締役として、このような違法な支出を防止すべき善管注意義務ないし忠実義務を負っていたのに、これを怠ったため、抗告人に右同額の損害を被らせるに至ったとして、被告らは抗告人に対して、連帯して二億円及びこれに対する遅延損害金を支払えという株主代表訴訟である。したがって、本件訴訟の訴訟物は、被告らの抗告人に対する善管注意義務違反ないし忠実義務違反に基づく抗告人の被告らに対する損害賠償請求権及びこれについての遅延損害金請求権であって、本件訴訟の判決の主文における判断について、抗告人は原告である相手方らとは実体法上の利害を共通にし、対立する関係にはなく、逆に、被告らとは実体法上の利害が相反し、対立する関係にあることが明らかであり、もし、被告らへの補助参加を認めることになると、抗告人は、自己に属し、自らがその存否について既判力を受ける損害賠償債権につき、その存在を争う当事者のために訴訟行為をすることが許されるという関係になり、民事訴訟の基本構造に反する結果となる(したがって、仮に、抗告人が主張するように判決の理由中の判断につき利害関係を有するときにも補助参加することが可能であると解する余地があるとすれば、せいぜいそれは前記の理由に照らし、判決の主文で示される訴訟物である権利関係の判断との関係において、補助参加申出人と被参加人が利害を共通にする場合にのみはじめて考慮の余地が出てくるという程度にとどまるであろうが、右のように抗告人と本件訴訟の被告とが主文で示される訴訟物についての判断の関係で利害を共通にする関係にないことが明らかである。)。
3 抗告人は、判決理由中の判断についてのみ法律上の利害関係を有する場合であっても、補助参加人がその法的地位ないし法的利益を守るため必要があるときは被参加人を補助して参加することが認められるべきであるとの考え方を前提としたうえで、(1)最高裁判所判決(平成六年三月一〇日商事法務一七五号二九五頁)などを引用し、株主代表訴訟は、住民訴訟と同様な性格を有する特殊民事事件であるから、その訴訟における参加の利益は通常の民事事件とは別異に考えるべきであるし、株主代表訴訟における「訴ヲ以テ主張スル利益」は、会社が受ける利益ではなく、勝訴判決により会社に損害賠償が支払われることによって原告を含む全株主が受ける利益であるから、原告と会社の利害は同一ではないこと、(2)本件訴訟における原告らの主張は、二億円を支出するという抗告人の会社としての意思決定が違法である旨の主張にほかならず、したがって右意思決定の違法性の有無が重要な争点であり、補助参加人は本件訴訟の結果について法律上の利害関係を有すること、(3)本件訴訟の判決理由中で抗告人の意思決定が違法であるとの判断が示された場合、抗告人は通商産業大臣から報告を求められ(電気事業法一〇六条)、立ち入り検査を受けたりし(同法一〇七条)、またエネルギー確保のため不可欠な芦浜原子力発電所建設に対する反対運動が高まり同発電所の建設に悪影響が生じることになるとともに、抗告人自身の信用を失墜させることなどのおそれがあるところ、抗告人が被告らに補助参加し誤った判断を避けることにより右を防止できるという利益を有するうえ、本件訴訟の審理に必要な資料のほとんどを抗告人が保有しており、また抗告人が補助参加することにより本件訴訟が遅延し複雑化することはありえないことを主張している。
しかし、抗告人の右主張の前提である判決理由中の判断についてのみ法律上の利害関係を有する場合でも補助参加できるとする考え方自体が、前示のように援用できないのであり、したがって抗告人の各主張はいずれも理由がないというべきであるが、念のため付言するに、右(1)について引用の判例は、株主代表訴訟につき単純に通常の代位訴訟と同様に訴額を算定するとそれが高額になりすぎこの訴訟の存在意義を失わせることになりかねないことなどを考慮し、非財産権上の請求(民事訴訟費用等に関する法律四条二項)に準じて決するのが相当であるとした訴額の算定に関するものであるうえ、更に株主代表訴訟で原告が勝訴することにより直接利益を得る者は会社であることを確認的に明確にしているのであって、未だ株主代表訴訟における参加の利益を通常の民事訴訟と別異に解すべき理由は見出し難い。この点については右(2)についても同様である。また右(3)について主張する利益はいずれも事実上又は経済上の利益にとどまり、また本件訴訟に必要な資料のほとんどを抗告人が保有しているとすれば、本件訴訟の審理充実や適正な判断のために、訴訟当事者からの申出又は裁判所からの送付嘱託若しくは提出命令に積極的に協力することで右目的を達することが可能である。
そして、そもそも会社の取締役は、法令等を遵守し忠実にその職務を遂行する義務を負っており(商法二五四条、同条の三)、業務執行に関する会社の意思を決定するとともに業務執行の任にあたる代表取締役を監督する機関(同法二六〇条)たる取締役会の構成員であるところ、会社が株主代表訴訟の被告(取締役)側に補助参加することは、事実上被告側への物心両面にわたる支援という効果をもたらすことを否定できないのであり、そのため、取締役に会社の業務執行者に同調しておけば安心であるとの安易な気持を無意識のうちに生じさせ、右忠実義務の遂行を十分に果たさないという結果を招来するおそれなしとしないことも考えられるのであって、株主代表訴訟における会社から被告側への補助参加については、右のような点も無視できないと考えられる。
4 以上のとおりであって、抗告人は本件訴訟において被告らを補助するために参加する利害関係を有するということはできない。よって、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 渋川満 裁判官 遠山和光 裁判官 岡本岳)
別紙<省略>