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名古屋高等裁判所 平成9年(ネ)811号 判決 1998年2月18日

控訴人

森川薫

右訴訟代理人弁護士

中津吉正

加藤幸則

被控訴人亡今井藤一訴訟承継人

今井ユキ

今井利行

右両名訴訟代理人弁護士

山﨑容敬

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  当事者の求める裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人らは、控訴人に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

(四)  仮執行宣言

2  被控訴人ら

主文同旨

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  飯島産業有限会社(以下「飯島産業」という。)は、昭和六二年一〇月三一日当時、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有していた。

(二)  控訴人の夫森川由之輔(以下「由之輔」という。)は、右昭和六二年一〇月三一日当時、飯島産業に対する貸金残債権八〇五万四〇六四円があったが、これは妻である控訴人名義の貸金として処理していた。由之輔は、右同日、本件建物及びその敷地を七〇〇万円で飯島産業から買取り、買取代金は右貸金債権と対当額で相殺した。

(三)  由之輔は、右貸付金を控訴人名義で処理してきたことから、本件建物の登記上の所有名義を控訴人としたが、右のように本件建物の所有権者は控訴人の夫由之輔であるところ、そもそも夫がその所有不動産を妻の所有名義に登記している場合において、妻がその不動産についての訴訟の当事者となることにつき夫に異議がないときは、例外的に任意的訴訟信託としてそれが許されるというべきであるから、由之輔の妻である控訴人は本訴訟の当事者適格を有するものである。

(四)  亡今井藤一は本件建物を占有していたが、同人は平成四年一月五日死亡し、被控訴人らは本件訴訟上の地位を相続した。

(五)  よって、控訴人は、被控訴人らに対し、所有権に基づき、本件建物の明渡しを求める。

2  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実は否認する。

本件建物の所有者は、飯島産業であり、控訴人は、恣に本件建物の登記上の所有名義を自己に移転したにすぎない。

(三)  同(三)の事実中、本件建物の登記上の所有名義人が控訴人であることは認めるが、その余は否認する。

三  証拠

証拠関係は本件記録中の証拠に関する目録の記載を引用する。

四  当裁判所の判断

1  請求原因(一)の事実及び同(三)の事実中本件建物の登記上の所有名義人が控訴人であることは、当事者間に争いがない。

2  控訴人は、当初、本件建物を飯島産業から自己が買い受け、買受代金は自己の飯島産業に対する貸金債権と相殺した旨主張していたが、平成九年二月一八日の原審口頭弁論において、請求原因(二)及び(三)記載のとおり、夫の由之輔が飯島産業から本件建物を買い受け、買受代金は同人に対する由之輔の貸金債権と相殺したが、右貸金債権者が名義上妻である控訴人であったため本件建物の登記上の所有名義を控訴人にしたにすぎない旨主張を改めたうえ、右のように、本件建物の登記上の所有名義が控訴人にあるが、夫の由之輔が真の所有者である場合において、妻である控訴人が本件不動産についての訴訟当事者になることにつき夫由之輔に異議がないときは、控訴人が例外的に任意的訴訟信託を受けたものであり、自己の名で訴訟を追行できる旨主張しているものである。

任意的訴訟信託は、民事訴訟法の弁護士代理の原則を回避し、又は信託法一一条の制限を潜脱するおそれがなく、かつこれを認める合理的必要がある場合にはこれが許容されると解される(最高裁判所・昭和四五年一一月一一日判決民集二四巻一二号一八五四頁)が、夫がその所有不動産を真実に反し登記上妻の所有名義としているような場合に、妻が訴訟当事者になることにつき夫に異議がないからといって、直ちに妻が自己の名で訴訟進行できることについて合理的必要があることになるものではなく、まして控訴人主張の右事情が右合理的理由に該るものと認めることもできない。そして、本件建物の所有者でないことを自認している控訴人に本件建物明渡を求める訴えの利益を肯定すべき事情を認めることもできない。

してみると、控訴人の本件訴えは、当事者適格も、訴えの利益も認められないから、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

3  よって、原判決は結局理由があり、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渋川滿 裁判官林道春 裁判官河野正実)

別紙物件目録<省略>

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