大判例

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名古屋高等裁判所 平成9年(ネ)856号 判決 1998年6月18日

呼称

控訴人

氏名又は名称

株式会社サンリオ

住所又は居所

愛知県名古屋市中村区名駅南一丁目二四番二一号

代理人弁護士

石原金三

代理人弁護士

花村淑郁

代理人弁護士

▲ひさ▼田勝彦

代理人弁護士

石原真二

代理人弁護士

北口雅章

代理人弁護士

林輝

代理人弁護士

藏冨恒彦

呼称

被控訴人

氏名又は名称

株式会社サンリオ

住所又は居所

東京都品川区大崎一丁目六番一号

代理人弁護士

下山博造

代理人弁護士

石川道夫

代理人弁護士

石井光穂

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

事案の概要は、控訴人の当審における主張を次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決は、控訴人が設立された昭和五四年当時、被控訴人は、名古屋市内においても周知であったと認定しているが、右認定は誤っている。

これにより原判決は、不正競争防止法の「周知性」あるいは「誤認混同のおそれ」の判断を誤ったものである。

1  出版物について

出版物には、山梨シルクセンターないし山梨シルクセンター出版部が中心の表示になっているものが大半であり、原判決が「サンリオのロゴが表紙に記されている」と指摘する甲第二号証の一、二等も、出版物に極小のロゴが記されているにすぎず、またこれらの出版物の販売地域、部数、売上について主張立証されていない。

2  映画について

「キタキツネ物語」などの一部映画のタイトルが有名であったとしても、被控訴人との結び付きがあるとはいえない。「キタキツネ物語」の新聞の広告記事をみても被控訴人自身の表示はなく、ただ極小さな文字で「サンリオフィルム作品」の表示が目立たないところに記載されているだけのものや(甲一一五等)、「サンリオフィルム作品」の表示すらないものもある(甲一一六等)。他の映画の広告についても同様であり、サンリオフィルム作品等の表示が無いか、仮にそれらの表示があったとしても、タイトル等に比較して極めて小さいものばかりである。

3  各キャラクターの商品化契約について

商品化契約をしたとしても、それは各キャラクターの使用すなわち、各キャラクターの名称・図柄等の使用であって、被控訴人の表示の使用ではない。

4  中京地区の得意先について

昭和五四年当時の中京地区におけるキャラクター商品を販売している店舗の総数が主張・立証されていない。仮に中京地区にキャラクター商品を販売している店舗(玩具娯楽用品小売店舗ないし文具小売店舗)が一〇〇〇店舗あったとすれば、被控訴人の商品を取り扱っている一四店舗の全体に占める割合は、一・四%にすぎないものであり、被控訴人の商品、ひいては被控訴人の名称の周知性には全くむすびつかないものである。

5  売上高、宣伝費について

中京地区の売上高、宣伝費については主張立証がない。被控訴人の営業報告書(甲一三九ないし甲一四一)によれば、昭和五二年から五四年にかけて、被控訴人の直営店は一六店舗から三〇店舗へと増加している。しかし右増加店舗はいずれも中京地区以外であり、昭和五四年当時一中京地区には支社やセンター、直営店は一つも存在しなかった。これらの事実によれば、被控訴人の商品について中京地区の売上高が高いことを推認することはできず、ひいては被控訴人の表示が中京地区で周知であったとはいえない。加えて原判決は、デパート等に「サンリオコーナー」が設置されていることを、キャラクター商品と「サンリオ」の結びつきの根拠にあげているが、昭和五四年当時、中京地区のデパートに「サンリオコーナー」が設けられていたことの証拠はどこにも存しない。

二  被控訴人が自認するように、被控訴人の営業の需要者は、控訴人の販売する各キャラクター商品の購買層である「幼児から主婦までの女性層」であり、地元名古屋の企業等の広告主体を需要層とする控訴人とは全く異なっている。

ちなみに、原判決が被控訴人と控訴人の誤認混同事例として掲記する水戸証券研究所の事例やNTTの電話番号案内の事例はいずれも被控訴人や控訴人の営業上の誤認混同によるものではなく、営業内容とは関係なく商号が同一であることによって生ずる間違いであり、同一名称の法人の存在は商法や商業登記法が許容していることである。これを営業活動に伴う誤認混同事例とすることは、不正競争防止法二条一項一号における「営業と混同を生じさせる行為」の解釈を誤ったものである。

第三  証拠

本件記録中の原審及び当審における証拠に関する目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  当審も、被控訴人の本件請求はいずれも理由があると判断する。その理由は、原判決の「事実及び理由」欄の第四「当裁判所の判断」を次のとおり訂正し、控訴人の主張に対する判断を次のとおり付加するほか、同欄に判断されたとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正)

原判決一三頁九行目「原告においても、」から一一行目「言い難い上」までを削除する。

(控訴人の主張についての判断)

1 主張一1及び2について

原判決の一〇頁六行目から一二頁三行目までに掲げられた証拠によれば、昭和五〇年代に入り、特に昭和五二年から五四年にかけて、被控訴人の出版した書籍や雑誌、製作した映画が人気を呼び、さらに新聞紙などに取り上げられて紹介記事や書評などが掲載されるなどして全国的に知られるようになったことが認められ、このことが、被控訴人の営業表示が全国的に周知される要因の一つともなっているものと認められる。したがって控訴人が挙げる事由があったとしても、中京地区において被控訴人の営業表示が周知されていることの認定の妨げにはならない。

2 主張一3について

被控訴人のライセンス商品には、著作権表示がされており、被控訴人のライセンス商品であることは一目瞭然で、被控訴人の営業表示とライセンス商品の結び付きば明らかであるから(弁論の全趣旨)、控訴人の主張は採用できない。

3 主張一4について

甲第一四七号証及び弁論の全趣旨によれば、原判決一二頁七行目ないし九行目記載の一四店舗における得意先及び売場は、被控訴人の商品のみを取り扱うサンリオショップ、被控訴人の商品のみを取り扱うサンリオコーナーを設置している店舗、あるいは被控訴人の直接の取引先であること、中京地区においては右一四店舗以外に▲1▼被控訴人の中京地区における直接の取引先から仕入れて再販売していた店舗、▲2▼中京地区以外の卸問屋から仕入れて販売していた店舗が相当の数に上ること、さらに、被控訴人のライセンス商品を販売していた店舗も相当な数になることが認められる。

右事実によれば、被控訴人は、昭和五四年当時、名古屋市内だけでも、株式会社名鉄百貨店本店、株式会社松坂屋名古屋店、同名古屋駅店にサンリオ商品のみを販売するサンリオコーナーを有していた他、相当数の店舗において被控訴人の商品が販売されていたことが認められ、被控訴人の商品、ひいては被控訴人の名称が中京地区においても周知性を有していたものと認められる。従って控訴人の主張は採用できない。

4 主張一5について

甲第一四八号証によれば、平成五年度から平成九年度の被控訴人の全体の売上高中に占める愛知県向けの売上高は、約四%と推認できるところ、甲第一三〇号証によって認められる昭和五一年八月一日から昭和五四年七月三一日までの全体の売上高、広告宣伝費に右四%を乗じて右各年度の愛知県向けの売上高、広告宣伝費を推計すると別紙のとおりである。右推計を覆すに足りる証拠はない。従って控訴人の主張は採用しない。

5 主張二について

原判決の一〇頁六行目から一三頁三行目までに掲げられた証拠によれば、同箇所に記載された各事実が認められ、これらの事実とさらに右各証拠によれば、昭和五四年の控訴人設立以前において既に、被控訴人はキャラクター商品の販売にとどまらず、ソーシャルコミニュケーション(社会とのつながり)を企業理念に、書籍、雑誌の編集・発行、映画の製作・興行・配給、ファミリーレストランの経営、劇場経営等広範囲な多角経営に乗り出していることが認められ、このことからキャラクター商品の主な購買層である「幼児から主婦までの間の女性層」にとどまらず、広く中京地区の一般消費者層全般にまで、被控訴人の営業表示が周知されていたと認められる。他方乙第六ないし八号証、乙第一二ないし一九号証によれば、控訴人の広告代理業の得意先(広告依頼主)は、住まいのリフォーム業者、墓石販売業者、健康法(ヘルシーウェイ)の教授者、履き物や傘のバーゲン販売業者、中古外車販売業者、飲食店、ビューティクリニック経営者、ホテル業者、携帯電話販売業者等様々であること、控訴人はミニコミ誌を編集、発行及び無料配布しており、それには、伝言、求人情報、友人・グループ紹介、フリーマーケット案内、リサイクルメッセージ等が掲載されていること、掲載依頼者は前記のような業者の他に、一般個人も含まれているから、読者は主として広い範囲の一般消費者層であることが認められる。従って控訴人の需要者には、企業のオーナーもしくは販売促進担当者の他に、一般消費者層も含まれていると認めることができる。そうだとすると異業種ではあっても、被控訴人の営業表示と控訴人の営業表示との間には、広義の誤認混同のおそれが認められるというべきである。従って控訴人の主張は採用できない。

二  以上のほか、控訴人が縷々主張する点は、本件の証拠上認定できないか、あるいは、当審の判断を左右しないものであって、いずれも採用できない。

第五  結論

よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日・平成一〇年五月一二日)

(裁判長裁判官 水野祐一 裁判官 大▲浜▼惠弘 裁判官 戸田久)

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