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名古屋高等裁判所 平成9年(ネ)917号 判決 1998年6月30日

控訴人

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

堂前美佐子

上田和孝

被控訴人

第一生命保険相互会社

右代表者代表取締役

森田富治郎

右訴訟代理人弁護士

後藤和男

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、二一〇〇万円及びこれに対する平成八年四月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」に摘示されたところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決二枚目裏七行目から同八行目にかけての「特別終生安泰保険(S五六)普通保険約款〔乙一〕が適用され」の次に「(なお、控訴人は本件保険契約に適用される約款は、乙一のそれではなく、甲四の一のものであるとも主張するが、これを認めるに足りる証拠はないうえ、甲四の一の約款はその表題が新種保障割増保険と記載されており、本件保険の商品名である特別終生安泰保険(S五六)とは明らかに相違しており、これとは別の保険であると認められる。)」を加える。

2  同四枚目表一二行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「保険実務では、医師に過失がある医療事故(医療過誤)については、本件特約に基づき保険金が支払われている。現に、本件保険事故発生時(昭和五八年一月二四日)においては、被控訴人の保険外交員は亡太郎の死亡が医療過誤によるものであることが裁判で認められたら更に二一〇〇万円を支払う旨表明しており、停止条件付で本件特約に基づく保険適用を認めていたから、被控訴人がその支払に応じないのは禁反言、信義則違反である。

本件医療過誤は、亡太郎の声門を覆う膿瘍化した喉頭蓋チステ(嚢胞)に対する治療が前医により行われ、後医は危難が去り、もはや治療、診断の必要がないと考え、事後処置として気管内挿管を抜管したため気道閉塞により亡太郎を死亡するに至らせたのであり、右抜管行為は、診断、治療の目的で行われたものではない。」

3  同裏五行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「保険実務では、医療過誤については、本件特約に基づき保険金が支払われているとの主張は否認する。また、被控訴人の保険外交員が亡太郎の死亡が医療過誤によるものであることが裁判で認められたら更に二一〇〇万円を支払う旨表明したとの主張も否認する。そもそも本件保険契約締結後に保険外務員が述べたというようなことは本件保険契約の内容とはならないし、また、約款の定めと異なる控訴人にのみ有利な取り扱いは保険の団体性に反するものである。

抜管行為は、診断、治療の目的で行われたものではないとの主張は否認する。右抜管は、喉頭蓋嚢胞という疾病の治療行為のなかの一環としてなされたものである。」

第三  当裁判所の判断

一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」に説示されたところを引用するほか、「二 付加する判断」のとおりである。

原判決五枚目裏九行目の「事故は、」の次に「平均的水準にある医師の知見からしても著しく不相当な診療行為によって発生した場合など特殊なケースを除いて、」を加える。

二  付加する判断

1  保険実務及び被控訴人の対応に関する主張について

控訴人は、これまでの保険実務では、医療過誤については、本件特約に基づき保険金が支払われていると主張するが、それが本件で法的にどのような意味を持つのか、必ずしも明確ではないうえ、医療過誤について本件特約に基づき保険金が支払われた例がいくつか指摘できるとしても、それが保険実務の趨勢であることを認めるに足りる証拠はなく、ましてそれが慣習となっていることを認める証拠はない。

また、控訴人は、被控訴人の保険外交員が亡太郎の死亡が医療過誤によるものであることが裁判で認められたら更に二一〇〇万円を支払う旨表明したと主張し、これは停止条件付で本件特約に基づく保険適用を認めていたものであり、被控訴人がその支払に応じないのは禁反言、信義則違反であると主張する。しかしながら、保険外交員において、そのような表明があったとしても、それが直ちに、被控訴人が停止条件付の保険適用を約束したことになると解することはできないうえ、本件全証拠によっても被控訴人の保険外交員が亡太郎の死亡が医療過誤によるものであることが裁判で認められたら更に二一〇〇万円を支払う旨表明したことを認めることはできないし、控訴人の援用する甲九、一〇号証も右のような具体的な表明があったことを認めるには足りないものである。

2  抜管行為は、診断、治療の目的で行われたものに当たらないか。

控訴人は、亡太郎の声門を覆う膿瘍化した喉頭蓋チステ(嚢胞)に対する治療は前医により行われ、後医は危難が去り、もはや治療、診断の必要がないと考え、事後処置として気管内挿管を抜管したのであって、抜管行為は、診断、治療の目的で行われたものではないと主張するので判断する。甲二号証によれば、担当医は亡太郎の患部の状態を自ら診察しないまま、挿管状態による苦痛を除去するために抜管し、その後適切な処置をとらなかったため窒息死するに至らしめた旨、前記(原判決引用)津地方裁判所の損害賠償請求訴訟において、同裁判所が認定していることが認められるのであるが、たとえ右抜管が不適切なものであっても、それが亡太郎の喉頭蓋疾患に対する治療行為の一環としてなされたことは明らかであり、右主張は採用できない。

三  よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本増 裁判官 野田弘明 裁判官 永野圧彦)

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