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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)133号 判決 1949年8月31日

被告人

加藤末五郞

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役弍年に処する。

原審において生じた訴訟費用は被告人及び浅野義雄、尾本実の三名の連帶負担とする。

理由

前略

本件につき職権で調査するに本件記訴状によれば被告人加藤末五郞に対する公訴事実の第一として「被告人浅野義雄、同尾本実、同加藤末五郞は共謀の上強盜の目的を以て昭和二十二年三月二十日頃午後七時過頃名古屋市東区片端町二丁目十五番地タバコ屋後藤いく方に至り被告人加藤は屋外の見張りを担当し、被告人浅野、同尾本は買物客を裝いて屋内に立入つた上被告人浅野は矢庭に右後藤いくの頸部を両手で締付けて押倒し且顏面を殴打し、被告人尾本は足を抑え付け交々所携のゲートルで頸を締め且猿轡を噛ませる等の暴行を爲し同人の反抗を抑圧して金品を強奪しやうとしたが騷がれて所期の目的を遂げなかつたけれども、その際同人に対し全治迄三週間を要する右上下眼瞼結膜下溢血の打撲に因る傷害を負はせた」と強盜傷人の事実とその罰條として刑法第二百四十條を表示し、原判決書によれば同被告人に対する第一の事実として「被告人加藤末五郞は昭和二十二年三月二十日頃午後七時過頃相被告人浅野義雄、尾本実の両名が共謀の上強盜の目的を以て名古屋市東区片端町二丁目十五番地煙草商後藤いく方に買物客を裝つて立至り同女と対談中矢庭に同女を押倒し其の顏面を殴打し所携のゲートルで其の頸部を締付ける等の暴行をして金品を強奪しようとしたが騷がれて其の目的を遂げなかつたが其の際同女に対し右暴行に因て全治迄に約三週間を要する右上下眼瞼結膜下溢血の傷害を負はしめるの犯行を爲すに際し、其の情を知りながら屋外に在つて附近の見張りを爲し以て浅野等の右犯行を容易ならしめて其の幇助を爲した」と認定しその罰條として刑法第二百四十條前段(所定刑中有期懲役刑を選択)第六十二條が適用されている。かくて右起訴状に訴因を明示して記載された公訴事実と原判決に認定された犯罪事実とは事実の同一性が認められることは論ないが、右原判決の認定した事実は起訴状に明示された訴因とは異なるものであると解すべきである。然るに本件記録を通じて強盜傷人幇助の事実は起訴状に予備的に又は択一的にも記載されておらず又原審において刑事訴訟法第三百十二條の規定により檢察官から右起訴状記載の訴因の追加、変更、撤回を請求し又は裁判所からその訴因の追加、変更を命じた形跡を認めることができない。而して裁判所はかかる法定の手続を経ることなくして起訴状に訴因を明示して記載された事実と異なる事実を認定して有罪判決をすることができないものと解すべきであるから結局原判決には刑事訴訟法第三百七十八條三号に該当する不法があるものと言わざるを得ない。

以下省略

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