名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1433号 判決 1950年2月20日
被告人
阿部正喜
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
弁護人友松千代一の控訴趣意について。
原審の処置は訴訟手続に関する法令違背があるとする論旨については原審が証拠調の範囲、順序、方法について当事者の意見を徴さなかつたことは論旨の通りである。ところで法が証拠調の範囲、順序、方法について特別の規定をしている場合(例えば刑事訴訟法第三百一条、第三百三条、第三百五条、第三百六条等)を除いて裁判所はその訴訟指揮権の行使として証拠調の範囲順序方法を各事件に即応して適宜に裁量し得べくその際当事者の意見を徴することは爾後の手続を円滑に進行せしめる便宜があるのみならず現行刑事訴訟法が当事者主義を原則とする点からも妥当と思われ同法第二百九十七条及びその関係の刑事訴訟規則は裁判所の訴訟指揮権行使に右の要請を容れたものと推察し得るのであるが、その立言の態様から見てもその際当事者の意見を徴さなかつた場合その為に審理に欠陥が生じこれが為訴訟手続に何等かの違法を生ずることは格別その訴訟指揮権の行使に関連して行われた訴訟行為の無効を来す趣旨とは考えられず従つて右関係法条の趣旨は訓示的のものと解さざるを得ないのであり又これが為原審の審理に欠陥を生じたとも認め得ないから結局原審の処置はその証拠調やその結果等の効力に何等関係がなく延いて原判決に何等の影響がないものと認められるのでこの点の論旨も排斥を免れない。