名古屋高等裁判所 昭和24年(控)150号 判決 1949年7月18日
被告人
角岡平太郞
主文
本件控訴を棄却する。
理由
弁護人森田志馬太郞の控訴趣意は末尾添付の別紙記載の通りであるが、これに対し当裁判所は左の如く判断する。
第一点について
賍物故買罪は犯人が賍物即ち他人の財産権を害し不法に領得した物であることの情を知つてこれを有償取得するによつて成立するものであつて、その如何なる犯罪によつて領得したものであるかその犯人の何人であるかの如きはその成立要件ではないと解すべきである。從つて原判決が被告人に対する各賍物故買の犯罪事実を認定するに当り、所論の如く判示したに止まるが、これをもつて右賍物故買の犯罪事実の判示に欠くるところがあるということはできない、而かも同判決挙示の証拠と対照すれば被告人が買受けた右判示各物品はいづれも東洋紡績株式会社三重製絨工場から窃取された盜賍品であることは容易にこれを推知するに足りるので、結局原判決には所論の如き事実理由不備の違がなく、論旨は理由がない。
第二点について。
被告人が原判示各物品を買受けるに当りそれがいづれも前記の如き盜賍品であることにつきこれが認識を有していたことの所論知情の点は、原判決挙示の証拠中特に被告人の司法警察員に対する第二、三回供述調書、同被告人の副檢事に対する被疑者供述調書の各供述記載を綜合すればいづれもこれを肯認するに充分である、而してこれら被告人の自白だけを証拠として右知情の点を認定するとしてもこれは被告人に対する本件各賍物故買の犯罪事実の夫々その一部にかかるものであつて、右各犯罪事実全部についてはその外になお原判決において挙示する他の各証拠と相俟ちこれらを綜合して初めてこれを認定し得るのであり、原判決はこの趣旨で証拠説示をしているのであることは言を俟たないところである。されば以上の点に関する所論も当らないので、論旨は理由がない。
以下省略
控訴趣意書(弁護人森田志馬太郞提出)
被告人 角岡平太郞
右の者に対する賍物故買被告事件に付左の通控訴趣意書提出致します。
第一点
原判決は事実理由不備の違法があります。
凡そ賍物故賣罪は賍物を情を知つて有償收得することに因つて成立する犯罪であり而して賍物とは財産罪たる犯罪行爲に因り不法に領得された財物を意味するのでありますから賍物故賣罪の事実を認定するが爲めには先づ第一に被告人の有償收得した財物が賍物性を有すること即ちその財物は何人が如何なる犯罪行爲に因り不法に領得したものであるかを確定しなければならないことは当然の事理であります。
然るに原判決は被告人に対する賍物故買罪の事実を認定するに当り單に
被告人は云々何れも賍物たるの法を知り乍ら
一、昭和二十三年四月頃より昭和二十四年一月頃までの間三回に亘り四日市々赤堀字樋の口九十一番地の一自宅に於て淸水善人より絹サージ木管卷九箇同じくチーズ卷四個を金二千二百五十円にて買受け
二、同年五月頃前記自宅に於て杉野光和より毛糸チーズ卷四個を金三千二百円にて買受け
三、同年七月三十日頃より同年九月三十日頃までの間右自宅に於て上野原惣一より毛糸チーズ卷八個を金五千六百円にて買受け
四、同年九月末頃右自宅に於て矢田実より絹サージ木管卷二十個を金八百円にて買受け
五、同年十月十日頃右自宅に於て山田一一より石鹸一箇を金六百円にて買受け
六、同年同月十五日頃より同二十四年一月十三日頃までの間六回に亘り山田一一より毛糸チーズ卷十四個を金四千二百円にて買受け
七、同年十一月末頃右自宅に於て矢田実より絹サージ木管卷二十本を金八百円にて買受け
八、同年十二月中旬頃右自宅に於て上野原惣一より毛糸チーズ卷四個を金三千二百円にて買受け
九、同年同月末頃右自宅に於て杉野光和より布團生地六十二枚を金六万円にて買受け
十、同二十四年一月末頃右自宅に於て加古利夫より梳毛木管卷三十三本を金二千六百円にて買受け
十一、同年一月末日頃右自宅に於て杉野光和より絹サージチーズ卷四十六個を金一万八千四百円にて買受け以て故買したものである。
と判示せるのみであつて該判示に依つては被告人の買受けた判示物件は何人か如何なる犯罪に因り不法に領得したものであるが即ち判示物件は賍物性を有するものであるか否かを知ることができません畢境原判決は罪となるべき事実の判示として欠くる処あり事実理由不備の判決として破毀せらるべきものであると信じます。
第二点第三点省略