名古屋高等裁判所 昭和24年(控)161号 判決 1949年6月23日
被告人
岩田信義
主文
本件控訴を棄却する。
理由
原判決は、結局被告人の唯一の自白によつて判決したと云う論点について判断するに、被告人の自白が、自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪の認定をすることができないが、これが裏付となる補強証拠があるときには、有罪の認定を爲し得ることは、刑事訴訟法第三百十九條第二項により明かであつて、その補強証拠は、犯罪事実の全部に亘つて存在する必要がなく、犯罪構成要件に該当する事実の一部につき存すれば足るものと解するのが正当である。而して、本件に於ては、被告人の檢察官に対する自白以外に、補強証拠として、矢頭義一に対する檢事の聽取書及び檢察官の供述調書と鑑定人古田莞爾の鑑定書とを採用していて、右鑑定書によれば、被告人が共犯者と共に被害者を殺害したと云う事実の中、殺害の方法、傷害の部位程度、死因を十分に認めることができ、矢頭義一に対する右聽取書並に供述調書によれば、原判決認定の犯罪日時に、被告人を含む三人のチンピラ風の男が、右矢頭と自動車に同乗して、本件犯行の場所である原判示観月境に向い、その附近で、右三人は自動車から下車したが、間もなく拳銃の音が聞え、二、三十分して三人が自動車に帰つて來たので、その場所を引揚げたが、その翌日自動車の運轉手が、自動車の中で、血が附いた居た匕首を発見したので捨てた旨の供述記載があり、右鑑定書と右供述記載は、本件殺人事件の補強証拠としては十分であるので、原判決は、被告人の自白を唯一の証拠として犯罪事実を認定したものとは認め難いから、この点についての控訴趣意も理由がない。
前後略