名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1728号 判決 1950年2月14日
被告人
後藤周三
主文
本件控訴を棄却する。
理由
弁護人兼松謙太郞の控訴趣意第一点の(二)について。
審究するのに原判決挙示の証拠によれば本件被告人の所爲が所論のように判示会社の社長であつた名和正一郞と通謀して爲された関係にあることはこれを肯定し得るものがある、しかしながらこの事実は帰するところ犯罪事実として判決に影響を及ぼさないもの(犯情の問題とは別である)というべきであるから原判決が事実を判示するにあたりこの点を記載しなかつたとしても、あえてこれを咎めるべきではなくこれを目して判決に影響を及ぼすべき事実誤認と断することは妥当でない。論旨は理由がない。
(弁護人控訴趣意第一点の(二))
原判決は又第二事実として、
被告人は昭和二十四年二月三日から五日頃までの間岐阜市松鴻町一丁目岐阜油脂販売株式会社專務取締役牛田增雄をその隣家喜樂喫茶店に呼出し同所において同人に対しお前の会社は闇をやつているから警察へ連れて行くお前の会社位若い者を連れて來て震り壊してしまう毎日若い者を前に立てゝ商売の出來ないようにしてやるぞ出資者一人について一万円宛出せばこらえてやるなど申し向けて同人を威迫し因て同人より二回に金三万円の交付を受けて之を喝取した。
と判示し之を以て全然被告人の單独犯行と認定されたが之は誤認であつて右は被告人が判示会社の社長であつた名和正一郞に使嗾されて被告人が表面に立ち名和がその裏面において会社との間を仲裁する如く化裝して喝取せしめた両名共同の犯罪で而も名和が其の主犯者である即ち被告人は元に判示会社の不正行爲は勿論会社の存在すら知らなかつたものであるが名和から判示不正事実を以て判示会社重役を恐喝して金円を喝取するよう使嗾誘導され表面の威嚇行爲を担当したものである此の事は被告人が当初から一貫して自供し來たところである故に司法警察員において之を右両名の共犯として送廳したのであるが檢察廳においてその認定を誤り被告人の單独犯として起訴された爲原審において判示の如き認定を受くるに至つたものと信ずる。(中略)以上の証拠により本件被告人の單独犯と認定された原判決は失当である。