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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)414号 判決 1949年9月12日

被告人

嶋岡四郞

主文

本件控訴は之を棄却する。

理由

前略

右控訴趣意書第一点に付いて

抑々訴因の追加とは、起訴状に記載されて居る訴因と予備的若くは択一的関係又は牽連関係に在る新たな訴因を加えることであつて之が公訴事実の同一性を害しない限度に於て許されることは刑事訴訟法第三百十二條第一項の明定するところである。

而して右法條に所謂公訴事実の同一性とは公訴の基本的事実関係が同一であることを指称するものと解するを相当とする。今之を本件に付て観ると檢察官が起訴状に記載されて居た恐喝の訴因に対し、詐欺の訴因を追加したことは洵に所論の通りであるが、本件記録に添綴されて居る檢察官の訴因の追加請求書と通ずる書面の記載に依れば檢察官は右詐欺の訴因を起訴状記載の恐喝の訴因と予備的関係に在るものとして、之が追加を爲したことが明かであり然かも其の両訴因は夫々被告人が昭和二十四年三月中旬頃の午後十一時頃松阪市大字愛宕町五十四番地旅館業山與事山本はまの方に於て同人から室代二百四十円の支拂を不法に免れて財産上不法の利益を得たことを其の基本的事実関係とするものであることも起訴状並前記訴因の追加請求書の各記載に徴し明白であるから、右訴因の追加は毫も公訴事実の同一性を害しないものと謂わなければならぬ。然らば檢察官の右訴因の追加請求は正当であり、之を許容した原審の措置にも亦違法の廉あることを認め得ない畢竟所論は独自の法律的見解に依拠して、原審の適法な措置を非議し延いては原判決の違法を云爲するものであつて当らない。論旨は其の理由がない。

中略

同第三点について

原判示事実に依れば被告人は原判示の室代二百四十円の支拂を欺罔の方法に依り免れたものと謂うにあるから、之が財産上不法の利益を得たものであることは勿論であり、從て之に対し原判示の法條を以て問擬した原判決の措置は正当である。尤も原判決が刑法第二百四十六條第二項の外に同條第一項をも掲記して居るが夫れは原判示事実が同條第一項に該当するものとの趣旨ではなく之が同條第二項の規定上其の内容を爲して居るので其の趣旨の下に同條第二項の適用に際し同條第一項をも併記したに過ぎないものであることは、其の判文に照して明白である。

左れば右孰れからするも論旨は其の理由がない。

以下省略

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