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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)449号 判決 1949年10月29日

被告人

大沢廣子

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋地方裁判所に差戻す。

理由

弁護人谷口丈太郞提出の控訴趣意書の論旨は別紙の通りである。

依つて、記録並びに当審に於て取調べた各証拠を綜合して審按するに原判決書の記載に依れば原審は本件第一事実の直接の動機として「昭和二十三年十一月十一日午後七時頃、津島市宝町の右林田方を訪れ、同女を映画見物に誘つたところ、同女が言を左右にして之に應じないのみか却つて將來も被告人と一緖には映画などに行かぬような言辞を弄したので同女と些か口論した末、同市大政町四丁目の自宅に立ち帰つたが、偶母妹等は外出中であつたので右自宅に於て右林田のその夜の仕打などを一人でとやかく思ひ悩むうち無暗に腹立たしくなり、寧ろ右自宅もろとも該部落を燒燬して、同女等の同情を買ひ、以て同女等との交友関係を取り戻すに如かずとなし」と判示し、その証拠として司法警察員作成に係る被告人の第一、二回供述調書の記載を引用挙示してゐる。

惟ふに犯罪の動機は常に必ずしも之を判示し且つ立証するを要するものではないが本件のような重大な案件に就ては犯罪事実の認定上必要欠くべからざるものであつて万一右認定した動機が事実上存在しなかつたか或は存在するも該動機と犯行とか常識上齟齬するような場合は結局判決に影響を及ぼすべき理由のくいちがいがあるものと謂はなければならない。

依つて此点に就き審究するに

(一)  被告人の当公廷に於ける供述

(二)  当審証人林田澄子の供述

(三)  原審第五回公判調書中被告人の供述記載(記録二五七丁裏二行目乃至八行目)

(四)  原審第二回公判調書中証人佐藤ゑみ子の供述記載

を綜合考察すると被告人は大橋菊造方火災の当日は其勤務先である艶金工場に出勤し午後六時頃帰宅の途中一旦右佐藤ゑみ子方を訪問し午後七時頃帰宅夕食後入浴し、手拭を提げた儘午後八時頃再び右ゑみ子方を訪れ二三時間対談の後同人方を辞したことが認められ、原審認定の当日林田澄子方を訪れ些か口論をした点を認定することが出來ない。

要之当審に於ける事実調べの範囲に於ては原審認定の第一事実犯行の動機は之を認めることが出來ないから結局原審は虚無の事実を捉へ之を以て犯行の動機と認定したことに帰着し、前述の如く判決に影響を及ぼすべき理由のくいちがいがある。

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